第12話:その「救い」は、ただの毒や
「中身の分からん毒」を売る時代は、今日で終わり。
安価で安全なポーションを、制度から作り直したる!
翌日。
スラムの広場で「救済」を気取っていた闇商人は、ヨシコに向かって傲慢に吐き捨てた。
「営業妨害だ!消えろ、このクソババア!我々が売る、この『慈悲の滴』を待っている客がどれだけいると思っているんだ!」
だが、ヨシコは動じない。
彼女は手元のスマホを操作し、その画面を男に突きつけて冷徹な声で告げた。
「残念やけど、あんたの商売は一分前に『倒産』やわ」
その瞬間、広場を囲む迷路のような路地から、鋼の鎧を鳴らしながら魔導憲兵隊が一斉になだれ込んできた。
闇商人は泡を食って逃げ出そうとしたが、背後の退路は既に別の憲兵たちによって完全に封鎖されている。
「な、なぜだ……!なぜ憲兵がこんな場所に!まだ何もバレていないはずだ!……だが、俺を捕まえたところで……」
「あんた、自分一人が捕まって『トカゲの尻尾』になれば、本体は守れるとでも思っとんのか?」
ヨシコが冷たく言い放つ。
「悪いけど、尻尾切りで終わらせるほどウチの仕事は甘くないわ。……あんたの背後関係も全部『精算』済みや。魔王軍時代からのツテでな、隠密に長けた将軍に頼んで、あんたの密売グループの拠点は昨日のうちに全部特定させてもらったわ。今頃、元締めもアジトごと仲良くお縄になっとるはずやで」
ヨシコは、四男・シロウの手を借りて、少女から預かった不気味な瓶の中身を転送魔法で瞬時に地球へ送っていた。
それを六男・ロクロウが解析し、依存性の強い神経毒と禁忌薬物の配合を特定。
その決定的な証拠を元に、長男・イチロウが法規の網を完璧に敷き、王宮の管理局へ逃げ場のない告発状を受理させていたのだ。
闇商人が逃げる隙など、最初から一ミリも残されていなかった。
広場の中央では、ロクロウによる「真の医療」が始まっていた。
「……次。……心配いらん、今すぐ中和する。……はい、深呼吸して」
ロクロウは、シロウが急造した医療魔導具「魔力循環透析機」を用い、人々の体内から毒素を抜き去っていく。
そして彼は、治療の合間にギルドから取り寄せた現地の薬草を、まるで宝探しでもするように丹念に選別していた。
「……姉ちゃん、分析終わったよ」
ロクロウが一編のリストをヨシコへ渡した。
「現地の薬草の中には、地球の漢方に似た成分を持つものがいくつもある。それらを組み合わせれば、味はともかく、安価で中毒性のない安全な「庶民向けポーション」が作れる。レシピはもうまとめた。……これなら、特殊な魔導設備がなくても、街の薬師なら誰でも調合できるはずや」
「……おおきに、ロクロウ。これが欲しかったんやわ」
翌日、ヨシコは王宮の行政機関「薬事管理局」へと乗り込んだ。並み居る官僚たちを前に、彼女はロクロウが作成した「新処方箋」を机に叩きつけた。
「いい?中身の分からん毒を売る連中に付け入る隙を与えたんは、あんたらが『安価に買える安全な選択肢』を用意してへんかったからやわ」
ヨシコは、怯む官僚たちを真っ向から見据え、総務としての改善命令を突きつけた。
「一つは、すべてのポーションへの『全成分表示義務』の法制化や。そして二つ目……。ロクロウが作成したこのレシピを元に、誰もが買える安価な『普及版ポーション』の製造を認可しなさい。……この街の薬草を活かしたこの処方なら、今の予算の数分の一で製造できるはずや。……弱みを金に変える奴らにつけ込まれるんは、あんたらの制度に、こういう『実務的な優しさ』が足りひんからや!」
ヨシコの背後には、三男・サブロウが作成した、普及版導入による長期的な社会コスト削減と医療格差是正の試算データが控えていた。感情論ではなく、圧倒的なコストメリットを提示された官僚たちは、ぐうの音も出なかった。
数週間後。王都の薬局の棚には、大きく成分が書かれた、手頃な価格のポーションが並び始めた。広場のベンチで、治療を終えた少女が、ロクロウの処方で作られた新しいポーションを飲み、「……苦いけど、これを飲むと痛みが抑えられるね」と微笑むのを、ヨシコは遠くから見守っていた。
一仕事終えたヨシコは、スラムのさらに奥、陽の当たらない路地にある古びた孤児院の前を通りかかった。
「……なんや、この静けさ」
そこには、病とはまた別の、ひどく冷え切った「飢え」の匂いが漂っていた。
本来なら子供たちの騒がしい声が聞こえてくるはずの時間だが、門の奥からは力ない咳き込みと、重苦しい沈黙しか伝わってこない。
ヨシコは門に手をかけ、その錆びた感触に眉をひそめた。
「毒の次は、この冷え切った空気か……。どうも、この街の『巡り』は、薬だけやなくて食いもんの方も相当滞っとるみたいやね」
総務として、見過ごすことのできない不穏な気配。ヨシコは孤児院の古びた扉を叩こうと、固く拳を握りしめた。
「……さて。この静けさの裏に何が隠れとるんか、ちょっと『棚卸し』させてもらおか」
(第13話へ続く)
少女たちが救われて良かったわ。
……でも、孤児院の様子が変やね。
物価高騰と補助金カット?
子供の腹ペコは、待ったなしや!




