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【 橘 旭 】
「まず聞かせてもらいたいんだけど、あのリストに書かれていた人達とアサヒ君は顔見知りなのかい」
「全員は知らねぇ。でも、俺が担当してた奴らは知ってる」
「あれはそもそも何の取引なんだ? 」
「……」
先程まですらすらと話していたアサヒはその部分で急に言い淀んだ。しかし話をすると覚悟を決めたのか、アサヒは息を大きく吸い込んで言った。
「『フライト・ヘヴン』。まあ、俗に言う違法薬物だよ」
「……あなた、そんな物を扱ってたのね」
アサヒから放たれた衝撃の発言だったが、ユリカをそれを冷静に受け止める。あくまでも彼女の想像の範囲内のことだったのだろう。
「あのリストはその顧客だと? 」
「そうだよ。未納って書かれてる奴は支払いが滞ってるってことだ。俺達はそいつらから集金をする仕事を任されてたんだよ」
マブチはそこまで聞いてリストの意味を理解する。それと同時に、もう一つの手がかりについてもその意味を把握し始める。
「娯楽室に行った時に鳴った着信は、君をその仕事に行かせるためのものってことで合ってるのかな」
「……あぁ。野口先輩は地元の売人と繋がりがあって、俺達に仕事を振ってた。最初に見つかった札束は、その仕事に対する報酬みたいなもんだ。でも、仕事にはノルマがあって、それを達成できないやつにはケジメが待ってる」
アサヒが『秘密』の断片を思い出そうとするたびに苦悶の表情を浮かべ、拒絶するような反応を取り続けていた理由、それが恐らくそこにあるのだろう。
「……ケジメって、何? 」
キョーコはそう尋ねる。言葉の意味が理解できていないわけではない。その内容にまで踏み込んでアサヒに聞いているのである。
それを聞くとアサヒは、おもむろに自分の着ている高校のシャツを脱ぎ始める。そして下に着ていた肌着を脱いだ先には、彼の肌が現れた。いくつもの大きな痣、切り傷が治癒した後のような痛々しい跡がいくつも残っていた。
「……っ!」
その姿を見てキョーコは絶句する。ユリカは目を閉じて現実から目を逸らそうとし、マブチはそれを確かに視界に捉えながらも、受け入れられないでいた。
「俺達は裏で仕事をしてても、あくまでまだ高校生だ。だから表面的に見える傷は作られない。だからこうやって、見えないところに傷をつけられる」
アサヒはそう言って肌の傷を撫でる。恐らく元は自分から選んで入った世界かもしれないが、それに対する仕打ちだとすれば、あまりにもむごい。
「でも、君は辞めようとした。違うかい? 」
「……。親にだけは、迷惑をかけたくなかったから」
アサヒのその言葉は、淡々と口からこぼれ出た。その表情から感じ取れるのは、後悔や自責の念のような、そんな感情だった。
「俺だけが責任を取るならそれでいい。でも、俺がやってることは周りに必ず迷惑をかける。そう思ったから、俺は仕事から足を洗おうとしたんだよ」
「……その言い方だと、出来なかった」
「……」
アサヒは無言でうなずく。娯楽室での電話は、アサヒの記憶の中にある、野口先輩との電話なのだろう。仕事を辞めたいことを伝えたが、それを受け入れてもらえずに脅迫された。その結果として彼は恐らく仕事を続けざるを得なかった。
「……でも俺が抱えてた一番の『秘密』は、それじゃない」
そのアサヒの発言に、他の面々は驚く。そこまでの話でも既に高校生の行動から逸脱しているが、それ以上の『秘密』を彼は抱えているのだという。
「俺は、親を……」
そこまでアサヒが言いかけた時、彼の後方で静かに待機していたカゲが突然動き出し、アサヒの口元を完全に覆ってしまい、アサヒは苦しそうな表情を浮かべる。
「何してるんだ、まだ全てを話したわけじゃないだろ! 」
「残念ながらアサヒ様、お時間でございます」
憤りを隠せないマブチを前に、カゲは残酷なまでに淡々とそう言った。カゲは何を聞き入れようともせずに、その姿をグニャリと曲げ始める。
カゲが姿を変えたのは、二人の人物。アサヒの前に立つその姿を見て、アサヒは柄にもなく涙を流しているようだった。
「親父、野口さん……」
アサヒの前に立っていた、カゲが姿を変えた先は、2人の男性の姿に見えた。
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