グラウェルの野望
アルトはグラウェルの部屋から逃げて、人が大勢いる訓練所を目指した。階段を駆け下りる後ろからは、グラウェルが追いかけているのがわかる。
「はぁ、はぁ。どっかでエレベーターに乗らないと」
アルトが今いる階から訓練所まで、まだ遠い。どうやってやり過ごすか考えていると、人が多い階に出た。そこで助けを呼ぼうとしたが、エレーデンテの自分がここで騒いでも相手にされるのか不安に思った。
(人に紛れて、エレベーターに行こう!)
上から追いかけて来るのを感じながら、人に紛れてエレベーターを目指す。下級騎士達はエレーデンテの制服を着て歩くアルトを見るが、胸に付けている夜明けのバッジを見て何も言わずに去って行く。
「足音が消えたな。どこに行った?」
階段を下りて来たグラウェルはアルトが去った階で立ち止まる。グラウェルも上級騎士。マーラの扱いは長けている。その場で集中し直感力を高める。
「・・・・・・訓練所か。面倒な」
壁を蹴りたい衝動に駆られるが人目を気にして堪える。この苛立ちは宝玉を取り返してから晴らそうと、エレベーターに向かう。すると、エレベーターの中に入る飴色の髪を見つけた。
「待て!」
叫ぶがエレベーターは下へと降りていく。
「くそ!」
上級騎士専用のエレベーターを使って、自分も下へと降りる。
***
幸いなことに誰も乗っていないエレベーターに乗り込み、息を整える。グラウェルが何故、自分を毒殺しようとしたのか。疑問が出るが、今は訓練所にいる仲間達や教官を頼った方が良いと思い訓練所を目指す。
「それにしても何なんだこれ?」
レバレスの宝玉を持ってから、これを誰にも渡してはいけないと強い気持ちにされる。グラウェルから逃げる時に咄嗟に掴んだが、不思議と魅了される。
「ダメだ。こんなことを考えている場合じゃない。あっちも乗ったはずだから、少しの時間差で俺の方が訓練所に着くか。皆、助けて」
仲間達の顔を思い浮かべ強く祈ると、エレベーターは訓練所の階に着いた。アルトは飛び出す勢いで皆がいる訓練場に向かった。
「皆、助けてくれ!」
剣の訓練をしていたエレーデンテ達はアルトの声に反応した。教官も振り向き驚いた顔をする。
「アルト、どうした!?」
切羽詰まったアルトの顔に人が集まる。
「グラウェルに毒殺されそうになった。紅茶に毒が入れられてたんだ! それで逃げて来た」
アルトの言葉にまさか、と教官達が反応にしエレーデンテ達がざわつく。
「待ちなさい! 彼は、古代の秘宝に魅入られて私から奪い逃げたんだ。下級騎士達、アルト君を捕らえろ!」
追いついたグラウェルが怒鳴る。その言葉に困惑しながら、アルトの右手に持つレバレスの宝玉を見て教官達が近づく。
アルトはどうすればいいかわからず、近寄る教官達から距離を取る。
「アルト君、とりあえず持っている物を渡すんだ」
教官の一人が手を差し出す。だが、グラウェルにこれを渡してはいけないと直感が告げる。
「できません。これをグラウェルを渡したらいけないと直感が言うんです!」
「言った通りだろう。秘宝に魅入られている。取り戻すんだ!」
グラウェルの言葉とアルトの拒む態度で教官達は秘宝に魅入られていると判断し、アルトを捕まえに来た。抵抗するが、取り押さえられてレバレスの宝玉を奪われる。
そこで声が掛かった。
「待ってください。それはアルトがグラウェル卿との訓練で使っていた宝玉です。私は実際にそれを見ました」
ラーグが前に出てアルトを庇う。
「セレス君、どういうことだ?」
「それはグラウェル卿の部屋でアルトが上級騎士訓練で使用していた物です。古代の秘宝かは、分かりませんが訓練道具です」
ラーグの言葉に苛つきを隠さずに、グラウェルは言う。もはや、いつもの貴族然とした風格は無い。
「そんなことはどうでもいい! 早くその宝玉を持って来い!」
「教官方、アルトは嘘をつくような人だと思いますか!? グラウェル卿に毒殺されかけたというなら、一度、グラウェルとの距離を取らせて、双方の話を聞くべきです!」
「黙れ!」
ラーグの抗弁にアルトを知る教官達は心を動かされるが、上官であるグラウェルの言葉を無視するわけにはいかない。
「グラウェル卿、落ち着いてください。秘宝とやらは、我々が預かるので何があったのか教えてください」
「お前達は早く、宝玉を持ってこい! 命令だ!」
その言葉にグッと教官達はなり、宝玉を持った教官はグラウェルの方へ行こうとする。
「渡したら、ダメだ!」
「教官! グラウェル卿の様子は明らかにおかしいです。一度、グラウェル卿に落ち着いていただいた方が良いかと思います」
グラウェル、アルト、ラーグの言葉に宝玉を持つ教官の心は揺れる。命令には従わないといけないとわかりつつ、信頼しているエレーデンテ達の言葉に迷わされる。その心の揺れを感じ取ったかのように一つの誘惑が生まれた。
『こんなに争うなら、自分が持っておけばいい』、と。
宝玉を持った下級騎士は大切に抱きかかえる。その様子に他の下級騎士は訝しむように見る。
「これは、俺の物だ・・・」
「教官?」
宝玉を持った下級騎士の雰囲気が変わっていく。それに周りも気付き、注目する。
グラウェルは舌打ちをし、剣を抜いた。
「バカが」
「あぁ!」
抜いた剣を持って近づき下級騎士の胸に突き刺した。落とされた宝玉を拾う。
「グラウェル卿!?」
「なにを!?」
「黙れ。こいつは宝玉の持つ魅了に取り憑かれた。・・・・・・何だ。私に剣を向けるのか?」
同僚が刺されて、驚いた教官達は真剣を抜き構えた。
「グラウェル卿、騎士団の規則に則り、あなたを拘束します。武器を捨ててください!」
「平民の分際で私に命令するのか? 平民の分際で!」
グラウェルの叫びと同時に宝玉は剣へと変わり、警告を出した下級騎士を切り伏せた。その剣は、カバヴィル大陸では見ないような細く飾りが少しあるような地味な剣だ。あのキラキラと輝く宝玉から変化した物とは思えない。
「あれは刀だわ。エルフ族の故郷のサラザール島で作られる剣よ」
エリーが呟く。グラウェルは刀を持って近づく。二人も同僚が殺されたことで、アルトを抑えていた下級騎士達はグラウェルを止めにかかる。しかし、あっという間に切り伏せられてしまう。エレーデンテ達はその光景に恐怖し霧散する。
「アルト君、君がおとなしく紅茶を飲んでいればあの三人は死なずに済んだのにな。せっかく、君の好きなニクスの花の中でも上等な物を用意したのに。まったく」
血を垂らす刀をアルトに向けた。
「あとは、君の奇跡のようなマーラを宿した血をたっぷりとレバレスの刀に吸わせれば、真の力を取り戻す。さぁ、お友達が殺されたくなければ、命を差し出せ!」
アルトに近づくグラウェルに、武器を持っていないアルトは後ずさるしかない。
(武器が・・・!)
近づくグラウェルと距離を取ることしか出来ない時にアルトの方に何かを投げられる。
「受け取れ!」
リークトがアルトに真剣を投げ渡した・
「ありがとう!」
「どいつもこいつも邪魔ばかりを!」
剣を受け取ったアルトにグラウェルは間合いを一気に詰めて斬りかかった。間一髪のところで受け止める。
「力が、強い」
「そうだろう。君のお陰で、レバレスの刀の能力はほぼ完成形だ。あとは君に最後の貢献をしてもらうだけだ! 何!?」
「なめないでください。皮肉にもあなたのお陰で、俺の体内には莫大なマーラが宿っています。それで身体強化を行えば、力押しくらいじゃ負けない!」
アルトが言い切った、その時グラウェルの背後に影が伸びた。
ガキン!
「ラーグ!」
「ちっ、セレスか」
剣を持ったラーグがグラウェルの背後を襲った。あと少しの所まで刃は届いていた。
「さすが、上級騎士。今の一撃を防ぐか」
「なめるな、小僧!」
グラウェルの叫びと共に刀は黒い霧を纏った。戦う二人はあの霧に触れるのは不味いと直感で感じる。
「グラウェル、アルトを狙っていたのはわかっていたが、何故なんだ? その気持ち悪い刀は何だ?」
気持ち悪い刀という言葉に眉を寄せながら、レバレスの刀について話した。
「この偉大な刀に何て言い方だ。これはノーラの西の王レバレスが、東の王とその軍勢を殺してノーラを統一した時に使われたものだ。まさに王の刀剣だよ。わかるだろ? この力強さを。この刀の力は、殺せば殺す程、殺された者が宿す生命力を刀の所有者に力を与えることだ。だが、それには条件が必要だった。この刀が、マーラで満たされていないとダメだった。マーラが尽きた状態では刀の形の維持でさえ出来ない。もうわかるだろ?
アルトにはそのマーラの供給と、生贄になってもらおうとしたわけだ。お前ほどのマーラの感知力を持つ者を殺せば、私は名実ともに最強になれる!」
「アルト。お前、すごく面倒くさい物にマーラを送っていたんだな・・・」
「しょうがないだろ! 知らなかったんだ!」
「それにしても、よくそんな刀を見つけたな」
ラーグに呆れられながら、言い返しすと無視されてグラウェルに問いかける。
「私はノーラ出身の貴族でね。レバレス王の話はよく聞いたものさ。まさか、異教徒のアジトにこれが祀られているとは思いもしなかったが。刀を握った瞬間にレバレス王が頭の中に現れてね。この力を私にやるから、人々を殺し尽くしレバレスの名を広めろと。私は選ばれたんだ! レバレス王とこの刀に! だからレバレス王の名の下に、人々を殺し、最強になり、バカな貴族やプルセミナ教の代わりに大陸を支配する! アルト、お前はそのために死ね!」
興奮からかグラウェルの瞳は茶色から黄色に変わっていた。
剣を素早く振り下ろし、アルトに襲いかかるグラウェル。防御で受け止めると、左右からグラウェルを攻撃する者がいた。
「エリー、リークト!」
「そんな事、させないわ!」
「アルトには指一本も触れさせない!」
グラウェルは後ろに飛び退けるが、それを咎めるように力強い一撃が襲う。かろうじで受け止めた剣の先にいたのはクラルドだった。
「おりゃぁぁ!」
上からの押される圧迫に膝を付きそうになるグラウェル。
「邪魔をするなぁぁぁ!」
雄叫びと共にグラウェルを中心に周りに衝撃波が飛ばされる。
「っ!」
周りを囲っていた、エリー達は吹き飛ばされる。
「なめるなガキ共! この刀にはな、見つけた時にいた異教徒と教会騎士二十人。一年前に殺した百人。この前、殺した下級のバカ二人分の力を宿しているんだ。お前達、雑魚では相手にならん! これが百二十二人分の力だ!」
横に振り払った刀は横に伸びた黒い霧を飛ばしてくる。
(ヤバい!)
アルト達に迫る鋭い黒い霧に危険を感じてアルトは衝撃波を出した。衝撃波を受けた黒い霧は勢いを失くし消えて行った。
「ほう、良い判断じゃないか。あれは剣では防げない。防げるのはマーラのみだ!」
再び、刀を横に振り払い黒い霧を飛ばしてくる。アルトも同じように衝撃波で消していく。その応酬を繰り返す。
「皆、あれはマーラだ! わからないけど、触れると不味い!」
アルトが衝撃波で黒い霧を打ち払っている間にラーグやエリー達はグラウェルに攻撃する。グラウェルの動きは次第に速くなり、五人対一人の戦いで徐々に押されていく。
「きゃあ!」
「エル!」
隙を突かれたエリーに黒い霧を纏った刀が入った。
「大丈夫! 浅い傷よ!」
「ははは、この黒い霧が何のためにあると思っている!」
グラウェルの高笑いにエリーは自分の傷口を見ると、黒い染みがゆっくりと広がっていた。
「痛い! なに、これ・・・」
「マーラの感知者には堪えるだろう。黒いマーラで浸食されるのは。毒みたいなものだ!」
「エリー!」
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