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都築彩夏は不運である。  作者: 杏里
能力者編
9/34

なんてこった…

「都築ー!」


 何かが崩れたような大きな音が聞こえた辺りに来た篝は、都築の名前を呼ぶ。周囲には砂埃が舞っていて、おそらく騒音の出所であろう作業用の足場が、崩れて山のようになっていた。


「はーい!」


 その山の陰から都築が姿を見せた。


「お前大丈夫だったのか?ヤツはどこに?」


「えーと、たぶんこの辺りに。いや、もう少しこっちの方だったかな…?」


 そう言って新しくできた瓦礫の山を指さす都築。


(こいつ、時間を稼ぐどころか、倒してしまうなんて…)


 篝の認識では、敵を倒すことが時間を稼ぐことよりも難しいことだと認識しているが、というよりも一般常識に照らし合わせてみればそう考えるのが普通である。しかし、都築の不運は一般常識からかけ離れているし、普通ではない。あの時の都築にとっては時間を稼ぐことよりも、倒してしまう方が容易だったのだ。


「篝さんはどうでしたか?」


「あ、ああ。なんとかなった」


「それにしては、遅かったように思いますけど?」


「すまなかった。思ったより時間がかかってしまって、本当にすまなかった」


 都築に対して深々と頭を下げる篝。すると都築は困ったようにして、


「もう終わったことですし、2人とも無事なんだからそれでいいじゃないですか。気にしないでください」


「そうか…」


 篝のせいで死ぬかもしれないような目にあったにもかかわらず、篝に対しての恨みのようなものは感じられず、ただ純粋に無事に済んだことを喜んでいるようだった。


「共犯者はどんな人でしたか?」


 都築はその場を後にしながら聞いた。邪魔する人間がいなくなった以上、もうここに留まる理由はない。


「たぶん双子だな。顔が一緒だった」


 篝もそれに続き、質問に答える。


「あ、でも、髪型はもう1人と左右対称だったな」


「双子キャラにありがちな見た目ですね」


 逃げようとした際に、妨害を受けた外へと続く通路を通っても、流石にナイフが飛んでくるというようなことはなく、そのまま路地を抜けることができた。繁華街の喧騒に包まれる。


「ふう、ようやく戻って来れましたね」


 終わったと言ってはいたものの、何かが起こる可能性も考えていたのだろう、都築はここへきてようやく緊張を解いたようだった。


「何というか、巻き込んで悪かったな。それに、お前に助けてもらったようなところもあるし…」


「気にしないでくださいよ。俺から能力者のオーラが出てるんなら、遅かれ早かれ能力者に捕まることになっていたでしょうからね。篝さんがいてラッキーだったくらいですよ」


「そう言ってくれると俺も楽になるよ」


 そうだ、といってポケットから何かを取り出し都築に手渡す。


「共犯者が持っていた、トーナメントへエントリーするためのカードだ。お前は使わないかもしれないが、またこんなことがあったとき、身代わりになるかもしれない」


「これを探してたから遅くなったんですか?」


 カードを受け取りながら、悪戯っぽく言う都築。本当に恨んではいないらしい。


「それを俺のカードとして渡せば、うまく交渉できるかもしれないと思ったんだよ!分かるだろ!?」


「それもそうですね。ありがたく受け取っておきます」


 受け取ったカードをポケットへと入れる都築。


「それと、もういい時間だから、飯でもどうだ?お詫びを兼ねておごるぞ?」


「いいんですか?それじゃあ、お言葉に甘えて。…ここでいいですか?」


 都築はたまたま近くにあった定食屋を指差す。


「いいぞ。ただし、10人前とか頼むのはやめてくれ。流石に払いきれない」


「そんな能力は持ってないので大丈夫ですよ」


 店に入ると、奥にある個室へと通された。


 人は罠を回避した後が1番罠にかかりやすいという。何かを終えた時というのは油断してしまいやすいのだ。この2人においても例外ではなかった。


 偶然近くにあったからとはいえ、他でもない都築に店を選ばせるなんてことをするべきではなかった。


 さて何を頼もうか、と2人がメニューへと手を伸ばしたその時。赤い光の線が2人の体を上から下へとなぞった。


 ピーーー!


 どこからともなく電子音が聞こえ、ほどなくしてアナウンスが流れた。


―――2枚のカードを認識しました


―――2名のトーナメントへのエントリーを承認します


―――この個室は現在、地下にありますトーナメント会場へと移動しています


―――なおエントリー後の退場はいかなる理由においても認められませんのでご注意ください


―――検討をお祈りいたします


「……………」


「……………」


 個室の中に静寂に満ちる。


「お前知らなかったんだよな…?」


 帰ってくる答えは分かり切っているものの、それでも尋ねずに居られなかった。近くにあったからという理由で、たまたま入った店がトーナメントへのエントリーの受付であるなど誰が思うだろうか。


 これは本当に偶然だった。しかし、都築の身に降りかかる偶然は、必然的にトラブルが起こるようなことばかりなのだ。


 都築はゆっくりと首を横に振った。


「なんてこった…」


 都築彩夏は不運である。

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