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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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通じ合った思い

 

 重い足取りで道を進むアルトは、ミーナと喧嘩して以来の憂鬱な気持ちだった。

 これから彼女に告げないといけない言葉。多分、悲しんでしまうのだろうと考える。その時に、どうすればいいのか。なんて声を掛けたらいいのか。考えても考えても答えは出ない。しかし、宿屋エイドに向かうしかなかった。

 誰かの言葉で伝えてはいけないことぐらいはわかっている。


 宿屋の扉が重い。力を込めて開けると、誰もいなかった。何回か深呼吸をして、呼ぶ。


「こんにちは! 誰かいますか!?」


「はーい。すぐに行きます!」


 奥から声が聞こえた。ミルテナだ。あの時、頼まれていたのにミーナ達を置いて行った負い目があり、会うのが気まずい。


「アルト君。いらっしゃい。どうしたの?」


「あの、あの時はすいませんでした!」


 アルトは頭を下げて、ミルテナに謝罪をした。あっけに取られたミルテナは暫く黙り込んだ。


「・・・」


「・・・ふっ、ふふふ。ごめんね。意地悪して。頭を上げてちょうだい。あたし達は、アルト君に感謝してるんだよ」


「え?」


 頭を上げたアルトを面白そうにミルテナは見ていた。


「あの時、逃げてくれることが一番だって思っていたけど、あたしや夫もミーナと別れたくなかった。あたし達とミーナを助けてくれたのは、アルト君なんだよ。御礼こそすれ、アルト君に謝ってもらう必要はないよ。アルト君、ミーナと、あの子が大切にしていたものを守ってくれてありがとう」


 ミルテナはアルトに感謝を送った。


「そんな、俺の勝手で」


「それでも救われたのよ。本当にありがとう」


 アルトは、その言葉に安心した。自分の勝手でミルテナやコーゼルを悲しめたと感じていたから。


「それでどうしたの? ミーナに会いに来たの?」


「はい。大事な話があって。実は・・・」


 マーラのこと。教会騎士のこと。さっき決まった自分の人生の事をミルテナに話した。


「そう。・・・アルト君が、教会へ。こればかりはアルト君自身で話すしかないわね。でも、大丈夫よ。何かあったら、あたしがフォローしておくから。ミーナは地下の酒蔵にいるわ」


「ありがとうございます」


 地下には大樽、小樽は所狭しと並んでいた。リンド村で採れたブドウを樽熟成しているのだ。静かな空間に、鼻歌が聞こえる。童話で聞かせれる歌だ。

 奥に行くと、ミーナはいた。樽に漏れが無いか確認していた。内容を思うと声を掛けるのも躊躇ってしまう。


「ミーナ」


「わっ!」


 アルトの声にミーナはビクリと体を震わせた。


「ビックリした~。誰もいないと思ってたから。どうしたの?」


「ビックリさせてごめん。ミーナに、話があって来たんだ」


 アルトは思わず強張った声で話した。その様子にミーナは移動しようと言った。

 ミーナが指し示した椅子に二人は腰かけた。


「それで、どうしたの? 緊張してるみたいだけど」


「わかる?」


「うん。もう二年くらいの付き合いじゃない」


 クスクスと笑うミーナに場違いにも、可愛いなと思った。それでも言わなければならない。


「実は、俺がマーラの感知者ってことがバレた」


「え?」


「父さん達を助けに行った時に、教会騎士達とも一緒に戦ったんだ。その時にマーラの力を使って魔物を倒した。それでマーラの感知者って気付かれた」


「それじゃあ、アルトは教会に行かないといけないの・・・?」


「うん」


 ミーナは両手で口元を抑え、瞳が潤んでいく。


「私のせいで」


 青い瞳からポロポロと雫が零れていく。アルトは抱き寄せて、背中を優しく擦る。


「泣かないで。いずれ来る時が、今、来ただけなんだ。ミーナが悪いんじゃない。それに後悔してる訳じゃないんだ。ミーナ、聞いて」


 ミーナが顔を上げる。アルトは優しく笑いかけて告げた。


「俺は一番大切ものを守れたんだ。それは、ミーナだよ。あの時に考えたのは、結局、どっちがミーナが笑顔でいてくれるかだったんだ。もちろん、父さん達も大切だけど。全部を含めた時に、どの選択がミーナを笑顔にするかだったんだ。だから、泣かないで」


 アルトの腕の中でミーナは顔を振った。


「・・・ありがとう。でも、アルトが、いてくれないと笑顔になれないよ」


 ミーナが顔を上げてアルトを見上げる。自分を見つめる綺麗な青い瞳から目が離せなかった。


「アルト。私、アルトのことを愛してる」


「・・・俺も、ミーナを愛してる。俺の大切な人」


 ミーナを抱きしめる腕に力が入る。

 お互いの思いを聞いた二人は見つめ合う。ミーナはアルトに腕を回し密着する。


「行かないでほしい」


「うん」


「ずっと村にいてほしい」


「うん」


「私の側にいてほしい」


「うん」


「それでも、行かないといけないのね」


「・・・うん」


 その返事に体に回されたミーナの腕に力が入る。


「アルト、愛してる。ずっと、愛してる」


「俺もミーナを愛してる。ずっと、愛してる」


 その言葉を聞き、ミーナはアルトの胸元に顔を埋めた。冷たく静かな地下室に、小さなすする声が響いた。

 お互いを大切に想い愛し合う二人の熱が、別れを惜しむ、お互いの心を慰める。


読者のみなさまへ


今回はお読みいただきありがとうございます! 


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