背中
(父さんの戦う姿を見るんは……ずいぶんと久しぶりな気がするなぁ)
イナリにとってゴウクとは、強さという概念そのものであった。
彼幼少期、将来のためだと何度か父に戦場に連れられたことがあった。
その頃に見た父の背中は、今もなお鮮明に覚えている。
イナリの脳裏に焼き付いて離れないその大きな大きな背中はずっと、イナリの目標で……そして憧れであった。
「――シッ!」
ゴウクが剣を振るう度に、魔物達の断末魔が聞こえては消えていく。
魔物は内側から爆散し、肉塊になって弾けて千切れ飛び、地面に赤いシミを作ってその命を散らしていった。
ゴウクが放つ斬撃は、魔物達の命を一瞬にして刈り取っていく。
その剣速は大剣を振り回しているとは思えぬほどに高速で、レベルを終盤まで通用するところまで上げているイナリの動体視力を持ってして、なんとか捉えられるレベルのスピードであった。
イナリの目の前で行われているのは、もはや戦闘ではなかった。
あまりにも一方的な殺戮は、戦闘ではなくただの狩りに近い。
(うーん、本気を出してギリギリやり合えるレベル……かな?)
ゴウクは『コールオブマジックナイト』に登場していなかったため、そのステータスやレベルなどをイナリは知らない。
けれどこうして目の前でその戦いっぷりを観察したところ、恐らく今の自分よりやや強いといった辺りであることがわかる。
(……いや、どれだけやねん)
攻略情報を元にして大量の魔族を倒しまくり上位魔族を倒したイナリでも届かぬクラスの強さ。
ゴウクは一体どうやってそこまでたどり着いたのか……創造するだけで寒気のする思い出あった。
(あ、あっちの人達もそこそこ頑張ってるみたいやね)
ゴウクから少し離れたところでは、やってくる魔物を武官達が着実に処理して倒していた。 連携をして常に多対一の状況を作りながら複数のアクティブスキルを使うことで、魔物を危なげなく倒すことができている。
こうして皆が協力して事に当たったことで、魔物達の群れはあっという間に殲滅された。
一箇所に纏めてから、イナリの炎の魔剣で処理をしてしまうことにした。
全ての死体をそのまま放置しておけば、疫病が発生したり死体がアンデッドになって蘇る可能性もあるからである。
「腑分けをしたはいいものの……何にも入ってませんね」
「……俺が知っているものと比べても、明らかに肉付きが悪い。恐らく本来の生息域から追われてきたのだろう」
「餌を探していたのだと考えれば、さっきの無謀な突撃にも説明がつきますね」
襲来した魔物達はイナリ達の実力を知ってもなお、無謀に思えるほどに突撃を繰り返してきた。
あまりにも餌に困っていたが故の蛮勇だったとすればつじつまがある。
イナリ達が倒した魔物の中には、本来であればタリバーディン湿地帯においては上位の捕食者である個体もあった。
彼らすら餌にありつくことができなくなった理由と考えると、やはりそれ以上の捕食者……つまりはタリバーディン湿地帯の奥地に存在しているというアースドラゴンが原因であるのは間違いなさそうだ。
「父さん、一度僕一人で見にいってもええですかね?」
「それは構わんが……いいのか?」
「ええ、もう力のお披露目も済ませましたし。今更舐めてくるやつもおらんと思いますので」
イナリの言葉に、武官達の中でも彼に懐疑的だった者達がスッと視線を逸らした。
だが誰も口を開かないことから、彼の言うことが正しいことが間接的に証明された。
闇の魔剣によるアクティブ・パッシブスキルを組み合わせることにより、イナリの隠密能力はもはや上位魔族であっても欺けるものへと成長している。
彼が単身で潜む分には、魔物に気取られる心配はほぼゼロに近い。
しっかりと父の許可を取ったイナリは、そのまま単身タリバーディン湿地帯の奥地へと向かう。
そして明らかに数の増え始めた魔物を適宜間引きながら進んでいったその先で、彼は今回の魔物騒ぎの異変の原因を知ることになるのであった――。




