みっつ 水面に赤い花
モナルダとダリア、そしてチコリ。旅装を整えた一行が「はざまの森」の奥の小屋を出たのは、セナに頼まれてから五日ほど後のことだった。
「三人みんなで来てくれるなんて嬉しいわ」
「まあ、折角の機会だからね。それにしても、わざわざあんた自身が迎えに来てくれなくても良かったのに。舞台の準備で忙しいんだろう?」
セナは泊まった翌日に一度楽団へ帰り、彼らを迎えにまた森にやって来たのだ。呆れるモナルダに、彼女は楽しそうに笑う。
「いいの! 早くあなたたちに会いたかったし、歩きながらでも話したいこと、たくさんあるんだもの。今日の目的地……アストの街はシュイエを抜けた先にあって、距離も少しあるから、たくさんお話できるわ。あなたたちは、町にはよく行くの?」
「チィ、まちにいったことあるよ! きょねんの、しゅうぶんのおまつり!」
「そうだね、たまには祭りなんかを見に行ったり、私はものの売り買いもあるし……年に何度かってところかな」
道中、セナは魔法使いの暮らしを尋ねたり、彼女の楽団のことや舞台のことを話したり、賑やかによく喋った。毎日の稽古のこと。幼い頃から楽団で、踊りの稽古をしながら育ってきたこと。初めて舞台に立った頃のこと。そして、これから見てほしいという「弟」のこと。
「ムゲットはすごい子なのよ。楽団では、一番上手い歌い手を《風の華》と呼ぶんだけれど、ムゲットは二年前に今までで一番若く《風の華》になったの。風の精霊の加護があるだけじゃないわ、団長の息子として生まれて、小さい頃からずっと一日も休まず稽古してきたのよ。それだけ歌が好きな子だし、真剣に頑張ってる子なの。だから……」
「そんな子だからこそ、歌への気持ちが他所を向いているのはおかしいって?」
「ええ。こんなこと、今まで一度だってなかったもの」
セナは頷く。ぎゅっと眉根を寄せて俯いた。
「……あたしは精霊のことも、風のことも分からないし、歌い手じゃないから歌の相談にも乗れないし……何も出来ないのが、悔しいの」
と、不意にチコリが彼女の袖をつんつんと引っ張って尋ねた。
「うたいてって、うたうひと? セナは、うたわないの?」
「え? ええ、あたしは歌い手じゃないから、舞台では歌わないわ」
「なんで? おうた、すきなのに?」
きょとんとして首を傾げるチコリ。幼いチコリには、役割としての“歌い手”の意味はまだ難しいのだろう。
「歌うのは、あたしよりもっとうんと歌の上手くて、声の良い人がたくさんいるの。だから、歌はその人たちの役目。でも、その代わりに、歌い手たちの歌に合わせて踊ることがあたしの役目。歌うよりもっと歌が好きで歌に詳しくなくちゃ出来ないことなのよ」
そう言うセナは誇らしげで、瞳は純真に輝いていた。
「あんたは、本当に楽団が好きなんだね」
「ええ。踊りも、歌も、舞台も、楽団のみんなも、全部が大好き。あたしの生まれ育った場所だし、歌のない暮らしなんて考えられないくらいだもの」
「セナさんも、生まれたときから楽団にいるんですか?」
「あ、ううん、あたしがこの楽団に入ったのは子供の頃……十になる少し前だったかしら。でも、その前から踊り手だった母さんの歌を毎日聞いて育ったから、歌はあたしの一部なの。言葉だって数だって、歌で覚えたようなものよ」
セナはそう言うと、一つ深呼吸をして小声で歌い出した。
ひとつ 緋色の空のあと
ふたつ 深まる森の奥
みっつ 水面に赤い花
よっつ 妖雲立ち込めて
いつつ いつかの夢の果て
むっつ むなしく散りゆけば
ななつ 名さえも意味はなく
やっつ 闇夜に沈むのは
ここのつ 恋しき君となら
とおく常夜の国までも
踊るというには軽く、手振りだけを付けて歌う彼女の声は、伸びやかに澄んでいた。軽やかな旋律が耳に心地よい。
「母さんも歌が好きだから、日常にいつも歌があったわ。こういう数え唄で手遊びや手習いをしたり、寝る時にも子守唄を歌ってくれたり……」
モナルダもいつしか彼女の歌に聞き入っており、しみじみと呟いた。
「子守唄、ねえ……」
「魔法使いさんには、そういうのってあるの? 小さい頃の話とか聞いてみたいわ」
セナの問いに、ダリアの方が一瞬どきりと身構えてしまった。が、当の本人である赤髪の魔法使いは、軽く手を振って笑っていた。
「どうだったろうねぇ……もう、ずいぶん昔のことだよ。そんなことより、この分だと昼時に丁度シュイエを通るだろう? 宿場町だから店も多い、休憩がてら寄り道しないかい?」
「それがいいわね! お腹も空く頃だし……チィちゃん、くたびれてない?」
「だいじょーぶ!」
元気いっぱいにはしゃぎ回るチコリに、セナはずっと頬を緩めていた。どうやら子供が好きなようだ。
「こら、チィ、まだまだたくさん歩くんだからね。途中で疲れても知らないよ」
「チィ、げんきだもん! つかれやしないよ!」
そんなことを言っていたチコリだったが、宿場町で食事を取り、街道沿いの店を見てもうひとしきりはしゃいだところで、案の定その幼い体力は唐突に尽きた。休息にと腰を下ろした道端で、座ったままぼうっと目が半開きになり、ふらふらと頭が揺れ、気付いたモナルダが背負った途端にその背にしがみついて寝息を立て始めた。
「まったく、しょうがない子だねぇ」
「モナさんのお荷物、持ちます」
「ありがとう、ダリア」
そこから目的の街までは、どのくらい歩いただろう。楽団員の滞在するという宿屋にたどり着いた時にもまだ、チコリはすっかり夢の中だった。
「先にお部屋に案内するわ。チィちゃんを寝かせてあげて。ひと息ついてから、団長やみんなにも紹介させてね」
セナは彼らを気遣いながら先に立って歩いていく。と、廊下の先の部屋から姿を現した朽葉色の髪の女性が、彼女たちに気付いて声をかけた。
「戻ったのね、ボタン。団長からも聞いてるわ。その人たちが例の?」
「ええ、魔法使いさんたちよ」
「……“ボタン”?」
モナルダは訝しげに聞き返す。声をかけた女性の視線の先にいたのは、紛れもなく「セナ」だ。セナ……いや、今「ボタン」と呼ばれた彼女は、少し気まずそうに視線を泳がせて、慌てたように早口で言った。
「ごめんねノーチェ、みんなを休ませてあげたくて、お話はまたあとでゆっくりしに行くわ。あ、もし団長を見掛けたら、これから行くって伝えてもらえる?」
「分かったわ」
朽葉色の髪の女性が立ち去った後、セナと名乗り、ボタンと呼ばれた栗色の瞳と髪の少女は、ふぅとひとつ息を吐く。心を決めたように、改めて魔法使いたちに向き直った。
「……どういうことだい?」
「ごめんなさい。嘘をついたり、騙したりしようと思ったわけではなかったの。全部、ちゃんと話すわ」
部屋に着いてチコリを寝具に下ろすと、モナルダはやれやれと肩をほぐして背中を伸ばした。セナは客人である二人に椅子と茶を薦め、自分も二人の向かいに腰を下ろして、ゆっくりと口を開いた。
「魔法使いさんは……いえ、二人は、「一人の体の中に、魂がふたつある」って言ったら、どう思う?」
「どう、って……」
突拍子もない言葉に、モナルダは絶句して目の前の少女を見つめた。
「さっきの団員に呼ばれた“ボタン”が、あたしの……この体の、本当の名前。でも、今のあたしは“セナ”で……セナは、ボタンの中にいるの。あの時、魔法使いさんたちに会いに行った時も、あたしは“セナ”だったから、うっかりそう言ってしまって……上手く言い直す機会がなくて、そのままにしてしまったの。信じて……とは言いにくいけれど、決して悪気があったわけではないわ。でも、本当にごめんなさい」
頭を下げるセナ……いや、ボタンを、ダリアとモナルダはただ呆気に取られて見つめていた。
「ひとつの体に、魂がふたつ……そんなこと、あるんですか?」
「いや……私は、見たことも聞いたこともないよ」
「確かに、魂なんて目で見えるものでもないから、取り出してほらふたつあるでしょって見せるわけにもいかないけど……たぶんそのうち、“ボタン”に会う機会もあると思うわ。……やっぱり、信じられないわよね、こんな話」
「……いいや」
首を横に振る魔法使いを、彼女は意外そうに見つめた。
「見たことがないからといって、信じられないだとか、存在を否定することは出来ないものだよ。精霊たちと付き合っていくような生業じゃあ余計にね」
「……それは、そうかも」
微笑む魔法使いにつられるように、彼女もくすりと笑う。少し、肩の力が抜けたように見えた。
「言えてよかった! どう話そうか、ずっと考えてたの」
「それはこちらも、言ってもらえて良かったよ。聞いてないことがあっちゃ、ちゃんと助けになれないかもしれないからね。……さっき、あんた「一人の体の中に魂がふたつある」って言ったけど、“セナ”と“ボタン”はいつから一つの、“ボタン”の体の中にいるんだい? 生まれつきかい?」
魔法使いの問いかけに、彼女は首を横に振った。
「あたしと……“セナ”と“ボタン”は、もともと別の人よ。生い立ちも、髪の色も目の色も違う。でも、ここへ来るまでに話した“ボタンの生い立ち”も“ムゲットとの話”も、全部本当。“ボタン”がムゲットを弟のように大事にしてることも、本当」
「もともと別の人、っていうのは……“セナ”って人が、ボタンとは別にいる……いや「いた」っていうことかい」
「……ええ、そうよ」
魔法使いの言い回しに、隣で聞いていたダリアは息を飲んだ。
「それって……じゃあ、セナさんは……」
「……あたしにも、はっきりとは分からないの。その時のことは覚えていないし……ボタンも教えてくれないし。ただ、離れたくない、ここにいたいって強く思ったあたしに、ボタンが応えてくれた……それだけは、覚えてる」
セナはそう言って軽く目を伏せた。直接的な言葉は三人とも口にしなかったけれど、“セナ”がもうこの世にいない人なのだということは、モナルダとダリアにも分かった。
「……その辺りの話は、今はそのくらいにしておこう。とりあえず、あんたのことは、どちらの名前で呼べばいい? “セナ”の時と“ボタン”の時とで、それぞれの名前で呼ぶのが良いのかな」
「いいえ、いつでも構わず「ボタン」でお願い。見分けは付かないと思うし、楽団のみんなは“あたし”をただのボタンだと思ってるから」
「周りの皆には、あんたのこと話していないのかい?」
「……ええ。だって、どう話したらいいか分からないもの。信じてもらえるとも思えないし……セナの名前を出すのも、気まずいし」
「気まずい、って?」
ダリアが聞き返した丁度その時、彼女たちの部屋の扉を軽く叩く音が遮った。
「ボタン、いる? お客様との大事なお話中にごめんなさいね。ちょっと良いかしら?」
遠慮がちに開いた扉の向こうにいたのは、“ボタン”と同じく赤みの強い栗色の髪と瞳をした女性だった。
「お母さん、どうしたの?」
部屋の中からボタンと、彼女を追ってモナルダも顔を出す。魔法使いたちを見た栗髪の女性は、丁寧な仕種で深く頭を下げた。
「初めまして、お客様方。ボタンの母、この楽団の《踊り手の長》ククアと申します。娘をお助けくださり、本当にありがとうございました。大したおもてなしも出来ませんが、どうか舞台を楽しんでいらしてくださいね」
えくぼを見せて微笑むククアは、確かにボタンとよく似ていた。楽団の踊り手という仕事柄だろうか、引き締まった体躯に、結い上げた艶やかな髪と、年頃の娘がいる母親とは思えないほど若々しい。母娘というより、年の離れた姉妹といわれても納得しただろう。
「ボタン、群舞の振り付けで変えたいところが出たのよ。予定外で悪いんだけど、あなたもちょっと稽古に加わってくれない?」
「分かった、お客様を団長のところにご案内したらすぐに行くわ」
ボタンは快活に答えて室内に向き直った。
「というわけで魔法使いさん、これから団長のところに行きたいんだけど……いい? 急かしてごめんなさい」
「そう言われてもね……。寝ているチィを一人で置いていくわけにはいかないよ」
「私、よければお留守番してますよ」
ダリアは咄嗟に言った。
「チィちゃんはわたしが見てますから、モナさんは団長さんとゆっくりお話ししてきてください。あとで、わたしとチィちゃんに、お話教えてくださいね」
モナルダは一瞬意外そうにダリアを見つめ返したが、微笑んで頷いた。
「それは頼もしい。じゃあダリア、よろしく頼むよ」
「はいっ」
ダリアとチコリを部屋に残し、モナルダはボタンと共に歩き出した。宿屋の廊下は小綺麗で、しかもなかなか広い。
「セ……いや、ボタン。ここは、宿屋なんだろう? あんたたちの楽団の持ち物だとか、みんながいつも住んでいるとかではないんだね」
「ええ、あたしたちは移動楽団だから、決まった拠点や家はないの。ここに住むのは、この興行の間だけ。この宿屋はこの町での興行の度に懇意にしていて、こうして長期間たくさん部屋を貸してくれるの。あたしも二度目だし、何十年ものお付き合いらしいわ」
にこにこと話すボタンは、勝手知ったる様子で廊下を進んでいく。慣れた場所だからだろう。
「魔法使いも、こういうの気になるの?」
「まあ、人里に出て宿に泊まることもあるからね。長旅はしたことないけれど」
「そういう旅や、あちこちの町の宿や店の話は団長が一番詳しいわ。よければ聞いてみて。……あ、この部屋よ」
たどり着いた部屋の戸を叩くと、朗らかな女性の声で応えがあった。
「ボタンです。魔法使いさんをお連れしました」
扉を開ける。部屋にいたのは、すらりと細身の女性だった。モナルダより年嵩、先程会ったククアと同じ頃だろうか。彼女も、肌や髪まできちんと手入れが行き届いた様子で、実年齢より若いように見える。肩あたりの長さで整えられた淡い茶色の髪は、元から明るい色のためか、僅かに混ざる白髪もほとんど目立たない。穏やかな笑みを浮かべているが、その奥の眼光は力強く、彼女の熱情と意志の強さを伺わせた。
「ようこそ、魔法使いさん。私はイ・フィオリの長、オルキデア。うちの団員がお世話になりました」
「初めまして、団長殿。私はモナルダという。……何も、大したことはしていないよ。私はただ、私の森を守っているだけだからね」
「そのお陰で、私どものような旅人が安全に森を通れるというものです。今回はその御礼にもなれば幸い。魔法使いさんも、お連れの方もどうぞ楽しんでくださいね」
丁寧な物腰と仕種に、人を束ねる者の威厳。その姿はまさに“長”のものだ。
「ボタン、ククアから聞いています。あなたは稽古場へ」
「はい、失礼します」
ボタンが立ち去ると、それに続くように団長はにこやかに魔法使いをその扉の方へと誘う。
「魔法使いさんには、よろしければ私から、この楽団のことやこの辺りのことなどご案内しましょう。ああ、それともお連れの方とご一緒の方が良いでしょうか」
「団長殿が直々に? お忙しいだろうに」
「お客様のおもてなしより優先の仕事などありませんよ」
オルキデアは物腰が柔らかいだけでなく、細かい気遣いもできる人物であるようだった。客人を舞台や稽古場にまで案内しながら、馴染みのない言葉を使わないよう分かりやすく説明し、なおかつ団員たちの稽古の邪魔にならないようにしている。単に楽団を把握しているというだけでなく、それを知らない者の視点まで想えるということだろう。
「こうして客を裏側に案内するというのは、よくあることなのかい?」
「そう頻繁にはありませんよ。私たちの仕事はあくまでも舞台の上、祭りや非日常でお客様を楽しませることですから。案内は、こうした特別なお客様や、新しい団員が入ったときくらいのものです」
「おや、特別だなんて光栄だ」
「それは特別ですよ。団員の恩人というだけでなく、魔法使いなんて存在には滅多にお目にかかれるものではないのですから」
穏やかに微笑むオルキデアの瞳は、好奇心に煌めいていた。
「私どものような各所を転々とする者たちは、どうしても出会える相手が偏ります。同じ団の仲間以外には、お客様として舞台を観にいらっしゃる方、この宿のように支えてくださる方、街を少しばかり散策して出会う方……その程度でしょう。滅多に出会えない方と顔を合わせるのは、それだけで世界が広がるものです。歌にせよ踊りにせよ、多彩な世界を描かねばならない私どもには、何よりの糧なのですよ。このような折角の機会、皆のために活かさなくては」
この“特別扱い”はあくまでも客人の為の“もてなし”だけではなく、自分たちの為でもある、ということだろう。相手に遠慮や気遣いをさせまいとする彼女の言葉は清々しい。
「そういうことなら、どうぞ遠慮なく観察しておくれ。どれだけ役に立てるか楽しみだ」
「ありがとうございます。魔法使いさんも、気掛かりがあれば遠慮なく仰ってくださいね。楽団のことでも、……ボタンのことでも」
不意に出た名前に、モナルダは目を丸くした。
「ボタン……彼女が、何か?」
確かボタンは、団長には自分が助けられたお礼とだけ話して、ムゲットの様子を見てほしいという「お願い」は内緒だと言っていた。それとも、オルキデアはもう知っているのだろうか?
「今回、あの子はとても熱心に私に直談判したんですよ。あなたへのお礼に、ここへ招きたいと。再度、自ら森へ立ち入ってあなた方を探してまで。……普段そこまで動ける子じゃないんですよ、ボタンは。強い想いだか思惑だか、まあ何があるにせよ、そこまでの熱意は応援してやらなきゃ。そうでしょう?」
「……そういう事かい」
モナルダは密かに舌を巻いていた。本当に“人”をよく見ている人だ。
「団長殿はいい人だね。団員のことを本当に考えていらっしゃる」
「団員みんな家族のようなものですから。特にボタンは、私にとっても娘みたいなものですからね、自然と目に止まるものです」
朗らかに笑うオルキデアに、モナルダの顔も自然と綻んでいた。
オルキデアにあちこち案内された後。二人が連れ立って客室に戻ると、幼いチコリがちょうど昼寝から醒めたところだった。見たことのない部屋や窓からの風景にぽかんとしているチコリを、ダリアが微笑ましげに眺めている。
「団長殿。こちらが私の連れ、ダリアとチコリだ」
「まあ! かわいらしいお客様方」
オルキデアはにこにこと、二人にも丁寧に挨拶を繰り返す。にこにこと穏やかな表情は、先ほどまでの“団長として”のものとも少し違っていた。
「団長殿、子供がお好きなのかい」
「ええ、好きですよ。それに、うちの息子にもこんな頃があったと思うと、微笑ましくて」
そう微笑む彼女は、“団長”よりも“母”の顔をしていた。
「今日は機会がありませんでしたけれど、後ほど舞台でご紹介させてくださいね。息子──《風の華》ムゲットを」




