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えっぐい


 イナリはこれ以上皆の戦果を奪ってやるなという父の言葉に素直に従い、ゆっくりと後ろに下がった。

 彼がいる位置からだと、全体の状況を俯瞰することができる。


 イナリが発動したエレクトリックディヴィジョンをかいくぐるために、魔物達は左右に分かれ迂回する形でこちらにやってこようとしていた。

 そのうち数が多い右側をゴウク達が、そして比較的数が少ない左側をミヤビ達が担当する形になったようだ。


(ミヤビ達の方は……うん、問題なさそうやね)


「イビルショットガン!」


 ミヤビが魔法名を唱えると同時、彼女の眼前に砲弾を思わせるほどに巨大な巨大な黒い球体が現れる。

 そしてひとりでにグルグルと回転を始めたその球体は、そのまま勢いをつけて加速しながら魔物へと向かっていった。


 放物線を描きながら飛んでいく弾丸が、魔物の眼前で突如として爆発する。

 音と共に弾丸が弾け、分離し、いくつもの細かな弾丸へと変じながら肉薄していた魔物達へと降り注いでいく。

 放たれた弾丸は上下左右に激しく散っていたが、まるで意思を持っているかのようにその軌道を空中で変じさせ、その一つ一つが魔物へ向かって襲いかかってゆく。


「GARU!?」


「GUAAA!?」


「GYAOOONN!」


 無属性魔法、イビルショットガン。

 外した場合に魔法攻撃力分の反動を受ける代わりに通常魔法と比べて極めて高い魔法攻撃力を持たせることができる無属性魔法イビルショット、その上位互換にあたる魔法である。

 散弾の全てが命中することは通常なら不可能であるため、デメリットはイビルショットより更に凶悪になっている。

 散弾が外れた分のダメージを受けることを前提として使う、いわゆる反動技と呼ばれている魔法である。


 けれどミヤビが持つユニークスキル絶対必中を使えば、彼女にとってのデメリットはゼロにできる。

 彼女が放つ散弾の全ては彼女のスキルによる補正を受け、一発も外れることなく魔物達へと命中していく。

 ある程度の俊敏の高い魔物達の中にはこれを避けようと動く個体もいたが、そういった挙動をしようとする魔物達の動きはみるみる鈍くなっていき、むしろ避けようと無理な姿勢を取ったせいでロクに防御体勢を取ることもできぬまま魔法を食らってしまっていた。


 ミヤビのユニークスキルである絶対必中は、自身の放つ攻撃を必中へと変じさせるために、魔法の自動追尾と相手の速度に関するデバフをオートで付与してしまう。

 彼女のレベルはアラヒー高原に居た頃と変わらず二十八のままだが、高火力魔法を使うことでその出力不足をしっかりと補ってなお余りあるだけの火力を叩き出すことに成功していた。


 だがいくら散弾一発一発の威力が高いとはいえ、元が対集団用の魔法である。

 レベルキャップがある今のミヤビではある程度までの魔物は一撃で仕留めることはできても、この魔境の中でも強力な個体の中には攻撃を受けても戦意をくじかれることなく果敢に駆け寄ってくるものもいた。


「っと、甘いですね!」


「光、あれ!」


 だが魔物達の接近を、マクリーアとローズが決して許さない。

 マクリーアは持ち前の素早さと隠密性を発揮させ単身魔物の群れの中へと切り込んでいき、ミヤビが仕留めきれなかった魔物達の息の根を次々と止めていく。


 そして彼女がカバーしきれなかった魔物の襲撃は、ローズが結界魔法を発動させることでしっかりと受け止めてみせる。

 ちなみに彼女が展開する結界は以前と変わらぬ強固さを誇っていたが、よく見てみるとその端々から黒色の光の線が飛ぶように変わっていた。


「ミヤビさん!」


「ギガバースト!」


 そしてローズが魔物を堰き止めている間に、魔法発動の準備を終えていたミヤビが大魔法を発動させる。

 自身のHPとMPの半分を使うことで周囲に爆発を拡げる火属性魔法、ギガバースト。

 攻撃範囲が味方にも及ぶため基本的に習うことを忌避されているこの魔法も、ミヤビが使えば必中の必殺技へと変貌する。


 爆発が大気を震わせ、ローズが展開している結界が共振を起こし左右に揺れる。

 甲高い耳鳴りが残るほどの轟音の次にやってくるのは、足下が揺れるほどの地響きであった。

 湿地帯の大地がめくれ上がり、水の混じった泥が衝撃によって周囲に飛び散っていく。

 HPすら威力に変換してみせるギガバーストの威力は絶大であり、結界の向こう側にいる魔物達は元の形がわからなくなるほどの肉塊へとその姿を変えていた。


「あ、危なっ!? 私に当たったらどうするつもりですか、ミヤビ様!?」


「大丈夫やよ、うちの敵にしか当たらないようになってますから……マクリーアはうちの敵じゃ、ないよね?」


「めちゃくちゃ味方ですから、もう少しやり方とか考えて下さい!」


「あはは、ごめんごめん、次からはも少し気をつけるさかい」


「ほら二人とも、次が来ましたよッ!」


 イナリの見立てではもう少し苦戦するかと思っていたが、ミヤビは想像以上に上手くやっていた。

 マクリーアとローズも最低限の支援をするだけで、魔物達のラストアタックもミヤビがほとんど取っている。

 あれならばガンガンレベルも上がってくれるだろう。


 大魔法を使ったことで明らかに憔悴の色を見せているミヤビの方へ、イナリは新たに作り出していた水の魔剣を使って水の触手を伸ばしていく。


「ミヤビ、これ使い!」


「あ、おおきに、兄ぃ!」


 水の魔剣の新たな力、魔力分配。

 このアクティブスキルは以前から使えた水の魔剣の魔力伝達効果を他人にも押し広げることができるというものだ。

 水を通してイナリの魔力を他者へ分け与えることができるこのスキルを使えば、ミヤビは自身の集中力が保つ限り、ガス欠になることなく魔法を連発することができる。


「よし、もうひと頑張りっ!」


 彼女が弱音を吐かずに再び魔法を発動させ始めたのを見て安心したイナリは、逆の方へと視線を向ける。

 するとそこには……。


「うっわぁ……相変わらずえっぐいなぁ……」


 悪鬼羅刹のごとく暴れ回り魔物達を文字通り粉砕しているゴウクの姿があった――。

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