ひまわりの栞
(あ、宮野くん笑ってる……)
羽唯と宮野が二人で話しているところを見て、なぜか突然、そう思った。
陽葵にとって、羽唯は天使のように可愛い女の子で、陽葵の大好きな友達。
陽葵にとって、宮野は大好きな友達が嫌いな男の子。
だから、陽葵も宮野のことが好きじゃない。羽唯が嫌いだから。
でも、本当に?
羽唯は宮野のことを心から嫌っているわけではないのは、陽葵もわかっている。
宮野が羽唯のことをいっとう大切にしていることも、陽葵はわかっている。
陽葵は、陽葵自身はどうだっただろうか。
宮野のことを悪く思う瞬間があっただろうか。自分の意思で、彼を嫌っていただろうか。
「陽葵、放課後一緒に勉強しない? 宮島と三人で」
「いいけど……宮野くんは? 羽唯たち、前回のテスト終わりも三人だったから、勉強も三人でしてるのかと思ってた」
当然、宮野もこの日登校していた。宮野なら、羽唯の誘いを断ったりすることはなさそうだ。
「えっと、その……事情があって。それも帰り話すね」
帰りに羽唯と宮島から話を聞いたところ、羽唯のために宮野が今回のテストで一位を取るらしい。そのために今、彼は本気で勉強してるのだとか。
確かに、今までも宮野伊吹という名前は掲示板で見ていた。
彼は羽唯たちの中では一番賢いらしく、いつもは二人に教える係だそう。それが今回は自分の勉強に専念するのだ。
関係のない陽葵にも、その結果は楽しみだった。
一方で、一人の女の子のためにそこまでする宮野を尊敬すると共に、そこまでしてもらえる羽唯が羨ましくも思えてしまった。
羽唯は可愛いから。羽唯は優しいから。
きっと、宮野も羽唯のために何かしたいと思えるのだろう。
(私には、そんな可愛さないもんな……)
友達に嫉妬するなんて、陽葵自身が陽葵のことを嫌になった。
(良くない、良くない。あたしは羽唯のことが大好きだし、宮野くんのことが嫌いなんだから)
テストの結果が学年の掲示板に張り出される日、羽唯と宮野は一緒に教室を出て行った。
そして、羽唯たちにそんな意地悪を仕掛けた吉田も。その後に、陽葵は一人で見に行った。
彼は文句のつけようがない、圧倒的な一位だった。
(ああ、いいな。すごいな、宮野くんは)
奥の方に羽唯たちの姿が見えた。羽唯の髪色は遠目でもわかりやすいから、見つけるのに時間は掛からなかった。
二人とは距離があったから、何を喋っているのかだとか、細かいことはわからなかったけれど、二人がくっついているのだけが見えた。
別に大したことない。その光景でさえ、見慣れたものだった。
それなのになぜか、もやもやと、苦しくなる。
(違う。これは違うの……)
(羽唯が、羽唯が宮野くんに取られたって……きっとそう思っちゃっただけだから……)
(そうだよ、何考えてんの! あたしは羽唯のことが大好きで、大好きで仕方なくて。それで宮野くんのことが嫌いなんだから)
ぐるぐると良くない方向に回っていく思考を無理やり閉じ込めて、誰にも気づかれないように一人で教室に戻ろうとした。
「あれ、陽葵じゃん」
知らないうちに声変わりしていて、もう聞きなれたとは言えない人の声が聞こえた。
「慎吾……」
たった一人の、幼馴染の男の子。昔は今よりももっと、ずっと仲が良かった男の子。もう、二人で話すようなこともなくなってしまった、自分から離れていってしまった男の子。
「お前、なんかどうした? 顔色悪いぞ、保健室いくか?」
見た目も声も変わってしまったけれど、彼の雰囲気は変わっていなくて、安心する。
「え、嘘? 私今日なんかメイク変?」
「そういうことじゃない。……はー、バレバレだっての」
なぜか目の前の男は陽葵の手をとっており、そのまま歩き出した。
「えっ、ちょ、どこいくの!?」
「ねえ! 慎吾! ねえってば!」
掲示板がある廊下の反対側まで連れてこられたところでようやく手を離してもらえた。
「どうしたの……急に」
「あー、なんかその……今日母さんが一緒に飯どうだって」
さっきの陽葵について言及されるのだと思っていたら、全く違う話が出てきた。
「え?」
「だから、その、母さんに陽葵のこと誘ってこいって言われたんだよ! でもあそこは人が多かったから……」
「なにそれ……」
そんなの、スマホでメールすればいいだけなのに。
「あと、メイクは別に変じゃない。てか…………可愛い」
「んじゃ、そゆことだからまた連絡するわー」
言いなれてなさそうな言葉を恥ずかしがって言うだけ言って、勝手に帰っていった。
そんな彼の姿をから目が離せないまま、
「なにそれ……今じゃないんだけど……」
本当に今じゃない。メイクが可愛いことは陽葵だってわかっている。
さっきの言葉が陽葵本人じゃなくて、陽葵のメイクに向けられたものだっていうのもわかっている。
陽葵が今その言葉をもらいたいのは彼じゃなくて、もっと違う人。
欲しくても、くれない人。欲しがることを許されない人。
それなのに、嬉しくないはずなのに、どんどん高鳴るこの鼓動をどうして抑えられようか。




