第59章
ジェイ・クック商会は銀行業と販促業務では絶大な力を持っていたが、建物自体は灰色の石と赤レンガの四階半という極めて質素なものだった。ここは見栄えがいいとか、快適な銀行と思われたことが一度もない。クーパーウッドはよくそこに足を運んだ。人の前腕ほどもあるドブネズミが、ドック・ストリートの暗渠から這い上がり、店内を自由に走り回った。何十人もの事務員が、照明も換気も十分とは言えないガス灯の下で、この会社の膨大な取引を処理していた。隣には、クーパーウッドの友人デービソンが今も活躍し、この通りの主要な金融業務が集中するジラード・ナショナル銀行があった。クーパーウッドは走っている間に、ウィンゲートからの自分宛て伝言を持って証券取引所に向かっていた弟のエドワードに出くわした。
「急いでウィンゲートとジョーを呼んでこい」クーパーウッドは言った。「今日の午後は大変だ。ジェイ・クックが破綻したんだ」
エドワードはそれ以上何も聞かず、指示どおりに急いで立ち去った。
クーパーウッドは、ジェイ・クック商会に到着した一番乗りの中にいた。心底驚いたことに、見慣れた頑丈な茶色いオーク材の扉は閉ざされ、告知が張り出されていた。クーパーウッドがすばやく読むと、こうあった。
一八七三年九月十八日
一般の皆様へ
遺憾ながら、予期せぬ支払い請求により、弊社は支払いを停止せざるを得なくなりました。数日中に、債権者のみなさまには報告書を提出いたします。それまでの間、何卒ご猶予のほどお願い申し上げます。弊社の資産は負債を大幅に上回るものと確信しております。
ジェイ・クック商会
クーパーウッドの目に、勝利の鮮やかな光がきらめいた。クーパーウッドは他の大勢と一緒に取引所に向かって駆け戻った。その一方で、取材に来た記者が銀行の重厚な扉をノックすると、菱形ののぞき窓から顔を出した守衛が、本日、ジェイ・クックはすでに帰宅し、面会はできないと告げた。
「さあ」クーパーウッドは、この恐慌は自分にとって破滅ではなくチャンスだと考えた。「私の出番だ。売りだ――売りまくるぞ」
以前、シカゴ大火で恐慌が起きたとき、クーパーウッドの立場は買い持ちだった――自分の身を守るために、たくさんの銘柄を抱えざるを得なかった。今は言うほど手持ちがない――おそらく、何とかかき集めた七万五千ドルばかりだ。ありがたい! 失ったところで、失うものはウィンゲートの古い会社の評判だけだ。そんなものには何の価値もない。自分には後ろ盾になる取引代理店がある――自分が介入できる口実――売買する権利――としてそれを使えば、得るべきものはすべて手に入る。多くの人たちが破滅を考える中で、クーパーウッドは成功を考えていた。命令を正確に実行するために、ウィンゲートと二人の弟を配下に置く。必要なら四人目、五人目を調達すればいい。彼らに売れと命じる――あらゆるものを――必要なら、十、十五、二十、三十ポイント安くして。不注意な連中を罠にかけて、相場を押し下げ、こっちを大胆過ぎると考えそうな臆病者を震え上がらせる。それから、できるだけ下値で買って買って買いまくる。売った分を買い戻して利益を得るのだ。
この恐慌がどれくらい広範囲に及び、長引くか、は本能が教えてくれた。ノーザン・パシフィック鉄道は一億ドル規模の事業だ。これに何十万人もの人びと――国中の小さな銀行家、商人、牧師、弁護士、医者、未亡人、さまざまな機関――の貯蓄が関わりを持ち、そのすべてがジェイ・クックの信用と保証を頼りにしていた。かつてクーパーウッドは、クック管理下のノーザン・パシフィック用の供与地に関する壮大な目論見書と地図を見たことがあった。それはシカゴ大火の地図にも似てなくもなく、(プロクター・ノットが下院の演説で皮肉を込めて呼んだ)「しょっぱくない海の頂点の都市」ダルースからロッキー山脈とミズーリ川の源流を経て太平洋に伸びる、広大な領域もしくは一帯が載っていた。彼は、何百万エーカーにも及び、長さは千四百マイルもある、この政府供与地をクックが表向きどう管理してきたかを見てきたが、これは帝国は幻影にすぎなかった。そこに、銀や金や銅の鉱山はあるかもしれない。土地にも利用価値はある――いつかは利用できるようになるだろう。しかし、今はどうなのか? 愚か者の想像力を掻き立てはするだろうが、それ以上の価値はない。そこは近づくことすらできず、この先何年もそのままだろう。この鉄道を建設するために、何千人もの人々が出資したことは間違いないが、これが破綻すれば、その何千人も破綻する。ついに、暴落が始まった。大衆の嘆きと怒りは凄まじいものになるだろう。何日も、何週間も、何か月も、平時の自信と勇気は失われるだろう。これこそ彼が待ち望んだ時間だ。これこそ彼の偉大な瞬間だった。夜にきらめく冷酷な星の下を徘徊する狼のように、クーパーウッドは素朴な人々のつつましい群れを見下ろし、彼らの無知と世間知らずがどれほどの犠牲を払うことになるかを見極めていた。
クーパーウッドは急いで取引所に戻った。そこはわずか二年前に敗北を喫したのとまったく同じ部屋だった。共同経営者と弟がまだ来ていないのを確かめると、目につくものを片っ端から売り始めた。すでに修羅場と化していた。若手もベテランも、パニックに陥ったブローカーからの売り注文、のちに買い注文をかかえて、四方八方から駆け込んできた。各立会場は、ブローカーとその代理人が揺れ動いて渦を巻く塊と化していた。外では、ジェイ・クック商会、クラーク商会、ジラード・ナショナル銀行、その他の金融機関の前の通りに、ものすごい人だかりができ始めていた。彼らは、騒ぎを知ろうと、預金を引き出そうと、自分たちの利益を守ろうと、そこに急いでいた。警官がジェイ・クック商会の倒産を叫んでいた少年を逮捕したが、それでもこの大惨事のニュースは野火のように広がっていった。
このパニックに陥った人たちの中で、クーパーウッドは完全に落ち着き払っていて、死んだように冷ややかだった。刑務所の中で毎日粛々と十脚の椅子を編み、ネズミに罠を仕掛け、与えられた小さな庭で黙々と孤独に働いていたのと同じクーパーウッドだった。今の彼は精力的で活気に満ちていた。彼は再びこの取引所に戻り、自分の存在を印象的な際立ったものにしていた。クーパーウッドは、すでに声を枯らして叫んでいる男たちで渦巻いている群れの中心に分け入って、暴落中の株価から利益を出したがっている数少ない買い手を誘う値段で、提示されているあらゆるものを、驚くほど大量に、売りに出した。破産が発表されたとき、ニューヨーク・セントラルは一〇四と八分の七、ロードアイランドは一〇八と八分の七、ウェスタン・ユニオンは九二と二分の一、ウォバッシュは七〇と四分の一、パナマは一一七と八分の三、セントラル・パシフィックは九九と八分の五、セントポールは五十一、ハンニバル&セント・ジョセフは四八、ノースウェスタンは六三、ユニオン・パシフィックは二六と四分の三、オハイオ&ミシシッピは三八と四分の三だった。クーパーウッドの会社には、手持ちの株がほとんどなかった。顧客の分も持ち越していなかった。それなのに彼は買おうとする者には誰にでも、購買意欲を刺激すると確信した値段で、売って、売って、売りまくった。
「ニューヨーク・セントラル五千株、九九、九八、九七、九六、九五、九四、九三、九二、九一、九〇、八九で」と彼が叫ぶのが聞こえたかもしれない。そして、売れ行きがよくないと、別の銘柄――ロックアイランド、パナマ、セントラル・パシフィック、ウェスタン・ユニオン、ノースウェスタン、ユニオン・パシフィック――に切り替えた。弟とウィンゲートが駆け込んで来るのを見て、作業を中断し、手短に指示を出した。「売れるものはすべて売れ」クーパーウッドは静かに注意した。「必要なら十五ポイント下げてもいい――今はそれ以上さげるな――それ以下で買えるものは全部買っていい。エド、十五ポイント安で地元の路面鉄道が買えないか確認しろ。ジョー、お前は私のそばにいて、私が言ったら買え」
取引所理事会の書紀が小さな壇に現れた。
「E・W・クラーク商会」書記が発表したのは一時三十分だった。「たった今、営業を停止」
「ティグ商会」発表は一時四十五分。「支払い停止を余儀なくと発表」
「フィラデルフィア・ファースト・ナショナル銀行」発表は二時。「現時点での債務不履行を表明」
発表が終わって、いつものように鐘が沈黙を強いると、群衆は「ああ、ああ、ああ」と不吉な声をあげた。
「ティグ商会か」発表を聞いてほんの一瞬クーパーウッドは思った。「あいつも終わったのか」そして、自分の仕事に戻った。
取引時間が終わるころには、コートは破れ、襟はねじれてゆるみ、ネクタイははぎ取られ、帽子はなくなっていたが、クーパーウッドは正気の、静かな、落ち着いた態度で現れた。
「さて、エド」クーパーウッドは弟に会うと尋ねた。「どうだった?」弟も同じように服は破れ、ひっかかれ、疲れ果てていた。
「畜生」エドワードは袖を引っ張りながら答えた。「こんな場所は見たことがない。もう少しで服をはぎとられるところだった」
「地元の路面鉄道は買ったのか?」
「五千株ほど」
「グリーンズへ行った方がいいな」フランクは主要ホテルのロビーを指して言った。「まだ終わってない。あそこでも取引は続くからな」
彼は先に立ってウィンゲートと弟のジョーを探し、一緒に行く途中で、売りと買りの主要な部分をざっと計算した。
そして彼の予想どおり、興奮は夜になっても収まらなかった。群衆は三番街のジェイ・クック商会の前や他の金融機関の前に居残って、自分たちに有利な展開を待っているようだった。内情を知る者にとって、議論と興奮の中心はグリーンズ・ホテルだった。十八日の夜、そこはロビーも廊下も、銀行家、ブローカー、投機家でごった返していた。事実上、証券取引所が丸々このホテルに移っていた。明日はどうなんだ? 次に破産するのは誰だ? お金はどこから出てくるんだ? これらが、各人の頭に浮かんで口に出る話題だった。ニューヨークから惨事の続報がすぐに飛び込んできた。向こうでも銀行や信託会社が台風に見舞われた木々のように倒れていた。クーパーウッドは歩き回って、見えるものを見て聞けるものを聞き、取引所の規則には反しているが他のみんながやっているような合意を交わしながら、モレンハウワーとシンプソンの代理人だとわかっている連中を見て、週が終わる前にそいつらからも何か巻き上げられそうだと内心ほくそ笑んだ。路面鉄道は手に入らないかもしれないが、手に入れるための資金が手に入りそうだ。伝聞や、ニューヨークや他から入ってきた情報で、状況は最悪であり、すぐに正常に戻ると期待する者には何の希望もないことを知った。最後の一人がいなくなるまで、この夜は引き上げようなどと考えもしなかった。この時点でもうほとんど朝だった。
翌日は金曜日で、たくさんの不吉なことを連想させた。またブラック・フライデーが来るのか? クーパーウッドは街が完全に目覚めないうちから事務所に詰めていた。状況が似てなくもない二年前とは感じ方が妙に違うと思いながら、その日の計画を綿密に練り上げた。昨日は突然の襲撃だったにもかかわらず、十五万ドルもうけた。今日はそれと同じかそれ以上を期待していた。自分の小さな組織を完璧な状態にして、部下たちを正確に命令に従わせることさえできたら、どれだけもうけられるか見当もつかないと思った。南北戦争中にジェイ・クックの忠実な補佐役だったフィスク&ハッチの営業停止を皮切りに、早くも他者の破綻が始まった。彼らは開店後のわずか十五分で百五十万ドルの支払い要求を受け、またすぐに店を閉めた。破産の原因はコリス・P・ハンティングトンのセントラル・パシフィック鉄道とチェサピーク&オハイオ鉄道にあるとされた。フィデリティ信託でも長く続く取り付け騒ぎがあった。これらの事実と、取引所に掲示されたニューヨークの破綻の続報は、彼が力を入れている動きを後押しした。だから絶えず下落し続ける中で、できるだけ高く売り、できるだけ安く買い戻していた。十二時までに、十万ドルの純益を出したと部下と算定し、三時までにさらに二十万ドルを積み上げていた。その日は午後三時から七時までをポジション調整に費やし、七時から午前一時まで何も食べず、可能な限り追加情報を集めて、今後の計画を立てた。土曜日の朝が来ると、前日の行動を繰り返し、日曜日は調整にあてて、月曜日は大量の取引をした。月曜日の午後三時までに、すべての損失と不確定要素を差し引いても、自分は再び百万長者であり、今や未来が目の前にはっきりとまっすぐに開けていることがわかった。
その日の午後遅く、事務所の席に座って、ブローカーやメッセンジャー、不安げな預金者たちがいまだに慌ただしく行き交う三番街を眺めていて、フィラデルフィアとここでの人生に関する限り、自分の時代と、この街との関係は終わったと感じた。ここでも、どこであっても、もうブローカーの仕事に何の未練もなかった。今回の破綻と、二年前に彼を襲ったシカゴ大火の惨劇は、彼から証券取引所への愛着と、フィラデルフィアへの感情をすべて奪っていた。以前は幸せだったにもかかわらず、彼はここでとても不幸だった。そして、囚人としての経験が彼を、かつては仲間入りしたいと希望していた層に受け入れられない存在にしてしたことがはっきりと見てとれた。フィラデルフィアの実業家として地位を取り戻し、自分は絶対に犯していないと世間に信じさせたかった犯罪に対する恩赦を得た今、新天地を求めてフィラデルフィアを去る以外にやるべきことはなかった。
「これを無事に切り抜けたら、これで終わりだ」クーパーウッドは自分に言い聞かせた。「西部に行って何か別の仕事をしよう」路面鉄道、土地投機、何かの大規模な製造業、さらには本物の鉱業まで考えた。
「教訓も学んだしな」独り言を言うと、ようやく立ち上がって帰り支度をした。「豊かさはかつてと同じで、少し年を取っただけだ。一度はしてやられたが、二度とやられるものか」クーパーウッドは、始めた方針のまま攻勢を続けるようウィンゲートに告げ、自分も全力で追い打ちをかけるつもりだった。しかし、その間ずっと、彼の心はこの満ち足りた思いが一緒に駆け巡っていた。「私は百万長者だ。自由の身だ。まだ三十六歳だし、将来はすべて目の前にある」
そんな思いを抱きながら、クーパーウッドは今後の計画を立てるためにアイリーンのもとへ向かった。
ペンシルベニアの山々を通って、オハイオやインディアナの平原を走る列車が、この金融界を志す若者をシカゴや西部に運んだのは、それからわずか三か月後のことだった。若さと富、体には著しい活力があるのに、自分の将来については、厳粛かつ慎重に考える男だった。出発前に綿密に調べたとおり、西部は多くのものを秘めていた。最近のニューヨークの手形交換所の受領高や、銀行残高の動向や、金の輸送状況を調べ、膨大な量の金がシカゴに流れていることを知った。クーパーウッドは金融を正確に理解していた。金の輸送の意味は明白だ。お金が動くところには取引がある――繁栄と発展を続けている暮らしがある。この世界が何をもたらすのかを自分ではっきりと見極めたかった。
二年後、ダルースに若い投機家が彗星のように現れ、シカゴで表向きは西部の大量の小麦を扱う、フランク・A・クーパーウッド商会という穀物委託業者が暫定的に開業したあと、フィラデルフィアでフランク・A・クーパーウッド夫人の離婚が静かに成立した。どうやら夫人の希望らしい。時間は夫人につらく当たらなかったようだ。一度はかなり悪化した資産も、今はすっかり改善し、西フィラデルフィアの姉妹の一人の近くに、中流階級向け高級住宅の快適さを完備した、新しい、人の関心を引く家を構えた。今ではすっかり元の信心深さを取り戻している。二人の子供、フランクとリリアンは私立学校に通い、夕方には母親のもとに帰ってきた。〝ウォッシュ〟シムズは再び黒人の雑用係に戻った。日曜日には、ヘンリー・ワージントン・クーパーウッド夫妻がよく訪れた。もう経済的に困ってはいなかったが、かつて順風満帆だった帆には風が吹かなくなり、鳴りを潜め、疲れ果てていた。ヘンリー・クーパーウッドには、暮らしていけるだけの金が十分にあったから、下っ端の事務員としてあくせく働かずに済んだが、人生からは社交の喜びがなくなっていた。老いて、失意と悲しみの中にいた。かつての名誉と経済的な栄光とともに、自分は同じなんだと感じることはできた――実態は違う。勇気も夢も失われ、死を待つばかりだった。
ここにはアンナ・アデレード・クーパーウッドも時々顔を出した。彼女は水道局の事務員で、人生の奇妙な浮き沈みについていろいろなことを考えた。運命によって世の中で目立つ役割を背負わされたらしい兄には大きな関心があったが、理解できなかった。どんな形にせよ、兄の身近な人たちがすべて、兄の繁栄とともに浮き沈みするのを見て、この世界では正義や道徳がどう成り立っているのかわからなくなった。一定の一般原則はあるようだ――あるいは人々はあると思っている――だが、明らかに例外は存在する。確かに兄は既存のルールに一切従わないが、それでも再びかなりうまくいっているように見える。これはどういうことだろう? 元妻のクーパーウッド夫人は、夫の行動を非難しながらも、夫の繁栄は当然のこととして受け入れた。それだと倫理はどうなっているのだろう?
アイリーン・バトラーはクーパーウッドの行動を、現在の居場所から今後の展望まで、すべて知っていた。妻との離婚が成立して間もなく、今住んでいるこの新しい世界との間を何度も行き来した後、冬のある午後、二人は一緒にフィラデルフィアを後にした。アイリーンは、ノラと一緒に暮らすことをいとわない母親に、以前銀行家だった人と恋に落ちたから結婚したいと説明した。最初は話の要領を得なかったが、老婦人は承諾した。
こうしてアイリーンの、この古い世界と長く続いた関係は永遠に終わった。彼女の前にはシカゴがあった――フランクの話では、これまで二人がフィラデルフィアで得られたものよりはるかに輝かしい人生だった。
「ようやく出発できてよかったじゃない?」アイリーンは言った。
「とにかく、これで有利に運べるよ」クーパーウッドは言った。
ミクテロペリカ・ボナキについて
学名ミクテロペリカ・ボナキ、通称ブラック・グルーパーという魚がいる。これに関連する補足としてこれは一考する価値があり、この魚はもっとよく知られるべきである。健康な生き物で、順調に成長すると体重は二百五十ポンドに達し、環境への極めて高い適応能力のおかけで快適に長生きする。私たちが創造力と呼んで祝福の精神があることにしている、あのとても微妙なものは、誠実と美徳だけが勝つようにこの現世を形づくっている、と考えられている。では、その力がブラック・グルーパーを創造した示唆に富む態度を見てみよう。さらに話を広げ、もっと弱い告発の例を挙げてもいい――軽率なハエに罠を仕掛ける恐ろしいクモ。おのれの美の犠牲者を閉じ込めて貪り食うために深紅の萼を窒息させる落とし穴として使う、きれいなドロセラ(モウセンゴケ)。虹色の触手を美しい吹き流しのように広げて、その輝くひだの中に落ちたすべてのものを刺して苦しめる虹色のクラゲ。人間自身が穴を掘って罠を仕掛けるのに忙しいのだが、本人はこれを信じようとしない。その足は状況という罠にはまって、目は幻想に向けられているのに。
青い海の暗い世界で活動しているミクテロペリカは、人間が見出せる何と比べても引けを取らない、祝福とは無縁の、自然の創造の才能を知るいい見本である。この魚のとても優れた点は、皮膚の色素だけに関わる、ほとんど信じられないほどの擬態能力にある。私たちは電気工学の分野で、鮮やかな場面を瞬時に別の場面に作り変えて、見る者の目の前に現れては消える映像を次々に映し出す能力を誇りとしている。ミクテロペリカが自分の見た目を自在に操る力は、それよりもはるかに示唆に富んでいる。何か幽霊のような、自然とは異質なものを見ているのではないかと感じずに、それを長く見ることはできない。その擬態能力はそれほど鮮やかなのだ。瞬時に黒から白に、土の茶色からきれいな水の青色に溶け込むことができる。模様まで空の雲のように変化する。この力の多様さと繊細さには驚くしかない。
入江の底に横たわれば、周囲の泥に擬態でき、美しい海藻のひだに隠れれば、同じ模様になり、差し込む光に潜めば、水の中でぼんやりと輝く光そのもののようになる。見られずに逃れたり襲いかかるその力は絶大である。
ミクテロペリカにこの能力を与えた、すべてを支配する知的で創造的な力の意図は何なのか? それに正直な態度をとらせるためなのか? すべてのまっとうに生きようとしている魚にもわかる、変化しない外見を与えるためなのか? それとも、奸智、ごまかし、策略がここに働いているとでも言うのだろうか? 人はすぐにこれを幻惑の道具と疑うかもしれない。生きている嘘であるし、自分とは違う姿を見せて、何の共通点もないものに擬態し、絶妙な狡猾さを用いて生きることを仕事にする生き物であり、その敵の力ではこれを防ぎようがない。この批判は妥当である。
これを前にしても、祝福を与え、慈悲深い、創造力に富んだ、支配する力に、策略や欺瞞の意図はない、と言えるだろうか? それとも、私たちが住むこの物質的な見た目が幻影そのものとでも言うのだろうか? そうでないなら、十戒や正義という幻想はどこから来たのだろう? どうして山上の垂訓が夢見られるのだろう? そして、それはどう役に立つのだろう?
魔法の水晶
もしあなたが神秘主義者や占い師、あるいは呪文や夢、神秘の杯や水晶球で占いをするあの不思議な世界の一員であったなら、この時点でその神秘の深淵をのぞき込み、今は一見幸せそうな境遇に置かれたこの二人に関わる出来事の世界を予見したかもしれない。魔女の鍋から立ち上る湯気の中や、輝く水晶の奥深くに、都市、都市、都市が現れたかもしれない。豪邸、馬車、宝石、美の世界。一人の男の権力に激怒した巨大都市。制御できない力に憤って煮えくり返る偉大な州。値段のつけようがない絵画が並ぶ大広間。その壮麗さにおいて比類なき宮殿。ある名前を、時には驚きをもって読む全世界。さらに、悲しみ、悲しみ、悲しみが。
荒れ果てた荒野でマクベスに予言した三人の魔女は、今度はクーパーウッドに呼びかけたかもしれない。「万歳、フランク・クーパーウッド、偉大な鉄道網の支配者よ! 万歳、フランク・クーパーウッド、値段をつけようがない大邸宅の建築者よ! 万歳、フランク・クーパーウッド、芸術の後援者にして無限の富を持つ者よ! あなたはのちに名をあげるだろう」しかし、その魔女たちも同じように嘘をついたに違いない。というのは、その栄光の中には、死海の果実の灰もあったからだ――欲望で燃え上がらせることも、贅沢で満たされることもないという悟り。経験によってとっくに疲れ果てた心。風のない月のように幻想を失った魂。そして、アイリーンにはマクダフにしたのと同じように、もっと哀れな約束、希望と挫折に関わる約束を告げたかもしれない。持ちながら、持たぬ! すべては見せかけ、持たぬことの悲しみ! 蜃気楼の中で輝きながらも扉を閉ざした華やかな社交界、鬼火のようにすり抜け、暗闇の中で死んだ愛。「万歳、フランク・クーパーウッド、支配者であり支配者でない者、その実体が幻滅だった夢の世界の王子!」魔女たちは予言し、杯は現れた形状とともに踊り、湯気は幻影を浮かべたかもしれない。そして、それが真実だったのだろう。このような始まりから、このような終わりを読み解けぬ賢者がいるだろうか。




