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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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エリーの策略

 

「アルト君、良い切り返しだ。守りも堅く攻めにくい。エリーさんを相手にしているような感じだ。それと以前は、反撃が弱かったが見極めも上手くなった。あとは威力だな。そこは身体強化で補えるから、マーラの扱い方の授業もしっかりと学ぶように」


「はい! ありがとうございます!」


 教官のアドバイスを受け返事をしたアルトは場を離れてリークトとエリーのもとへ行った。


「アルト、やったじゃない! ほぼ満点みたいな感じだったわね」


「エリーのお陰だよ。あの柔らかい守り方を教えてくれたから、持久戦にも対応できるし、本来の型と使い分けて余裕が出来た。だから、落ち着いて反撃のチャンスが見えたんだ」


「ふふふ。それなら私のお陰ね! でも、リークトといっぱい特訓した努力が実ったのよ。おめでとう!」


「ホントだよ。段々、俺の方がアルトよりアザが多くなって来たんだから。なんか奢れよ」


「そうよ。何か奢ってあげなさいよ。アルトのせいでリークトの体、ボロボロなんだから。まだ、痛む?」


「あ、あぁ。大丈夫。ありがとう」


「無理しないでね」


「わかった、わかった! リークト。今度、酔いどれ騎士亭で御馳走するよ」


「やった!」


 グッと喜ぶリークトの横でエリーは自分を指差した。


「も、もちろんエリーも誘おうと思ってたよ」


「ありがとう、アルト! アルトの奢りだし、いっぱい飲もうねリークト」


 ニッコリと笑うエリーにリークトや周りの男子が少し顔を赤くした。

 最近、エレーデンテでの中でエリーの人気は高い。元々、美しい顔立ちな上、優しくしっかりとした性格をしている。

 その影響か、貴族出身と平民出身の対立がある中でも、女子グループをまとめて仲を取り持っている。だが、アルトは知っている。仲を取り持つ方法にラーグが使われている事を。


 貴公子ラーグとお近づきになりたい女子達をそれとなくラーグと会わせ、近くでラーグの無料スマイルを味あわせて、彼女達を満足させている。そして、『ラーグ様に近づきたくば、私を通せ』という状態を作り、人脈を広げ女子グループをまとめる事に成功した。エリーを中心に女子グループは垣根を越えて仲良くなり始めた。

 ただし、水面下では女子達はお互いをけん制し合っている。ラーグの特別を狙いたい人達。ラーグとセラーナが結ばれる未来を信じている人達。統一された女子グループの中で二つの派閥が出来た。


 とうの使われているラーグも、さすが大貴族と言うべきかエリーの策略を見抜き、何も言わず協力をしている。

 この策略を湯船に浸かりながら聞かされたアルトとパトロは驚いた。特にパトロは、最近ラーグに近づく女子達をどうしようかと悩んでいた。セラーナとの婚約が無くなった今、ラーグの思うまま誰かと恋愛しても良いのか。あるいは、ラーグがセラーナの事を今も想っているなら、女子達を追い払わないといけない。パトロは悩んでいた事をラーグに伝えたが、笑って流されてラーグの気持ちは分からないままだった。


 そんなこんなでエリーはエレーデンテの中で、はっきりと存在感を示すようになった。そして、彼女の魅力に気付いた男子達はエリーを意識するようになった。ところで、何故アルトはそれを知っているのか。それはアルトの隣で頬を染めるリークトから聞かされたからだ。

 リークトはエリーに恋心を抱いている。部屋で聞かされた告白に驚いたが、普段から世話になり助けてもらっているアルトは、アルトなりに協力しようとした。秘密の茶会では二人を隣同士に座らせたり、剣術の授業では同じ盾の型のグループになるエリーとリークトをアルトを介しながら一緒に過ごさせたりなど。大切な仲間であるリークトの思いが通じればと心から願う。



 ***



 授業が終わり、先に風呂に入り六人で食堂で夕食を食べる。ラーグの食堂料理の話を聞きながら、一部は呆れ、一部はその博識ぶりに感心し、一人はそれを料理が冷めるぞと止める。いつもの一日が終わる。


 リークトと部屋に戻りお互いを労い、寝るはずだった。リークトは自分のベッドに座り、横になっているアルトに話しかける。


「アルト、明日の訓練が終わったら次の日は休みだろ。だから、明日の夜に酔いどれ騎士亭に行かないか? その、アルトと俺と、エリーで」


 緊張した声に、アルトは起き上がりリークトを見る。


「いいけど。それよりマーラが乱れてるよ。・・・まさか、告白するの?」


「っ。お前の感知力の高さが嫌いだ。マーラで、そんなことまでわかんのかよ! そんな力があるなら、なんでミーナさんが手首のそれを渡された時に、思いに気付かないんだよ!」


 顔を赤くしてリークトは早口でアルトを責める。


「それは! ミーナはいつも穏やかだったから」


 言葉にしながら最後は声が小さくなっていく。アルトも自分の鈍さに恥ずかしくなり、手首のお守りを触りながら顔を赤くする。

 二人は顔を赤くしながら、しばらく沈黙した。


「と、とにかく。明日、三人で飲みに行こう。帰りにエリーに告白する! その時に、悪いけどアルトは適当に何か言って先に帰るとかしてくれないか?」


「わ、わかった。とりあえず、その時は先に帰るよ。それよりも急すぎないか?」


「実はエリーを狙ってる奴がどこかのタイミングで告白するらしいんだ。だから、もう待っていられなくて。それに最近はアルトのお陰で仲良くなれてると思うし、少なくとも嫌われていないと思う。だから、勝負に出る!」


「わかった。頑張って。あー、もう! 眠気が飛んで寝れない。こんな時に話すなよ!」


「しょうがないだろ! 今日、アルトが奢ってくれるって話になってエリーも来ることになったから決めたんだ!」


「そうなんだろうけど、俺までドキドキする」


「俺の方が緊張してるに決まってるだろ! とりあえず、おやすみ」


「お、おやすみ」


 お互い鼓動が早いまま、早く寝付けるように深呼吸して心を静める。

読者のみなさまへ


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