試合
「暇なら一試合どうだ?」
ラーグの言葉に間髪入れずに返事をした。
「ラーグ、やるなら決闘者の型で戦ってほしい」
その言葉に眉を上げて何故かと問われる。
「ラーグの剣を受けてみたいんだ。決闘者の型の威力を実感したい」
「わかった。挑発するわけじゃないが、本気で来ても良いからな。盾の型の受け方は心得がある。こっちは寸止めにしよう。本気で当たるとしばらく動けないからな。一本取ったら勝ちだ」
「わかった。ありがとう」
丁度良くパトロが木剣を持って来た。それをアルトが受け取ると、状況を察したのか合図役をしてくれる。
体をしっかりとほぐし、場に入り剣を構える。ラーグも場に入り剣を振るい構える。その構えを見たパトロが止める。
「おい! アルトに決闘者の型でやるのか!?」
「ご所望されたからな。大丈夫だ。寸止めはする」
実力差はわかっているが、そのやり取りにあからさまに手加減すると言われる苛立ちが湧いた。
緊張する。あの回転攻撃が自分を襲ってくる。木剣に大きくヒビを入れる一撃がこれから来る。
アルトの呼吸が少し乱れる。
しばらくの沈黙が続いた後にラーグが走り出した。剣を突き出す様な姿勢に入り、そのまま軽い一撃が来る。これを避けて構え直すと、ラーグは体の右側をアルト側に向けた体制をとった。
「アルト! それは、正面攻撃の構えだ!」
パトロが教える。ラーグが話してくれた正面特化の事だろう。
間合いが狭まったことに気付き、距離を取るが、すぐにラーグの攻撃が始まった。剣を握る手を狙うような細やかな動きだった。突きを主体とした点の攻撃に盾の型で応戦するが、早い攻撃にマーラを使い、何とか追いついている。しつこく手を狙う突きの攻撃は一撃一撃は軽いが数が多い。
(どこで反撃に転じるか!)
反撃のチャンスを読もうとすると手への防御がおろそかになりかける。延々と防御に徹する。
「アルト、攻めてこないと勝てないぞ!」
「わかってる!」
ラーグの至極全うな言葉に返せても行動に移せない。
(一か八かだ!)
次の突きの瞬間に大きく剣を振るい弾いた。ラーグの右わき腹が無防備になる。
(ここだ!)
アルトは大きく隙が出来た右わき腹へ剣を振るう、が。
(やばい!)
ラーグは右腕を左上に弾かれたままの勢いで体を回転させてアルトと距離を作り、先程、見せた回転切りの逆襲がアルトに迫って来る。剣をしっかりと握り防御をする。
「ッ!」
回転切りの衝撃が剣を伝い、アルトの体を倒した。すぐに立ち上がろうとするアルトの肩を軽くポンッと叩かれる。見上げればラーグがいた。
「そこまで!」
パトロが試合を止めた。ラーグの勝利だ。
息を切らすアルトの背中をラーグが擦る。
「思い切った弾きをしたな。意外だったよ。だけど、あれが勝因だ。深く考えていなかっただろう?」
涼し気な顔で指摘され悔しくなった。
「うん。あの手を狙う攻撃に、何とかしようとして、大きく弾いた。そしたら、右わき腹が、ガラ空きになったから、今だって、思った。」
「・・・なるほど。アルトは盾の型に必要な反撃の目が育っていないんだな。マーラを上手く使えていない」
呼吸が落ち着き、立ち上がると水を渡された。
「なんで、そう思うの?」
「自覚は無しか。私の手を狙う攻撃が軽く感じなかったか?」
「確かに軽かった」
「そうだろ。アルトは無意識の内に、腕に部分強化をしすぎて直感力が弱まっていたんだ。それでギリギリ攻撃に応じた」
その言葉にアルトは自分の行動を思い出す。あれだけの攻撃を受けていながら腕の疲労はない。
「そうだったのか・・・」
「攻撃を受けるだけならマーラを使った直感力だけでも出来る。大きく腕に集中したから、思考が追いつかずに反撃のチャンスが見えないんだ」
「そういうことか!」
「ははは。課題が見つかったな」
「ラーグ、ありがとう。ずっと答えが出せなかったんだ」
「気にするな。答えが出せたなら良かったな。リークトと特訓しているんだろう? 今回気付いたことを活かせると良いな」
「そうだな。そういえば特訓の事、知ってるんだ」
「あぁ、疲れ切ったリークトと風呂場であってな。話を聞いたら、アルトの特訓に付き合ってるって言ってたぞ。誰か勝ちたい相手がいるんだってな」
「・・・あぁ。絶対に勝たないといけない相手がいるんだ」
アルトの真剣な瞳を見て、その言葉にラーグは笑い、頑張れ、と言った。その笑顔が眩しく感じた。
(やっぱり、カッコイイな)
***
「ッ!」
「・・・やった」
先日のラーグとの戦いで気付かされた答えを活かして、リークトと特訓をしていた。遂に、反撃のチャンスを見極めてリークトに一撃を入れた。
「あっ、ごめん! 大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと痛むだけだ。それにしても、やっとまともな反撃が出来たな!」
「うん。この前、ラーグに気付かされたよ。部分強化にマーラを使い過ぎて、直感力が落ちてるって」
アルトの言ったことに合点がいったのか、感心していた。
「そうか。アルトは部分強化出来るから、そっちにもマーラを回せる訳か! 俺は部分強化出来ないから、直感力を高めるしかなかった。そういうことだったのか。流石だな、ラーグ」
「ほんとだよ。たったの一回の試合でそれを見抜くんだから。すごいよな。俺としては敵に塩を送られた感じだけど」
「はははは。その塩は選抜試験の時に送り返せばいいじゃないか」
「それと、ありがとう。ラーグに俺の勝ちたい相手の事を言わないでくれて」
「・・・あぁ、聞いたのか。風呂場で偶然会って聞かれたんだ。ラーグに勝って、サプライズプレゼントだな!」
「うん!」
「あと、マーラの覚醒記念の品が出来上がったんだ! 次の秘密の茶会の時に贈ろうと思う」
「完成したんだ! 皆、どんな顔するかな。楽しみだね」
「あぁ!」
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