第0話:独りの誕生日パーティー
この作品は、2017年に連載を始めて長らく中断していた「アラサーオッサンのファンタジーライフ」を、完結まで大幅に改稿したリメイク版です。
序盤は当時の原稿を下敷きにしていますが、設定も展開も新たに練り直し、最後まで書き上げました。すでに完結済みです。1日1話投稿しますので、途中で止まる心配なく、安心して最後までお付き合いいただけます。
はじめての方も、当時読んでくださっていた方も、あらためて相沢陣の「ファンタジーライフ」にお付き合いいただければ幸いです。
「ついに俺も29歳、三十路の一歩手前か…」
相沢 陣、29歳
独身
無職
三行で語れる悲惨なステータス。
そんなことを考えながら発泡酒を飲み干し、独りでひっそりと開催した誕生日パーティーの後片付けを始める。
パーティーと言っても、テーブルの上にあるのはコンビニの一番小さいホールケーキの空き箱と、発泡酒の空き缶が二本だけ。
ろうそく売り場で「2」と「9」の数字を手に取って、灯す相手もいないことに気付いて棚に戻した。
「明日の面接もダメなんだろうなぁ」
前職を退職してから二ヶ月、ずっと再就職を目指して努力しているがなかなか報われていなかった。
メールボックスには努力と引き換えに大量のお祈りメールが溜まっている。
「もう何度お祈りされてるかわからないな」
「これだけ活躍をお祈りされてるのにどこにも活躍する場がないとはねぇ…」
面接ではだいたい同じところで詰まる。前職の退職理由だ。
――会社の方針転換で、研究が打ち切られまして。
そこまでは言える。その先は言えない。
上の連中が「金にならないロマンは要らない」と切り捨てた研究に、本気で人生を賭けていたこと。
最後の会議室で、誰よりもわかってくれているはずだった相手にまで、首を横に振られたこと。
売り言葉に買い言葉で辞表を叩きつけたのは、我ながら大人げなかったと思う。
(でも、あれは……ロマンだったんだよなぁ)
スマホを手に取ると、ロック画面に日付が浮かんだ。
――5月11日 23時40分。
29歳の誕生日は、あと二十分で終わる。
癖のように連絡先を開いてしまう。親指が、ある名前の上で止まる。
削除ボタンを押せば全部すっきりする。それができないまま、もう二ヶ月になる。
「……やめだやめ。寝よう」
画面を伏せてスマホをテーブルに放り、ほろ酔い気分でベッドに向かう。
その途中で、突然部屋全体が揺れた。
地震――にしては妙な揺れだった。横ではなく、真下から突き上げてくる。
それも部屋全体ではなく、足元の一点から波紋が広がっていくような。
思わずベッドに倒れ込むように転ぶ…はずだった。
しかし、ベッドも床も陣の体重を支えるはずのものは何もなく、目の前には陣をまるまる飲み込めるほどの大きい穴があった。
そしてその穴が一瞬で陣を飲み込む。
「な!?」
驚いた時にはもう遅く、あっという間に部屋の天井が遠くなる。
落ちている。落ちているはずなのに、風の音ひとつしない。
混乱した頭を立て直す暇もなく、強い衝撃とともに意識が手放されるのを感じた。
こうして、相沢陣の29歳は始まった。
誰にも見送られないまま。




