冒険者ユウナ
帰らずの大地ケルディオン。
かつてこの地は、アルフレイム大陸と地続きであった。
しかし、蛮族がもたらした大災厄――〈大破局〉によって大地は引き裂かれ、今では海を隔てた別天地となっている。
両大陸の間に広がる海には、奇妙な海流が渦巻いている。
その流れに呑まれ、ひとたびケルディオンへ辿り着けば、二度とアルフレイムへは帰れない。
だが、ケルディオンに生きる大半の人々にとって、それは大した意味を持たなかった。
彼らにとって、ケルディオンこそが生まれ育った土地であり、守るべき故郷そのものだったからだ。
もっとも、その故郷が安らぎに満ちているわけではない。
アルフレイムと同じく、このケルディオンでもまた魔物が蔓延り、人族と蛮族の境界線争いは絶えることがない。
各地で小競り合いは続き、街道の安全は脅かされ、村や町は常に蛮族の脅威にさらされていた。
これから語られるのは、ケルディオン大陸の南西部――
ラグール王国の地方都市ヴァルクレアを拠点とするナイトメアの冒険者ユウナと、その仲間たちの冒険譚である。
ーーー
ナイトメア。
それは人族でありながら、生まれながらにして魂に穢れを宿す、忌み嫌われた存在である。
ユウナもまた、その出自ゆえに幼い頃から数えきれぬ迫害を受けてきた。
王都で生まれ、その際、他のナイトメアの例に漏れず母親が死に、父親に捨てられ放り込まれた孤児院。
そこでも蔑まれ、疎まれ、まともな職に就く道すら閉ざされる。
そして八歳になる頃、孤児院にも居場所がなくなった彼女は、生きるためにひとつの道を選ばざるを得なかった。
冒険者。
それは資格も年齢も問わず、登録さえすれば誰でも名乗れる、社会の最後の受け皿。
同時に、明日をも知れぬ、危険と隣り合わせの稼業でもあった。
冒険者となった後も、ユウナの歩みは平坦ではなかった。
王都は特にナイトメアに対する迫害が酷く、まず仕事が与えられなかった。
王都を出て流れ着いたのは辺境都市ヴァルクレア。
しかし王都程酷くはないものの、ナイトメアである彼女は、他の冒険者たちに仲間として受け入れられなかった。
こうして彼女は、パーティを組むことすらできぬまま、たった一人で依頼に挑むことになる。
与えられるのは、最低の仕事。
支払われるのは、最低の賃金。
下水の掃除。
ネズミ退治。
ゴミ捨て場の処理。
誰もが、ユウナはそう遠くないうちに野垂れ死ぬと信じて疑わなかった。
しかし彼女は生き残った。
ゴブリン退治。
街道の巡視。
街に入り込んだレッサーオーガの捜索と討伐。
さらに彼女は、一歩、また一歩と前に進む。
魔剣の迷宮の攻略。
魔動機文明時代の遺跡探索。
バジリスクの討伐。
危険な任務を、ただ一人で乗り越え、実績を積み重ねていった。
そしてやがては。
魔域の制圧。
魔法文明時代の遺跡探索
貴族級ドレイクの討伐。
通常ならば一党を率いて挑むような難事を、彼女は孤独のまま成し遂げていく。
いつしか、かつて彼女を蔑んだ人々は、その名を畏れ、そして称えるようになった。
――十年後。
ついに彼女は、冒険者ランク最高峰たる称号、
*ハイペリオン級*へと至る。
かつて、誰もが早死にすると嗤った少女は。
今や辺境都市ヴァルクレアのみならず、ラグール王国全土にその名を知られる大冒険者となっていた。




