第十話・危険な推測
グラたん「第十話です!」
プレア「嵩都、君と話した時間は忘れないよ」
嵩都「待て! そのフラグは止めるんだ!」
グラたん&プレア「もう遅いよ」
さて、今日の依頼を見るべく受注表の方へ向かう。
依頼は――採取系、討伐系、運搬系の三種類だな。
Fランクで受けられるのは採取系ばかりだ。
掲示板を適当に眺めていくと奥の方にボロの紙があった。
「なんだ?」
不思議とその紙に惹かれた。
他の紙をめくってそのボロを見てみると討伐系の依頼だった。
報奨金は150エル。討伐対象はオークだ。
150? 随分と少ないな。他は少なくても500~1200エルが相場だ。
ちなみにここの金はエルという単位だ。
プレアの講義で聞いた限りだがギルドカード、つまり先程貰ったカードは財布としての機能もあり、自動入金制で実物は金貨や銀貨らしい。
金貨単位はよくわからないがとりあえずカード払いということだ。
それで、この討伐系依頼だが……とんでもなく訳あり臭い。一応受付嬢に聞いてみるか。危ない依頼だったら即刻辞めよう。
受注表を受付に持って行き、この依頼の話を聞いてみた。
「すいません、この依頼って……」
「えっ!?」
受付嬢が酷く驚いた声を上げた。やはり何かありそうだ。
「あ、あの、悪い事は言いませんので他の依頼を――」
「お、おお! あんた、受けてくれるのかね!」
横を見ると背の低い婆さんがいた。
みずぼらしい格好を見るに金が無いのだと分かる。
「あー、そういうことか」
受付嬢も非常にバツが悪いような表情をしている。
「お願いですじゃ、孫の仇を討って下さい」
縋るように迫られるが、一応こちらの事情も話しておくべきだと考える。
「い、いや、俺はまだFランクで今日初めて冒険者になったばかりだ。このオークがどこにいるのかもわからないし個体も把握しようがない」
「それなら大丈夫ですじゃ。場所は西の森の中。頭と腰にボロを纏い片手に斧を持っているオークですじゃ。ただ、Cランク相当の強さを持っていて誰も受けてはくれないのですじゃ」
……なるほど。そりゃあ割に合わないし報奨金も少ないからやらないわな。
最悪、遠くから真空波を打っていれば死ぬことはないだろう。
オークというのだから地上動物だ。飛行出来る俺の敵じゃない。
岩投げとか斧投げに気をつけていれば大丈夫だ。
まあ、内情的には素材ツアーのついでと思って行けば良いかな。
婆さんには少し同情もしている。殺された側の人間の気持ちも少しは分かるつもりだ。それと地道な名声を集める意味でもやってみるか。
「分かりました。ですが、オークの素材とかは貰っても良いでしょうか?」
「え、ちょっ―――」
「お、おお! 本当ですか! 感謝してもしきれない程ですじゃ!」
受付嬢が止めに入ろうとするが一歩遅く婆さんの声に遮られる。
「大丈夫です。俺はそれなりには戦えますからなんとかやって見ますよ」
「……はぁ……分かりました。Fランク討伐を受注しました。どうかお気を付けて!」
受付嬢が半場投げやり気味に書類を通していく。
「じゃあ、行ってみますよ」
「頼みます。どうか、お頼み申す……。片手斧を持ち帰ってくれれば分かりますのじゃ。普通のオークは剣を持っていて奴は孫の形見の斧を持っているので一目で分かりますじゃ」
「分かりました」
婆さんが頭を深く下げる。俺は踵を返して西の森に向かった。
門を抜けた俺は飛翔を開始し、飛行した。
その途中でふとなんでこの依頼を受けてしまったのかを考えた。
お婆さんが必死に懇願するから? 素材のため?
確かにそう思ったのは事実だが、普段の俺ならそんな同情心は見せないはずだ。
うーん、何か引っかかるな。
森に到着したのは夕方だ。
既に森奥まで入ってしまったがために出ることは出来ない。
飛べばいいと思うだろうが空には鳥、蝙蝠が飛んでいる。
しかも魔物なのか大きいし数が多い。
仕方ないので野宿を決め込んだ。
食材は探せばいくらでも出てきた。野菜、肉、果実。聖剣ヴァルナクラムはもう調理器具と化している。
真空波は調整することによって細かく刻んだり空気圧縮してプレスしたり血抜きに使ったりと便利だ。木を切るのも同様の方法だ。
火は奴隷生活中に知った火打ち石を探し出して火を起こした。
魔法スキルがあればと何度だって思うがあれは攻撃用しかないと思い直す。
微調整が出来れば苦労しないだろうけど今の俺には魔法スキルは無いから無理だ。
さて、今日の夕食は葉皿に盛りつけたこんがり肉と焼き野菜のサラダ。それにリンゴのような果実だ。ちなみに形は丸だが色は地球じゃお目に掛かれない青色だ。
何故大丈夫か? 奴隷生活していた時に食ったからだ。
それじゃ、頂きます。
それとスキルポイントも5ポイントと地味に入った。
美味しく頂いていると俺が狩った草食獣の残骸に小動物が群がっていた。
そんなに食いきれないから別に構わないのだが。
さて、腹も一杯になったことだし寝るかな。警戒はする。
「ガァアアア!!」
はい、お約束が来ましたねぇ。ここじゃないが近い。一応様子だけ見に行くか。
近くに行ってみると人間の声と魔物の声がした。炎が燃え上がる。
来るなと叫びながら三人の男女が走っている。
一人は折れた木剣を腰に着けている男子。もう一人はその男子に担がれている、そいつは気絶しているようだ。最後は女生徒の格好をしていて手には杖を持っていて詠唱をし続けている――って、源道と三井と山下の仲良し三人組じゃないか。
追いかけているのは巨大な熊だな。それに取り巻きが二匹、オークだ。
しかも俺にとっては幸運なことにその内の一匹が頭と腰にボロを纏って片手に斧を持っているオークだ。もう一体は剣を持っている。
あの巨大熊は倒せそうにないがオーク位なら何とかなるだろう。
聖剣ヴァルナクラムを構え、片手斧のオークに狙いを絞る。
真空波――空気圧縮――貫通。
刺突の構えを取って片手斧のオークに突き出す。濃縮された真空波が飛んでいく。
ーーーーヒュ……ズムッ!
「プギャ――――」
真空弾は奴の胴体に風穴を開け、オークのHPが緑から黄色へと落ち、赤を得て黒に染まった。
上手い事急所に入ったようだ。HPがあっても心臓を貫けば死ぬようだな。
続いて二匹目も同様に屠る。茂みから出て片手斧を拾いストレージにしまう。
これで依頼は完了だ。巨大熊は源道たちを追って行ったので俺は見つかってはいないが……どうするか。
正直に言うなら見殺しでも良いと思う。自分の命が一番だからな。
だが、巨大熊を牽制しつつ源道たちを逃がすことくらいは出来るか。
そう思い、手早くオークの剥ぎ取りを終える。
オークから剥ぎ取れる部位なんてたかが知れている。
源道たちが追われていった方向を一瞥し、俺は駆け出した。
低空飛行状態だ。普通に走るよりもこの方が速い。
全力飛行していると前方にはいくつもの流星が落ちたようなクレーターがあった。
――クレーターだぞ、クレーター。さっきの熊がしたとは思えない破壊の仕方だ。
木々はなぎ倒されているがいずれも破砕後だ。辺りに爪痕はない。
代わりにグレーの体毛や折れた爪や牙の破片などがある。
誰がやったかは知らんが回収させて貰う。金の足しだ。
クレーターは途中から右へと向かっていた。
そして源道たちはそのクレーターの終わりに居た。
「大丈夫か?」
「あ、朝宮か? なんでここに……」
源道はかなり疲労し息切れしながらも俺を見上げた。
「偶然だ。お前たちが追われていたオークの一匹が俺の獲物だった。熊の方は違うが。……しかしこのクレーターはなんだ? 山下が魔法を使ってもこうはならないと思うが……」
源道はそこで思い出した様に体を震えさせる。
「プレアさんだ」
「はっ?」
「プレアさんが弓を撃ったらこうなっていた……あれは人間業じゃない。軌道すら見えなかった。あの熊はそっちに逃げたらプレアさんが執拗に追いかけて行った。音が聞こえないのは多分魔法だろう。怖ぇよ。ありゃ化け物だ」
源道が歯を鳴らして震えるくらいだ。よほど怖かったのだろう。
しかし……プレアが熊を追っただと? 撃退で良ければそれで終わりで良いはずだ。
それをわざわざ追いかけるのは理由があるはずだ。
もしかするとこれは何かのイベントなのかもしれない。
「源道、お前たちはここから城まで帰れそうか?」
「あ、ああ。少し休めば帰れるだろう。幸い三井以外は怪我していないわけだしな」
「そうか。俺はプレアを追いかけて見る。どうもあいつ何か知っている気がする」
源道は気付いていないのか首を傾げるだけだ。
「分かった。何でお前がプレアさんに固執するのかは分からないが……」
「それはその内で。じゃ、気を付けて帰れよ」
「おう。それとオークを倒したのはお前なんだろう? ありがとな」
「依頼だから気にするな」
源道にそう言って俺はプレアと熊が行った方向に俺は空高く飛翔した。
低空飛行では絶対に間に合わない気がしたからだ。
クレーターを辿るごとに血しぶきが激しくなっていく。
――これは着いた頃には終わっているな。
クレーターが終わったのはすぐのことだ。
俺と同じ位の空中に月光に照らされた弓使いがいた。
弓がしなる。弓の弦が打った音とは思えないくらい澄んだ音が聞こえた。
地面には熊がいた。熊は血まみれでHPは残り数ドットを数えるほどだ。
無音で地面が凹む。熊の体は地面に張り付き、HPが完全な黒に落ちた。
矢は見えなかった。地面を見た瞬間にはもう凹みが出来ていた。
もう一度プレアの方を見る。彼女はただ笑っていた。笑顔のまま熊の死体に降り立った。
そして、剥ぎ取りでもするのか――いや、剥ぎ取りにしては長い剣だ。
それを熊に突き立てた。
何かを吸収するような青い光が出て静まるとそれを仕舞った。
何だろうか? そこに触れるのは何故か危険な気がする。
だが、ここは危険を冒してでも進まなければ行けないと思った。
一拍おいて、俺は彼女を刺激しないように近づいて声を掛ける。
「プレア」
彼女はその笑みのまま俺の方を向いた。
「あ、嵩都。どうしたの?」
「いや、なんでここにいるのかなと思って」
「ん? ルー姉に頼まれたからだよ? 物探し」
あ、うん。そりゃそう答えるよね。
「そうか。じゃあ本題。……プレアは転生者か?」
プレアはその問いは予想していたのかしていないのかは分からないが笑顔のままだ。
「転生者?」
「そうだ。俺たちが行動する場所を予め知っていたかのような手回しの良さ。俺が知っている本には転生者や転移者たちが真先に向かう場所だ。それに講義の時、プレアは俺たちが召喚されるのを予め知っていたかのように言語教科書や基礎知識の本を持っていた。ここから導きだされる結論は一つ、ここはプレアが知っているゲームの世界でプレアはその主人公であり、俺たちはその仲間かそれなりに重要な登場人物ということだ。つまりプレアは転生者だ」
だがプレアはその言葉を予想していたかのように流暢に言葉にする。
「嵩都たちが来るのを知っていたのはボクは予知が出来るから。教科書を持っていたのは偶々だよ。ゲーム? というのは良く分からないな。それにボクが主人公? おとぎ話みたいだね」
躱されたか。口振りからするに用意していた台詞というのがありありと分かる。
間違いなくプレアは何かしらの重要な役割を持っている。
俺たちに話さないのはまだ時期じゃないからだろう。
だがそれを悠長に待っているわけにはいかない。
もし、万が一プレアが敵に渡るもしくは敵になった場合、俺たちは何も出来ずに終わる可能性がある。
そうなる前に何か対策しておきたい。
「予知か……じゃあこれから何かが起きるのは分かるのか?」
「うーん。これは制限があってね、数日前にならないと見えないんだよね」
つまりプレアにとって都合の悪い事件が起きる数日前にプレアは対策をするわけだ。
「そうか。教科書を持っていたのは本当に偶々か? テスト勉強に使うとかだったのじゃないか? それだったら納得がいくのだが」
だがプレアは首を振って否定した。
「ううん。テストはバッチリだから。教科書を持っていたのは本当はちょっと調べたいことがあったからだよ」
この世界に転生して今更言語を調べるとかおかしいだろうが。ここは確定だな。
「調べたいこと?」
少し深く探ってみるとプレアが手を腰に当てて頬を膨らました。
「嵩都、女の子のプライバシーに入ってくるのはダメな人だよ?」
ガフッ――そう来ますか!? しかも転生者とて好みの外見と内面のため破壊力が高い。好きな子にキモイと言われる並にダメージがあった。
言われたことは無いが――否、そもそもいなかったという方が正しい。
「す、すいません。変なことを聞きました」
「もう……」
落ち込んでいるとプレアが俺の傍によって口元を耳まで寄せた。
それを最後に俺の意識は安寧の暗闇に落とされた。
~プレア
ハウルベアーを追ってきたら嵩都にも出会った。
そしてボクがしていたことの大半が嵩都にバレた。
転生者というのは間違っていたけど思考していたことは正解だった。
……正直、こんなに早く干渉されるとは思ってなかった。
予定外のことだったので仕方なく嵩都の記憶を消すことにした。
ボクは嵩都の耳元に口を寄せて魔法と共に嵩都の記憶に干渉した。
「時が来たらちゃんと教えてあげるから。それまでに強くなってね」
言い終わると同時に嵩都は眠りに落ちた。
その後は嵩都を背負って自室まで運ぶ。
もう夜遅くなので自宅に帰宅した。
寝る前に嵩都の良い匂いが服についていてマタタビを嗅いだ猫のように悶えた。
だって好きな人の匂いだよ! 多少ムラムラしてもしょうがないよね。
と、とにかく今日はもう遅いし寝よう。
グラたん「ムラムラしてますね?」
プレア「うう……(ゴロゴロと悶えている)」
グラたん「これは重傷かな……。さて、次回予告です」
プレア「……次回、人殺し」
グラたん「プレアさん、その手に持ってる包丁を下ろしてくれませんか?」
プレア「私の秘密を知ったグラたんは抹殺する」
グラたん「それなら嵩都さんは?」
プレア「嵩都は別」
グラたん「ヤンデレですね」




