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紅森の即興小説集 ~2014年の挑戦100~  作者: 紅森がらす
1時間挑戦編(主に即興バトル)
98/100

人形遊びの終焉

制限時間:1時間 文字数:1186字

彼は無骨な指で私のティーカップを摘んだ。

いつも以上に危なっかしい手つきで、紅茶を注いだものの、茶葉がカップに覆いかぶさって不愉快だわ。

彼は珍しく私のかたい表情を読み取ったのか、

「申し訳ありません」

と、茶葉をつま先で除けようとするが、紅茶が半分以上なくなってしまった。

彼は水滴となり指先にくっついた紅茶を振り払って、

「もう一度淹れますから……」

と焦りをにじませながら言う。最後の日だというのに、こんなに締まりのないティータイム。いっそ、

「もういらない」

と言い返せたら、どんなに爽快だろうか。しかし、私の鮮やかに彩色された唇は堅く閉じられたまま動かない。

特別な日なのだから、奇跡が起こって喋れたりしないかしらとも思うが、今口をきくことが出来たら、私は呪いの人形になってしまう。

彼の背後には私の新居である、白い段ボール箱が待ち構えている。私はこのティータイムが終わったら、あの箱に詰められて片付けられる。彼はあれを、「新しいお城」と呼んでいるが流石にごっこ遊びにも無理があるわ。

人形としては捨てられないだけマシ、といったところでしょうけど、お嬢様としては不服だわ。

あんなところに一人で幽閉されて、忘れ去られてしまったら……。いつか、ドレスを着た骸骨が古い段ボール箱から出てきて、彼の愛人を脅かすことになるわ。

私は写真でしか見たことのない人間の女の反応を妄想した。きっと、凡庸でお人よしなのでしょうね。

人形の私しか愛したことのない彼を、愛することが出来たのだから……。

彼は、私を彼女に会わせるかどうかを、ずっと迷っていた。……結果、私だけを隔離し、私の家と家具全般はミニチュアコレクションとして部屋に残しておくことに決めた。彼らしい中途半端な判断、気高い私としては残酷な運命だった。

彼はスポイトを使って、私のティーカップに紅茶を入れ直した。

ああ、ロマンも何もあったものじゃないわ。見えないため息を吐いた私の口元に、ティーカップが押し当てられる。

少しだけ冷めているけれど、とても美味しかった。

最後の紅茶だと思って飲んだからかしら。

「では、失礼します」

彼は私の口元を拭き取って、私を段ボール箱の中に横たえた。これで、お別れね。

その時、玄関のチャイムが鳴った。彼は、

「今行くー」

と、私の知らない声色で返事をして、玄関へ駆けて行った。私を放置して。

玄関の方で鈍い音が響いたが、どうせ転んだのだろう。呆れた男だ。

ただ、彼女と思わしき声がいつまでも聞こえないのが気になった。

代わりに、しばらくしてからずるずると何かを引きずる音がして、彼が戻ってきた。

開いた段ボール箱から見えた初めて合わせた彼女の顔は、私と同じ目をしていた。

やっぱり彼は、人形しか愛することが出来ないんだ、と理解したと同時に、動かなくなった彼女に初めて嫉妬を覚えた。

お題:白い別居 必須要素:骸骨

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