第十八話・模擬戦 中編
グラたん「第十八話です!」
アネルーテ「嵩都……格好良いなぁ……」
グラたん「アネルーテさん?」
アネルーテ「へっ!? な、何かしら?」
グラたん「(敢えて見てない振りをして)そろそろ本遍が始まりそうですよ」
アネルーテ「そ、そうね」
~嵩都視点~
次は鈴木の援護だ。戦場に向かって走る。距離はそこまでないはずだ。
「はああ!」
鈴木だ。近くにいるな。剣と杖のような打撲が重なる音がする。
時折聞こえる効果音はスキルを使っているようだ。
派手な攻撃はない。流石にまだ序盤だからだな。
「はっ!」
近くに来てみると鈴木が回復役を倒しているところだった。
回復役がちゃんと転移されたのを確認した。
「援護の必要は無かったな」
俺はそう言いながら鈴木に近寄って行く。
鈴木が一瞬だけ警戒を露わにするが、俺を見て安堵した。
「大変なのはこの後だ。おそらく残った戦士と魔法師は固まって行動するだろう」
「その線が濃厚だな」
近距離と遠距離か……。地味に厄介なコンビが残ったか。
対して此方は残り四人。何とかなるかな。
「それはそれとして、お前はもう魔法師の二人を仕留めたのか?」
「ああ、意外と簡単だった」
「さてどうする?このまま進むか?」
「出来ればこのまま行きたいが、敵の場所がな……」
「なら一度戻るか」
「そうだな。後藤に探索魔法をかけてもらうか」
やっぱりそう言う魔法があるのか。
俺個人だと五百m程度が限界だな。視覚、聴覚、嗅覚的な意味でも。
その点では情報が欲しいな。
この世界にはまだ情報網を構築していないからな。そろそろそっちも手を打っておかないとな。
情報は武器だ。対人戦から戦争まで、どれにしたっても強力な武器になる。
「いや、俺がこのまま索敵した方が速いか?」
「うーん……なら、俺が戻って朝宮が索敵でいいか」
「了解した。それじゃ」
「またあとで」
そう言って俺は索敵を開始しようとした。
ビ――ッ!!
突如アラームのような音が響き渡った。
だが、一体何の音だ?
「斎藤チームの降参を確認、戦闘を終了とする!」
隊長が外部から戦闘終了の合図が告げられた。
「あー、なるほど」
鈴木が何か分かったように言う。というよりも俺も分かったぞ。
「いや、待てよ」
鈴木が何かを考え込んでいる。
「朝宮、ヴァイン隊長は『降参して良い』という条件を設定したか?」
鈴木に言われて先程隊長が言っていた説明を思い出す。
「……いや、してない」
そう言う事か。俺は鈴木を見る。
「おそらく戻ったところを狙われる」
「一網打尽」
「その可能性が高い」
「俺達が集まらないと」
「青葉と後藤がやられる」
「なら集まって狙ったところを返り討ち――」
「にしようとしたところを罠に嵌められてジ・エンド」
「大穴として青葉と後藤がすでにやられて洗脳されて後ろからぶっ放す」
「もしくは同士討ち」
「どれも有りそうだ」
「とりあえず行きながら考えるか」
「そうだな」
俺達は作戦を立てながら青葉たちがいるところに向かう。
「じゃあ、この三つで行くか」
「わかった」
俺達が立てた策は三つ。
一.普通に返り討ち
二.強引に突破して倒す
三.居る奴ら全員気絶させる
要は力任せで強襲するということだ。
「後はあの降参が本当であることだが」
「隊長が出てきたら終わりにすればいい」
「じゃあ、そんな感じで」
そして青葉と後藤が居る地点まで来た。
「あっ、鈴木と朝宮がきたよ」
「そのようですね」
幻惑にかかっている様子はないな。
「青葉、後藤」
「何?」
「どうしました?」
「おそらく斎藤たちがこの辺りにいると思う」
「ええっ」
「咲ちゃん。驚いてないで探索魔法と看破魔法かけて」
「分かった。我が敵を探せ、リ・トゥーラ。我が敵を看破せよ、リ・クィーラ」
後藤が探索魔法と看破魔法を唱えるとなんか黄色い波状の光みたいのが飛び、その後に赤い円みたいのが飛んでいった。
「……」
「どうだ?」
ちょっと黙るようにと手で遮られた。少しすると後藤が俺たちに向けて言った。
「…………最悪かもね」
「どういうこと?」
青葉が詳しい説明が欲しいと言う。
「居るよ……ただし、魔物がね」
『なに!?』
俺と鈴木は抜刀して身構える。
「どこだ」
「上空二匹、四時と九時から三匹ずつ」
俺たちはすぐさま迎撃の体制を整える。
「上空は俺が屠る。そのあと九時を迎撃する」
「分かった。俺はここで後藤たちを護衛する。隊長たちも気付くだろう」
「了解。あと念のため斎藤たちの居場所も調べてくれ」
「分かったわ」
それだけ言い残して俺は飛翔能力を起動、空中の迎撃に当たる。
その前に後藤が俺に何か別の魔法を掛けていた。恐らく支援魔法だろう。
地面を離れ上空およそ五百mのところにコカトリスがいた。
俺は視認するなりすぐにコカトリスに突撃して袈裟で切り捨てた。
「グギャァ!?」
一匹目は無残にも二枚おろしになった。
「次だ」
二匹目も首を刎ねて瞬殺した。悲鳴さえも許さない一撃だ。
「次!」
俺は下降して九時の方角に飛んだ。
奴らはちょうど森から出てきたところだ。
ゴブリンが三匹。ゲームなどに居る奴らの様に石の斧や青銅の剣などを持っている。
奴らはまだ気づいていないので先手を取るため急降下した。
下降した勢いに乗せて先頭にいた奴の頭を刺突する。
着地と同時に剣を横にして真空波を放ちゴブリンを薙ぎ払った。
運が良かったのか三匹ともまとめて斬れてくれた。
「手間が省けたな……戻るか」
俺はゴブリンが死んでいるのを確認して、鈴木たちの所に戻ることにした。
鈴木たちの所に戻ると此方に来ていたらしいゴブリンの内一匹目が死体、二匹目が仕留まる寸前、三匹目が……他より大き目のゴブリンだ。こいつはまだ無傷だ。
「我が敵を氷らせ、リ・ドライ」
「やあっ!」
後藤が魔法を唱えて動きを止めて、その隙に鈴木がゴブリンの頭を叩き割った。
「キャァ」
断末魔を上げたゴブリンの頭から大量の血と脳味噌が出て頭蓋骨が見えている。
「うう」
後ろで後藤が下を向いて吐く。
青葉は後藤について背中をさすっているが青葉も限界なのか顔を青くしている。
鈴木も三匹目と距離を取ってから口元を抑える。
魔物とは言え生きているからな。分からなくもない。
「グオオオオ!」
三匹目……ボスゴブが鈴木達を敵と認識してのっそりと歩いてくる。
もちろん行かせるわけがない。俺は低空飛行のままボスゴブに突っ込み右から左に斬りつけた。
「グオオ!」
斬った先から血が飛び散り、ボスゴブは俺を睨む。
俺は地上に降りて今度は左から右に右腕を狙って斬るが、浅い。
ボスゴブが右手に持っていた石斧で俺を潰そうとしてくる。
左に避けてから剣を下から上に跳ね上げ、上から下に斬り落とす。
「ギャアアア!」
斬り落とすと同時にボスゴブが石の斧を取り落とす。
俺は右腕のあったところの傷口に剣を素早く三回刺す。
「ギャオオ!」
ボスゴブがたまらず距離を取る。
「はああ!」
俺はここぞとばかりに剣スキルを繰り出す。
剣を右上に持って行き肩に担ぐようにしてスキルを発動する。
右上からの袈裟がけ、そのまま横薙ぎの一閃、左上に切り上げる。
三連撃『スヴェンドループ』。
胴体に三角のような軌道が出来、そこから血が溢れる。
「グオオオオォォォ…………」
止めの最上段斬りで脳天が叩き割られる。
そしてボスゴブが断末魔を上げて、二度と立ち上がることは無かった。
俺は剣を出して警戒したまま鈴木たちに近寄る。
「これで全部か?」
「おそらくな」
青葉たちも合流する。そして後藤が口を開いた。
「いえ、敵はまだ居るわ」
その言葉に俺たちは神経を尖らせた。
「どこだ?」
「それはあなた達! ……よ」
言い終わる前に後藤の鳩尾に当て身して気絶させる。
「咲ちゃん!?」
「悪いな、青葉。念の為お前も眠っていてもらおう」
青葉の鳩尾にも拳打を入れて眠らせる。
「うっ……何で……」
「それはお前たちが敵になっている可能性があるからだ」
聞こえているかどうかは知らんが。青葉は巻き添えだったかな?
「はぁ、なんか後味悪いな」
「しかたないさ、それより斎藤たちを早く仕留めよう」
「そうだな」
「十分後、何もなければここで落ち合おう」
「分かった、気を付けろよ」
「そっちもな」
俺たちは後藤たちが転送されたのを見送ってから散開した。
あれから五分が経過したが面倒くさいことに斎藤たちの場所が分からない。
「くそ、眠らせる前に聞いておけばよかった」
「朝宮、見つかったか?」
ばらけた鈴木が戻って来た。
「いや、そっちは?」
「全然ダメだ」
「そうか、はぁ……」
溜め息も付きたくなる。本当に面倒くさいな。
「なぁ、朝宮」
「……なんだ? 新しい策でも思いついたのか?」
「もしかしてさ、あいつ等の目的って時間稼ぎじゃないか?」
「お前もそう思うか」
もうここまで見つからないとそうとしか考えられない。
「いや、それかさっきのモンスターに喰われたか」
「縁起でもないこと言うなよ」
「すまん」
流石に不謹慎だと思って咎めるが鈴木が冗談で言っているが分かるので軽く流す。
「それにな、本当にモンスターが出たならとっくにフィールドが消されているはず」
「だが、違うなら召喚されたか」
「面倒なことをしてくれたものだ」
「まったくだ」
そしてあまりの面倒くささに俺の中の何かが飛んだ気がした。
――? パチパチという音が頭の中で鳴る。
何かが俺の中に浸食していくような感じがしたが、それは一瞬だった。
「もういっそのこと全力出して地形をぶっ壊そうか」
「はぁ?」
鈴木がコイツ正気か? という目をしてくる。
聖剣ヴァルナクラムを正面に構える。
俺には出来る。ヴァルナクラムには真空波があるからな。
真空波は基本的に辺り一面への攻撃だ。だがら出来る。
「真空波で木々をなぎ倒してここら一帯を消し飛ばそう」
「炙り出しね……時間を考えたらそれが一番速いか」
「危ないから俺の後ろでうつ伏せにして居てくれ」
「分かった」
そういうわけでこの後は仁義なき破壊活動になる。
というか、さっきゴブリン共を殺したときに周りに被害が出ていたしあまり関係はなさそうだな。
「せいっ!」
鈴木がうつ伏せになり俺は持っている剣を超力任せに矢鱈滅多等に振るう。
真空波が辺りに飛び、周りの木々が木端微塵になり、砂嵐が起きて、地面が自然災害のように抉れていく。
うん、思ったよりも破壊力あるなぁ。
「うぶぉ!」
後ろから変な声が聞こえたが気にしない。さ、破壊しよう。
やはり楽しいな、一方的な甚振りは。
腕を振るう。剣を振るう。真空波が飛ぶ。繰り返す、繰り返していく。
~観戦2・ヴァイン視点~
まず斎藤たちが取った戦術は時間稼ぎによる引き分けだ。
先程、朝宮が戦闘不能にした女子たちが此方側に送られてきた。
ちなみに近くに斎藤が居たが、勝てないのを悟ってさっさと引き上げたのは正解だ。
次に斎藤が向かったのは鈴木だ。しかし彼はここでも仲間を切り捨てた。
いや、援護に回ろうとした回復師が目の前でやられてしまったからだ。
そして朝宮が鈴木と合流してしまった。
このままではやられると判断した斎藤は残った魔法師のもとに戻って作戦を立てた。
残っていた魔法師は召喚士でもあった。
彼女はランダム転送でゴブリン六匹とコカトリス二匹を召喚した。
それで多少は時間稼ぎになると判断したのだろう。
次に偽の情報を流す。妨害系魔法の一種だ。
私が斎藤チームは降参した、という情報を流したようだ。
その間に斎藤達は隠れようと移動したのだが、移動先で鈴木チームの魔法師と回復役に鉢合わせてしまったのだ。斎藤たちは即時に別の場所へ移動しようとした。
鈴木チームは深追いしないようにした。
行った先に罠が仕掛けられていると判断したのだろう。
「あれは……遅行性の幻惑魔法ね」
魔王様に言われて遅まきながら気付いた。召喚士が幻惑魔法をかけていた。
それに魔法師が気付いた様子もない。あの召喚士は搦め手がうまいな。
そうこうするうちに鈴木達が合流したようだ。
おそらく探索の魔法を使うつもりだろう。
だが、引っかかったのは先程召喚されたゴブリンたちだ。
ある意味予想通りに朝宮が空中迎撃、鈴木たちが地上を担当した。
朝宮が急降下して別のゴブリンの場所に向かったな。
此方もほぼ同じような結果になった。
鈴木たちの所に戻って……もう、言わずもがなという所だ。
終わった後、数秒で自陣の魔法師と回復役を気絶させたのには驚いた。
おそらく予想していたのだろう。回復役の方は違ったが。
それでも相当に手加減して当て身をしたのが分かる。
そのあと十分ほど索敵したようだが見つからないようだ。
それもその筈、斎藤たちは隠魔法を使ったのだから。
意外と近くにいるのは逃げきれなかったからだろう。
斎藤たちが居るのは十m先の茂みに隠れているのだ。
斎藤たちは見つからないのを良いことに笑んでいる。
『もういっそのこと全力出して地形をぶっ壊そうか』
……ん?
『真空波で木々をなぎ倒してここら一帯を消し飛ばそう』
――非常に嫌な予感がする。
「ヴァイン、早く中止にしなさい」
少々判断に悩んでいると隣で見ていた魔王様が先に判断なされた。
「い、いえ、お言葉ですが魔王様。そんな現実離れしたことが――」
「おそらく出来てしまうでしょう」
「まさか……」
悪い冗談にしか聞こえなかった。
「先程、嵩都さんが味方の魔法師に魔法を掛けられていたのを確認したわ」
「先程同様の幻惑魔法ですか」
「おそらくわね」
「なるほど、それで同士討ちをさせようとしたのですか」
「結果は最悪に近いわ」
……後で掛けて良い時と場合を説明しておく必要があるな。
「あっ、ほら始まりましたよ」
――バキャッ
――とても嫌な音が聞こえた。
見たくない。全神経が全力で拒否している様に感じる。
だが私には見なければいけない義務がある。
画面を向くと……朝宮が剣を振るう度に木々が吹き飛び砂塵が起こり地面が割れる。
これはもう災害ではないか?
「ヴァイン」
「はい」
私には分かる。この後、魔王様が無茶振りするのを。
「今すぐ中止しなさい」
「斎藤たちが全滅するまで不可能です」
「なら今すぐにあのフィールド内に行って救出なさい」
死ねる。斎藤たちに近付く前に百回は軽く死ぬ。
「単独で、ですか?」
「責任という言葉はご存知ですよね」
どう足掻いても行かせる所存のようだ。
それに相手は王族。王女様とは言っても我々に命令は出来る。
最も、アネルーテ様が命令することは少ないのだが。
その少ない分、内容が無茶振りなことが多い。
正に今がその時だろう。
「あっ、隊長!!」
さらば、愛しき兵士たちよ。
「うおおお!!」
私はそれを遺言に死刑台へと飛び込んだ。
拝啓、父上様、母上様。
私、ヴァイン・クレストヴィーが先立つことをお許しください。
グラたん「なんでしょうね、これ? (紙を破り捨てる)」
グラたん「それよりも次回予告です!」
グラたん「次回、模擬戦 後編!」




