第13話:「捨てるのが規則」?
「捨てるのが規則」と言い切る王宮の厨房。
そのすぐ隣で、孤児たちが飢えている矛盾にヨシコさんが挑む。
スラム街の薬害問題を解決し、王都の薬局にようやく安価で安全なポーションが並び始めた頃。
ヨシコは、かつて魔王軍の総務として食料支援の窓口業務で深い関わりのあった孤児院「慈愛の灯火」へと足を運んだ。
懐かしい再会を期待していたヨシコだったが、出迎えた院長の顔は、枯れ果てた大地のように絶望に染まっていた。
「ヨシコさん……もう、本当に限界なんです。先月の王宮による法改正で、孤児院への公的補助金が『自立支援の促進』というもっともらしい名目で、一律三割もカットされました。追い打ちをかけるように物価が高騰し、今の予算では子供たちに満足な食事どころか、一食の固いパンを分けることすらままならない状況なんです」
孤児院は決して放漫な経営をしていたわけではない。
むしろ、寄付金と補助金を一銭単位でやり繰りし、実直に運営されていた。
それゆえに、現場の事情を無視した急な行政の決定に対し、抗う術も代替案も持たなかったのである。
「補助金カットやて?予算が足りひんから言うて、子供らの腹が減るのを待ってくれるわけやないやんか。王宮の担当部署は、一体何て言うてるんや」
「窓口へは何度も足を運び、窮状を訴えました。ですが、返ってくるのは『予算の再編は次年度まで物理的に不可能』『特例措置を与えた前例はない』という冷たい言葉ばかり……。彼らは、目の前で飢える子供よりも、目の前の『規則』を優先するんです」
ヨシコは、空腹で力なく座り込む子供たちの様子を、証拠資料としてスマホのカメラに収めた。
同時に、総務としての鋭い視点で王都全体の食料流通ルートを脳内で分析し始める。
「……おかしいな。市場の物価は上がっとるけど、流通量は減っとらん。むしろ高級食材はあふれとる。これだけ大きな街や。どこかに必ず、行き場を失って捨てられとる『膨大な余り』があるはずや」
ヨシコが目をつけたのは、皮肉にも孤児院からほど近い、丘の上に傲慢にそびえ立つ王宮だった。
王宮では連日連夜、身分の高い貴族や他国からの外交使節を招いた豪華絢爛な晩餐会が開かれている。
そこには、招待客の増減という不確定要素を極端に恐れるあまりに設定された、「過剰な予備(安全マージン)」という、官僚組織特有の巨大な無駄が潜んでいると踏んだのだ。
ヨシコは王宮の裏手に回り、厨房の勝手口で廃棄作業を行う若い料理人の少年に声をかけた。
コンテナの中には、まだ十分に使用に耐える色鮮やかな食材が詰め込まれていた。
「それ、全部捨てるんか?まだ調理もしてへん、袋に入ったままの新鮮な野菜やないの」
「……ええ。王宮の衛生管理規則では、不測の事態に備えて『予備』として発注した食材は、その日の晩餐会で使い切らなければ、鮮度に関わらず翌朝には全て廃棄することになっているんです。もし万が一、昨日の余り物を流用して王族や貴族の身に何かあれば、我々厨房スタッフ全員の首が飛びますから」
料理人は申し訳なさそうに、だが「それが当然の規則ですから」と諦めきった顔で、未開封の高級肉や輸入物の果実を容赦なく廃棄用コンテナへ放り込んでいく。
「万が一、招待客が急に一人増えただけで給仕が遅れるわけにはいかない。だから、常に二割は多めに食材を確保しておく。そして余ったら、安全管理のために機械的に捨てる。……それが、王宮が誇る『完璧な管理体制』の実態なんです」
ヨシコの目に、これまでにない鋭い光が宿った。これは個人の悪意による浪費ではない。「責任を取りたくない、前例を作りたくない」という硬直化した組織が生んだ、システム上の致命的な欠陥だ。
「あんたらが守っとるその『完璧な管理』の裏で、目と鼻の先の孤児院で子供らが飢えとるんやわ。……ちょっとこの食材のリスト、写真撮らせてもらうで。無理な贅沢は言わん。この『余り』をどう有効活用するか、プロに考えさせるわ」
ヨシコはスマホを流れるような手つきで操作し、廃棄される予定の「予備食材」の詳細なデータと、孤児院が抱える深刻な収支報告書を地球の弟たちへ送信した。
「……ジロウ、あんたの出番やわ。王宮の役人共が『安全のため』いうて思考停止で捨てとる極上食材がある。……これを、衛生基準は一切妥協せず、それでいて子供らの腹と心を満たす最高の一皿に変える『仕組み』、あんたなら作れるやろ?」
スマホのスピーカーから、三ツ星シェフとしての誇りと職人魂に満ちた声が響き渡った。
『……姉ちゃん。……「予備」の材料を「ゴミ」に変えて平気でいるなんて、料理人の風上にも置けんな。……その食材の保存状態、厨房の加工設備、孤児院の調理環境を全部送ってくれ。……王宮の衛生規則を汚さず、それでいて子供らの未来を繋ぐ、奇跡の「再生レシピ」を作ったるわ』
「……よし、決まりや。……王宮の役人さんら、覚悟しとき。……あんたらが後生大事に守りたがっとるその『規則』、ウチがもっとマシなもんに書き換えたるからね!」
ヨシコの背後には、食の探求者である次男・ジロウの情熱が、炎のように立ち昇っていた。
(第14話へ続く)
規則より先に、目の前の命を守るのが筋やろ。
次男・ジロウの「三ツ星の知恵」で、ゴミを奇跡のスープに変えたる。
次回、王宮のシェフを黙らせるで。
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