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【 落ちる 】
ユリカの前に現れた、カゲが変形した姿は、頭に厚い包帯を巻いた人物だった。マブチはそれまでの話から、その正体がマネージャーである桜井祥子であることを感じ取っていた。
包帯を巻いた人物はユリカの目の前でそれを外していく。そこに現れたのは、痛々しい裂傷。顔に癒えない傷として残ってしまっている、刃物によってつけられたような傷は、彼女の心の傷を表しているようにも見えた。
「なんで、こんなことをする必要があったんですか」
「うるさいわね、あなたがそんな見た目なのがいけないんでしょうが! 」
館では見ることの無かった、怒りを孕んだユリカのその声は、他の3人を委縮させるほどだった。しかし、カゲが姿を変えた桜井は少しもそれに臆していなかった。
ユリカは錯乱したように手に持っていた包丁を持って桜井の方に向かった。そして既に傷のある顔を包丁で切りつけようとした。
しかし、その包丁は桜井に当たることなく空を切った。確かに当たったように見えたが、桜井はカゲと同じように、実体が無いのである。
「無駄ですよ。望月さんは私に触れられないから」
「なんでよ、そんなの卑怯じゃない! 」
ユリカはそう言って身を翻し、桜井の方から逃げるようにして離れようとする。しかし、その動きは急に止まることになる。よく見ると、ユリカの足は地面から湧き出る黒いもやによって捕まってしまっているのが分かった。
「待って、何で!? 」
ユリカはそのままその場に倒れこみ、それでもそこから離れようと床をもがく。しかし体はそれに反してバタバタと虚しく動くだけで、距離を取ることは出来なかった。
「あなたも、同じようにしてあげますよ」
そして桜井は、倒れこんでしまって無抵抗のユリカの顔をめがけて包丁を振り下ろす。その切っ先はユリカの頬に触れ、辺りには彼女の血が勢いよく飛び散った。
「い、痛あああいっ! 」
ユリカはやや大げさにそう叫ぶ。マブチ達はそれを見ても、彼女を助ける気にはならなかった。それは、当然の報いだと心のどこかで思ってしまったからかもしれない。
「やめて、やめてよぉっ! 」
「私がそう言った時、あなたは同じようにしてくれましたか? 」
桜井は最後まで無慈悲にユリカの顔を差し続けた。その度に聞こえるユリカの悲鳴は徐々に薄れていき、ついには何も聞こえなくなってしまった。
部屋の床には血が広がっていき、彼女が自慢にしていたその容姿は、目も当てられない程に変容してしまっていた。
それを見て愕然となるマブチ達をよそに、カゲは再びグニャリと姿を曲げ、元の不気味な様子に戻っていく。カゲは既に亡骸となってしまったユリカの近くに立っていた。
「ユリカ様、どうか安らかに」
カゲは、自分でキョーコを死に追いやっておいて、そのような事を言った。しかし、カゲのその言葉に反応する気力すら、マブチ達には残されていなかった。
カゲは壁の近くへと移動すると、レバーのようなものを下におろした。
ガタンッ!
何かが開くような音が聞こえたかと思うと、ユリカの死体は、既に目の前から無くなってしまっていた。何故か、川の流れる音のような、水音が微かに聞こえた気がした。
「さあ皆様、『秘密』の保持の期限は迫っております。ご自身の『秘密』をお忘れなきよう」
カゲがそう言って指をパチンと鳴らした。部屋を照らしていた裸電球が一斉に消灯され、3人の視界は奪われてしまう。
◇
そして再び視界に光が戻ってきたとき、3人は館の1階のホール、つまり最初に目が覚めた場所まで戻ってきていた。
目の前で起きた惨劇、狂気。その全てを脳裏に焼き付けたまま、彼らは呆然とするしかなかった。
彼らは示し合わせたかのように、『秘密』を取り戻そうとすることをやめた。本当の自分を思い出すのが怖いから、というのは1つの理由に過ぎない。それよりも彼らの心を支配していたのは、アサヒと同じ未来を辿りたくないという逃避に近い感情だった。
そして、彼らは『秘密』を自分から遠ざけた。気が付けば、3日の猶予などとっくに過ぎていたが、誰もその事について言及する者は居なかった。
◇ ◇ ◇
【 SECRETEND.4 ― ユリカの真実 ― 】 を入手しました。
どうやら、このルートはここで終わりのようです。しかし、彼らの『秘密』はまだ完全には解き明かされておりません。是非、他の選択肢をお確かめください。
選択をやり直したい場合
→ 目次から「9」へお進みください。




