3日目 4
なんと眼下には東京の霞ヶ関にも負けず劣らずの高層ビル群が!!
いや、東京よりもすごいかも??
だってニョキニョキと伸びるビルはともかく、そのビルの間を行き交う飛行物体は東京には無い。
私たちの乗っている艇と違って主翼は付いていないけど、小型のものも大型バスのようなたくさんの人が乗れそうなものもある。あれが飛行船なのかな。
なんか未来都市って感じ......。
あのカントリーハウスは何だったんだというくらい、こっちは文明が発達している。
ここからあの林の中の家に移り住んだというディゲアさん。
あれか、Uターン志向なのか。
「もうこの辺りは王都の一部だな。城までもうすぐだ」
「このままお城に行くんですか?」
「そうだな。城には艇を着ける場所が設けてあるから、直接行っても支障はない」
てっきり先にディゲアさんのご両親のところに寄ると思ってたんで、ちょっと拍子抜け。
さぞかし美男美女のご夫婦なんだろうなと期待してたのに。
そう言うと「私の両親に会う機会もそのうちあるだろう」とのこと。
一応紹介してくれるつもりではあるらしい。
そうよね、娘を迎えに来ることも出来ないくらい忙しくしてるって言うんだから、今日いきなりお邪魔するのも迷惑よね。
「城が見えて来ましたよ」
エルタさんの言葉に視線を前方に移すと、確かに周りのビルとは少し違った様相の建物が目に入る。
3棟の背の高い菱形のタワーのような部分の周りを、なだらかに曲線を描いた建物が取り囲んでいて、その両端にまた少し高い半月刀みたいな形の建物がくっついている。
城というよりは新進気鋭のデザイナーが手がけたランドマークタワーと言われた方がしっくりくるような。
でもさすがに他のビルとくらべて装飾的な部分が随所に見られる辺り、王様が住んでるんだなーって感じ。なんというかオーラがある。ような気がする。
「王族ってそんなに大家族なんですか?お城、かなり大きいですよね」
「城は王族の居城であると同時に、政治の中枢でもあるからな。他に軍部もこの中にある」
「今ここに住む王族なんて10人居るか居ないかってとこですね。傍系の方々は他に邸を下賜されてそこで暮らしてますから」
そっか、王族って言っても直系しか住んでないんだ。
確かに王様のおじいさんのいとこの孫の孫とかまで全部住んでたら大変なことになりそうだもんね。部屋がいくらあっても足りないだろうし、お世話する人の数もそれだけいっぱい必要になるからお金かかりそうだし。
......なんか考えが庶民丸出しだわ。いや、庶民に庶民以外の考えの何があるって言うんだ!
艇は徐々に高度と速度を落とすと、半月刀の中程から外へ少し突き出している部分に近づいて行く。
どうやらあそこが乗り入れる場所らしい。
エルタさんは軽そうな見た目に反して艇の操縦の腕は確かなようで、不快な揺れは少しも感じることなく着陸した。
人間何か一つくらいは取り柄のあるものなのねー。
さて降りますか、と思ったらまだ動いてた!!びっくりした!!!
外に突き出した部分から大きく開いた半円形のゲートの方へ、すーっと艇は吸い込まれて行き、完全に中に入ったところでやっと止まる。
「もう立ってもいいぞ」
笑ってもいいですよ、ディゲアさん。不自然に頬のあたりの筋肉が動いてますから。
さっき私がビクってなったの、絶対気がついてましたよね?
気を取り直して荷物を手にしたところで、外からドアが開いた。
またビクってなる私。ドアには良い思い出が無いからかもしれない。
ドアを開けてくれたのは、エルタさんのスーツに良く似たワインレッドの服を身にまとう男の人。
30代後半くらいだろうか。
アッシュブラウンの髪を後ろに撫で付けていて、背筋をピシっと伸ばして立っている。
「お待ちしておりました、ディゲア様」
「久しぶりだな、オルティガ。しばらく世話になる」
なんと二人は知り合いらしい。
そしてディゲアさんも様付けされてるよ!!
ディゲアさんてば実はいいとこのお嬢様なんじゃ......
「それで、こちらのお嬢様はディゲア様のお客様ですか?」
おおおおお!今たった一言の中に『様』が3回も出て来たよね??
そしてそのうち2回は恐らく私に対して使ってくれたっぽい。
もうお嬢様っていうような年でも無いんで、ちょっと申し訳ないわー。
「彼女は運ばれて来た者だ。私の家の近くへ落とされたらしい。まずは旅の疲れもあるだろうから部屋を用意してくれ」
「かしこまりました」
オルティガさんは「ご案内致します」と言うと私の荷物を手に歩き出した。
やっぱり傘には一瞬目を止めたけど、特に何も聞いてはこない。プロっぽいわぁ。
オルティガさんの後ろをディゲアさん、エルタさんと着いて行く。
いよいよお城の中へと入って行きますよー。
まず艇の発着場みたいな場所から自動ドアのような両開きのドアを抜ける。
さっきまでは建物の内部と言ってもガレージのような感じで、今度はピッカピカの床の広い廊下だ。
廊下を少し歩くとエレベーターらしきものがあり、それに乗る。
私たちが居たところは40階。そこから一旦10階まで降りるらしい。
「あんまり驚かないようだが、お前の世界にもこういった技術はあるのか?」
「動力は違うかもしれないけど、同じようなものはありますよ。私の仕事場にもあります」
「その割には王都に入った時はビルに驚いてませんでした?」
「それはあまりにもディゲアさんの家のあたりと違うんで、びっくりしたんですよ。もっとおとぎ話の中の世界みたいなのかなーと思ってました。ビルは私の世界にもいっぱいありますね。でもビルの間を飛ぶ飛行艇はありません」
「それは随分不便そうだな。高層ビルがあるのにそれを行き来するのは大変じゃないのか?」
「一旦地上まで行って、それから歩いたり公共の交通機関を使って移動してました」
そう言うとディゲアさんもエルタさんも不思議そうな顔になる。
ちなみにオルティガさんは聞いてませんよーって顔で直立不動のまま。
「その地上を走ってる公共の交通機関をなんで飛ばさないんだ」
「地上で必要なのも分かりますよ。こっちでもシャトルとかありますから。でもやっぱり艇が無いのは不便ですよね」
「『飛ばさない』というよりは『飛ばせない』って感じですね。まだそこまでの技術が私の世界には無いんだと思いますよ」
「まぁ傘を使うぐらいだからな」
「ですねー」
そう言って笑い合う私とディゲアさんを見てエルタさんは首をかしげた。
「なんですか、『かさ』って」
「教えませんよ!私とディゲアさんだけの秘密です!」
「そうやって隠されると却って気になるじゃないですか」
「でも教えません!!」
エルタさんはまた甘ったるい笑顔を向けて来たけど、私が一向に説明する気がないと知ると、それ以上は聞いて来なかった。
私が『秘密』と言った時に、ディゲアさんは嬉しそうにしてたらしいのだけど、エルタさんに気を取られていた私は全くそのことには気がつかなくて、偶然にも目撃してしまったオルティガさんは大層驚いたのだとか。