第4章
この頃のフランク・クーパーウッドの風貌は、控えめに言っても魅力的で申し分なかった。身長は五フィート十インチくらい。頭は大きくて形がよく、外観は明らかに商売向きで、さわやかな焦げ茶色の髪にびっしり覆われ、角張った肩とがっしりした胴体に据え付けられていた。すでにその目には微妙な年頃がもたらす表情が宿っていた。不可解で目を見ても何も読み取ることはできなかった。足取りは軽やかで、自信に満ち、弾むように歩いた。人生は彼にひどい衝撃を与えず、手荒な起こし方もしなかった。病気や苦痛に悩まされたり、いかなる種類の困窮も強いられたことがなかった。自分よりも裕福な人たちを見て、ただ金持ちになりたいと思った。家族は尊敬され、父親は高い地位にいた。誰にも何の負い目もなかった。一度、銀行で小額の手形の支払いを遅らせてしまったところ、父親は彼が絶対に忘れられないほど大騒ぎした。「自分の手形を不渡りにするくらいなら、いっそ平身低頭で臨んだ方がましだ」老紳士は言った。このことは、これほど厳しく強調される必要がないもの――信用の重要性――を彼の心にしっかりと植えつけた。その後は彼の手形が自分の過失で不渡りや期日遅延を起こすことはなかった。
フランクは、ウォーターマン商会史上の最も有能な社員であることがわかった。手始めに、解雇されたトーマス・トリックスラーに代わって簿記係の補佐をやらせたところ、二週間してジョージは言った。「クーパーウッドを簿記係の責任者にしたらどうだろう? 彼ならあのサンプソンがこれから習得する以上のことを、あっという間に身に着けちまうぞ」
「よし、為替をやらせよう、ジョージ。でも、そう騒ぎなさんな。どうせいつまでも簿記係でいるわけじゃない。少ししたら彼が私に代わってこの為替の処理をできないか見てみたいんだ」
かなり複雑ではあったが、ウォーターマン商会の簿記はフランクにとって子供の遊びであり、かつての上司サンプソン氏が驚くほど、いとも簡単に迅速にやってのけた。
「なあ、あいつは」 サンプソンはクーパーウッドの仕事を見た初日に他の社員に言った。「威勢がよすぎるな。今にひどいへまをやらかすぞ。俺はああいう手合いを知っているんだ。信用取引や為替の集中日が来るまで少し待っててみ」しかしサンプソン氏が楽しみに待っていたひどいへまは起きなかった。一週間もしないうちに、クーパーウッドはウォーターマン兄弟と同じくらい――いや、それ以上に――一ドルに至るまで財務状況を知ることになった。利益はどのような配分になっているのか、一番大きな仕事をしたのはどの部門なのか、出来の良い農産物と悪い農産物を送っているのは誰なのか、を把握した――一年間の価格変動でそれがわかった。自分を納得させるために、不審な点を確かめながら、元帳の特定の勘定科目をさかのぼった。簿記はフランクに、一つの記録、会社が活動している証、以外の関心を起こさせなかった。彼は自分がこの仕事を長く続けないことを知っていた。何か他のことが起こるだろう。彼は穀物仲介業がどいうものなのか――その細部に至るまで――すぐに理解した。要点がわかった。欠けていたのは、委託された商品のもっと大がかりな売り出し活動――荷主や買主とのもっと迅速な連絡――まわりの委託業者とのもっと良好な業務契約――であり、それがなかったために、この会社というか社の顧客は大きな損失を被っていた。一人が上昇もしくは安定した値動きを見越して、船一艘か貨車一台分の果物か野菜を出荷したとする。しかし他の十人が同時に同じことをするか、他の仲介業者が果物や野菜でだぶつき、それらを適切な時間内に処分する方法がなかったら、価格は下落するしかない。その特別な荷物は毎日運ばれていた。大量の荷物を処分している外まわりの人間になった方が、自分はこの会社のためにもっと役に立てそうだとすぐに思いついたが、あまりはやいうちから余計なことを言うのはやめにした。どうせ事態はすぐに収まるのだから。
ヘンリーとジョージのウォーターマン兄弟は、フランクの会計処理に大満足だった。彼がいるだけで安心するのだ。フランクはさっそくジョージの注意をある勘定科目の状況に向けさせて、取り除くか廃止できるかもしれないと提案した。これはジョージを大喜びさせた。この若者の知恵を使って自分の仕事を減らす方法がわかったジョージは、同時に彼との楽しい親交を育んでいた。
ヘンリーはフランクを外で試す気になった。手持ちの在庫で注文をさばくことは毎回できることではなく、誰かが街か取引所に行って買い付けをしなければならず、普段はこれをヘンリーがやっていた。ある朝、運送状を見て、小麦粉の過剰と穀物の不足がわかると――最初にそれに気づいたのはフランクだが――ヘンリー・ウォーターマンはフランクをオフィスに呼んで言った。
「フランク、うちが直面しているこの事態を、街に出てどう対処できるか、きみにも考えてほしいんだ。明日までに小麦粉がだぶつくだろう。保管料を払ってはいられないし、うちにある注文ではさばき切れない。穀物は不足しているんだ。きみならどこかのブローカーに小麦粉を引き取ってもらって、ここにある注文を満たすだけの穀物を調達できるんじゃないか」
「やってみたいですね」フランクは言った。
フランクは帳簿でいろいろな仲介業者の所在を知っていた。地元の商人たちの取引所や、こういう品物を扱うさまざまな仲介屋が、何を扱うかも知っていた。これこそ彼がやりたかった仕事だ――こういう性質の取引上の問題を調整する仕事だ。また外の空気に触れて、一軒一軒回るのは楽しかった。デスクワークや書類の作成や帳簿の精査はご免だった。数年後に言ったように、彼の頭脳が彼の仕事部屋だった。フランクは小麦粉の市況を頭に入れながら、主だった仲介屋を急いで回り、もし供給過剰が見込まれなかったら買われそうなレートで余剰分を売りに出した。上質小麦粉六百バレルを即時引き渡しで(即時とは四十八時間)買いたい者はいるだろうか? 一バレル九ドルという値引きなしで提示したところ買手はいなかった。小分けにして提示したところ、こっちで一口あっちで一口と応じる者がいた。約一時間で二百バレルの一口を除いてすべて片付いた。この一口は、自分の会社とは取引がないジェンダーマンという有名な相場師に一括で提示することに決めた。カールした白髪、ゴツゴツしている割にふっくらしている顔、肉付きのいい瞼から抜け目なく覗く小さな目をした大男が、クーパーウッドが入って来るのを興味深そうに見た。
「名前は何だい、若いの?」木の椅子にもたれながら男は尋ねた。
「クーパーウッドです」
「ウォーターマン商会で働いてるのか? 実績がいるんだろう。だからここにきたのか?」
クーパーウッドは微笑んだだけだった。
「じゃ、俺が小麦粉を引き取ってやろう。そいつが必要なんでな。請求書をまわしてくれ」
クーパーウッドは飛び出した。自分の会社と取引があるウォールナット・ストリートの仲介業者に直行し、必要な穀物を実勢レートで競り落とさせて、それから会社にもどった。
「ほお」報告するとヘンリー・ウォーターマンは言った。「仕事が早いな。ジェンダーマン老人に直接二百バレル売ったのか? 大したものだ。あの人はうちの顧客名簿にないだろう?」
「ございません」
「ないと思ったよ。外回りでこういう仕事が出来るのなら、いつまでも簿記をやらせておくことはないな」
その後、フランクは時が経つにつれて仲介業者界隈や取引所(農産物取引所)でおなじみの人物になった。雇い主のために帳尻を合わせ、必要な商品を急に必要になった分だけ仕入れ、新しい顧客を勧誘し、意外なところで余分な在庫を処分して過剰を解消した。ウォーターマン兄弟はフランクのこういう才能に驚いた。彼には、話をよく聞いてもらい、親しくなって、新しい世界に紹介されるという不思議な才能があった。ウォーターマン商会の古い活動分野に新しい生命が流れ始めた。顧客の満足度は高まった。ジョージはフランクを地方に派遣して商売を広げようと思い立ち、これは最終的に実行された。
クリスマスが近づくとヘンリーはジョージに言った。 「クーパーウッドに景気よくプレゼントしてやらんといかんな。何の給料ももらってないんだから。五百ドルでどうだろう?」
「かなりの額だが、頃合いを見れば、あいつにはそれくらいの価値はあると思う。確かに我々の期待したことにすべて応えてくれた。それ以上の働きだ。この仕事に向いてるんだな」
「彼はそのことで何か言ってたか? 満足しているかどうか、彼が口にするのを聞いたことがあるかい?」
「結構気にいってると思いますよ。あなただってわたしと同じくらい見ているでしょう」
「じゃ、五百ドルにしよう。あいつなら先々この仕事で悪いパートナーになることもないだろうからな。仕事のコツがちゃんとわかってるんだ。我々二人から一言添えて五百ドルをおくるとしよう」
クリスマスの前夜、クーパーウッドが運送状や委託証に目を通して、割り込んでくる休日に備えて万全を期していると、ジョージ・ウォーターマンがデスクにやってきた。
「精が出るな」燃え盛るガス灯の下に立ち、とても満足そうに元気な従業員を見ながら声をかけた。
まだ夕方の早い時間で、正面の窓の外で雪がまだら模様を作っていた。
「あと少しで終わります」クーパーウッドは微笑んだ。
「兄も私も、この六か月の間にきみがここで手掛けた仕事ぶりに、とても満足している。何か感謝したくて、五百ドルくらいが妥当だと考えた。一月一日からは週給三十ドルを支払うつもりだ」
「どうもありがとうございます」フランクは言った。「そこまでのものを期待してはいませんでした。これはいい条件ですね。知りたかったことをここで随分学ぶことができました」
「ああ、そんなことは言わなくていい。きみがそれを身につけたことはわかっている。好きなだけうちにいてくれていいんだ。きみが一緒にいてくれると我々もうれしいよ」
クーパーウッドは心から穏やかに微笑んだ。こうして認められて、とてもいい気分だった。英国製ツイードの仕立てのいい服を着た姿は明るく晴れやかだった。
その晩、帰り道に、この仕事の本質について考えた。この贈り物をもらって給料の約束を取り付けたにもかかわらず、あそこに長く留まるつもりがないことはわかっていた。確かに、彼らは感謝していた。しかしそのくらいは当然ではないだろうか? クーパーウッドは自分が有能なことを知っていた。自分がやれば物事はスムーズに進んだ。自分が事務職の人間だとは一度も考えたことがなかった。そういう人たちは自分のために働くべき存在であり、働くことになるのである。彼の態度には野蛮さがなく、運命に対する怒もなく、無闇に失敗を恐れなかった。彼が仕えているこの二人の男は、すでに彼の目には役柄以上のものではなかった――大事なのは彼らの仕事そのものだった。まるで年長者が子供を見るような目で、彼らの弱点や欠点を見て取ることができた。
その晩の夕食を済ませてガールフレンドのマージョリー・スタッフォードを訪ねて行く前に、五百ドルの贈り物と給料をもらう約束のことを父親に告げた。
「そりゃ、すごいな」父親は言った。「お前は私が思った以上に順調にやっているな。じゃあ、そこでやっていくわけだな」
「いいえ、そのつもりはありません。来年中には辞めると思います」
「どうしてだ?」
「必ずしもぼくがやりたい仕事じゃないからです。いい仕事ですが、ぼくとしてはブローカーをやってみたいんです。それに魅力を感じます」
「先方に伝えないのは後ろめたいと思わないか?」
「思いませんね。向こうは僕のことが必要なんです」その間中ずっと、鏡で身だしなみをチェックして、ネクタイを直し、コートを整えていた。
「母さんには伝えたか?」
「いえ、これから言うつもりです」
母親のいるダイニングルームへ行き、その小さな体に腕をまわしながら言った。「どう思う、母さん?」
「え、何がだい?」母親は優しく息子の目をのぞき込んで尋ねた。
「今夜、五百ドルもらったんだ。そして来年から週給が三十ドルになるんだ。クリスマスに何がほしい?」
「まあ、いいじゃない! すてきじゃないの! みなさんに気に入ってもらえたんだわ。一人前になりかけているものね?」
「クリスマスに何がほしい?」
「いらないわよ。何もいりません。私には子供たちがいるもの」
フランクは微笑んだ。「わかったよ。じゃ、何もいらないんだね」
しかし、母は息子が何か買ってくれる気でいるのがわかった。
フランクは外に出て、ドアのところで立ち止まって、ふざけて妹のウエストをつかみ、夜中には帰ると言って、マージョリーの家に急いだ。ショーに連れて行く約束をしていたからだ。
「今年のクリスマスは、何でもほしいものあげるよ、マーギィ」薄暗い照明の廊下でキスしたあと、フランクは尋ねた。「今夜五百ドル手に入れたんだ」
マージョリーはたった十五歳の無邪気な少女で、狡猾でもしたたかでもなかった。
「あら、何もいらないわよ」
「あげなくていいの?」ウエストをしっかり抱きしめて再び口にキスをしながら尋ねた。
世の中がこうやってうまくいって、こういう楽しい時間を過ごせるのはいいことだった。




