1570. アンジーは、いつもいい子にしているよ!
「公都に戻るのも久しぶりね。数週間離れたくらいでは、どこも変わりはないけど……なんだか、ほっとするような気がするわ」
「そりゃな。敵地のど真ん中に行っていたわけだし、公都にいれば、ある程度守られるからな」
私たちは、公都についたので、少し気を緩める。見覚えのある街、見覚えのある城などなど、帰ってきたという安心感に、護衛の兵たちも含め、少し顔の表情が柔らかになっている。
「さて、これからどうするんだ?」
「そうね。荷物があるから馬車はアンバー公爵家に向かうことになると思うわ。セバスとナタリーの荷物もこちらで預かっているし、ウィルのもあるけど、他の近衛たちの分はないから……」
「それじゃあ、近衛たちを解放してもいいか?」
「えぇ、もちろん。お願いできる?」
ウィルが指笛を鳴らすと、一人の近衛が近づいてきた。よく見知ったその近衛は、私に会釈をしたあと、ウィルの話を聞くために、馬車に横に馬を付ける。私は、邪魔にならないように、少し下がり、馬を歩かせた。
「んじゃ、よろしく頼むな」
「はっ、隊長にその旨を伝え、セシリア副隊長に迎えの用意をお願いしてきます」
ウィルたちが、話終えたので、馬でかけていく近衛の後ろ姿を見つめながら、ウィルの方へ私は向かう。移動中は、基本的に小窓から顔を出していたのに、今は引っ込んでいるので、中でナタリーたちにも、このあとのことを話してくれているようだ。私は、中の話に聞き耳を立てながら、ウィルの細やかな気配りに小さくありがとうと言った。
「姫さん、とりあえず、俺たちもアンバー公爵家へ向かうよ。そのあと、悪いけど、馬車を貸してくれる?ナタリーの荷物を持って行かないといけないし」
「えぇ、それはもちろんよ。ナタリーには、今回、いろいろな布地や小物も買ったから」
「そのほとんどが、今後の商品開発用だっていうから……本当、仕事一筋って感じ。俺の心配は、必要なさそうだな」
「そんなことないわよ。ナタリーも嬉しいはずよ。友人が心配してくれることを嬉しく思わない人はいないわ」
「そうだといいけど……。御者も貸してくれると嬉しいな」
「わかった。手配するわね」
私たちは、数人の近衛とともに、アンバー公爵家へと向かう。公都ならば、護衛は必要ないが、ウィルたちにも、近衛としての任務のひとつなので、断ることはできない。城の前で、公爵邸へ向かうものと、セシリアの迎えについていくものと別れる。
城からは、公爵邸は近いので、あっという間につくのだが、門から玄関までは、やや遠い。公爵邸の中まで入ったことがないものが多いので、少し浮足立っている近衛たちを見てくすっと笑ってしまった。
「……まぁ、最初はこうなるわな。俺たちも、初めて来たときは、あんな感じだったと思うけど」
「そうね。アンバー公爵邸は、かなり公都の貴族の中でも、広大な敷地があるから」
「なんてたって、筆頭貴族だから」
「そうね……、さぁ、玄関が見えてきた……、あっ!」
私は、玄関が見えたとき、馬を駆けさせる。私の後ろから、ウィルが「いってら~」と緩い感じで見送ってくれた。
「ジョージア様っ!アンジェラ!」
私は、前を守る近衛たちに道を開けてもらい、馬を駆けさせる。大きく手を振ると、二人は私を見て、同じく手を振ってくれた。
「ただいま戻りました」
馬から飛び降り、ジョージアへ抱き着く。私がそうするだろうとジョージアは考えていたようで、アンジェラを少し下がらせ、ディルに預け私を抱きとめた。
「おかえり、アンナ。よくぞ、無事に帰ってきてくれた。あぁ、アンナ。おかえり、おかえり」
「ジョージア様、少し痛いです」
私が無事に戻ってきたことをとても喜んでくれたジョージアは、私をきつく抱きしめてくれる。少し痛いくらいが、無事に戻れたという安心感をさらに与えてくれた。アンジェラも、私の腰に抱き着いてくる。
「ママ、おかえりなさい」
「ただいま、アンジェラ。いいこにしていたかしら?」
「アンジーは、いつもいい子にしているよ!」
ニッと笑うアンジェラの柔らかな銀の髪を撫でると、目を細ている。私も抱っこしてほしいというにジョージアを見ていたようだったが、後ろからアンジェラを抱き上げたものがいた。
「わぁ!」
「お嬢、俺も帰ってきたけど?」
ウィルが片腕でアンジェラを抱き上げると、ビックリしていたアンジェラもニコと笑ってウィルの首に抱き着いていた。
……さすが、初恋の相手は違うわね。
アンジェラを見つめていると、ジョージアがおもしろくなさそうに、ウィルを見ていた。おかげで、私はきつい抱擁から解放されたけど、娘に気を持っていかれたことに、少し寂しさを感じた。
「ウィル、お仕事はどうだった?」
「ん-、まぁ、お嬢のお母さんは、守れたから順調だったかな?」
「どこが、順調なのよ。ケガしたくせに」
「そういうなって、姫さん。姫さんが、無事にお嬢の元へ帰ることが、俺らの役目なわけだしさ。なぁ?みんな」
私たち親子の再会を見守っていた近衛たちは、頷きあっている。私も、「ありがとう」と近衛たちに声をかけ、ディルに目配せする。わかっていると、頷くディルは、用意してくれていた小箱を私に預けてくれた。





