彼女のためなら
モルの言葉にアルトは頷いた。
「父さん達を助けに行く時、覚悟はできてた。皆と離れ離れなるのは悲しいけど少なくとも今日、大切な人達は守れた。後悔はないよ」
「アルト・・・」
「ただ、ミーナと別れないといけないのが辛い」
想い人の姿を思い浮かべる。
晴れた空のような青い髪、深い青色の瞳。元気をもらえるような笑顔。自分を手をすくい上げてくれた柔らかい手。温かい心。会いに行った時に嬉しそうに向かってくる姿。
この全てを手放さないといけない。あの時に、一緒に逃げていれば失わなかったもの。でも、彼女の大切なものを守れた代償なら悪い気はしなかった。ミーナが笑顔でいてくれるなら。
「戦った結果、ミーナが笑顔でいてくれるなら、悪い気がしない。元気でいてくれるなら、それだけで」
ミーナとの様々な思いを飲み込むかのように、オーロンが遺してくれた火酒を飲む。
そのアルトの表情に、モルはかける言葉が無く火酒をアルトのコップに注いだ。
「・・・・・・明日、門にいるアーブの所に行け。そこで詳しい話が聞ける。その後に、お前からミーナちゃんに伝えるんだぞ」
「うん」
「今は、飲め」
甘く芳醇な香りを楽しみながら、アルトとモルは限りある親子の時間を過ごした。
朝を迎えて起き上がるアルトは、深酒した割に酒精が残っていないことを意外に思った。
「いい酒は、二日酔いにならないのかな?」
身なりを整え一階に降りると、家族三人がいた。モルはアリルに専用の食事を与えていた。失ったと思ってしまった家族の光景があった。
「おはよう」
「おはよう、アルト。今日は、木の実と油漬けした魚をペーストにした物よ。パンに塗って食べて」
「うん」
木の実、油漬けにした小魚、ニンニク、バジルを包丁で細かく切って、混ぜ合わせたペーストはパンに塗って食べると塩味がちょうど良く、バジルやニンニクの香りで食が進む。
『アルマのレシピ、朝食編』の料理だ。オーロンはこれが出るとワインを飲みたがった。アルトもワインの味を覚えた今、オーロンの気持ちがわかったような気がした。
「アリア。これ絶対ワインを合うから飲ませてくれ!」
「ダメ。ほら、アリルが口を開けて待ってるわよ」
この気持ちはアルトだけではなかったようだ。
アルトは教会騎士の話を聞くために門に向かった。そこには破壊された門広場にテントと焚火が置かれていた。外にはアーブが座っていた。
「おはようございます。アーブさん」
「あぁ、アルト君。おはよう。門番の方から話は聞いたのかな?」
「はい。詳しい話を聞くために、ここへ行くように言われました」
「そうか。まずは、ドヴォルとの戦い、ラウを助けてくれてありがとう。あの場ではちゃんとお礼を言えてなかったから」
そういうとアーブはアルトに頭を下げた。
「いえ、仲間のことが気になるのは仕方がないですよ。頭をあげてください」
「ありがとう。そこに座って。本題に入ろうか」
アーブに勧められて椅子に座る。この時が来たのかと、少し緊張した。
「アルト君は目に見えないものを感じることが出来ているね。その正体はわかるかな?」
「はい。マーラですね」
「あぁ。それじゃあ、マーラとは何か知っている?」
「物質の根源と聞きました」
「物質の根源? 今、『聞きました』って言ったけど、『マーラ』という言葉と、『物質の根源』って誰から教わった?」
「俺が以前住んでいたゴル村という所にキケロ・ソダリスっていう上級騎士が来て、その時に習いました」
「上級騎士キケロ・ソダリス。名字付きだから貴族かな? 俺が知ってる上級騎士でキケロ・ソダリスは聞いたことがないな」
「え? 黒髪で黄金の瞳をしたセレス地方出身って言ってました。それと未来予知が出来るって。それで俺とミーナは会いました」
「未来予知!? いや、疑っているわけじゃないんだ。上級騎士の中には、各地を旅しながら任務についている人もいるから、俺が知らないだけかもしれない。だけど、未来予知が出来る程の強力なマーラの感知者でセレス地方の貴族出身だと目立つと思うけどな」
アーブは暫く考えたが、諦めたようだ。
「まぁ、とりあえずはいいか。俺が話そうとしたマーラについてだが、物質の根源ではなく、女神サドミアの恩寵なんだ。体に宿り、俺達に様々な力を与えてくれる。ドヴォルとの戦いで見せたように、腕力を上げて重い攻撃が出来たり、相手の動きを察知することが出来る。そして強い感知力があると、相手のマーラの動きもわかるようになる。ドヴォルが火の玉を放つ前に、体のマーラを練り込む様子に気付くとか」
アーブは水を飲み続けた。
「それは教会騎士の訓練を受けないと出来ないことなんだ。その訓練もキケロ・ソダリスに教えてもらったのか?」
「いえ、訓練は受けていません。
その、俺はマーラの感知力が起きたり寝ていたりする状態だったらしく、夢という形で未来予知が出来ていました。そのことを同じく未来予知でゴル村に来たキケロ様に話しました。
すると、キケロ様はマーラの感知力を覚醒させると言って何かをしてくれて、そこからちゃんとした未来予知が出来るようになりました。その後、マーラの力について色々と教えてもらい、それをヒントに直感力を上げたり、腕とか思いを込めた場所にマーラを集中させて力をつけるとかしました」
「未来予知ができる? それじゃあ、今回の事も未来予知で知っていた?」
「未来予知はゴル村で魔物と戦ったきり使えなくなりました。あと、ゴル村の魔物と戦った時に相手を吹き飛ばすことも出来ましたが、その時以来、使えませんでした。
ただ、ラウさんがドヴォルに殺されそうになった時にとっさに手を突き出したらドヴォルを吹き飛ばせて、すぐに眩暈を起こすほど頭痛に襲われました」
アルトの話を聞いたアーブは腕を組み考え込んだ。顔を上げてアルトに聞いた。
「・・・・・・他には何か出来た?」
「あとは、今は義父であるモルさんが魔物に深手を負わされて死んでしまいそうなときに、四年前に死んだ弟が光の粒、多分マーラだと思いますが、現れて、重症の傷を治してくれました。そこから意識が無くなって、マーラに関しては今の状態になります」
「うーん。光の粒はマーラで合っていると思う。それが人の形になって傷を癒す。聞いたことがない」
片手で頭を抱えて、アルトの話を頭の中で整理をしていた。
「ゴル村が魔物に襲われて壊滅した話は聞いていてけど、マーラの感知者がいて、そんなことが起きているなんて知らなかった」
「その、みんなが隠していてくれたんです。教会に連れて行かれないように」
「まぁ、・・・・・・そうか」
アルトの言葉にアーブは納得して告げた。
「アルト君、君の力は俺の想像を超えている。単純に教会へ連れて行くとかの話じゃない。君にとっては嫌なことかもしれないが、これは教会に報告して、上の判断を仰がなければならない。予定だと明日くらいに救援のための援軍が来るはずだ。そこにいる上級騎士に相談して決める。ただ、この村を去る事は決まっていると思った方が良い」
「・・・わかりました」
「故郷を去ることに寂しさはあると思うが、あまり気落ちせずに、家族や親しい人と話しておくといい」
アーブとの話が終わり、門を去ったアルトは、村を出て行くことを絶対に話さないといけない相手の所に向かった。
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