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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第一部:教会騎士 第二章:ザクルセスの塔
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レバレスの誘惑

「エリー!」


 エリーの傷口についた黒い霧は肌に染み込みゆっくりと広がる。


「ッ!」


 エリーは痛みに耐えるように左腕の傷口を抑える。


「エル! こいつ!」


 リークトがグラウェルに斬りかかる。しかし、一対一では勝てる見込みがつかない。ラーグは必死に攻撃をするリークトに呼びかける。


「リークト、落ち着け! 同時に攻撃しないと勝てない!」


「ははは。同時にかかって来た所で、変わらないさ! アルトォォ!」


 飛び掛かって来たリークトを蹴飛ばすと、アルトとエリーの方へと距離を詰めた。アルトは衝撃波を放とうとしたがグラウェルの後ろにリークト達がいたので放てなかった。


「ふん、衝撃波を放てば良いものを。その甘さがお前の弱点だ!」


 エリーの横で戦うアルトだが、グラウェルが戦いながらエリーの側に寄っている事を察した。下手に打ち合いを続ければ、エリーが狙われる。それは、アルトが庇う前提のグラウェルの戦略だった。


「アルト、衝撃波を放て!」


 グラウェルの肩越しにラーグの声が聞こえ後ろを見ると、ラーグ達は離れていた。


「吹き飛べ!」


 ありったけの思いを込めて、腕を突き出すと、グラウェルは訓練場の端まで吹き飛ばされた。


「よくやった! クラルド、エリーを移動させろ。アルト、リークトは俺と戦え」


「「わかった」」


 クラルドが戦いから離れてエリーを抱え訓練所の隅に行く。


「リークトは盾の型で、あいつが前に来たら防御するんだ。俺とアルトの上級剣術であいつを倒すぞ。行くぞ!」


 三人は倒れているグラウェルの元へ走る。グラウェルも起き上がり、血が流れる頭を押さえて、肩が揺れ始めた。


「・・・・・・くくく、はははは! 久しぶりだ! ここまで腹立たしく、高揚する気持ちは! レバレス様、あのガキ共のマーラであなたの宝刀を満たしましょう!」


 刀を構えたグラウェルは集中すると、刀全体を覆っていた黒い霧の量が増えた。


「マーラがグラウェルの方に寄って行ってる。何かする気だ!」


 溜め込みが終わったかのようにグラウェルは刀を空に掲げた。すると、刀身の部分が崩れ、黒い霧のみになった。


「死ね、ガキ共!」


 横に振られた刀身の部分が黒い霧となったレバレスの刀は、離れているにも関わらず、伸びてアルト達を襲う。とっさにアルトは衝撃波を放って剣の軌道を変えた。地面と軌道がズレた刀身の間をラーグとリークトが潜りグラウェルの懐に入る。


「よくも、エルを!」


「甘いわ!」


 リークトの一撃は黒い霧から刃のある刀身へと戻し受け止めると、ラーグが襲い掛かった。


「調子に乗るな。狂乱者が」


「ぐわっ」


 ラーグがグラウェルの腕へと一太刀入れた。


「皆、避けて!」


 アルトの掛け声と共に、二人は飛び退き、アルトの斬撃が入る。手ごたえのある感触にやったかと、思った。


「はぁ、はぁ、はぁ。・・・嫌だ。この刀は渡さない。渡さない!」


 体を深く斬られたグラウェルは剣を抱きしめる。狂乱してるかの様子は見ている者が息を飲んでしまう。


「レバレス様! 私に力を!」


 マーラがグラウェルに集中してきているのをアルトは感じた。グラウェルの体へと吸収されていく。

 そして、斬りつけた傷は黒い霧に覆われて血を止めていた。


「ははは。これはレバレス様のご加護だ!」


「しつこいな・・・」


 もはや、正気を感じさせないグラウェルの黄色の瞳を見て、ラーグはうんざりしたように言う。


 そこに誰かが駆け込んできた。


「ラーグ、受け取れ!」


「遅い!」


 パトロがラーグ専用の剣を渡した。パトロは、グラウェルの様子がおかしいとラーグが判断した所でラーグの剣を取りに行っていたのだ。


 ラーグがパトロに指示を出した。


「パトロ、エリーが毒を食らった。ポノリーの元までクラルドと一緒に運べ」


「わかった。一応、制限を解除してくれ」


「あぁ。『すべてを制限を解除する』」


 フワッと風を感じ、パトロの方を向くと力強いマーラが満ちていた。


「パトロ?」


「後でな」


 アルトの聞きたい事を感じ取ったパトロは手短に答え、エリーをクラルドと共にポノリーの元へと運びに行った。


「アルト、リークト。下がっていろ。あとは俺がやる」


「何言ってるんだよ! 全員でやらないと勝てない!」


「アルト、・・・・・・信じろ」


 力と自信に溢れた黒い瞳は、ただ信じろと訴えかけてくる。親友を危険晒す不安に、揺れる心を落ち着かせ決心した。


「・・・・・・信じる。リークト離れよう!」


「あぁ」


「ありがとう」


 穏やかな笑顔を浮かべラーグはグラウェルに向き直った。


「狂乱者、お前は俺の親友を殺そうとし友を傷つけた。絶対に許さない!」


 グラウェルはせせら笑う。


「剣を一本変えた所で何が変わる? 忌々しいセレスの小僧が、八つ裂きにしてやる!」


 二人は駆けだし、お互いに距離を詰める。

 グラウェルは剣を振り上げる。ラーグは回転を始めた。強い回転切りだ。


 バイィン!


 二人の剣がぶつかり合い金属音が響き渡る。グラウェルの刀が弾き返させた。そのまま、ラーグの第二波が来る。


「くそぉぉ」


 グラウェルは、迫るラーグの刃を躱そうと体を捻るが刃は届いた。剣はグラウェルの左腕に深く入り斬り落とした。


「あああぁぁぁ! 腕が!」


「やった!」


 腕を抑え叫ぶグラウェルに攻撃が通じたのだ確信した。

 そのままラーグは体を一回転させて、正面特化の構えになった。


「今のは、アルトを殺そうとした分だ!」


「ひっ」


 ラーグの気迫と、素早い突きの攻撃にグラウェルは恐怖した。右腕一本であのラーグの剣を受けないといけないのだ。刀の力があるとは言え、厳しいものだろう。


「くそ、くそ、くそ!」


 ロクに反撃も出来ないまま追い詰められるグラウェルは刀身を黒い霧に変えてラーグに襲い掛かった。


「危ない!」


 アルトは叫ぶ。黒い霧は激しくラーグへと向かう。直撃は避けれたものの右腕に受けてしまった。


「ッ。だが、終わりだ!」


 ラーグに傷を負わせた事に満足したグラウェルは迫るラーグの攻撃に無防備となっていた。そこへラーグの正確無比の突きが急所に入った。


「カハッ。レバ、レス、様」


 グラウェルは倒れた。


「ハァー。ッ」


「ラーグ!」


 傷を受けた右腕を抑え深く息をつくラーグの側に、アルトとリークトは向かった。


「大丈夫か!?」


「カッコつけたのに、一撃食らうとは思わなかった。ダサいな」


「そんなことないよ。まさか、あの状態のグラウェルを一人で倒すなんて、すごい事だよ!」


「そうだ。相手は狂乱者だけど、上級騎士だぞ!」


 二人の言葉にありがとうと笑って返し、疲れたように膝を付く。


「マーラを使い果たした。疲れたな」


「あぁ、ご苦労様」


 疲労で力が入らないラーグに肩を貸して休ませる。アルトは、ホッと息をつき全部が終わったと思った。上級騎士の陰謀。生き残った事に感謝した。


『我が刀を持て』


 アルトの頭の中に声が響いた。驚いて辺りを見回すと、同じく声が聞こえたのかリークトやラーグ達も周りを見ていた。


『我が刀を持って、己の願望を実現しろ』


 頭の中に声が響く。間違いなくレバレスの刀の呼びかけだった。


『我にまだ力は残っている。グラウェルの愚か者より、ふさわしい持ち主がいる。そうだ。お前だ。お前の心からの願いをこの世界に実現されろ』


 その場にいる者の目線はレバレスの刀に向く。頭には厳かでありながら甘い誘惑を漂わせる声が響く。

 声が聞こえたであろう人達がゆらゆらと刀に向かう。


(俺の願望。ミーナと幸せに・・・)


 アルトは肩を貸していたラーグから手を離した。


「待て! アルト、皆、それに触るな!」


 ラーグの呼びかけが聞こえるも、自然と足は刀に向かう。


『手段は目の前にあるぞ。さぁ、握れ!』


「ダメだ! リークト、その剣を持つな!」


 ラーグの叫び声に正気に返った。レバレスの刀をリークトが握っていた。

 悲しみの感情で疲弊した時に夢の中で見た光景だった。


『よくぞ、我が刀を取った。貴様の願望は?』


「エルと、幸せに、なること・・・」


『ならば、我が名の下、障害となるものを滅ぼすのだ!』


「障害。教会、魔物・・・」


『さぁ、我が力を与えよう』


 刀から出て来た黒い霧がリークトを包んでいく。


「リークト、ダメだ!」


 霧から出て来たリークトは黒い鎧を身に着けた、魔物だった。

読者のみなさまへ


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