じんずうかいどくろく
神通解読録 5/5
まだ日も高い放課後。
カーテンの締め切られた図書室に、四人の生徒の影が伸びる。
彼らが囲むデスクには一本のロウソクが灯され、頼りない炎が揺らめいている。
この席に集まった者たちは、各々怪談を持ち寄り、一人ずつ語っていく。
そして百話の物語が出揃った時、この世ならざる者が姿を現す、と言う有名な伝説だ。
一話。
また一話と続き、九十九の物語が語られた。
そしてついに百話目。
今の今まで黙って話を聞いていた一人の生徒が大トリを飾る事になった。
女生徒のしばしの沈黙に四人は息を呑む。
そして彼女がゆっくりと語り始めたのは、まさに今の状況を再現したかのような物語だった。
一つの部屋に集まる生徒たち。
まだ明るい部屋に立てられたロウソク。
各々が順番に語る怪談。
最後に百話目を語る女生徒。
ただ一つ違ったのは。
生徒が語りを終えた、その後が語られたー
という点だ。
百の物語が出揃い、ロウソクの火が消された時。
目の前で最後の物語を語っていたはずの女生徒が、忽然と姿を消した。
だと言うのに、誰もそのことを気にも止めない。
それどころか。
楽しかった、いい思い出などと談笑し、図書室を出ていってしまう。
まるで初めからそんな生徒などいなかったかのようにー。
‥
「以上が、私の作品です」
そう告げると、女生徒が椅子に座る。
「‥うーん、オンダの作品はモキュメンタリー風ホラーか。
悪くはなかったと思うが‥」
カーテンが締め切られ。
四人の生徒が輪を作り、一本の蝋燭が立てられたテーブルを囲んでいる。
偉そうに腕を組んだ男、和田が言葉を続ける。
「栄えある百話目に今のこの状況を題材にすると言うのはいかがなものだ?
完成度云々よりも場凌ぎの思いつきのような印象が強い。
オカルト文学同好会の会長としてはどうなんだ?三村。」
話を振られた女生徒は図書室のカーテンを開けて回っている。
「普通の文学同好会ね、良かったと思うよ?
ナオの話聞きやすかったし、和田の好きなオカルトな感じ出てたじゃない?
ね?中井君。」
「俺もいいと思います。
百話のラストって感じして。」
賛同を得られなかった和田は一人腕を組み顰めっ面だ。
「オカルトっぽければいいと言う訳じゃない。
ホラーにもホラーの美学があってだな。
第一、俺はモキュメンタリーをホラーと認めていない。」
熱弁を振るう和田を見かねて。
隣に座る女生徒、上川が和田の言葉を遮る。
「和田さんの作った話もモキュメンタリー風でしたよね?二人の男子が幽霊を見る儀式をするって‥」
上川の言葉を最後まで聞かず、跳ねるように椅子から立ち上がった和田は、上川に向かって吠える。
「それは違うぞ!
全くの誤用だ!
モキュメンタリーとはあたかも読者が実際に体験しているかのような錯覚を与える作品手法で、俺の作品は純然たるホラー文学だ!」
あまりの勢いで捲し立てる和田に、上川が縮こまってしまう。
そこへ、全てのカーテンを開放し終えた三村がデスクに戻ってきた。
「ちょっと!上川ちゃんをいじめないでよ!」
和田の背中に強烈な平手が撃ち込まれ、悶絶する和田はデスクにうずくまってしまった。
「あんたの作品だって、ホラー文学と言い張るにはちょっと弱いんじゃないの?
せいぜい児童文庫ってトコ?」
和田は再び火がついたように跳ね上がり、三村に食ってかかる。
「そう言うお前の作品もホラーとは少し違う物だったな?
そもそも、お前たち女子組の作品は主人公が血を流したり指がなくなったり、暴力表現に頼りすぎているのだ。
俺はスプラッターもホラーとは認めん。」
一人熱を上げる和田を再び遮ったのは中井だった。
「ホラーじゃないって言い切るのはさすがにちょっと無理じゃないすかね?」
「うるさいぞ、中井。
お前の話なんかは一番論外だ。
なんだあれは?」
びしりと中井に向かって指を刺すが、刺した人差し指を三村に掴まれてしまう。
「なんでよ、コメディ風で良かったじゃない?
ねぇ?」
「はい、ちょっと笑える前半と不気味な後半の緩急が良かったと思います。」
女子二人と中井は和気あいあいと盛り上がっている。
一人蚊帳の外になってしまった和田が、苦い顔で楽しそうな三人を眺めていると、ちょうど良く部活動の終了を告げるチャイムが聞こえてきた。
「さあ終わりだ終わり。
物語の記録も出来上がったし、これを我々の活動の集大成としてこの図書室に置いて行く。
我々オカルト文学同好会の生きた証となるのだ。」
「普通の文学同好会ね。
でもこの表紙、真っ白でちょっと寂しいね。
タイトルとかつける?」
「いいすね!せっかくなら雰囲気あるかっこいいのつけましょうよ。」
「怪談‥目録みたいな感じですか?」
「超常現象全集?神通力読本とか。」
「妖怪解剖書とかどうすか?」
「‥目録‥神通力‥解読書‥どれもイマイチだな。」
「神通解読録」
「お!なんかかっこいいすね!」
「私もいいと思います!」
「いいじゃん!私もそれアリ!」
「悔しいがそれ以外ないな、ということでこの本の名はー。」
神通解読録 より 編 オンダ ナオ




