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悪役令嬢? いえ私は、騎士になります。  作者: 桜咲 京華
異世界転生ー私は騎士になりますー
20/37

20 輪舞曲

 シェイルは思った以上に上達していて、多少の強引さはあるものの許容範囲にまで収まっていた。

 ミルフェ夫人凄い。


「そういえば、先程何を言おうとしてらっしゃったの?」

「いや、なんか嫌な感じがしたから……」


 なるほど、野良犬のように本能的なシェイルのことだ、私に対する悪感情を敏感に感じ取ったのだろう。

 

「あと、お前の婚約者殿がすんげー見てんだけど」

「え?」


 そう言われても振り返る訳にもいかないので、ダンスのターンのついでに位置を入れ替えさせて、シェイル越しにウィルの方を伺うけれど、ウィルは何かレイチェルと話していてこちらを見ていない。


「気のせいじゃないですか? それよりも、ステップが少し怪しいですよ。ちゃんと集中して下さい」

「お前が話をふってきた癖に……」


 王族で生まれた時からダンスを教育されてきたウィルと違い、シェイルはまだこのステップしか習得していない上に会話をすると簡単に乱れる。これ以上の会話はしない方がよさそうだ。

 そういえば、ウィルが私を褒めてくれていたけれど、実はやっぱり用があったのかもしれない。この場では言えないことなので誤魔化したというところか。

 お世辞を真に受けるなんて恥ずかしい。


「おい、顔が赤いけど大丈夫か?」

「え、えぇ。ここは照明も強いし動いたせいか暑いんです。あと誰かと一曲踊ったら自由に動けるようになるので、そのタイミングで休憩するわ」


 本当は照れて体温が上がったのもあるのだが、そこは誤魔化しておく。


「……もう一曲俺と踊ってくれるか?」

「駄目ですよ。同じ相手と何度も踊るのは外聞が悪いこと、ミルフェ夫人に習ったでしょう。安易なことしないでちゃんとどなたか探して下さい」

「……」


 2度3度と同じ相手と踊るのは婚約者や恋人同士だと周囲に知らしめる行為だ、忘れたのか。しょうがないやつ。

 シェイルはダンスに集中することにしたのか黙ってステップを踏んでいる。


 あれ? ウィルに睨まれてる?


 シェイルは縦だけでなく横幅もでかいので、真正面に立たれると殆ど彼の服しか見えないのだが、ダンスのステップによって左右に揺れているので、ちらりと背後にある王族の観覧席がちらっと見えた。

 けれど、ダンスの流れに従ってシェイルの影に隠れてしまい、もう一度見えた時にはまたレイチェルとにこやかに話していた。

 気のせいだったようだ。


 そうするうちに最後のターンを決めてデビュタントのダンスも終了し、王族へ一礼し、拍手を受け、顔を上げて、観客席に向けてもう一度一礼。再度拍手を受ける。


「それでは皆様お楽しみ下さい」


 進行役が宣言すると、デビュタントが主役だった時間は一段落して通常の夜会のように全貴族同士で交流する時間になる。

 次のダンスのお相手探しの時間が与えられるので、デビュタントとダンスを踊りたい者が舞台に上がってきたり、逆に交流したい相手が居る者が積極的に舞台から降りていったりするので一気に入り乱れてごちゃっとし始めた。

 

 どうしようかと周囲を伺っていると、一人の青年が眼の前に立った。


「ウェリントン伯爵家のセイルと申します。クロウツィア嬢、一曲いかがですか?」

「よろこん……」

「ベスター侯爵家のダルヴィスです。どうぞ名誉ある一曲をお願い出来ますか?」

「え……」


 気づけば5人位の青年達に囲まれていた。

 一番身分の高い侯爵家の人間がダンスを申し込んだことで他の青年は何も言わないが逃げ道を塞ぐように立っている。ダルヴィスの次はセイル、その次はと爵位順に暗黙の了解で順番に踊ることになりそうだ。

 この重いドレスを着て何曲も踊るのは勘弁して欲しいんだけど……。

 

 シェイルはと見れば先程まで隣に居たはずなのに数人の御令嬢に囲まれてまごまごと戸惑った顔をしている。

 私からすると世話のかかるやんちゃ坊主のシェイルも顔だけは良いし、次期侯爵でもあるのでモテモテのようだ。


 仕方がないので、ダルヴィスとセイルとだけ踊ったら足をくじいたことにでもしよう。トータル4曲踊れば面目は立つ。

 

「ローツィ!」

「え、ウィル!?」


 差し出されたダルヴィスの手を取ろうとしたところで、いきなり声を掛けられて驚いた。

 

 見ればウィルがレイチェルを腕に絡めさせたままで私の方に歩いてくる。レイチェルはすっごい不満顔だ。


 何してんの?


 王族のウィルとレイチェルの邪魔にならないように、周囲に立って居た貴族達が身を避けるので、モーセの十戒のように道が出来ている。

 気づけばダルヴィスもセイルも離れ、私とウィル、レイチェルの間には隔てる者は無くなっていた。


 ウィルが、腕にへばりついたレイチェルに何かを囁くと、ウィルを振り払うように腕を放してどこかへ去っていった。

 足をくじいたって設定忘れてるんじゃないのかという程のスピードであっという間に姿が見えなくなってしまった。


 ていうかレイチェルを一人にしない方が良いのでは?


「……そんなにシェイル殿が気になる?」

「へ? お兄様?」


 レイチェルの去っていった方を見ていると、ウィルが感情の伺えない声で囁いてくる。

 確かにレイチェルの去った方には、シェイルがご令嬢達に囲まれながらが立って居るが、ウィルは一体何を言っているのだろう?

 ウィルは難しい顔をしている。何か怒っているようだ。


「君がどう思っていようが、婚約者は僕だということを忘れては困る」

「……? 忘れてませんよ?」


 レイチェルを守る為に婚約したんでしょ? 分かってる分かってる。


「それなら、もう一度僕と踊ってくれる?」

「勿論です」


 いくらか態度を和らげて言われたので、素直に応じる。

 仲睦まじい婚約者アピールですね。分かります。


 確かにパーティー会場は万人の眼があるのでレイチェルに危険が及ぶことは少ないだろう。

 お相手探しの為に流れていた音楽が、ダンス曲に切り替わり、長めのイントロでダンスを始めるように促してくるので、それぞれが適切な距離を空けて立つ。


 シェイルも知らないご令嬢と配置についているし、私にダンスを申し込んでいた青年達も別のお相手を見つけたようだ。


 ダンスが始まって、ステップを踏み始める。

 ステップといっても先程までのとは違って大人しめの曲なので、ほぼ左右にゆれるだけのような感じなので、重いドレスで酷使された身体にはありがたい。


「……」

「……」


「……」

「……」


 ファーストダンスと違って、ウィルが何も話さないので、私も黙っている。

 何だか機嫌が悪そうなのだけど、レイチェル様と喧嘩したのかもしれない。それで私の方に来たという面もあるんだろう。とんだとばっちりだ。

 ダンスが終わったらレイチェル様を連れ戻してウィルと仲直りして貰おう。


「早くレイチェル様と仲直りして下さいね」

「え? あ、ローツィ!?」


 ダンスが終わって一礼をして顔を上げながら告げて、レイチェル様を追いかけるべく離れる。

 次のダンスを申し込まれる前にこの場を離れようと急いでいた私は、ウィルの怪訝そうな顔にも、引き留めようと声を掛けられたことにも気付かなかった。





 

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