怒る猫 ③
その夜は久しぶりに運動をしたせいか、食欲もすすんで、気持ち良くソファに寝転がっていた。里子が横に座って身体をゆっくり撫でている。気分は極楽だ。その横で清が大笑いしている。
「もう、まったく。笑いごとじゃないわよ」
まだ、笑いの止まらない清も手を伸ばしてわしの頭をがしがしと撫でた。やっぱりこいつは不器用だ。
ジャンプした俺はもちろん咲恵なんかには目もくれず、ソファの向こうにあるカウンターの上に見事に着地した。振り向いた咲恵は、至近距離で目を合わせると、悲鳴を上げてそのまま転がるように玄関を飛びだして行った。まったく来る時も帰る時も騒がしいやつだ。その後、里子がわしを抱きしめて、ほんの少し目を潤ませたことは、まあ内緒だ。
わしがまだ若い頃、里子の腹が少し大きくなった事がある。その頃、何がおかしいのか清も里子もよく笑っていた。
里子は毎日、わしと並んでソファに座って何かを編んでいたし、休みになると清は部屋の家具を移動したり、里子の代わりに文句も言わず買い物をしていた。
だが、ある日の夕方、トイレから出てきた里子が真っ青になって、二人は慌てて出掛けていった。 一人で帰ってきた清がソファに座り込んだ時、身体からわしが年に一度行く病院と同じ匂いがした。
何日かしてぺったんこのお腹になった里子が帰ってきた。里子はしばらくめそめそ泣いていたが、清はいつも笑っていた。だが、一人になった時、清が涙をぬぐっていたのを知っているのはわしだけだ。
清の実家とやらがどんなところかは知らないが、清と里子はいつかそこに住むつもりらしい。小さな庭があるらしく、里子は楽しみにしている。前にベランダで菜の花が咲いてると清に言われ、伸びすぎたブロッコリーだと言い出せず、悔しがっていたから、また挑戦するつもりだろう。
今更引越なんか面倒だが、この二人の会話の半分は俺のことだから、当然わしもついていくことになる。このソファだけは持っていってもらおう。家族と気に入ったソファがあるなら。結局、それが最高だってことだ。
小説の同人誌に参加していて、合評会で、よくまとまっていますね、ほのぼのとしていいですね、などと感想をいただき、ほっと胸をなで下ろしていると、一人の男性がぽつりと猫って長生きなんですねと呟きました……。猫って長生きなんですね……猫って……衝撃が静かに広がり、その後爆笑が。
(号泣)




