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王女様「このゴムみてぇな肉はなんですの!?」  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中


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おまけ2 その名はラディ


 本日、正午。


 王城の前には王家の紋章をペイントした豪華な馬車が到着する。メディナが報告していた通り、王妃が帰還したのだ。


「ご苦労様」


 護衛騎士である薔薇達へ労いの言葉を掛けたのは、馬車より降りて来た女性。


 リリィと同じく綺麗な金の髪を持ち、瞳の色も髪と同じく金色をしている。リリィをそのまま成長させたような美しく凛とした顔立ちであるが、一つ一つの所作に優雅さと気品が感じられる。スタイルは引き締まっており、一児の母とは思えぬほどのナイスバディだ。


 水色のドレスを纏う彼女は優雅な足取りで城の中――夫と娘が待つ謁見の間へと向かった。


 謁見の間のドア左右に待機する騎士は王妃の姿を目視すると、頭を深く下げながらドアを開いた。


 中へと足を踏み入れた彼女の顔がパッと輝く。きっと愛する夫と娘を見つけたからだろう。


「リリィちゃん。アナタ。ただいま戻りました」


「うむ。外交、ご苦労であった」


「お、お母様。おかえりなさいませ」


 こうして夫婦娘と揃うのは三ヵ月ぶりだろうか。


「ディレライトはどうであった?」


「相変わらずだったわ。お姉様も元気でした」


 ヴェルトリアン王国王妃、ラディ・ヴェルトリアン。


 アーノルド王と結婚する前の名はラディ・ディレライト。


 彼女の出身はヴェルトリアン王国の西にある大国、同盟国でもあるディレライト王国。


 そう、彼女はディレライト王国の元第二王女という身分であった。


 ――ディレライト王国は女王制の国であり、ラディの姉が現女王として君臨している。


 今回、彼女がディレライト王国へ向かったのは外交が主な内容であったが、年に一度の里帰りとしての意味合いも含まれていた。


「こちらはどうだったかしら? ある程度は報告を受けているけれど」


 そう言って、ラディは娘であるリリィに顔を向ける。彼女が報告として受けたのは、アジャダブ王国の件だろう。


 敵兵と遭遇した娘を心配してか、困り顔を浮かべては「あの国も困ったものね」と零した。


「まぁ、それは後にしておきましょう。それよりも、リリィちゃん」


 ラディはリリィに駆け寄ると、愛しい娘をぎゅっと抱きしめた。愛する子供との三ヵ月ぶりになる再会だ。


 王の傍に控える宰相だけではなく、近衛騎士達やリリィの護衛となるメディナとユン、侍女であるアンコや執事長であるシュタインといった、王族に近しい者が勢揃いした場で抱きしめてしまうのも無理はない。


「お、お母様……」


「会いたかったわ。愛しのリリィちゃん! もう本当にお母さん寂しくて――ん?」


 娘をぎゅぎゅっと抱きしめるラディであったが、抱きしめた瞬間に彼女の眉間に皺が寄る。


 彼女が感じたのは、三ヵ月前とは違う抱き心地。何度もぎゅっぎゅっと感触を確かめるように抱きしめると、ようやく娘を解放した。


 だが、彼女の両手は娘の両肩に置かれる。そのままジッとリリィの顔を見つめて――


「リリィちゃん。お菓子食べ過ぎたわね?」


 ギクゥ! と言わんばかりに、リリィの肩が跳ねた。


 娘のリアクションを見たラディの顔がどんどんと険しくなっていき、子を叱る母の顔へと変貌していく。


 対するリリィの表情は「やべえ、やべえ」と見るからに焦り始めていた。


「申し訳ありません」


 そう言って一歩前で出たのは侍女アンコだ。


 深々と頭を下げる彼女を見て、リリィは内心で「さすがは私の侍女! 庇ってくれるのね!」と思ったに違いない。ホッとしているような表情が何よりの証拠だ。


「先日行いました公務にて、黄金小麦の成果確認としてお菓子を食べる事が多くございました。公務の一環として判断致しましたが、私の配慮が足らなかった次第にございます」


 そう告げた後、アンコはもう一度頭を下げた。


「そう。公務では仕方ありませんね」


 リリィの肩に掛かっていたラディの両手より感じる圧が若干だけ和らぐ。


「で? どれだけ食べていたのかしら?」


「ザイード伯爵邸滞在一日目はケーキを四切れ。夜寝る前に伯爵閣下のご息女よりお茶会へ誘われてクッキーを二十枚と砂糖たっぷりの紅茶を三杯」


「へぇ……」


 アンコの正直な報告を聞きながら、ラディは目を爛々と輝かせてリリィを見下ろした。


 きっと、ラディは「どうして節度を保った量にしなかったのかしら?」「どうせ、公務だからと言って調子に乗ったのね」と娘の行動を推測しているに違いない。


 この時点でリリィの体はマグニチュード三くらい震え始め、アンコに向かって「う、裏切りましたわねェ!?」と焦り顔を復活させた。


「翌日、朝食のデザートとしてハチミツたっぷりヨーグルトを二杯。昼にはホールケーキを一つ。出発前にホイップクリームをたっぷり乗せたクッキーを十枚お食べになりました」


「ふぅん。そう。リリィちゃん、お母さんとの約束を忘れてしまったのかしら?」


 もう完全にブチギレ状態だ。


 外交へ向かう前、母との約束として「お菓子は節度を守って食べること」と約束したはずなのに。それを忘れていたのか、意図的に無視したのか。どちらにしても、今更何を言い訳しても手遅れである。


「お、お母様……? 違うのよ……?」


 ガタガタガタ。


 謁見の間全体が地震発生時と同じように小さく揺れた。飾られていた装飾品などもカタカタと揺れ出す始末。


 これはリリィの体が地震の如く震えているせいなのか、それともラディから放たれる激しい闘気のせいなのか。リリィは涙目で母の顔を見上げ、ラディは金の双眸を爛々と輝かせながら見下ろし続ける。


「待て、ラディ。我が娘、リリィは――」


「アナタは黙ってて」


「はい」


 玉座に座る娘大好き王アーノルドの介入も虚しく終わった。妻の一言で黙らされた最強王は能面みたいな顔で「ビタァ!」と体を硬直させてしまう。


 その後、背筋を伸ばしたままで玉座に座って一ミリも動かない最強王。きっと心の中では娘に謝罪の言葉を囁いているに違いない。


「リリィちゃん。お母さん、いつも言っているわよね? お菓子を食べても良いけど、その分は運動なさいって。それが出来ないなら、どうして節度のある量を食べないのかしら? どうして約束も守れないのにいっぱいお菓子を食べてしまうのかしら?」


 そう言って、彼女は娘のお腹や二の腕を触った。三ヵ月前よりも若干ながら肉がついている娘の体は、決して成長期や子供だからといった理由からのものではない。


 しかし、母の威圧に圧倒されて終わるかと思いきや、リリィは大胆な行動に出た。


「……ッ! お母様!」


 リリィは肩に置かれた両手を振り切るように、大きくバックステップ。


 態勢を整えた後、彼女は両足に力を入れる。


 力いっぱいに床を蹴り、床が抉れるほどの勢いをつけて、母へと右ストレートを繰り出した。それはリリィにとって全力の一撃だったろう。恐らく、魔獣が食らえば体全体が木っ端微塵になるほどの威力である。


 しかし――


「やっぱり運動不足だわ。三ヵ月前より鋭さが落ちているもの」


 アジャダブ人を一撃で屠り、魔獣でさえ一撃で屠る。Aランク冒険者であるユンが驚愕するほどの力を持つリリィの一撃を、母であるラディは片手で受け止めた。


 受け止めた瞬間、謁見の間にはソニックブームのような空気の衝撃波が発生する。壁や柱には小さくヒビが入り、控えていた家臣達だけじゃなく屈強なモヒカンとげとげ肩パット近衛騎士達でさえも尻餅をついてしまうほどの衝撃だ。


 だが、しかし。王妃ラディはそれを涼しい顔で受け止めた。


 受け止めて、口元に三日月を浮かべたのだ。


「リリィちゃん。今日はお説教。明日からはお母さんと一緒に運動しましょうね?」


 ニヤァ、と笑う様はまさに悪魔のよう。


「うっ……」


 それを見た王アーノルドは体中の毛が強制的に逆立ち、腹に手を当てて苦悶の表情。結婚する前、彼女との出会い――そして、彼女から受けた()()を思い出したようだ。


 近衛騎士達は全員揃って顔中に脂汗を滲ませ、アンコとシュタイン、サンドマンやメディナですら体を震わせて立ち上がれない。気絶していないのは忠臣としての意地だろう。


 ユン? もうとっくに泡を吹いて気絶している。


「ひ、ひいい! い、いやですわ! いやですわあああ!」


 右手を握られた状態で持ち上げられたリリィは、バタバタと片手両足を暴れさせた。だが、すぐにラディに抱え込まれて身動きが取れなくなってしまう。


「もう、しょうがない子ね。……アナタ、先に部屋へ戻っているわね」


「いやですわァァァッ! お父様ァァァッ!」


 必死に父へ助けを求めるリリィを抱え、謁見の間を出て行ってしまうラディ。だが、王アーノルドは腹を抑えたまま何も出来なかった。


「……ご、ご健在なようで何よりですな」


 二人の姿が消えた後、そう小さく呟いたのはシュタインだった。


「……うむ。久しぶりにあの時を思い出した」


 王アーノルドも苦悶の表情を浮かべながら小さく返事を返すことしかできない。


 ――彼女こそ、霊長類最強女子。最強王アーノルドと三日三晩の死闘を繰り広げ、世界で唯一最強王に膝をつかせた女性。


 結果として最強王アーノルドに負けはしたものの、最強王に「意識を保つのが精いっぱい」と言わせるほどの強者。


 名をラディ・ヴェルトリアン。


 現ヴェルトリアン王妃にして、ディレライト第二王女時代には『鉄血拳の乙女』と異名を馳せた最強の女性その人である。


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