表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
資本家  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
PR
33/59

第33章

 

 一方、クーパーウッドは自分が見聞きできたことから、政治家たちが自分をスケープゴートにしようとしていることと、それが間もないことをますます確信するようになっていた。まず、店を閉めてからほんの数日後に、スターズがやってきて重要な情報を教えてくれた。アルバートはステナーと同じようにまだ市の財務に関係し、ゼングスタックともうひとりのモレンハウワーが個人的に任命した者と一緒に財務官の帳簿を調べて、財務内容の説明を行っていた。スターズがクーパーウッドのところに来たのは、主に六万ドルの小切手とそれとの私的な関係について、追加のアドバイスをもらうためだった。ステナーは自分の首席事務官を訴えると脅し、金銭的損失はお前の責任であり、お前の保証人も責任を負わされると言っているらしかった。クーパーウッドはただ笑って、そんなことはありはしないと言ってスターズを安心させた。

 

「アルバート」クーパーウッドは笑顔で言った。「はっきり言っておくが、まったくない。あの小切手を私に渡したからといってあなたに責任はない。どうすればいいか、今すぐ教えてあげよう。私の弁護士のシュテーガーのところへ行って相談しなさい。あなたは一セントも負担することはないし、何をすればいいのかは彼がきちんと教えてくれるよ。さあ、戻りなさい。そしてこのことはもう心配しなさんな。私のこの行動があなたに多大な迷惑をかけてしまい申し訳ない。いずれにせよ、百に一つもあなたは新しい市財務官のもとで地位を維持できるはずがなかったんです。もし後であなたにぴったりの職場が見つかったら知らせますよ」

 

 このときクーパーウッドを立ち止まらせて考えさせたもう一つのことは、アイリーンからの手紙で、バトラーが不在のある晩にバトラー家の夕食の席で交わされた会話が詳しく書かれていた。アイリーンは兄のオーエンが実際にどういうふうに、政治家たち――つまり彼女の父親、モレンハウワー、シンプソンが、何かの犯罪的な金融操作――どういうものかはアイリーンには説明できなかった――と小切手か何かの件で「やつ(クーパーウッド)をこらしめてやる」と言っていたかを説明した。アイリーンは心配で気が狂いそうだった。刑務所に入れるってことかしら、と手紙で問い合わせた。あたしの大事な愛する人が! あたしのいとしいフランクが! こんなことが本当にあなたの身に起こるかもしれないの? 

 

 クーパーウッドは手紙を読むと、表情が曇って、怒りで歯を食いしばった。これは何とかしなければならない――モレンハウワーかシンプソン、あるいは両方に会って、市に対し何かを提案しなければならない。現時点で現金の約束はできない――手形しかない――しかし、彼らは手形でも受け取るかもしれない。まさか向こうだって、こんな小切手の取り扱いのような、取るに足らない不確かな問題で、自分をスケープゴートに仕立てようとすることはあるまい! 前任の市財務官たちの過去のいかがわしい取引の数々は言うまでもないが、ステナーに前払いしてもらった五十万ドルだってあるのだから! 何たる腐敗だ! 何て政治的なんだ、しかし何て現実的で危険なんだ。

 

 しかしシンプソンは十日ほど街を離れていた。そしてモレンハウワーはクーパーウッドの悪事を党のために利用しようというバトラーの提案を念頭に置いて、すでに計画通りに動いていた。書簡は準備され出番を待っていた。実際、あの会議以降、子分の政治家たちは親分の号令一下で、六万ドルの小切手の話を熱心に広め、仮にあっても公金横領の罪の責任は銀行家にあると力説していた。しかしモレンハウワーはクーパーウッドを見た瞬間に、自分は手強い人物を相手にしていることを悟った。クーパーウッドは怯えた様子をまったく見せなかった。ただ淡々と、習慣で市から低金利でお金を借りたところ、このパニックに巻き込まれてしまい、今は返そうにも返せないと述べただけだった。

 

「噂を耳にしたんですが、モレンハウワーさん」クーパーウッドは言った。「この件でステナーさんの共犯として、私は告訴されるそうですね。ですが、市がそのようなことをしないことを私は望んでいます。そして、それを防ぐためにあなたの影響力をお借りできればと思った次第です。問題を片付ける時間を少しいただければ、私の仕事は全然ひどい状態ではありません。今、債権者全員に一ドルにつき五十セントを提示し、一年、二年、三年期日の手形を渡しています。ですがこの市から借りたお金に関しては、もし折り合いがつけば、喜んで百セント出したいと思っています――ただ、もう少し時間が欲しいんです。ご存知のように、株価は必ず回復します。現時点の損失を除けば、私は大丈夫なんです。すでに事態がかなり進行していることは承知しています。コントロールできる人に制止されない限り、新聞はいつ喋り始めてもおかしくなさそうですから」(クーパーウッドは表敬をかねてモレンハウワーを見た)「もし雑多な訴訟手続きからできるかぎり遠ざけていただければ、私の立場が傷つくことはないでしょうし、立ち直るもっといいチャンスもつかめます。そのほうが市のためにもなるでしょう。そうすれば私は借りた分を確実に払えるのですから」クーパーウッドは最高に魅力的で愛嬌のある微笑みを浮かべた。初めてクーパーウッドを見たモレンハウワーは感銘を受けないでもなかった。現に、彼はこの若い金融界の王に関心の目を向けた。もしこのクーパーウッドの提案を受け入れる方法がわかって、提示された金額が最終的に自分に支払われることになり、さらにクーパーウッドがすぐに立ち直る合理的な見込みがあったなら、モレンハウワーは自分が口にしなければならない言葉を慎重に検討しただろう。何しろ、そのときが来ればクーパーウッドは、回復した財産を自分に譲渡できたかもしれないのだから。今のところ、この状況がこの先好転する見込みは小さかった。聞くところによれば「市民による自治体改革協会」はすでに活動していた――調査中か、着手しようとしている。いったんこれに手を着けたら、彼らは間違いなく最後まで追及するだろう。

 

「この問題で厄介なのはね、クーパーウッドさん」モレンハウワーは愛想よく言った。「事態がかなり進んでしまい、事実上私の手が届かなくなっていることなんです。実際、これついてできることは私にはほとんどありません。でも、あなたの大きな悩みの種は、先日あなたが受け取った六万ドルの小切手の問題であって、本当はこの五十万ドルの融資の問題ではないと思うんですがね。ステナーさんはあなたが小切手を違法に入手したと主張し、そのことでとても憤慨しています。今じゃ、市長や他の市の職員たちもこれを知ってますから、彼らが何か行動を起こすかもしれません。私にはわかりませんが」

 

 モレンハウワーは明らかに煮え切らない態度をとっていた――自分が役所で道具にしている市長をわざわざ引き合いに出して少し言い逃れをしている。クーパーウッドはそれに気がついた。このことはクーパーウッドをひどく苛立たせはしたが、彼は如才なかったので洗練された態度と敬意を欠かしはしなかった。

 

「私は六万ドルの小切手を受け取りました。それは確かです」うわべでは率直さを装ってクーパーウッドは答えた。「譲渡前日のことです。でも、あれは私がステナーさんの指示で購入した証書に対するものですから、私が受け取るのは当然です。私にはあの金が必要でした。だから請求したんです。それのどこに違法性があるのか私にはわかりませんね」

 

「その取り扱いが細部に至るまですべて完了していれば、違法じゃありません」モレンハウワーは平然と答えた。「私の理解では、この証書は減債基金向けに購入されたものですが、そこにはありませんね。これをどう説明するのですか?」

 

「ただの見落としですよ」クーパーウッドは何食わぬ顔で、モレンハウワーと同じように平然と答えた。「あまりに思いがけない譲渡さえ強いられなかったら、そこにあったでしょう。私だけではすべてを管理し切れなかったんです。直ちに収めるというのは我々の慣行ではなかったので。ステナーさんに問い合わせれば、そう説明してくれますよ」

 

「意外ですな」モレンハウワーは答えた。「彼からはそういう印象を受けませんでしたね。何にせよ、証書がそこに存在しません。こういうことって法律的には多少の違いが生じると思いますよ。いずれにしても、他の善良な共和党員と同じで、私はこの件に関心がないもので、あなたのために私に何ができるのか、はっきりとはわかりません。あなたは私に何ができるとお考えですか?」

 

「あなたが私と率直に向き合おうとしない限りは、あなたが私のために何かできるとは思いませんよ、モレンハウワーさん」クーパーウッドは少し厳しく答えた。「私だってフィラデルフィアの政治に関しては駆け出しの素人ではありません。命令権を持つ人たちについても多少は知ってます。あなたならこの件で私を起訴する計画を中止して、私が立ち直る時間を与えることができると思ったんです。あの六万ドルについては、その前から借りていた五十万ドル以上の刑事責任はありません――同じはずがありませんよ。私がこのパニックを引き起こしたわけではないし、シカゴに火をつけたわけでもない。ステナーさんとあの人の仲間たちだって、私との取引で利益を得ていたんです。長年勤めたんですから、私には自分の身を守るために多少の努力をする権利はきっとあったはずですし、かなり現市政に貢献した私が、どうして多少の厚遇を受けてはいけないのか理解できませんね。私はちゃんと市債の額面価格を維持しましたし、ステナーのお金に関しては、彼がその分の利息を受け取りそこねたことはないし利息以上のものを得ていましたよ」

 

「そのとおりですね」モレンハウワーはクーパーウッドの目をじっと見て、相手の力と正確さを真価で測りながら答えた。「経緯ならすべて正確に把握していますよ、クーパーウッドさん。市政を預かる他の方々と同じように、ステナーさんがあなたに感謝しているのは間違いありません。私は市の当局が何をすべきとかすべきでないとかを言ってるんじゃありません。私が知っているのは、あなたが自覚してのことなのか無自覚なのか、自分が危険な状況に陥っていて、ある方面の世論がすでに自分にとても強く反発していることに気づいているってことくらいですよ。いずれにせよ、私自身はうんともすんとも感じてませんし、状況そのものが手に負えないように見えるのでなかったら、何らかの合理的な手段であなたを助けることに反対することはなかったでしょう。しかし、どうでしょう? 今度の選挙で共和党はとても不利な立場にいる。どんなに悪意がないにせよ、一応、あなたが党をそういう立場に置いたんですよ、クーパーウッドさん。私の関知しない何らかの理由で、バトラーさんがえらく個人的にお冠のご様子でしてね。しかもバトラーさんはここでは大きな力をお持ちです――」(クーパーウッドはひょっとしたらバトラーが自分に不利な反社会性を示唆したのかと疑い始めたが、これを信じる気にはなれなかった。これはありえない)「あなたには大いに同情しますよ、クーパーウッドさん。でも、まずはバトラーさんとシンプソンさんにお会いになることをお勧めします。もし二人が何らかの救援計画に同意するのなら、私は参加することにやぶさかではない。しかし、それ以外だと、私に何ができるのかよくわかりませんね。私はフィラデルフィアの出来事にちょっとした発言権を持つメンバーの一人に過ぎませんから」

 

 ここでクーパーウッドが自分の持ち株を差し出そうと申し出るのをモレンハウワーはかなり期待したが、クーパーウッドはそうする代わりに言った。「モレンハウワーさん、こうしてわざわざお会いしていただき、誠にありがとうございました。もしあなたにできるのであれば、あなたは私を助けてくださるものと私は信じています。私としては自分にできる最善の方法でこれを戦い抜くしかありません。失礼します」

 

 クーパーウッドは一礼して退出した。自分が求めていることがいかに絶望的であるかがはっきりとわかった。

 

 その間も、気づいてみれば噂はどんどん広まりつづけ、誰も積極的にこの問題を解決しようとしなかったので、「市民による自治体改革協会」のスケルトン・C・ウィート氏は、ついに、決して渋々ではなく、自分が議長を務める十名のフィラデルフィアの名士から成る委員会をマーケット・ストリートの地方委員会ホールに招集せざるを得なくなり、クーパーウッドの破綻の問題を議題にのせた。

 

「さて、みなさん」ウィートは語った。「これは、この組織がフィラデルフィア市と市民のために目覚ましい働きができるいい機会だと思います。この事件の全貌の解明に至るような徹底調査を行い、その結果を精力的に支持し、この事件であったと報告がされているこうした不埒な慣習をやめるよう主張することで、元々そのために選ばれたこの名称の意義と価値を証明できるのですから。これが困難な仕事になるかもしれないのは承知の上です。共和党と、地方と州の党関係者はきっと私たちと対立するでしょう。党の指導者たちは間違いなく批判を避け、自分たちの候補者が無難に切り抜けることを最も望んでいます。この問題で我々が活動を開始するのを、彼らが黙って見過ごすことはないでしょう。ですが、屈服せずにやり抜けば、そこからはきっと偉大な成果が生まれます。このとおり、公共の営みの中には、あまりにも不正が多すぎます。これらの問題には、永久には無視できない、最終的には守られねばならない正しさの基準があります。私はこの問題をみなさんに丁寧に検討していただきたいと思います」

 

 ウィートは着席した。彼の目の前にいるメンバーたちは彼が提案した事案をさっそく審議にかけた。(最終的に市民に発表される声明を引用すると)「我々の市政の最も重要で名高い部署の一つに今悪影響を与えている奇妙な噂」を「調査する」ための小委員会の設置と、翌日夜九時に開かれる次の会議での報告が決定された。会議は閉会して翌日夜九時に再開した。その間に、とても鋭い財務の判断力を持つ四名が、割り当てられた作業に取り組んでいた。事実と完全に一致するわけではなかったが、彼らは短時間で確認したにしては極力事実に近い、かなり綿密な声明文を作成した。 

  

 

 (委員会が設置された理由を説明する前文の後で、この報告は始まる。)「市債が議会で承認されて、売却するために贔屓のブローカーの手に託されると、短期間の売却で得た金額を通常は毎月一日に、ブローカーが財務官に報告するということが何年もの間、市財務官の間で慣習化していたことが判明した。本件では、フランク・A・クーパーウッドが市財務官のためにそのようなブローカーとして活動していた。しかし、この悪質で事務処理らしからぬシステムでさえも、クーパーウッド氏の場合は守られていなかったようである。シカゴ大火という思いがけない出来事、それに伴う株価の下落、それに続くフランク・A・クーパーウッド氏の破綻が、一時的に問題を複雑にしたために、当委員会は標準的な会計処理が行われたかどうかを正確に確認することはできなかった。しかし、クーパーウッド氏が担保設定用の債券(市債)を所有していた習慣などから、同氏はこの問題についてまったく責任を負わされなかったようであり、さらに、彼の管理下には常に数十万ドルの現金または市の有価証券があり、彼はこれをさまざまな目的のために操作していたと思われるが、これらの取り扱いの結果の詳細は簡単には入手できない。

 

 操作の一部は、証書が発行される前に、大量の市債に担保設定をすることであり、担保に入れられた有価証券に対する注文が財務官の帳簿上で正式に彼に対し出されていることが貸方欄で確認できる。このような手法が長期間続けられていたようである。市財務官がこの業務の性質に気づかぬことはありえないから、財務官とクーパーウッド氏の間には、法律に反し、市の信用を利用し、利益を得るための共謀があったと思われる。

 

 さらに、これらの担保が設定され、市が市債の利息を支払い続けていた時期に、この分の金銭は財務官のブローカーの手もとにあり、市には何の利息ももたらしてはいなかった。市債は納入が先送りされたばかりか、本来なら市の金庫にあるべき金でクーパーウッド氏によって大量に割引価格で購入されていた。今のところ、市債は本当に購入したい人たちが入手できなくなっている。このため市の信用は、五十万ドルを超える現在の横領額よりも大きく傷つけられている。目下、会計士が財務官の帳簿を調査中であり、数日後には、その手口の全体像が明らかになるだろう。こうして得られた事実を公開することがこのような悪質な慣行を断ち切ることにつながることを期待する」 

  

 

 この報告書には、公的信用の乱用を取り締まる法律の引用が添付されていた。そして、納税者が関係者を起訴する手続きを選択しない場合、このような活動は当委員会が設立された目的におよそ該当するものではないが、当委員会自身がこれを行うことが求められるだろう、と続いた。

 

 この報告書はすぐに報道陣に配られた。クーパーウッドも政治家たちも、何らかの発表があることを予想はしていたが、これは深刻な痛手だった。ステナーは恐怖で我を忘れて「自治体改革協会 会合開く」という控えめな見出しをつけられた発表を見て冷や汗をかいた。新聞はすべて、市の政財界権力者と密接な関係にあったので、わざわざ矢面に立って自分たちの思うところを述べはしなかった。おおよその事実はすでに一週間以上も前から、さまざまな編集者や出版社の手に渡っていた。しかし、モレンハウワー、シンプソン、バトラーから、当面は軽く扱えとの指示が回っていた。騒ぎ立てたところで、フィラデルフィアのためにも、地域経済のためにもならない。市の名前に傷がつけられることになるし、昔からある話だった。

 

 すぐに疑問が提起された。本当に悪いのは誰か、市財務官かブローカーか、それとも両方か? どれだけのお金が実際に失われたのだろう? それはどこに消えてしまったのか? フランク・A・クーパーウッドとは、いったい何者なのか? なぜ彼は逮捕されないのだろう? 彼はどういう経緯で市の財政運営に深く関わるようになったのだろう? 後に「イエロー・ジャーナリズム」と呼ばれるものの時代はまだ到来しておらず、地方紙も後々のような盛んな個人批判寄りではなく、地元の政治的社会的な大物に手足を縛られながらも、何らかの論評を避けることはできなかった。社説は書かれなければならない。たった一人の人間が大都市と大政党にもたらしうる恥辱と不名誉について、何か厳粛で控えめな言及を思い切ってしなければならなかった。

 

 この犯罪の非難がしばらく党に及ばないようにするために、モレンハウワー、バトラー、シンプソンによって企てられた、クーパーウッドに一時的に責任を負わせるというあの破れかぶれの計画が、このとき持ち出されて実行に移された。新聞や「市民による自治体改革協会」さえもが、彼ひとりのせいではないとしてもクーパーウッドは大いに責任を負うべきである、という論点をいち早く採用したのが、気づけば興味深く奇妙だった。ステナーがクーパーウッドに金を貸した、これは事実である――ステナーが売却用の市債の発行をクーパーウッドの手に委ねた、これも事実である。しかし、どういうわけか、みんながみんな、クーパーウッドが財務官を徹底的に悪用したという印象を抱いたようだった。減債基金に収められていない証書分の六万ドルの小切手を彼が受け取った事実は、新聞社も委員会も実際に自分たちで確認できるまで、州の名誉毀損法を恐れるあまり口に出せなかった。

 

 やがて、市長のジェイコブ・ボルハルト氏がジョージ・W・ステナー氏に宛てた、氏の行為について速やかに説明を求める厳命、とされる重大な内部文書数通と、それに対する回答書が出てきて、すぐに新聞や「市民による自治体改革協会」に提供された。この手紙なら、共和党が党内の不届き者を一掃しようと躍起になっていることを示すのに十分だ、と政治家たちは考えた。さらに手紙は選挙が終わるまでの時間もかせいでくれた。 

  

 

 ―― フィラデルフィア市 市長室 ―― 

  

 

 市財務官ジョージ・W・ステナー 殿

 一八七一年十月一八日 

  

 

 拝啓、市のために販売される目的で、あなたによって発行された多額の市債の証書は、市長からのいつもの請求があった後にあなたの管理を離れたはずですが、問題の証書分の売上金が市の金庫に納められていないとの情報が私のもとに入りました。

 

 また、市の巨額の資金が三番街で事業を営む複数のブローカーもしくは銀行家の手に渡ることが容認され、その後に当該ブローカーもしくは銀行家が財政難に陥り、上記の諸事情により、市の利益が非常に深刻な影響を被る可能性があることも知らされました。

 

 つきましては、もしこのような事実が存在するのであれば、この市の最高責任者である私に課せられた職務が的確に遂行されるためにも、これらの指摘事項の真偽を速やかに報告してください。

                敬具 

  

 

       フィラデルフィア市長 

       ジェイコブ・ボルハルト 

  

  

 

 

 ―― フィラデルフィア市 財務官室 ―― 

  

 

  ジェイコブ・ボルハルト閣下

 一八七一年十月一九日 

  

 

 拝啓、ただいま第二十一号連絡書簡を受け取りました。誠に遺憾ながら、現時点ではお問い合わせの情報を提供することができません。数年前から市債の販売業務を行ってきたブローカーの怠慢により、市が財政難に陥ることは間違いありません。私はこの事実を知って以来ずっと、市が脅かされている損失を回避、軽減することに鋭意努力を続けている次第です。

               敬具

     ジョージ・W・ステナー 

  

  

 

 

 ―― フィラデルフィア市 市長室 ―― 

  

 

 市財務官ジョージ・W・ステナー 殿

 一八七一年十月二十一日 

  

 

 

 拝啓、現状に鑑み、本件に満足な対応がなされないのであれば、あなたはこの書簡を、私が発した市債の販売要請もしくは権限委託に対する撤回と取消の通知であるとお考えください。さしあたって、市債に関する業務は当事務所が担当します。

 

                敬具 

  

 

       フィラデルフィア市長 

       ジェイコブ・ボルハルト 

  

  

 

 では、ジェイコブ・ボルハルト氏は自分の名前が記されたこの手紙を書いたのだろうか? 否。アブナー・セングスタックがモレンハウワーの事務所で書いたのである。そしてこれを見たときのモレンハウワーのコメントは、これならうまくいくと思う――こいつは上出来だな、であった。では、フィラデルフィアの市財務官ジョージ・W・ステナー氏はこんな策略的な返事を書いたのだろうか? 否。ステナー氏は完全に憔悴しきった状態で、一時は自宅の浴槽で泣き続けることさえあった。これもアブナー・セングスタックが書いて、ステナー氏に署名をさせたのである。そして、これが送られる前にモレンハウワーが言ったコメントは、これなら「大丈夫」だと思う、だった。この頃は、暗闇のどこかに目をギラギラさせた大きな市民の味方の猫がいたために、小さなネズミたちはみんな隠れようと慌てて走っている時期で、年季の入った賢いネズミしか活動できなかった。

 

 

 実はまさにこの時、モレンハウワー、バトラー、シンプソンの三氏は、数日かけて、地方検事のペティ氏を交えて、もしできるのであればこの方向での責任をさらに強調するためにクーパーウッドに対してどんな措置がとれるか、またステナー対しては、もし何かできるのであればどんな弁護ができるかを検討していた。バトラーは当然、クーパーウッドの起訴に積極的だった。クーパーウッドの帳簿にステナーのために購入された路面鉄道株のさまざまな記録が散見されたから、ペティはステナーにはどんな弁護もできないと思ったが、クーパーウッドに対しては――「考えさせてください」と言った。まず彼らは、クーパーウッドを逮捕し、必要なら裁判にかけるのが良策ではないか、と考えていた。なぜなら、単なる逮捕だけでも、少なくとも一般大衆には、当局の高潔な義憤は言うまでもないが、彼の方が大罪である明確な証拠に見えるだろうからだ。それに結果的に選挙が終わるまで党の悪い面から注意をそらすことになるかもしれない。

 

 一八七一年十月二十六日の午後、ついにフィラデルフィアの市議会議長エドワード・ストロビクが、モレンハウワーの最終命令に従って市長の前に現れ、横領と受託者による窃盗の罪を犯したとして、市債を販売するために財務官に雇われたブローカーのフランク・A・クーパーウッドを宣誓供述書をもって告発した。同時にジョージ・W・ステナーを横領で起訴することは問題ではなかった。クーパーウッドこそ彼らが求めるスケープゴートであった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ