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18

 【 醜悪 】




 「これ、ユリカさんの持ち物ですか……? 」


 マブチはわざと核心に触れないようにしてそう尋ねた。しかし、アサヒが持っていたアルバムに焦りを見せて隠そうとした時点で、ユリカの物であることはほとんど間違いなかった。


 「……」


 マブチ達にアルバムを見られてか、ユリカは力なく書斎の床に座り込んでしまい、マブチの問いかけに反応しようとしない。


 「ユリカさん、これがあなたの『秘密』に関わることなのなら、僕たちには隠さないでください。協力すると決めたはずです」


 マブチは冷静に、そう言ったつもりだった。しかしその発言はキョーコによって注意されることになる。


 「マブチさん、あまりにもデリカシーが無くありませんか」


 そう言ってキョーコは開かれたままのアルバムをそっと閉じると、床に座ったままのユリカに寄り添うようにする。


 「……あれを見られたら、私は」


 「大丈夫ですよ、ユリカさん。私たちが見ているのは今のあなたです。だから、過去の事なんか気にする人はここにはいませんから」


 そのキョーコの言葉は、動揺を隠せない様子のユリカに、確かに響いたようだった。しばらくして彼女は、落ち着いて元の様相を取り戻したようである。


 「ごめんなさい、こんな姿を見せて……」


 ユリカがこれほどに元気がなさそうに見えたのは、館に来てから初めての事だった。彼女はいつでも冷静ではあるものの、最初の『秘密』の手がかりを見たときでさえ、あれほど落ち着いているはずだった。その彼女がこれほど同様するほどだとは、その場の誰もが思わなかったはずである。


 「ユリカさん、もう質問しても大丈夫ですか」


 「大丈夫よ……」


 ユリカの表情はまだ動揺を孕んでいるようにも見えたが、マブチはこの場において話の中心になるべきだという自分の役目を全うすることにした。


 「あの写真、あれは本当にあなたですか」


 「それは、アルバムのことよね」


 「もちろんそうです。あそこに写っていた人物と今のユリカさんは姿が違いすぎますが、名前と焦り方からして、あなただと思うんですが……」


 「えぇ、そうよ。整形、したの。私は昔の容姿がコンプレックスで、ずっと、新しい自分に生まれ変わりたかったから」


 そう言うユリカの顔はどこか悲しげにも見えた。アルバムを見る限りでは暗い少女という印象はあったが、そこまで言うほどだとは思わなかった。しかし、感性は人によって異なるものなのだろう。


 「それがあなたの『秘密』ってことですか? 」


 「それは、違う気がするわ。確かに隠したい過去であることは間違いないけれど、それだけで頭の中のもやが取り払われたようには感じないもの」


 頭の中のもや。それは、ユリカ以外の3人にも当てはまることだった。それぞれが、この館で最初に見つけた『秘密』の手がかりを見て記憶が断片的に戻ってきたのは事実だが、全てを思い出すには至っていないのだ。




 「だとしたらここの他にも捜索を続けるべきですかね」


 「えぇ、そうしましょう……」


 そう言ってユリカは立ち上がろうとしたが、机に手を伸ばしたまま立ち上がることが出来ないようだった。


 「おい、大丈夫かよ」


 その様子を見て、アサヒは反射的に優しい言葉を投げかける。その状況に一番驚いているのは、他ならぬユリカ自身だった。


 「大丈夫よ、このくらい」


 ユリカは自分を取り繕って元気そうに笑うが、傍から見ればそれは正常ではないようだった。




 「ユリカさんが行けないのなら3人でも行きますよ。僕たちの『秘密』はまだ全然思い出せていないので」


 ユリカという行動の中心を失ったマブチは、若干強引に3人を連れ出そうとする。それには多少の焦りが含まれているようにも見える。


 「駄目ですよ、マブチさん」


 「なんですか、キョーコさん。今は僕たちの『秘密』についても同時進行で探すべきじゃないんですか」


 「それはもちろんそうですけど、前に決めたはずです。私たちはそれぞれの『秘密』を思い出すために協力するって」


 「だからこそ動ける人間が動こうっていう話ですよ」


 「だったらユリカさんが最低限回復するまで待つべきです。それが本当の協力だと思います」


 いつもならばキョーコは人の意見に従う気弱な姿勢のはずだった。しかし、マブチの想像よりもキョーコは食い下がってきたのだ。




 「だったら、僕は部屋で待ちます。ユリカさんが行けるようなら、その時また教えてください」


 マブチはそれだけ言い残して書斎から出て行った。そこには多少の怒りの様なものも感じられたが、3人はそれを無理に止めようとはしなかった。


 「ごめんなさい、私のせいで……」


 「あんたのせいじゃねぇだろ。みんな今の状況で深く考えられなくなってるだけだ」


 「そうですよ、ちょっと休めばきっと大丈夫です! 」


 いつになく気弱なユリカを励ますように、キョーコとアサヒは彼女に寄り添った。そしてユリカを1階の彼女の部屋まで送り届け、彼女の回復を待った。




 しかし結局その日のうちにユリカの様子が元に戻ることは無く、館での2日目は過ぎ去っていくことになる。その日の夜は、すぐに更けていった。






 ◇ ◇ ◇





 【 アイテム⑨ 卒業アルバム 】 を入手しました。





 目次から「20」へお進みください。






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