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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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討伐の依頼

 

 捨てられた村で夜を過ごし、アルト達は出発した。三杯飲んだワインのお陰で早く眠れて、目覚めは良かった。

 しかし、昨日から心を支配する言いようのない気持ちを抱えたまま道を進む。今まで知らなかったこの国の現実。そして、恵まれていた自らの境遇。


 バラール地方は教皇の直轄地だった故に教会税のみで済んでいた。もし、違う地方だったら。そう考えた時に過る家族や友人たちの姿。そして、彼女の笑顔。全てが無くなっていた。自ら望み教会騎士になろうとした自分とは違う未来。強制徴兵されて違う場所で過ごし、人知れずに滅ぶ故郷。


(そんなのダメだろ)


 怒り、悲しみ、無念。これらが混ざった感情が込み上げてくる。すると、揺らめきを感じた。


「止まってください!」


 アルト達が進む大街道の森の横を通る手前の場所で先頭を走っていたラウを止めた。


「森の奥と進んだ先に誰かいます」


(もしかして、昨日の村の人達が)


 常時使っているマーラに揺らめきを感じた。昨日の事があって嫌な予感がした。


「奥側と進んだ先には何人いる?」


「・・・奥は二人。進んだ先は五人」


「それなら進もう。アーブ、戦いになるぞ。アルト君は身を守る程度に戦うんだ」


「わかりました」


 ラウを先頭にしばらく道を進む。


「近いな」


 先頭を行くラウも近くにいる人達を感知した。剣を抜き叫ぶ。


「隠れている者! 我々は教会騎士だ! 無用の争いはしたくない。立ち去れ!」


 ラウの言葉に森の中から話し声が聞こえた。すると森から中年の男が三人、斧や武器を持って出て来た。森の中には二人、弓を構えている


「森の中の連中もやめておけ。お前達では勝てないぞ」


「・・・さっさと通れ!」


 怒りを隠しもしない瞳でアルト達を睨みながら、一人の男が言った。その言葉に脇を通り過ぎるように進み、森の近辺を抜けた。


(良かった)


 戦いにならずに済んだことに一安心して道を進む。


「アルト、さっきの連中はあの村の住人じゃないからな」


「え」


「あの村の状況を考えると、あいつらのガタイの良さは矛盾してる。別の所から来たやつらだ」


「そう、ですか」


(別の所から、あの場所で待ち伏せしないといけない理由なんて・・・)


「言いたくないが、よくある事だ。気にしすぎるなよ」


 アーブの言葉に小さく返事をした。

 夕暮れ前に、バラール地方からサーリア地方に入る際に通るコローネル伯爵領の第一都市ヴェドナに着いた。


「今日中にヴェドナに着いて良かった。今日はここで一泊だ」


 街の検問に行く前に馬から降り、三人は体を伸ばした。門限前だからか通行者は少なく、すぐにアルト達の順番になった。


「教会騎士のラウとアーブです。こっちは教会騎士候補のアルトです」


「教会騎士!? しばらく、お待ちください」


 衛兵はラウに告げて、詰め所に入った。それを見たラウは溜息をついた。


「はぁ、面倒なやつだ」


「そうだな。魔物かな。賊かな」


「どういうことですか?」


「こういう風に待たされるときは、大体、ちょっと良い宿に泊まらせてもらって、街の代官の使いが来る。それで討伐を依頼してくる」


 しばらく城門前で待っていると、先程とは違う別の衛兵が来た。


「騎士殿、代官より宿へ案内するように仰せつかっております。こちらへどうぞ」


 アーブの言った通りの展開になって来た。連れて行かれた宿は、ここまで来るのに通り過ぎて行った宿より、とても良いものだった。

 衛兵は店主に伝えた。


「店主。代官の命により、こちらの教会騎士二名と騎士候補一名に宿泊と食事を提供するように。代金は後日、屋敷に取りに来るように。騎士殿、あとで代官の使いの者が参ります。それまで、ごゆっくりなされてください。失礼いたします!」


 役目を終えた衛兵は帰っていった。宿屋の店主が側により、三人を案内する。


「それでは騎士様方、こちらへどうぞ。君達、荷物をお運びして」


 店主に案内されると、聖地コバクで泊まった時のような立派な部屋を与えてくれた。

 荷物を置き、ベッドに寝転がる。


「よくあることか・・・」


 部屋のドアがノックされる。アーブが立っていた。


「アルト、代官の使いが来た。食堂で話を聞こう」


 アーブに返事をして、食堂へ向かう。先に来ていたラウの向かい側に代官の使いが来ていた。


 使者の話はヴェドナ近辺の道にいる盗賊を討伐してほしいとのことだった。ヴェドナへ向かう商人が狙われているらしい。

 依頼を受けて、食事になったが味はあまり覚えていなかった。

 ただ、一つの事実に向き合わなければならなかった。


 明日、アルトは人殺しをする。


 朝、三人はヴェドナを出発し盗賊のアジトになっている洞窟を目指した。昨日、代官の使いから渡された資料はアジトの場所と洞窟の中の地図だった。ただ、アルトには資料のある記載に目が留まった。『死亡者なし。物品のみ強奪』盗賊は誰も殺してはいなかった。荷物のみ奪い去って行った。


「アーブさん、誰も殺していない人達を俺達は殺さないといけないの?」


「抵抗されるなら斬る。抵抗しないなら捕縛して街に連れ帰るだけで済む。それだけだ」


「はい・・・」


「資料を読む限り、素人仕事だから盗賊になって間もない連中かもしれない。それでも用心しておくんだよ。それとお互いの名前は絶対に呼ばないように」


「どうしてですか?」


「もし、取り逃がした時にこっちの名前と顔を覚えられると、他の賊から襲撃を受けやすくなるんだ」


 そんなこともあるのかと思いながらラウの注意を受け、馬を駆けさせる。本来の目的はエストに行くことだった。早く終わらせて向かわなければならない。

 盗賊のアジトから少し離れた場所に馬を止めて、ソッと近づく。洞窟の入口に着くと見張りが二人いた。焚火を囲みながら話をしている。他愛もない話だ。

 ラウは小声で話した。


「アーブは背後に。アルト君は僕と一緒に」


 アーブが静かに動き盗賊達の背後の林に移動した。それを確認したラウは盗賊達の前に剣を抜いて出た。


「動くな! お前達、ここら辺を荒らしている盗賊だな!」 


「誰だ、お前たちは!?」


「教会騎士だ。抵抗しなければ殺さない」


 教会騎士と聞いて見張りの二人は怯んだ。


「わ、わかった。抵抗しない」


「よし。この洞窟の中には何人いる? 逃げ道はあるのか?」


「中には十七人だ。逃げ道は無い。ここだけだ」


「わかった。君、こいつを縛っておくんだ」


 ラウから縄を渡されて男を一人縛り上げる。


「お前は仲間の所まで案内しろ。出てきていいぞ。君はこいつの見張りだ」


 アーブが林から出て来て二人は洞窟の中に入ろうとした。縛った男が叫んだ。


「待ってくれ! 中には女子供もいる。殺さないでくれ!」


「・・・それは、中にいる連中次第だ」


 二人と案内の男は奥へと入って行った。

 入口に残された縛られた男は怯えていた。見張るアルトを見上げ言った。


「なぁ、俺達は誰も殺してないんだ。逃がしてくれ!」


「・・・」


「このまま奴隷落ちにされるとどの道、殺される」


「どういうことだ?」


 意味を尋ねたアルトの顔を男は驚いた様子で見た。


「わかんねぇのか? 奴隷になれば、獣人に嬲り殺される!」


 男の言葉に今度はアルトが驚かせられた。


(そういえば、獣人も奴隷にされているんだったな。奴隷同士で殺し合うってことか)


 獣人の恐ろしさを知っているアルトは心が揺れた。逃がせば、この男は獣人に殺されずに済む。だが、どこかでまた盗賊をするかもしれない。


「頼む・・・! 助けてくれ・・・」


「・・・逃がしても、また、盗賊にならないか?」


「ならない! 誓う! もう盗賊はやらない!」


 自分の未来に希望が見えた男は必死にアルトに誓いの言葉を言った。

 アルトはしゃがみ、男の縄を解いていく。男は安心したように息をつき立ち上がった。


 そして、立ち上がろうとしたアルトを突き飛ばした。


「っ!」


 男は走り、武器を持って襲い掛かった。


「死ねぇ!」


 斧が振り下ろされる。とっさのことで反応が鈍かったが、何とか横に転がり避けた。そのまま飛び上がり、男と距離を剣を抜く。男はすぐに襲い掛かった。


「やめろ! そのまま逃げればいいだろ!?」


「うるさい! 中には子供がいるんだ。お前を殺して他の騎士を殺す! さっさと死ね!」


 何度も振り下ろされる斧を受けながら、どうしたらいいか考える。

 アルトは、目の前の男を殺そうと思えば殺せる。だが、迷っていた。嘘か本当かはわからないが、この人には子供がいる。捨てられた村で見た、親子の遺体を思い出していた。


 何度も迷いながら打ち合っていると、洞窟から女の悲鳴が聞こえた。

 その声に驚き二人は固まった。


「お前ら・・・!」


 男は涙を浮かべながら斧を握る手に力が入る。


「待って。アーブさんとラウさんがそんなことするわけがない!」


「うるさい!」


 力一杯、斧を振り回してアルトに罵詈雑言を飛ばす。形相を変えて襲い続ける男に何度もやめるように言っても聞かなかった。


(もうダメか)


 一瞬の隙を突いて、男を斬った。あっという間の出来事だ。倒れた男は苦しみながら洞窟に手を伸ばす。


「コラ、ン・・・」


 血を吐き動きが止まった。死んだ男を茫然とアルトは見ていた。


 しばらくすると、洞窟から人が出て来た。最初はアーブが出て来て、一列に縛られた女子供、最後にラウだった。

 二人の服は返り血で汚れっていた。縛られた子供の中に灰色の髪をした男の子が死んだ男を見て叫んだ。


「父ちゃん!」


 子供は駆け寄ろうとしたが、前後に縄で繋がれて行けなかった。何度も親の名前を呼ぶ。

 アーブとラウは、その状況を見て察したが何も言わなかった。


 縛られた女子供の一団を引き連れてヴェドナへ帰った。昨日やって来た代官の使者が言った。


「騎士殿、困りますぞ。討伐を依頼したのに生きて連れて帰られては。とりあえず、女は売るにしても子供は役に立ちませんからな。・・・おい、衛兵。ヴェドナ城代官の代弁者として命じる。女は奴隷落ちにさせて売り払う事。子供は即刻処刑」


 その言葉を聞いたアーブが声をあげた。


「使者殿、それは!」


「何ですか。我が伯爵領の事に、教会騎士が口出しするのですか?」


 代官の使者は、睨みつけるようにアーブを見た。その言葉に何も言えなくなったアーブを鼻で笑い。ねぎらいの言葉を言って去った。

 連れて来られた女子供は泣きながら、離れまいと身を寄せるが衛兵によってバラバラにされた。


「・・・先に、宿に、戻ってます」


 子供を呼ぶ声、親を呼ぶ声、泣き声が響き渡る。その場にいることが耐えられずにアルトはラウに一言残し宿へ走って行った。遠くから、『やめて』と叫ぶ声が聞こえた気がした。

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