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王女様「このゴムみてぇな肉はなんですの!?」  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中


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おまけ1 お散歩と平民屋台

第4回ドリコムメディア大賞で銀賞を受賞しました。

ゴム肉が本になります。


 ザイード伯爵領より王都へ帰還して一週間後。


 リリィは変わらぬ日々を過ごしていた。


 毎日行われるお勉強をこなし、作成中のグルメ本を清書しつつ、暇になったらアンコやメディナを連れて王都の外をお散歩。これが彼女にとっての日常である。


 この日常に最近加わった要素と言えば、お供の中にユンが加わったこと。


 もう一つは散歩中に見つけた食べ物を味見する事だ。


「うーん、良い匂いですわね」


 本日のお散歩は王都南区、平民街にある公園だ。


 公園の中心には噴水があって、噴水には馬に跨ったアーノルド王の銅像が鎮座している。時間になると噴水からシャワーが放たれ、水のアーチの中を走る勇敢な王として表現されているとか。


 ただ、鼻をひくひくさせる彼女の目的は噴水やら公園から見える景色やらではない。公園の入り口付近に並ぶ屋台が目的だ。


「あれは何ですの?」


「あれは卵スープを売っている屋台ですね」


「あちらは?」


「グレイシープと呼ばれる魔獣の肉を売っている屋台です。醤油に浸した骨付き肉を焼いているようですね」


 リリィは屋台を指差しながら、お供しているユンに商品の詳細を聞き続けた。


 公園で営業する屋台の数は十軒ほどであるが、ほとんどが気軽に食べられる魔獣肉かスープの類だ。主食であるパンを売る屋台は無く、パンを食べたいならば食堂に行くのが常識となっているからだろう。


「ふむ。では、骨付き肉を食べるとしましょう」


 少し悩んだリリィはグレイシープの骨付き肉を選んだ。どれか一品だけとアンコと事前に約束していたからだ。


「分かりました。買って来ますね」


 買い物役として立候補したユンが屋台に走って行ったあと、リリィ達は公園の中を進んで行く。中央の噴水前まで行くと、メディナが左側を指差した。


「リリィ様。あちらのベンチで食べましょう」


 指差した先には超絶豪華なベンチがあった。木材を使用した造りであるが、高級感を醸し出すデザインと光沢を出す特殊な加工。どう見ても貴族が住む屋敷の庭に配置されるような高級品である。


 下手に座れば不敬罪として首が飛びそうなベンチには当然ながら誰も座っていない。公園で遊ぶ小さな子供達でさえ寄り付かず、大人達は畏怖するような視線をベンチに向けていた。


「ふむ。中位貴族が座るようなベンチですが、良いでしょう」


 ここは平民街ですからね、仕方ないですわと言ってリリィはベンチの中央に腰掛けた。


 両脇にはメディナとアンコが待機して、ユンの帰りを待つ。


「お待たせしました」


 アンコを除いた――事前に不要と言われていた――全員分の骨付き肉を購入して戻って来たユンは、茶色の紙で巻かれた肉をリリィとメディナへ差し出す。


「こうして、紙を骨に巻いて食べるんですよ」


 紙を捲ると長い骨が敢えて残された骨付き肉が。


 ユンは紙をずらしていき、持ち手としての役割を持つ骨に紙を巻いた。


 ホカホカ出来立ての骨付き肉にガブリと食らい付き、平民屋台の醍醐味たる食べ方を披露して見せる。


「なるほど。あむっ」


 ユンに習ってリリィも肉へ大きく食らい付く。


 醤油に浸していたおかげか、肉にはしっかりと醤油の味が染みわたっている。加えて、屋台の炭火で焼いた香ばしい匂いが充満した。


 肉にもちゃんと火が通っているし、それでいて火が通り過ぎて硬いなんてこともなく。噛むと簡単に骨から肉が剥がれて、アツアツの肉汁がジュワッと溢れ出る。


 肉としては高級羊肉よりもジューシー……というよりも、噛む度に肉汁が溢れ出る。ただ、羊肉よりも野生味が強く、苦手な人は首を傾げるかもしれない。


「うまっ! ほふほふ!」


 しかしながら、リリィは問題無さそうだ。


 美味しそうに肉を頬張る様子は、王城で食べる羊肉とそう変わらないように見える。外で焼きたてをワイルドに食べている分、こちらの方が美味しそうに見えるが。


 アツアツの肉を楽しんでいると、リリィの持つ肉から醤油タレと混じった肉汁が水滴のように落ちる。


 向かう先はリリィの着るドレスのスカートであるが、目にも見えぬ速さでアンコが肉汁をハンカチでキャッチした。


「こうして、縦に肉を持つと肉汁やタレが零れませんよ」


 ユンが向きを縦にしているのは、持ち手に巻かれた紙へ肉汁やタレを吸収させるためだ。対し、リリィは真横にして食べていた。


「ふむ。なかなかに考えられていますのね」


 これが平民の知恵か。そう納得するリリィであったが、横で骨付き肉を頬張るメディナも無言で頷いていた。


「これ、当たりですね。グレイシープのラムチョップです」


 はぐはぐと肉を頬張るユンが嬉しそうに言う。


「ラム……。仔羊ですの?」


「はい。グレイシープは群れで行動する魔獣なのですが、群れはグレイシープの子供を囲って外敵から守っているんです。冒険者が近づくと群れが一斉に襲って来るので、グレイシープの子供を捕獲するのは難しいんですよ」 


 グレイシープは灰色の毛に覆われた羊型の魔獣だ。常に群れで行動しており、単体での攻撃性は低いものの、群れ全体となると厄介な魔獣である。


 オスが統率の執れた動きでメスと子供を逃がすように立ち回り、冒険者や外敵と戦う。オスが冒険者や外敵と戦っている間にメスと子供は遠くに逃げて身を隠すのだ。


 故にグレイシープの子供を仕留めるにはオスを全て排除せねばならない。恐らく、どこかの地域で増えすぎた群れの殲滅戦が行われて、その結果市場に回った肉のようだ。


「そういう理由もあって、屋台でラムが食べられるのは珍しいんですよ」


 普段の屋台であれば、手頃な価格で提供している事も相まって肉の部位など指定できない。その時々に仕入れた肉をランダムで焼いて客に提供するのだ。


 しかし、今回はユンが「王女殿下がお食べになる」と事前に屋台のオヤジへ告げたのが影響しているのだろう。


 言った後、屋台のオヤジが新しい肉を出していたので、とっておきの肉を出してくれたようだ。


「なるほど。マトンの方はどうなんですの?」


「グレイシープのマトンは、ラムよりもっと野生味が強いですね。臭みを消すのに大量の香辛料と併せて濃い味付けをするので酒のツマミにする人が多いです」


 マトンの方は冒険者達からは特に人気が高い。依頼から帰還した冒険者達が酒場に行って、エールを片手にマトンへ齧り付く姿は平民達にとって見慣れた光景だ。


「平民の酒場とやらにも言ってみたいですわ!」


「あー……」


 目をキラキラさせながら言うリリィだが、ユンはチラリとアンコを見た。すると、彼女はゆっくりと首を振る。


 荒くれ者達が集う平民の酒場は、まだリリィには早いとされているらしい。まぁ、冒険者達が集う酒場はうるさいし礼儀もクソもないので納得だが。


「そ、そうですね。良い時期が来たらにしましょう」


「ええ。お願いしますわね」


 と、そんな話をしながらグレイシープのラムチョップを食べ終わる。残った骨は紙に包み、ユンが回収して公園のゴミ箱へ。


「リリィ様。そろそろ王城へ戻りましょう」


 食べ終わったのを見計らって、メディナが提案した。彼女に頷き、一行は迎えに来た馬車に乗って王城へと帰還していく。


 その途中、思い出したかのようにメディナが告げる。


「リリィ様。明日のお昼にラディ様がご帰還なさると報告が入っておりましたよ」


「ゲェー!?」


 ラディとはリリィの母、王妃の名だ。


 彼女はその名を聞いた途端、大きく仰け反った。


「お、お母様が……」


 それどころか、この世の終わりを告げられたかのような表情を浮かべる。

  

「早くリリィ様にお会いしたいと、予定よりも早くご帰還なさるそうです」


「そう……」


 ガックリと肩を落とすリリィ。そのリアクションにユンは疑問符を浮かべる事しかできなかった。


 王妃であるラディは外交を担当している事もあって、王とやリリィに比べて平民の前に姿を見せる事が少ない。


 ユンが最後に見たのは、王都へ越して来た年の年末――今から五年以上も前が最後だろうか。


 どんな人なんだろう、と脳内で想像力を働かせるが……。


 翌日になって、ユンは王妃の凄さを目にするのであった。


せっかく銀賞を受賞したので新規エピソードでも、と思っていたのですが改稿用のプロット作りや他商業作品の作業に追われているので、過去に死んだHDDから何とかサルベージできた部分を掲載してお茶を濁したいと思います…。

すいません…。


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