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聖女?悪役令嬢?それわたくしに関係ありますか?  作者: 佐古鳥 うの


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3/3

後編

誤字報告ありがとうございました。



ある晴れた日のガゼボで二人の淑女が向き合って座っていた。

しばらく無言でお茶を飲んでいたが目をあげたタイミングが重なり二人の目が合う。

二人の間を風が緩やかに通り過ぎて行った。


「そろそろエトナが処刑される頃かしら」


口に出したがお互いそこまで興味はなく「そうね」と返して話が途切れた。


あの後エトナは性懲りもなく無実を訴え、真実はアルヴィルド伯爵が知ってるから呼んでほしいだの無実を証言してほしいと何度も手紙を送ったが返事もなければ彼女の願いが叶うこともなかった。


取り調べが終わり正式に有罪が決まるとエトナは自分の家族と牢屋で対面させられあらゆる罵声や罵倒を浴びせられたそうだ。

彼女のせいで生家と二親等までが処刑台に立つことになったのだ。恨み言もさぞあったことだろう。


笑えることにエトナは家族と仲がよかったらしく家族の暴言にショックを受け、あっという間に髪が白くなり顔も老婆のように老け込んだそうだ。

嘲笑しながら何年もラビーヌ達に暴力振るってきたのに自分は数日で音を上げるなんてお笑い草だ。


本当なら同じ年月分苦しみを味合わせたかったけれど壊れて現実逃避をされても面倒なので、お前のせいで親族が縛り首になったのだと一人一人処刑される様を目に焼き付けさせ腐敗しカラスに啄まれ朽ちる様をある程度見せつけてから処刑台に送ることで手打ちにした。


「そういえば処刑が今日まで引き延ばされたのはあのクソエトナが性懲りもなくまた嘘をついたからと聞いたのだけど?」

「嘘とは限らないわ。あの人は政略結婚したお母様を愛していなかったもの」


今まで献身的に仕えてきたのに一向に助けてくれないと思ったエトナは最後の悪足掻きとして『セリーヌを毒殺するよう指示を出したのはアルヴィルド伯爵だ』と訴えたのだ。そのせいで裁判が改めて行われエトナの処刑が見送られた。


結局何も覆らなかったが追加捜査で毒の入手ルートにエトナの生家である子爵家が関わっている可能性が高いということがわかり親族の罪が重くなる要因を作ってしまった。

元々入手はしても飲ませる機会がなかったパルフィーヌの母親の代わりに毒を飲ませたのはエトナだったのだ。生家が関わっていてもおかしくはないとなるのは当然の結果だろう。


主人の伯爵を貶めようとし嘘で貴族を翻弄させたエトナは縛り首ではなく石打ち刑となった。


その石打ち刑では難を逃れたエトナの親戚関係者が最前列で待ち構えていることだろう。

彼女がしでかしたことで親しい者との離別や離職を余儀なくされたり故郷を捨てざるえない者もいたというから。それだけ子爵家はかなり手広くやっていたらしい。


…まぁ家に閉じ込められていたわたくしには預かり知らぬ話だけど。


「お父様も愚かよね。わたしを跡継ぎにした時点でアルヴィルド伯爵家は終わりだったのに」

「それだけ自分の血に自信があったのでしょう」


興味なく返せばパルフィーヌは鼻で笑った。

ガッシュバル侯爵家を寄親にしてるなら後継はラビーヌ一択しかないのに目先のことしか見えない父は実子だからパルフィーヌでもいいだろうと思っていたのだから驚きだ。


伯父に聞けば『アルヴィルド伯爵家の跡継ぎはセリーヌ・アルヴィルドが生んだ子供のみ』という念書を結婚時に母が書かせていたそうだ。

父は結婚前から性に奔放で男に愛人はいて当然、子を孕んだら自分の種に問題はないという証明になる。その程度の認識しかなかった。

愛人はともかく子種をばら撒いて後継者問題となっては後々困ることになるだろう、ということで先代伯爵が釘を刺すために許可した念書でもあったことを父は綺麗さっぱり忘れていた。


よってアルヴィルド伯爵家は後継者がいなくなり、めでたく没落することとなりましたとさ。


「それにしてもよくあそこで殺さなかったわね。本物の貴族令嬢って忍耐力が違うのかしら?」

「そんなの関係ないわ。魔力があったら暴走させて殺してた自信があるくらいよ」


父に母を殺したのは貴様だと言われ腸が煮えくり返るほどの怒りを抱いた。

剣を持っていたら間違いなく斬りつけていただろう。なんだったら数回串刺しにしても気が収まらなかったかもしれない。


そうしなかったのはあの男の行き先を知っていたからだ。


元父親は仕事をクビになり爵位も男爵まで落とされた。その身はガッシュバル侯爵領の僻地に追いやられそこで一生過ごすことになる。

父が欲してやまなかった宰相の席には父が若造と見下していた者が就任予定らしい。正式に就いた際はその新聞を買って父に送りつけるのもいいだろう。


子爵、男爵ならともかく伯爵家が消えるのは多少問題があったがガッシュバル侯爵家の親戚が陞爵することでおさまった。

父の親戚が文句を言っていたようだが爵位はこちらが上だし後継者であるはずのラビーヌを追い出し跡を継げないパルフィーヌを後継者に据えたのは父だ。

『アルヴィルド家がどうなろうと家を出たわたくしには関係ありませんので』と言われれば口を噤むしかない。


なのですべての罪をエトナに押しつけ、自分の罪から逃れようとした父にこう言ってやったのだ。


『お父様とは二度とお会いすることはないでしょうけど、伯爵家の使用人達は一緒だそうですから淋しくありませんね。

御自分の妻が毒を盛られ殺されても自殺としか思わず、持病だ疫病だとわかる嘘を振り撒き亡くなってからも母を辱め、血が繋がった娘が使用人以下として見下され暴力を振るわれても、地下室に何年も住まわされても何ひとつ心が痛まないあなた様ですものきっと楽しくお過ごしになれるでしょう』


僻地に封じられる父がそれを喜ぶはずもないことはよくわかっている。


『きっと使用人達は喜んでお父様の食事にカビたパンや腐りかけた食材が混ざった味のないスープを出すでしょうね。

部屋はすえた匂いがするジメッとした地下室かしら?それともお父様が大嫌いなネズミがかけっこをする天井裏かしら?

ああ、使用人に世話をしてもらえると思わないでくださいね。雇っているのはわたくしで給料はガッシュバル侯爵家から出ますので。

もし暴力を振るわれても誰も助けてはくれませんので発言には十分気をつけてくださいね』


お父様は少々、いえ随分と尊大な方なので。そう微笑んだら父が顔を赤くして唾を飛ばしてきた。


小さい頃、母が生きていた頃に会話をしたような気もするけど内容など覚えていない。だからこれがわたくしにとって最初で最後の親子の会話なのだ。

そう思ったら少し可笑しくなり饒舌になってしまった。反省しなければと思いながらも言葉が勝手に出てきてしまう。


『そうそう。お父様が死にましたらわたくしがちゃんと処理してさしあげますわね。虹の橋など渡れぬように祈りなど捧げず遺体を野畑で焼いてその灰を肥溜めに振り撒いて肥料として再利用して差し上げます。

回り回って国の民のために役立てるのですからこんな嬉しいことはないでしょう?』


宰相にはなれませんけど娘がそれらしいことをして差し上げますわ。と礼儀正しくにっこり微笑めば、元父親は化け物を見るかのような顔で固まりそのまま連れて行かれた。


「まぁ親子共々ガッシュバル侯爵家に引き取ってもらえてよかったわね。会いに行った時は正直話を聞いてもらえるとは思ってなかったもの」

「そのための手紙よ。お母様の手紙なら伯父様も動いてくださるもの」


筆記用具の類はラビーヌに与えられていなかったしパルフィーヌの証言や代筆では信用されなかっただろう。

なので母の死後、丸々引き継いだ後妻の部屋に残っていた母の手紙を入手してもらいそれを伯父に渡してもらったのだ。


毒殺される前、母は父の浮気とエトナの態度に気づき事前に手紙をしたためていた。

ラビーヌには『自分()に何かあれば机の引き出しの上板を外し中にある手紙をガッシュバル家の誰かに渡しなさい』と告げておりこのことは父にも誰にも秘密だと約束していた。


丸々残っていた調度品の中にその机もあり、鏡台やドレスと貴金属にしか興味がなかったエトナもそちらには見向きもしなかった。


パルフィーヌが見つけてくれるまで不安だったが母が個人的に使っていた封蝋に伯父はひと目で妹の手紙だと見抜き中を読んでアルヴィルド伯爵家の調査に乗り出した。


わたくし自身が脱走しガッシュバル家や教会に逃げ込めれば良かったのだけど何年も屋敷のことしかしてこなかった足では辿り着けるかわからず、下手を打てば家に逆戻りし今度こそ監禁か毒殺されるかもしれない。

令嬢の幸せなどとうに諦めているが父やエトナ達が地獄に落ちるのを見るまでは死ぬわけにはいかなかった。


はからずしも伯父は真っ当な人で正規の手段で段取りしラビーヌを迎えに来てくれた。


でもまさかその一連の出来事を父が一切理解していなかったことには驚きだったが。

伯父も隠していたわけではなく父に調書を取ったし家にも先触れを出したりもしている。それだけラビーヌに興味なかったのだろう。

エトナも何か仕掛けてくるかと警戒していたがわかりやすいほど権力に従順であっさりラビーヌを手放している。そのくせ一人でパーティーに参加したら率先して見下してくるのだから呆れてものも言えなかった。


「親子と言ってもあなた達はその枠に入りませんけどね」

嫌味ではなく事実を言えばパルフィーヌはおどけたように肩を竦めた。


「セリーヌ様を間接的に害した女とその娘だもの。殺したい以外の感情があるほうが不思議だわ」


だからこうやってあなたとお茶を飲んでることは不思議なことね。と躊躇なくカップに口をつけた。


パルフィーヌの母は寝たきりになり寝室に閉じ込められていた。ラビーヌを閉じ込め伯爵がまったく帰ってこなくなった頃にエトナが階段から突き落としたそうだ。

そのせいで半身不随となりエトナが世話役となった。


世話役と言っても形だけで基本的には放置だ。自力で食事ができない彼女に無理やり口に押し込んで吐かせたり汚したことを責め立て暴力も振るっていた。

腹立たしいのはすべてラビーヌの指示だと後妻に刷り込んでいたことだ。 


毒を盛ったのは自分だと暴露したのはエトナで、お前のことなどいつでも殺せるのだと脅してきたのに、

『お前が用意した毒でセリーヌ様が死んだことをラビーヌお嬢様も知っているわ。恨まれてるからこんな目に遭うのよ。わたしだってこんなことはしたくないの。だけど命令には逆らえない。全部お前のせいだとお嬢様が許さないのよ』

などと詰っていたそうだ。


パルフィーヌもそう教え込まれていてラビーヌを恨んでいたし貶めるつもりで婚約者に近づいたこともあったようだ。

だけど同じ屋敷にいるのにラビーヌと会わないし学園にも通っていない。婚約者もエトナの情報のみで会っていないと言う。


少ない情報を組み立てた結果、これおかしくない?と気づいた。


家令達同様パルフィーヌもエトナに脅されていた。

パルフィーヌはエトナから伯爵夫人の地位欲しさにセリーヌに毒を盛って殺したのはお前の母親だと言われ、それを公表されたくなければ大人しく従うことを強制された。

犯罪者の娘だからと詰られラビーヌに恨まれて当然だと鞭で叩かれもした。


だがセリーヌを殺した相手を後妻に据えたまま放置している理由がわからない。

エトナが暴力を振るうにしても苦しむ姿を見なければ溜飲も下がらないのではないか。

痛めつけたいほど嫌ってる相手を定期的に痛めつけろと命令するよりも恨んでる本人がやりたいのではないか。


やりたくないと言いながらエトナの口は嗤っていたし『お許しください。エトナ様』と言うまで打つのを止めてくれない。

本当にラビーヌが命令しているのだろうか?


そうやって柔軟に考えられたのはパルフィーヌが外に出られる環境だったのとエトナとの接触時間がラビーヌよりも少なく済んでいたからだろう。


そしてラビーヌ救出にひと役かったパルフィーヌは接触するまで面識がなかったことも踏まえ恩赦を与えられ、後妻は毒を用意したものの実行せず家政をすることもなく寝たきりとなったので処刑を免れた。

今後は王都やガッシュバル領以外の土地で母子だけで生きていくことになる。その苦労を二人への罰とすることになった。


「でもこれであなたの生活は元通りね」

よかったわね、と気軽に言うパルフィーヌに「そうでもないわ」と目を伏せた。


「もう普通の結婚なんてできないでしょうし、相手がいたとしてもどこかの後家か後継者を生む必要がない難ありの年配くらいでしょうね」


伯父はともかく先代侯爵である祖父は昔気質の人で嫁いだ娘と一切連絡を取り合わなかった。祖母は娘のことを心配していたが祖父の手前何もできず、伯父も過度な干渉は相手への侮辱にもなると言われれば引くしかなかった。


「お母様が儚くなってもお祖父様が腰をあげなかった理由を知ってる?わたくしが”魔力無し”だったからよ」


貴族なら魔力を持っているのは当たり前。それがないということは貴族ではない。それがこの国に残る悪習だった。


けれど実は年々貴族が持つ魔力量が減っていたし魔力の有無で価値が変わるならそのうち膨大な魔力量の者が下位貴族から生まれたら場合この均衡が崩れるのではないかと懸念する声も出ていた。

現に伯父は父と同じくらいの魔力量でパルフィーヌは彼らよりも量が多いそうだ。


そして母からの手紙には自分には魔力が無いという告白文も書かれていた。

祖父は魔力の有無を調べる教会に賄賂を渡し母には魔力があると嘘をつかせていた。


そして魔力量に興味がなく貴族であればいいという父を見つけ、結婚前夜に母に魔力がないことを告げ『あの男以外に嫁げば間違いなく酷い目に遭うだろう。だから死んでも離縁するな』と送り出されたらしい。


それもあってラビーヌに魔力がないとわかっても何も言わなかったし、魔力無しを生んだ母が魔力無しだと露見することを恐れた祖父はそのまま距離を取り疎遠になっていた。


「継ぐはずの家もなくなったし、いつまでもガッシュバル家に厄介になるわけにもいかないから、程よいところで出て行くつもりよ」


政略結婚なんてもうこりごり。どこかの家に嫁ぐくらいなら修道女になったほうがマシね。とぼやけば「それもいいんじゃない?」と返された。


「わたしも後継者教育なんてされてなかったし婚約者も用意してもらえなかったもの。近寄ってきたのはポンコツ令息くらいだし。きっと家を継げたとしても負債しかなかったと思うわ。

それに不良物件のわたし達に近づく奴なんて屑しか残っていないでしょうから修道院に逃げ込むのはいい手だと思うわ」


「あなたと一緒にされるのは癪だけど概ね同意だわ。社交界は狭いと言うし、未来の侯爵夫人がわたくしを買い取り手がいない悲惨な令嬢と広めてくださっているみたいだから。結婚なんてできないでしょうね」


伯父には二人の息子がいてそのどちらにも婚約者がいる。

長男はあと半年で成婚されるそうだがわたくしが養女になったことで立場が奪われるのではと戦々恐々としているらしい。


社交界や茶会でラビーヌはかわいそうな生い立ちなのだと、魔力が無いからわたくし達が守ってやなければと拡散しているのだ。

傍目には悲劇のヒロインを守る優しい家族だが貴族令嬢として終了している傷や魔力無しの事実を隠しもしないので追い討ちにしかならない。しかも彼女達は意図的にわざと広めている。


今回まで関わりがなかった従兄弟には腫れ物扱いしかされていないのにどうやって恋が生まれてくるというのか。

伯父とてどんなに不憫な姪でも魔力無しを自分の息子にあてがうことはしないだろう。



「そうだわ。あなたにひとつ話があるの」


話すことも粗方終わったところでパルフィーヌから他国の噂を切り出された。


「平民に魔力がないと言うけどそれは嘘なんですって。誰しにも魔力があって訓練すれば使えるようになるそうよ」


ただ器の大きさは貴族より断然小さく教会で調べられる最低値を下回る量しか持たない者もいるためそういった者達を『魔力無し』と読んでいるらしい。


だが訓練すれば最低値まで底上げできる者もいるし貴族相当の魔力量にまで上げられる者もいると。冒険者登録している魔法使い達は平民が多く魔力量もかなり多いとかなんとか。


「ただの噂と切り捨てるには平民の魔法使いが多いと思わない?」

「そうかもしれないわね」


けれどそれがどうしたというのだろう。

仮にラビーヌがそうだとして今から訓練しても最低値のちょっと上程度では生活魔法すらままならないし貴族として認められる合格ラインには程遠い。


つまらない話ねと言わんばかりの顔をすればパルフィーヌが少し前のめりになった。


「学園では魔法理論の授業もあるの。そこでは貴族同士の場合ほぼ間違いなく基準値相当の魔力を持った子供が生まれるんですって」

「へぇ。そうなの」

「もし魔力無しが生まれた場合は劣性遺伝子を継いだ出来損ない、というのが教科書の内容だけど隣国から来た留学生の話だと魔力ではないスキルを持っている可能性が高いんですって」


興味なさげに返したが魔力ではないスキルと聞いて眉をひそめた。教会の計測器は魔力だけに反応するように作られていてその他の能力までは読み取れない設計になっている。

大多数の者が持っているのが魔力で貴族も平民も魔法を使うために必要だったので、他の能力が切り捨てられるのは当然と言えば当然かもしれない。


その少数派に属するかもしれないと言われラビーヌは無意識に瞬きを止めた。


「確証はないのだけどセリーヌ様が生きていた頃は市場に活気があったし事故や病気をする人も少なかったと思うのよね。

でもセリーヌ様が儚くなり、わたし達が引っ越しやラビーヌ様が地下室に追いやられてからは目に見えて不安定になったわ」


屋敷の外に出たことがなかったからラビーヌは知らなかったが年々市場に出ている食糧の品質が落ちそのくせ価格が高騰していたようだ。

仕事をしている者は前までは些細な怪我程度で治りも早かったのに今は同じことをしたら仕事を辞めなくてはならないほどの大怪我をしたり障害が残るような極端な怪我になった。

病を患う者も増え教会は逼迫し些細なことで喧嘩に発展し殺傷沙汰の事件も増えているらしい。


宰相の席はないが父が勘違いするほど仕事があったのはそういった問題が増えていたのも理由のひとつだったようだ。


嫌がらせであんな食事が出ていたわけでもなかったのね。でもわざわざカビさせるのはまったく意味が分からなかったわ。

もしかしたらエトナの命令の他にも要因があったのかもしれない、なんてことも思ったけれどだからなんだと言うのだろうか。


「ふぅん。話を総合するに絵物語などに出てくる聖女様の力みたいね」


たしか建国記にも書かれていて聖女は土地を豊かにし人々を病などから守り、安寧を与えてくれる神のような人物とあった。

それが神だったのか精霊だったのかはわからない。だが当時の国王と婚姻しわたくし達貴族はその子孫だと書かれていた。


「どうせ出て行くなら確実に影響が出るくらい遠い土地に行ったほうが面白いと思わない?」

「……そうね。王都は出るつもりだったし国内は肩身が狭そうだもの。あなたの言葉に乗るのはとても不本意だけど一考の価値くらいはあるかもね」


聖女の力なんて半信半疑だし聖女に魔力がなかったなんて伝承も聞いたことがない。

適当なことを言って焚きつけてどこかでのたれ死ぬように誘導されてるのかもと考えたりしたが、どうせろくな目に遭わないのだったらそういう選択も有りかと思った。


エトナの死亡の確認と父が僻地に送られたことを確認したら国外に向けて旅立つことにするわとパルフィーヌに告げた。


「本当に出て行けるかはわからないし気分が変わるかもしれないから約束はしないけど」

「それでいいわ。あなたがここで幸せになってくれればわたしとお母さんの生活も安定するでしょうし」

「あら。それならやっぱり出ていかないといけないわね」


あなた達には苦労してほしいもの。と嫌味を言うと「わたしはずっと苦労してるわよ」と嫌そうに返された。


「では、さようなら。もう二度と会わないでしょうけど」

「わたしだってあなたと会いたくないわ。あなたの名前を出すだけでお母さんは半狂乱になるんですもの」

「それはエトナのせいでしょう?わたくしのせいではないわ…でも会わないほうがお互いのためでしょうね」

「ええ。お互い嫌な記憶を思い出すことになるもの」


見送りはいいわ、と言って背を向けた。その足で元後妻と共に王都を出ていくらしい。


母に手を下した相手ではないけど許したわけではない。でも彼女のお陰で自分は解放された。

だから元後妻を看取るまでは苦労してもその後の残りの人生はそれなりに幸せになってほしい。そう願い背を向けた。





お母さんを荷台に寝かせ緩やかに道を進んでいく。


「やっぱり聖女の素質があったわね」


でなければ馬付きの荷車も路銀も用意してもらえるはずがない。


ガッシュバル侯爵には最低限の路銀しか貰えず、早々にお母さんを見捨てなければ自分も飢え死にするだろうと予想できる分しかなかった。

それが『見える範囲ですぐ死なれても困るから』という理由で行き先を保養地がある土地に設定し、ちゃんとやりくりすれば移り住んでから働いて給料が出るまで持つくらいの金子をラビーヌから渡された。


こんなには貰えないと断れば自分はもっと慰謝料を貰ったからそれははしたお金だと言うし。ツンデレにもほどがあるなと思い出し笑いをした。


「あの人、ちゃんと逃げれるかしら」


聖女の話と隣国の名前を出したから彼女なら行き先をそこに定めるだろう。願わくば隣国のお偉いさんが見初めたり見つけて保護してくれればいいけど。

もしくはこの国に来ている隣国の留学生とたまたま出逢って意気投合してくれないかな。


国の治安が悪化しているのは本当だ。どの領地も収穫量が減り価格が高騰していたし質も落ちている。

北は魔物が活性化し小規模だがスタンピードが発生して被害が多数あった。同じ年の南側では疫病が流行し多くの死亡者を出している。

これらはセリーヌがいなくなってから顕著になりラビーヌが不幸になればなるほど事件の件数が増えている。もしラビーヌが儚くなれば国はあっという間に滅ぶかもしれない。確証はないけど。


でもこの国に残る聖女伝説って国の安寧に直結してるのよね。

ラビーヌが幸せになれれば間違いなく持ち直すと思うのだけど話を聞く限りこの国では難しいのだろう。


「不幸になれば国が滅ぶし、出て行かれても国が滅ぶ。さてどちらがマシかしらね…」


なんて呟いてみたがこの国がこの先どうなろうと聖女の施しを受けたわたし達には関係ないことだ。







読んでいただきありがとうございました。



以下蛇足。

・教会に神託はあったが別の女性が聖女を名乗り出ている。

・ガッシュバル家には定期的に魔力無しが生まれていて先祖は落人の異世界人とも聖女が興した家とも言われているが『魔力無しは貴族であらず』という社交界の認識のせいで聖女を輩出するよりも貴族としての体裁を守ることを選択。次代が魔力有りで生まれることが多かった。

他者からすれば聖女の価値は相当なものだが大規模結界や死体の蘇生、大勢を一度に完全回復できるようなわかりやすく派手な能力を持つ者がいなかったので聖女として喧伝する価値はないと舵切りをした。

・聖女の力は当人の幸福度や願いの強さに比例する。

・王家が知らないのは聖女の血が王家に入ったり魔力無しと聖女の能力は無関係という作られた前提を信じたため。あとすでに教会が聖女を保護してるからラビーヌが聖女だなんて考えもしなかった。

・自称聖女は不遇時期がラビーヌと被っていたので見逃されたが保護された後も情勢が改善せず悪化の一途を辿ったので偽者として処理される予定。


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