戦後
リンド村は魔物の襲撃を乗り越えた。
隠れていた人達は安堵の涙と、死体となって帰って来た父、夫、息子、恋人の姿に涙した。
しかし、生き残った人達もいる。再会を喜び、抱きしめ合って存在を確かめる。
アルトは怪我人達の治療を終え、皆の様々な様子を眺めていた。その中には、手伝いで来てくれていた女性が門で戦っていた人の腕の中で泣いていた。
「よかった」
大勢が死んでしまったが、生きてる人がいる。失ったものを数えるのではなく、残ったものをかぞえる。残ったもの数が、自分達の勝ち星なのだと、かつてマールが教えてくれた事を思い出していた。そして、消えてしまった命の代わりに自分達は懸命に生き、いつか再会する日に笑顔で会えるようにする。
「父さん、母さん、ティト・・・」
アルトの体を包む存在。マーラに包まれて、実の家族の存在を確かめる。自分の見た奇跡を悲しむ人達に見せることは出来ないが、彼らにもまた、失った大切な人達が側にいるのだと、マーラへと形を変えているのだと思ってほしい。
疲労感から、マールと共に仮設治療所の椅子に腰かけていたアルトに声が掛かった。
「母さん・・・」
アリアは座っているアルトの頭を抱えるように抱きしめた。
「よく頑張ったわね。・・・マール、あなたの、この子への気持ちもわかっているつもりだけど、戦ったことを責めないであげてね」
「・・・・・・はぁ」
「ありがとう。・・・アルト、マールのやったことを許してあげて。マールは非道な決断をした。非難されても仕方がない。でもオーロンさんが最期の時に、マールにアルトのことを託したの。だから、手段を選ばずに行動した。アルトがスムーズに逃げれるように。手伝いに来ていた三人が、あの場で殺される事を承知で」
アルトはアリアから体を離し複雑な気持ちで、自分の思いをマールに伝えた。
「父さんが最期に俺をマールさんに託していた事は知らなかった。でも、俺が生き残るためだからってマールさんにそんな事してほしくない。俺は人を犠牲にしてまで生きたくない。マールさん、もう二度としないで。マールさんが、そんな事をしなくていいぐらい俺が強くなる。だから」
「・・・」
「マール」
「・・・わかった。アルト君、ごめんね。二度としない」
「うん。約束だよ」
アルトはマールの手を握った。マールの力が籠っている拳をやわらげる。
「アルト、来たわよ」
アリアの差す方向を見るとミーナがいた、駆け寄って来るミーナにアルトも向かった。
「アルト! ありがとう!」
飛び込んできたミーナを受け止めた。爽やかな青い髪が舞う。
「村を守ってくれてありがとう!」
「うん。ミーナの家族も故郷も守ったよ。それと約束も果たした」
「うん!」
「あと、体を離してもらっても・・・。その、皆が見てるから・・・」
ミーナはハッとして周りを見ると、アリアやマール。遠くでモルとミルテナとコーゼルも見ていた。
顔が赤くなるミーナにどうしようかと困ったアルトであった。
「気にしなくて良かったのに」
アリアが呟いた。
この日は、もう出来ることも無く、疲労でいっぱいだった村人達はそれぞれの家に帰り休んだ。
門が破壊されているため、見張りが必要だったがアーブとラウが引き受けてくれた。
モル達も家に帰り、安らいでいた。モルは棚から、ある酒瓶を出した。
「アルト、飲もう」
それは、オーロンが遺したウェールドの火酒だった。コップに注がれる火酒から甘い香りがする。
「ちょっとづつ飲んだぞ」
コップを受け取ったアルトに飲み方を教え『乾杯』とコップを当てた。
良い香りがするコップに恐る恐る、口を当てて、飲んでみる。
「ゲホッ」
「ははは、むせたか。最初はそうなるよな」
「ゲホッ。すごく強い匂いだね」
「火酒はそういうもんだ。舐めるように飲んでみろ」
モルの助言通りに口に含むと、口が焼けるような感覚だった。しかし、滑らかな舌触りで甘い味だった。初めての体験にドキドキしていた。
そんなアルトの様子に笑みを浮かべて、モルも飲んだ。
「おいしい・・・」
「そうだろ。オーロンさんも良い物を遺してくれたな」
「うん・・・」
父が家でよく飲んでいた姿を思い出した。
「アルト、この戦いで薬師としても戦士としても、よく頑張ったな」
モルの言葉を静かに聞きながら、もう一口火酒を舐めた。
「俺も助かったし、村も壊滅しなくて済んだ。本当に感謝してる。アリア達と一緒に逃げなかったのは、怒りたいところだが、それはいいだろう。ただ」
モルはそこで言葉を区切り、火酒を呷った。
「マーラを使っているところを教会騎士に見られた」
「うん。全部、覚悟の上だよ」
「そうか。あの後、アーブと話したが教会に報告するそうだ。何でも、アルトはマーラの使い方が上手いらしい。マーラを使って体を強化したり、マーラの流れがわかるのは訓練を受けないと出来ないって言ってた。俺から言わなかったが、ゴル村で会ったキケロ・ソダリスから学んだんだろ?」
「学んだというか、ヒントを貰った」
「そうだったのか。それでアーブ曰く、四年前から魔物が頻繁に出現するらしい。その中で、教会騎士も戦死することも増えて、人材を求めてる。そんな中、お前を見つけた」
その言葉の続きは、未来予知が無くてもわかる。
「アルト、お前を教会へ連れて行くそうだ」
「うん」
アルトは戦場へ行った時に、その言葉を覚悟していた。
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