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資本家  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
35/59

第35章

 

 時間が経つにつれてバトラーは、娘に対する自分の義務のことで、ますます困惑し、落ち着かなくなった。娘のこそこそした態度と明らかに父親を避けたがっている様子から、何らかの形で娘はまだクーパーウッドに接触している、これは何かの社会的な厄介事を引き起こすことになる、と確信した。クーパーウッド夫人のところに行って、夫人から夫に圧力をかけてもらおうと一度は思ったが、後でこれはよくないと判断した。アイリーンがクーパーウッドと密会している確証はまだなかったし、それにクーパーウッド夫人は夫の背信を知らないかもしれない。クーパーウッド本人に会いに行って脅そうとも考えたが、それでは強硬手段になるし、さっきの場合と同じで証拠がなかった。興信所に頼むのはためらいがあったし、他の家族の者には打ち明けたくなかった。一度出かけて、その家を下見がてら北十番街九三一番地の近所を見て回ったが、ちっとも役には立たなかった。そこは貸家で、クーパーウッドはすでにそことの関係を断っていた。

 

 そしてついにバトラーはアイリーンをどこか多少離れたところへ行くよう招待してもらう計画を思いついた――ボストンとか妻の妹が住んでいるニューオリンズ。これは裏工作が要る緻密な作業であり、こういう問題になるとバトラーは必ずしも機転が利く人ではなかったが、これに取り組んだ。バトラーはニューオーリンズにいる妻の妹宛てに密かに手紙を書き、自分から聞いたとは一切明かさずに妻に手紙を書いて、アイリーンが訪ねて行くことを許してもらえないかどうかを尋ね、同時にアイリーンに招待状を書いてくれるよう頼んだが、この手紙を破り捨てた。少ししてから、モレンハウワー夫人と三人の娘、キャロライン、フェリシア、アルタが十二月の初めにヨーロッパに行き、パリ、リヴィエラ、ローマを訪れることを偶然に知ると、バトラーは、私の妻は私を置いていきはしないだろうから娘たちで行くべきだと口実を設けて、ノラとアイリーン、あるいはアイリーンだけでも誘うよう奥さんを説得してはもらえないか、とモレンハウワーに頼むことに決めた。しばらくアイリーンを遠ざけるならこれはいい方法だ。六か月もいなくなるのだ。モレンハウワーはもちろん喜んで協力してくれた。両家はかなり仲がよかったからだ。モレンハウワー夫人は快諾した――政治的な観点から喜んだ――そして招待された。ノラは大喜びした。ヨーロッパ見物がしたくて、こういうチャンスをずっと待ち望んでいたからだ。アイリーンはモレンハウワー夫人が自分を招待してくれたことがうれしかった。数年前なら、すんなり応じたことだろう。しかし今は、困った横槍が入った、クーパーウッドとの関係を邪魔する小さな障害がまた増えた、としか感じなかった。ある晩、夕食の席でバトラー夫人から出された提案にアイリーンはさっそく冷水を浴びせた。バトラー夫人はこの件に自分の夫が関与していることを知らず、その日の午後モレンハウワー夫人の訪問を受け、そのときに招待されたのだった。

 

「あちらさんはね、お父さんさえよければ、あなたたち二人にも来てもらいたがっているのよ」母親は自分から進んで言った。「あなたたち、すてきなひと時を過ごすことになるわね。パリとリヴィエラに行くんですってよ」

 

「まあ、すてき!」ノラは叫んだ。「私、ずっとパリに行きたかったの。あなたもでしょ、アイリーン? ねえ、それってすてきじゃない?」

 

「あたしは行きたいとは思わないわ」アイリーンは答えた。アイリーンは最初から興味を示して自分の立場を不利にしたくはなかった。「もうすぐ冬になるよ。それに着るものがないし。行くならいつか別の機会に行きたいわ」

 

「ええっ、アイリーン・バトラー!」ノラは叫んだ。「何てこと言うのよ! いつか冬の外国に行きたいって何度も言ってたじゃない。せっかくそのチャンスが来たのよ――それに服なんか向こうで作ってもらえばいいでしょ」

 

「現地では手に入らないのかい?」バトラー夫人は尋ねた。「それに、こっちでだってまだ二、三週間あるわよ」

 

「ガイドを兼ねた相談役として男手は要りませんかね?」カラムが口を挟んだ。

 

「そういう役目なら僕がお役にたてるかもしれません」オーエンが控えめに言った。

 

「お母さんじゃ、わかりませんよ」バトラー夫人は微笑んで、一口分をもりもりと噛みながら答えた。「そういうのは先方に聞かなきゃならないでしょ、息子たち」

 

 アイリーンはなおもねばった。行きたくなかったのだ。急すぎるとか、ああ言えばこう言い、こう言えばああ言った。ちょうどその時バトラーが現れてテーブルの上座についた。すべてを知りながら、そう見えないようにしようと必死だった。

 

「あなたは反対しませんよね、エドワード?」バトラー夫人は提案のあらましを説明しながら尋ねた。

 

「反対だと!」バトラーはぎこちないながらも陽気に振る舞おうと努力して、同じ言葉を繰り返した。「反対なんかしたら割りを食うのは自分だからな。しばらくお前たちみんなを締め出せたら、こっちはせいせいするってもんだ」

 

「何を言ってんのよ!」夫人は言った。「あなたがひとりで生活したら、大変なことになるでしょ」

 

「ひとりになんてなるもんか、絶対に」バトラーは答えた。「この街には私を歓迎してくれる場所はいくらでもある――大きなお世話だ」

 

「そして、私がいなかったらあなたが歓迎されないところだって、いくらでもありますからね。言っときますけど」バトラー夫人がにこやかに切り返した。

 

「それも大げさだとは言い切れんな」バトラーは優しく答えた。

 

 アイリーンは譲らなかった。ノラと母親が二人がかりでいくら説得しても何の効果もなかった。バトラーは自分の計画が失敗したのをかなり不満げに見はしたが、あきらめなかった。モレンハウワー家の招待を受けるよう娘を説得できる見込みはないと最終的に確信したバトラーは、しばらくしてから探偵を雇おうと決めた。

 

 当時、探偵で名高いウィリアム・A・ピンカートンと彼の事務所の評判はすごかった。この男は貧困から一連の浮き沈みを経て、その独特で、しかも多くの人たちにとって不快な職業のトップに立った。しかし不幸をもたらすかもしれないこういう仕事を必要とする人にとって、この男のとても有名で明らかに愛国的な、南北戦争とアブラハム・リンカーンとのつながりは行動のきっかけになった。ピンカートン、いや彼の仕事は、波乱の在任期間中、大統領官邸でリンカーンを守ることだった。会社の業務を取り仕切る事務所は、フィラデルフィア、ワシントン、ニューヨーク、そして言うまでもないがその他の場所にもあった。フィラデルフィアでも看板をよく見かけたが、バトラーは地元の事務所に行くのは気が進まなかった。いったんこれに決断を下すと、本社があるニューヨークまで出向くことにした。

 

 バトラーはある日、いつものように商用という簡単な口実をつけて、ニューヨークに旅立った――当時は列車で約五時間かかり――二時に到着した。バトラーはロウワー・ブロードウェイの事務所で責任者に面会を求めた。相手は五十歳の大柄で、粗野な顔つきの、体のずっしりした男で、目は灰色、白髪頭で、顔の輪郭はふっくらしているが鋭くて抜け目なかった。話をする間に、太くて短い指の手が漫然と机を叩いた。男は、異様に派手な印象をバトラーに与えた、焦げ茶色のウールのスーツを着用し、大きなU字型のダイヤのピンをつけていた。バトラーはいつも保守的な灰色の服だった。

 

 ボーイがこの立派な人物の前に案内すると、バトラーは「初めまして」と言った――男の名前はマーチンソン――ギルバート・マーチンソン――アメリカ人とアイルランド人の血を引いていた。マーチンソンは会釈し、抜かりなくバトラーを見て、すぐに相手を実力者、おそらくは地位のある人物だと見抜いた。それから立ち上がって椅子をすすめた。

 

「おかけください」マーチンソンは太いゲジゲジ眉毛の下から年老いたアイルランド人を観察しながら言った。「どういったご用件でしょうか?」

 

「あなたが責任者ですね?」バトラーは鋭く探るような目で相手を見ながら厳粛に尋ねた。

 

「はい」マーチンソンは簡潔に答えた。「ここでは私がその任についています」

 

「この事務所を経営しているピンカートンさんは――今はこちらにいらっしゃらないのですか?」バトラーは慎重に尋ねた。「悪気はないのですが、もしよければピンカートンさんと個人的にお話したいのですが」

 

「ピンカートンは今シカゴにいます」マーチンソンは答えた。「一週間か十日は戻らないと思います。ですが、ピンカートンに話すのと同じ信頼で、私に話していただくことはできますよ。私がここの最高責任者ですから。しかし、その判断はご自分でなさるのが一番ですね」

 

 バトラーは目の前の人物を値踏みしながら、しばらく押し黙って自問自答した。「あなたはご家族がおありですか?」バトラーは唐突に尋ねた。

 

「はい、結婚しています」マーチンソンは厳粛に答えた。「妻と二人の子供がいます」

 

 マーチンソンは長年の経験から、これは息子、娘、妻といった家族の不行状に違いないと思った。こういう事件は少なくなかった。

 

「ピンカートンさん御本人とお話ししたかったのですが、あなたが責任者だとおっしゃるなら――」バトラーは口ごもった。

 

「そうです」マーチンソンは答えた。「ピンカートンに話すのと同じように自由にお話しください。私の専用オフィスに行きませんか? そこの方がもっとくつろいでお話できますから」

 

 マーチンソンはブロードウェイを見下ろす二つの窓がある隣の部屋に案内してくれた。重たい茶色のきれいに磨かれた長方形のテーブルが一つ、革張りの椅子が四脚、北軍が勝利した南北戦争の戦闘の絵が何枚かあった。バトラーは疑いを抱いたまま後に続いた。アイリーンのことを誰かに打ち明けるのが嫌でたまらなかった。この期に及んでも自分がやろうとしていることに自信が持てなかった。内心思ったように〝こういう連中を見極め〟たかった。それから、やりたいことを決めるつもりだった。窓のところへ行って通りを見下ろすと、そこには乗合馬車やあらゆる種類の車両からなる見事な渦巻きがあった。マーチンソンは静かにドアを閉めた。

 

「さて、それでは、私があなたために役に立てることがもし何かあるなら」マーチンソンはいったん話をやめた。こういう小細工を弄して、バトラーの本名を引き出そうと思ったが――〝うまくいく〟ことが多いのだが――今回は名前が出なかった。バトラーも抜かりはなかった。

 

「これに踏み込みたいのか、自分でもよくわからないんです」老人は厳かに言った。「適切なやり方で扱われない恐れがあるのなら、絶対にやりません。知りたいことがあるんです――知っておくべきことが――でも、それは私のあまり知られたくない問題でして――」 バトラーはいったん話をやめ、しばらくマーチンソンを見ながら、考え、推測した。マーチンソンは相手の尋常ではない精神状態を理解した。こういう事例を数多く見ていたからだ。

 

「最初に申し上げておきますが、ええと――」

 

「スキャンロン」バトラーは難なく口を挟んだ。「とでも呼んでください、もし名前を呼びたいのなら。とりあえず本名は伏せておきます」

 

「スキャンロンさん」マーチンソンは苦もなく続けた。「それが本名であろうがなかろうが、別に気にしません。どういう状況でも、こちらがあなたの本名を知る必要がない場合もあると申し上げるつもりでした――すべてはあなたが知りたがっている内容次第です。あなたの個人的問題は、私たちが知ることになっても、まるであなたが誰にも話したことがなかったのと同じくらいに安心できる状態です。私たちの仕事は信頼の上に築かれていますから、私たちが裏切ることは決してありません。裏切りませんよ。うちには勤続三十年以上の男女がいて、正当な理由がない限り誰も解雇しませんし、理由をつけてやめさせる必要がありそうな人間は採用しません。ピンカートンは人を見る目があるんです。ここには他にも自分たちもそうだと考える者がいます。私たちは毎年、全米各地で個別の依頼を一万件以上扱います。それに求められる範囲でしか依頼に取り組みません。顧客が求める事柄だけを見つけ出すよう努力します。不必要にひとさまの事情を詮索したりしません。私たちでは顧客が知りたがっていることを、見つけ出すことができないと判断すれば、その旨を真っ先にお伝えします。多くの依頼は、着手する前に、この事務所の時点で断られます。あなたの依頼もそういうものかもしれません。私たちは、単に依頼を得るためだけの依頼を求めてはいませんので。そのことを率直に申し上げておきます。私たちは公共政策に関わる問題や、ある種の小さな迫害のようなものには一切手出ししません――そういうものの当事者になるつもりはないからです。これで内容はおわかりいただけたでしょう。あなたは世間に通じた方だとお見受けしますし、私もそうありたいと思っています。うちのような組織が、誰かの信頼を裏切ると思いますか?」マーチンソンはいったん話をやめて、自分が今言ったことの確認を求めて、バトラーを見た。

 

「そうは思えません」バトラーは言った。「おっしゃるとおりです。ですが、あなただって自分の個人的事情を白日の下にさらすのは簡単ではないでしょう」老人は悲しげにつけ加えた。

 

 双方、押し黙った。

 

「どうやら」バトラーは最後に言った。「あなたは信頼できそうだ。いろいろ助言していただきたい。もちろん、十分な代償を支払うつもりです。調べるのはあまり難しいことじゃありません。私の住んでいるところにいるある男が、ある女と付き合っているかどうかと、どこで会ってるかを知りたい。あなたならそういうことを簡単に調べられると思うのですが――いかがでしょう?」

 

「お安い御用ですな」マーチンソンは答えた。「そういうことは年中やっています。あなたが話しやすいように、お力になれるかちょっと確認させてください、スキャンロンさん。これはわかりきったことですが、あなただって必要以上のことは話したくはないでしょうし、私たちもどうしても必要なこと以外は話してもらいたくありません。もちろん、街の名前はうかがわねばなりません。それと男性か女性、いずれかの名前が必要です。そういうやり方で協力したくないというのであれば、両方である必要はありません。時には、片方の名前――たとえば男性の名前――それと女性の特徴――正確なのを――あるいは写真でもいただければ、しばらくしてから、あなたがお知りになりたいことを正確にお伝えできます。もちろん、完全な情報があれば、いつだってそれに越したことはありません。その辺はご自由に。多くても少なくてもいいですから、あなたの好きなように話してください。私たちがあなたのために最善を尽くすことと、後であなたが満足されることは保証いたします」

 

 マーチンソンは和やかに微笑んだ。

 

「では、本題に入ります」バトラーはかなり気が引けたが、ついに思い切って言った。「あなたには率直に言いましょう。私の名前はスキャンロンではなく、バトラーです。フィラデルフィアに住んでいます。男はそこにいます。クーパーウッドという名前の銀行家です――フランク・A・クーパーウッド――」

 

「ちょっとお待ちください」マーチンソンはポケットから大きなメモ帳と鉛筆をひっぱり出しながら言った。「ひかえます。つづりは?」

 

 バトラーは説明した。

 

「はい、続けてください」

 

「会社が三番街にあります――フランク・A・クーパーウッド商会――場所なら誰でも教えてくれますよ。最近そこで破産したばかりなんです」

 

「ああ、あの男ですか」マーチンソンが口を挟んだ。「聞いたことがある。そちらで何かの市の横領事件にかかわっているんでしたね。うちのフィラデルフィア支店に行かなかったのは、うちの地元の人間にこの件を知られたくなかったからですな。そうじゃありませんか?」

 

「それがその男でして、それが理由になります」バトラーは言った。「このことはフィラデルフィアで知られたくないんです。だから、ここにいるんです。この男の住まいはジラード・アベニュー――千九百三十七番地。これも現地に行けばわかります」

 

「わかりました」マーチンソンは了解した。

 

「まあ、私が知りたいのはこの男についてです――それとある女性、というか若い娘です」老人は口をつぐみ、アイリーンをこの件に巻き込まねばならないことに顔をしかめた。これについてはほとんど考えられなかった――それほどアイリーンのことが好きであり、彼はアイリーンをとても誇りに思ってきた。クーパーウッドに対する暗い悶々とした怒りがバトラーの心で燃えあがった。

 

「察するところ、お身内の方なのでは」マーチンソンは気を利かせて言った。「これ以上お話しする必要はありません――よろしければ特徴だけ教えてください。それを元に調べられるかもしれません」自分がここで相手にしているのは、その人なりの流儀で立派な老市民であり、さらにひどく悩んでもいる、とマーチンソンははっきり理解した。バトラーの深刻な思い詰めた表情がそれを物語った。「私には率直に話していただいていいんですよ、バトラーさん」マーチンソンはつけ加えた。「状況は理解しているつもりです。私たちはただ、あなたを助けるために必要な情報が欲しいだけであって、それ以上は何も求めてません」

 

「そうです」老人は不機嫌な顔で言った。「身内の者です。実は私の娘なんです。あなたは分別がおありの誠実なお方だとお見受けします。私はその娘の父親なんです。どんなことがあっても娘を傷つけるようなことはしたくありません。娘を救おうとしているんです。私は男の方に用があるんです」バトラーは突然大きな拳を力強く握りしめた。

 

 二人の娘を持つマーチンソンはその示唆に富む動作を見守った。

 

「お気持ちはわかります、バトラーさん」マーチンソンは言った。「私も父親ですから。あなたのためにできることはすべて行います。お嬢さんの正確な特徴を教えていただくか、ご自宅か会社で私の部下のひとりに、もちろん偶然会わせていただくことができれば、二人が定期的に会っているかどうかをすぐにお知らせできると思います。知りたいのはそれだけですか?」

 

「それだけです」バトラーは厳かに言った。

 

「まあ、それなら時間はかかりませんよ、バトラーさん――運が良ければ三、四日――一週間か十日、まあ二週間もあればつかめるかもしれません。最初の数日で証拠がつかめない場合は、どれくらいの期間、相手を尾行してほしいかによりますね」

 

「どれだけ時間がかかろうとも知りたい」バトラーは苦々しく答えた。「突き止めるのに一か月でも二か月でも三か月かかってもいいから知りたい。知りたいんだ」と言いながら老人は立ち上がった。とても積極的で、とても荒ぶっていた。「分別のないもんは寄こさんでくださいよ――たっぷり備えた人を頼みます。もしいるんなら父親である人にしてほしい――そして口が固くて分別のある人をね――若いもんじゃなく」

 

「わかりました、バトラーさん」マーチンソンは答えた。「お任せください。うちにいる最高のメンバーを当てますから。信頼できる連中です。思慮深いですからね。その辺ところはお任せください。まずは一名単独でこの件を担当させましょう。気に入るかどうかを、あなたご自身が確認してください。その者には私からは何も伝えません。あなたがその者に話せばいいようにね。もしその者を気に入ればお話しください。後はその者がやりますから。その上で増援が必要なら増援を派遣します。ご自宅の住所は?」

 

 バトラーは伝えた。

 

「それと、この件が口外されることはありませんね?」

 

「一切ありません――お約束します」

 

「それで、その人はいつ来るんですか?」

 

「お望みなら明日にでも。今夜派遣できる者もいますよ。今はここにいません、それとも、あなたと話をしてもらいましょうか。でも、その者には私から話をして、すべてをはっきりさせておきましょう。あなたは何も心配する必要はありません。彼の手にかかれば、お嬢さんの名誉は安心です」

 

「ご親切にありがとうございます」バトラーはとても慎重に、ほんの少しだけ和らいだ調子で言った。「すっかりお世話になりました。このご恩に対し、謝礼は存分にいたします」

 

「そのお気遣いは無用ですよ、バトラーさん」マーチンソンは答えた。「この会社は何事も通常料金で承っております」

 

 マーチンソンはバトラーをドアまで案内し、老人は出て行った。バトラーはこれにひどく落ち込んでいた――情けなくて仕方がなかった。探偵に自分の娘のアイリーンの素行調査をやらせなくてはならないなんて! 

 


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