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先手必勝

(先手必勝!)


 まず最初に動き出したのはイナリの方であった。

 今の自分には未だ経験からくる蓄積や、戦闘そのものへの熟練度が足りていない。

 故に相手の攻撃を待ってから動き出すことは下策。


 常に主導権を握り続けていなければ、ゴウク相手に優位を保つことは難しい。


「アクセル! サンダーキーン!」


 イナリはアクセルを使い自身の肉体に雷を纏わせながら、サンダーキーンを使い自身の持つ魔剣にも雷を付与させた。

 更に速度が上がり、二人の間の数歩ほどの距離が一瞬にしてゼロに詰まる。

 それを見たゴウクの眉がピクリと動くのが、めまぐるしい速度でイナリの司会の端に映った。


「シッ!」


「ふむ」


 イナリの斬り上げを、ゴウクは手にしている大剣を逸らす形で受け流してみせる。

 剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。

 そしてイナリの手のひらには、鈍器で殴られたような衝撃が返ってきた。


(受け流されただけでこれって、どないなっとんねん!)


 イナリは転身しながら雷の魔剣を振るい、ゴウクはその場から動くことなくそれを御してみせていた。

 背後から飛びかかっても、まるで後ろに目がついているかのように対応される。

 ゴウクは未だ攻撃をしてはおらず、ただ大剣の腹を向けてこちらの攻撃を捌いているだけだ。


 にもかかわらず、イナリの手にはじんわりと痺れ始めていた。

 サンダーキーンを使い剣の攻撃力自体も増加しているはずなのだが、返ってくるのはあまりにも鈍い感触だった。


 イナリの魔剣は両手持ちの刀、けれどゴウクが手にしているのは剣というにはあまりにも大きく無骨な金属の塊。

 得物の差から考えれば予想はついていたが、やはりまともに打ち合いをするのはかなり厳しそうだ。


(ただ……やり方がないわけやない)


 再び転身、イナリがゴウクの右を取るように動けば、ゴウクは目線を動かしながらその反応をたしかに捉えてみせた。

 そしてイナリが放とうとしていた逆袈裟の斬撃に対応しようと剣を構える。

 だがそこでイナリは更にそこから攻撃を変化させ、切っ先をズラし斬撃の向かう先を足下へと変えてみせた。


「ぐっ……!?」


 対応しきれずにゴウクの腿の辺りを浅く斬りつけることができた。

 雷を纏ったイナリの斬撃はゴウクが着ていた甲冑を貫き、内側へとその身を届かせてみせた。

 が、たしかに肉を斬った感触はあるものの、まったくといっていいほどに血が出ていない。 元々の防御力が高すぎるせいで、軽く剣で斬られた程度ではまともにダメージが入らないのだろう。


「ふっ、やるな」


「ぐうっ、重ぉっ!?」


 そして近付き一撃を入れたイナリの技後硬直を見逃さずに、ゴウクが初めて剣を振るってみせた。

 上段の構えから放たれるシンプルな振り下ろし。

 けれど極限まで鍛え抜かれた身体と技術で放たれる一撃は、必殺の威力を持つ。


 攻撃のタイミングを視界で捉えたイナリは、咄嗟の判断で即座に剣を引いて身体の前で構えた。

 するとその直後、イナリは思い切り後方へと吹き飛ばされる。

 魔剣を盾にすることでなんとか直撃は避けたが、一撃を防いだだけでこの威力……直撃をもらえば、間違いなく数秒は動けなくなるだろう。


(嘘やろ!? 魔剣ちょっと欠けとるんやけど!)


 しかも防御に使ったイナリの魔剣が、わずかだが刃こぼれしてしまっていた。

 即座に剣を魔力に還元し、再び魔剣創造を発動させながら一息つく。

 雷の魔剣だけではなく闇の魔剣も同時に創造し、腰の鞘へと差した。


(……けどいくつか収穫もあった)


 数度の攻防を繰り返してわかったが、純粋な速度だけで行けばイナリの方が早い。

 初速もトップスピードもイナリの方が速いので、相手に自身の動きを捉えられない限りは、こちら側で主導権を握ることも可能そうだ。


 イナリはその場から、溶けるように姿を消した。

 闇の魔剣の持つ隠密(特大)を利用して気配を完全に消し、ゴウクの背後を取る。

 そして音もなく近付いてから突きを放つと……ゴウクは目を瞑りながら、その一撃を大剣で受け止めてみせた。


「見事な気配遮断だが……俺は空気の魔力の流れが読めるからな。そちらに意識を集中させれば、不意打ちは防げる」


「なんやすごい達人みたいなこと言うとりません……?」


 不意打ちが見事に失敗しても諦めず、イナリは再び自身の機動力を相手に押しつけながら剣を振るう。

 ゴウクはその場にどっしりと構えてそれを迎え撃った。


 先ほどの魔剣の一件があったためイナリは互いに剣をぶつけ合うのではなく、ゴウクの防御の隙間へと剣を差し込むことを意識して攻撃を続けていく。


 隼のように急降下するイナリの一撃を、ゴウクは己の身を切って迎え撃とうとする。

 相手の攻撃を警戒しながら深く入り込みすぎずに攻撃を続けているイナリは自身被弾することなく、一方的にゴウクを攻撃し続けることができていた。

 だがやはり、まともにダメージが通らない。

 ダメージを与えられるような一撃を放とうとするとゴウクの動きが変わり、そこにカウンターを合わせようとしてくるので、イナリとしても深入りができないからだ。


(剣技一本でこれっちゅうのが、ホンマにありえんよな……一体どれだけの歳月を剣だけに捧げれば、こんな芸当ができるねん)


 イナリの攻撃はいなされ、本域の攻撃は牽制されて放てない。

 対しゴウクの方はこちらの様子を窺っているようで、まだまだ余裕があるのは明らかであった。


 イナリはゴウクが持つユニークスキルの名を知っている。

 彼のスキルはその名を『剣願の神髄』という。


 これは簡単に言えば、あらゆる剣技に関して極大の補正をかけるスキルである。

 剣の種類は関係なく、使い続け強くなりたいと願いながら剣を振り続ければ、直剣だろうが双剣だろうがあらゆる剣技が極めて高スピードで成長していく。


 純粋に王国の中で立場を築くのであれば、正式採用されている直剣を極めた方がいい。

 けれどゴウクはそうはしなかった。

 彼が求めたのは人を斬るための多彩な剣技ではなく、巨大な魔物を斬り殺すための剛の剣。

 ただ強く、魔物から領民を守るための剣を。

 そう願い振るってきたゴウクの大剣には、彼が込めてきた祈りが、願いが乗っている。

 二十年を超える歳月をかけて培われてきたその神髄は、決してなまなかなものではない。


 イナリが剣を振るうと、ゴウクがそれに答える形で剣を振る。

 攻撃がたまに入ることはあるが、それは決してゴウクに対する有効打にはならない。

 そしてゴウクはまるでイナリを導くかのように、イナリが決定的なダメージを負わない範囲で剣を振るっていた。

 手加減をされている……という怒りは湧いてこない。

 こと剣技で父と張り合おうとしていたことがそもそもの間違いなのだ。

 ゴウクとの数十合に渡るやりとりは、百の言葉よりも雄弁にイナリにそれを理解させた。


「……こりゃ、剣だけで倒すのは無理筋やな。可能であれば剣だけでも、もっと善戦しときたかったんやけど……いやぁ、やっぱりまだまだ遠いなぁ」


 やはり近接戦では、イナリはゴウクの足下にも及ばない。

 自身剣術をある程度の領域で修めているという自負はあったが、剣の道一本にその人生を捧げてきたゴウクが相手ではいかにイナリでも分が悪すぎる。


 しかしながら、それならそれでまた別のやり方で戦えばいいだけだ。

 イナリ・サイオンジというキャラクターの真骨頂は一点に特化した力ではなく、一人で全てをこなすことのできる万能の力。


「さて、ほんなら剣の稽古は終わりにして……なんでもありと行きましょうか」


 イナリは魔剣創造を発動させ、新たな魔剣を生み出す。

 自身の力でゴウクを倒すため、彼は両の手に魔剣を握りしめた――。

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