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紅森の即興小説集 ~2014年の挑戦100~  作者: 紅森がらす
1時間挑戦編(主に即興バトル)
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97/100

初デート

制限時間:1時間 文字数:968字

こっそり隣を伺うと、典子さんはカセットから流れる洋楽を小さく口ずさんでいる。

よし、僕のチョイスは間違っていなかった。ハンドルを握る手に力がこもる。

昨日せっせと兄貴のレコードからダビングした苦労が報われた。

フロントガラスの端には白い砂浜が見え始めた。もうすぐ海が僕らの前に広がるはずだ。

「良かったら今度家に来るか……い?」

そして、自然と次のデートの布石を置けたはずだ。

「え?」

典子さんの声が不意に洋楽のメロディから浮いた。

ひやりと背に汗をかく。

「ごめん、聞こえなかった」

典子さんは太い眉をひそめてすまなさそうに言った。

それがからかっているのか本当に聞こえなかったのかは僕には分からなかった。

「いや、良かったら……、パフェでも食べて行こうかって……」

僕はちょうどいいタイミングで現れてくれた喫茶店の看板に感謝した。

「あは、いいね」

典子さんの声が弾んだ。


「あたし、このでっかいヤツね」

典子さんはウエイトレスが来た途端、真っ先にメニューのパフェを指した。僕はコカ・コーラを選びかけた手を止めて、

「ブレンドコーヒー」

と頼んだ。

「渋いー」

典子さんがちょっと嬉しい褒め言葉をくれたので、

「そ、そうかな」

と出来るだけ平静に首を傾げてみると、

「だって、こんなに暑いのにホットコーヒーなんだ?」

とにやにやしながら返された。扇風機が僕の頬に生ぬるい風を吹きつけてきた。

典子さんはパフェが来ると子供みたいにはしゃいで上からそっとスプーンで突きはじめた。

「ねえねえ、それ、入れる?」

典子さんは僕のコーヒーについてきたフレッシュを指差した。ブラックで飲めってことかな。

「入れないよ」

「じゃあもらった」

典子さんはフレッシュを取り上げ、パフェのバナナにふりかけた。ちらりと隣の客を横目に見て、

「あー、君、紅茶とか、コーラ頼んでくれればよかったのに」

と不満げに唇を尖らせた。

「なんで」

と聞くと、

「だって、このパフェ、レモンが足りないんだもん。紅茶かコーヒーにはレモンがついてくるから、君からもらえたのにね」

「……レモン、好きなんだ」

「だって、ファーストキッスはレモンの味っていうじゃない?」

典子さんはそう言うと身を乗り出して唐突に僕の唇を奪った。

僕のファーストキッスはバナナの味だった。

お題:地獄唇 必須要素:バナナ

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