天国
「俺、ダン君の話、あんまりよく分かってないかも…」
ジンは案の定、話を理解できていなかった。
「うん。まぁ、そうかもな」
ハァァーッとダンが溜息を吐いてジョニーを見た。
「可愛いだけじゃなくて、なかなか賢そうな顔してるよな。ジョニーは。ジョニーが喋れてジンに色々教えてやってくれると良いんだがな?」
とジョニーの頭をチョンと突いたダンは少し微笑んでいるせいでイケメンぶりが更に上がっている。
(弾が立派になって…)
とジョニーこと秀二も少しホロリとする。
「ともかく、前世の母ちゃんも今世の母さんも俺達が独り立ちして1年もせずに亡くなってるけど、案外それ以上苦しまずに済んで良かったって事だ。
世の中、マジでクソだらけだからな」
「…俺、ハムスター見ると、前世で飼ってた時の事思い出すよ」
「…?なんだ、唐突に」
「ほら、ハムスターって死ぬ時、急に具合が悪くなるだろ?前の日まで元気に滑車回してたのに急に動きがノロノロし出して、具合悪くなったと思ったら2、3日で死んじゃってたし…。
前世の母ちゃんも今世の母さんも、ちょっと前まで元気そうにしてたのに急に具合悪くなって、2、3ヶ月で死んだし…。
頑張って生きて、それなのに報われなくて、報われないまま死んでいく者達が『それ以上苦しまずに済んで良かった』って思われるようなのって、なんか寂しいなって思って…」
「…そうだな。でも俺達にできる事って少ないんじゃないか?…今世の母さんは自分がクズ父から逃げて家出してる間に俺達が寒空の下追い出されてたって知ってからは、どんなに殴られ蹴られしても家出しなくなっただろ。
自分だけ逃げたら子供らがどうなるか分からないからって。
ずっと死にたがってたんだ。あの人は。俺達がクズ父の搾取から逃げ切って生きていける目処が立ってから亡くなったんだ。
天国があるかは分からないけど、俺達が生き延びていける段階まで護ってくれたんだから、天国があるなら頑張った分、母さんも母ちゃんもちゃんと天国へいけてる筈さ。お前が大好きなハムスターみたいな健気な生き物もな」
「…天国か」
「まぁ、あるかどうかはわかんねぇ。だけど転生があるんだ。『死んだら終わり』とかじゃないのは、もうお前も分かってるよな?」
「うん」
ジョニーはダンとジンの会話を聞きながら泣いた。
イミニマの身体では涙は出ない仕様だが、それでも泣いた。
心で…。
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「ジョニー君は本当に可愛いでちゅねぇ〜」
ジンは既にジョニーにメロメロである。
「天使とか精霊はこういう姿なのかも知れないな」
と宣うダンも相当である。
愛くるしい外見のお陰で、かなり愛されてしまってる。
だがジョニーは気が重い。
今世のクズ父ほど酷くはない筈だが…
秀二も相当息子達に迷惑をかけてしまっていたと分かったからだ。
(だけど、不条理なものだな…)
ジョニーは世の中の不条理に悲しみを感じた。
精神障害者同士のセラピー。
ピアカウンセリングと呼ばれるグループセラピー。
それで知り合った少女が
「家族に虐待されている、家を出たい」
と言ってたから
「ウチにおいで」
と引き込んだ訳で…。
性交渉も
「いざ、しよう」
という時に死んでしまってて結局してない訳で…。
なのに秀二は死後、性犯罪者という事になっていて、息子達は性犯罪者の血を引く息子達として世間で爪弾きにされたのか、と思うと…
「子供らは関係ねぇだろ!!!!」
と腹が立ってくる。
不意にジョニーは秀二だった時に好きだった映画を思い出した。
『タクシードライ◯ー』という古い映画。
売春をしてる少女に対して
「悪い男どもに性的搾取をされている!」
と思った主人公の男が(タクシー運転手が)
「少女を救い出そう!」
と男どもをブチ殺す話だったと思うのだが…
少女はそういう生き方を嫌がっておらず
むしろ親元へ帰る事の方を嫌がっていた風に思えた。
だが世間的には
「未成年少女の性交に合意などあるはずがない」
と見做すのが正義。
「未成年少女に性的行為をさせる成人男性はぶち殺されても仕方ないクズだ」
という世間様の見方のお陰で、少女を囲っていたヒモを殺した側はお咎めなし…。
あくまでも悪は少女を囲っていた側。
皮肉なものである。
作り話として気軽に消費していた時にはブチ殺されて尚
「殺されて当然だ」
と世間の皆様から批判され続ける男達に同情などしてなかったのに…。
いざ、自分が死んで、死んだ後も世間様に袋叩きにされて、息子達にまで迷惑をかけていた事を知ると…
(「未成年の少女に性欲はない」的な幻想に基づく)
「合意ありきの事実」
を完全無視した成人男性叩きは、過剰制裁だと感じる。
(袋叩きは当人だけで良いだろう?なんでそんなに憎むんだよ!)
だがどんなに文句を言っても無駄なのだ。
(俺がクズなのは、自分でも分かった…)
弾も仁も心底から秀二を軽蔑しているようだし
秀二の血筋を根絶やしにするべきだとまで思っていたのだ。
(ジョニーが俺だとバレる前に二人の前から姿を消そう…)
と決意せざるを得なかった。




