物語の中じゃない
私が好きになった人は誰なんでしょう。きっと、小説には名前は出てきてないと思う。一応主要な登場人物は確認した。尤も、物語の私には兄なんて居なかった筈なんだけど・・・小説に似ている世界だと思っていれば良いんだと思う。
小説とは違うからと言って全然違う事をしてみようと思います。たとえ、避けれらなかった事があっても諦める訳にはいきません。きっと、出来る事がある筈。
物語の私は良い意味でも悪い意味でもお嬢様だった。処世術に長けていて、傲慢だった。同じような人達からは好まれていたと言われていたと思う。そうじゃない人からは嫌われていた事は簡単に想像出来る。私はその通りになんて生きられない。というか、そんな度胸は無いんですよ。神様、配役ミスです。
「・・・」
登場人物のまま生きるつもりはないけど、少し羨ましい気持ちもある。
幸運を祈りながら、日常を過ごしていく。その日も、そんな日課となった祈りをしてから始まった筈だ。
晴れてはいるが薄く雲がかかっており、前世では散歩日和だったなと思う。強い日差しに弱かったが散歩好きという面倒な子だった。そして、病院の中庭で読んだりしたのだ。この物語を。今よりもゆっくりと時間が流れていたように思う。
神様、夢で良いから前世の家族が笑ってる所を見たいです。今の私の家族も大切です。でも、ほんの少しで良いから笑っていて欲しいと思うのはいけない事なのでしょうか。
暗い事を考えても良い方には行かないから、これからの事を考えようと切り替える。彼は何者なのか。
「ふぅ・・・」
それらしき登場人物は思い出せないのか、本当に登場人物には存在していないのか。存在していない筈の兄達の事を考えれば、登場人物では無いと考えた方が良い。でも、何かで見たような気もする。それが何かは思い出せない。
「そっか、ここが完全に物語の世界じゃないから・・・」
違う事は当たり前なんだ。
「・・・なら、良いよね」
少しくらい、欲を持っても。
悶々と考えていても仕方が無い。そう結論した私は何時もの日常に戻る事にした。この恋が実るかは分からないけど、後ろ向きでいたってどうにもならないから。
「おはようございます」
「今日の放課後はどうされますの?」
「あら、今日は瓔珞会のご用はありませんの?」
前世の私にとっては理解しがたい日常。でも、今はこれが日常だ。
「おはようございます。今日は兄達と約束があるのです」
私の言葉に周囲は残念そうにする人と浮足立つ人が居る。兄達も瓔珞会に所属しているし、人気があると思う。こういう事は年齢関係無くあるんだね。殆ど入院生活だった私にはちょっと分からないです。折角手に入れた健康体、日常を満喫したいと思います。
「・・・明日は瓔珞会の皆様とお茶会をしますの」
期待の籠った目を感じながら、周りの望む事を教える。それくらいは良いだろう。