なるちゃん折れる ―1/2
「たのしみですねぇ。」
おやだいぶ染まった感じの返答が返ってきました。
[サレミアさん、たった三日でだいぶ黒くなりましたね。]
「そりゃあ、人が同意すら出してないのにあんな物出して、(以下自主規制)ふざけるにもほどがあります。」
[だ、そうですよ。]
昨年度ボンクラーズの被害を一番近くで受けていた彼に話を振ってみました。
「確かにいちゃついていても声は男しか聞こえませんでしたね。私はあの馬鹿どもがやらない仕事を片付けるのに手一杯で。」
そう考えると、昨年のあれはサレミアさんに失礼なことをしてしまいましたね。
「そういえば、涼子さんが先日おっしゃっていたことはいったい?」
「何のことですか?」
「先日廊下でお会いしたときに、気になることをおっしゃっていたので。」
何か涼子が言ったことで、彼女の興味を引くような事って有ったんでしょうか?
「あれも魔法なんですか?それとも純粋な科学?」
[基本的に我々が使う技術で魔法学、科学、どちらか一方というのはあり得ません。
科学で出来ないことを魔法で補い、利用者に依存しやすい魔法を、万人が使いやすいように科学が補助する。
そうして、我が国は発展してきました。その結果が現代における、このように界外領土を数多く持ち、本国だけで所属世界の2割。属国を含めれば3割4分という広大な領域を平和裏に統治できているのです。気になったのは何ですか?]
一先ず、触れてみましょう。
「ショウカンハンノウという言葉です。いったいあれは。」
[答え合わせの時に声をかけますよ。ところでこれ食べます?]
コーヒークリームをのせたビスケットを見せると目をきらきらさせて見つめています。
これ、神子がリンにエクレアをあげすぎる気持ちがわかりますね。
あの子は食べても太りませんが。この子は違いますから気をつけねば。
「おいひいでふ。ほんはおいひいほほひははへふはんへ…。こんなにおいしい物をいただけるなんて。私は幸せ者です。御姉様ありがとうございます。」
口に物を入れた状態でしゃべるなと言おうとしたら、自分で気づいてくれましたね。
「これはなかなか。あのまま、ゼリオスで古典的会計をしていては味わえない貴重な経験ですね。」
[これの元になる豆だけで入れたブラックです。]
「少ないですね。」
コーヒーカップの底に入った、口にじんわり広がる程度の量しかないコーヒー。
「「………!!!!!!!!」」
[でしょうねぇ。この豆、単体だととてつもなく苦いんですよ。しかも砂糖も意味が無くて。でも、特定エネルギー結晶体の粉末はこの苦みを緩和して砂糖も効くようにしてくれるんです。]
ブーって吹き出さなかっただけ偉い偉い。
「結末気になりますね。あいつらの。」
「「……」想像以上に酷い。」
[聞いてはいましたがここまで酷いとは。これで良くあのピノキオ鼻維持できますね。]
「ハルさあ、普通、そこ天狗鼻っていうでしょう。」
[あれほっとけばどんどん伸びますからピノキオ鼻で良いんですよ。]
数日前に行われた、本年度第一学期中間考査の結果が出、あの魔法使い君が他を見下しまくっているそうなのでどれどれどれくらいの点数を取ったのかと見ようと思い、彼の結果を取り寄せ、当該学年の平均値と比較していたのですが。
「酷すぎて、これ笑えてくるね。」
百点満点の、座学教科(言語(現代語、古語、文法、表記)、数学(基礎、公式)、科学、化学、物理、地学、生物の理科5教科、法制、経済、地理、世界史、国土史、次元史の社会科6教科、魔法学系統(効果誘導基礎、因果律変換学基礎、空間方程式etcをひっくるめて)、電脳学(情報基礎、情報応用、電算機基礎、電脳物理、電脳法制)の6系統)が軒並み赤点。自慢の魔法学に至っては片手で足りる点数しかとれていません。
そして10段階評定の実技教科(美術(作画・描写、彫刻、造形)、設計、構築、被服、調理、体育・保健、魔法実技(発動、実行)、文官実務)は…。
魔法実技のみ3で他は軒並み2か1。
我々主査7人の中で一番成績が悪いことを自他共に認める神子でさえ、座学教科は数学が60点な事以外は満点か95点。
実技も体育と調理が7で有ること以外は9か10の評価でしたし、どんなに成績の悪い生徒。あの盆暗王子でさえ赤点ぎりぎりではあるけども座学教科はクリアしてます。更にあの盆暗は料理と被服以外の実技教科は7か8。
なかなかに能力は高いです。性格の矯正が出来たら、ゼリオス領域全体を領地に任じて封じるのもありでしょう。
「相っ変わらず攻撃魔法はリンに任せるに限るね。」
「恐れ入ります。」
今演習場では、リンによる初級攻撃魔法の実演がされています。が、リンに撃たせると最超級攻撃魔法の規定最高値をあっさりと超える威力になりますからねぇ。
「じゃあ、これは絶対になら無いとは思うけど参考程度にして、能力を高めれば、こうなるよって事で、一先ず撃ってみよう。」
神子の言葉に1年生達は思い思いの属性で初級攻撃魔法を放っていく。
「詠唱破棄か?」「すげー。指ならしただけで魔法撃ってる。」「こっちの初級って呪文詠唱なしなの。」
ゼリオスからの留学生は驚いていますね。お?!一人、果敢にも、無詠唱発動に挑戦しようとしている子が居ます。確か、王立魔法院長の長女でしたか。おお。見事ですね。威力水準も申し分ない。
「やれやれ。魔法というのは、しっかりとした形式があるんだ。それを具現化するためには詠唱破棄なんて具の骨頂だね。見ていると良いさ。」
おやおや。動きましたか。
……全く。どんな理論付いた呪文が詠唱されるのかと思ったら、あの島国の王都にある駅の9番線と10番線の間から始まる物語に出てくる、ネズミを黄色に変える呪文の方がかっこよく聞こえるほどです。
しかも威力ときたら、夏場の日焼けした後の入浴の方がダメージ大きいです。
[これは、一度脅かしますか。]
「なにをだ。」
[いろいろ。]
あれのインパクトはかなりの物がありますものね。
[……神子、僕が指示出して良いですか?]
横に座っていた、神子に問えば、彼女は、あっさりとGoサインを出してくれました。何の指示かわかっているんでしょうか?
[リン、えーっと、目標座標―、―、―。神子、あれって、2の乗数じゃ無いと効果無いんでしたっけ?あ、ない。えー。4096基展開3装神砲…すいません神子お願いします。]
「へーい。ハル、リン、座標変更なし展開総数3連装8192基で、無身神砲用意。各重増レンズ径50間300連70万。」
結局いつも指示を出す神子に返しました。
「展開全基のコーウェリア機関へ接続を確認。主機最大出力40。砲身形成確認。術式発動準備よろし。リンクリス側展開全基発射準備よろし。」
[リールシェル側展開全基発射準備よろし。全砲への発砲同調回路接続を確認。発砲同調をリクヌア管制下へ。]
「は?デモンストレーションで神流砲を撃つのか?どこに向けてだ。」
「指定座標を確認しな。さてとこれより、発射カウントダウンに入る。発射時非常に強い閃光が発生する。目を開けたままだと失明するのでカウントダウンの開始とともに目を閉じること。では10秒前から…5秒前。3,2,1よーい、てっー!」