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第9話

いつも読んでくださってありがとうございます。

今後も頑張って続けていきますのでよろしくお願いします。

「あっちゃん、起きなさい……あっちゃん、お き な さ い 」

「んう……あふ」


 自分でもなんだかわからないうめき声を上げながら目を開くと、かすれた真っ暗な視界の中にかすかに人影があった。どうやら寝てるところを揺り起こされたのだと理解はしても、いまいち頭がぼーっとして働かない。だが仔細な状況が理解出来なくても、一つ判断出来ることがある。寝てるところを無理矢理起こされたと言うことは敵襲だ。スキルのせいで寝起きだけは本当にヤバいんだよな……こういうときは確か『シナンノコトダ……』じゃ無いな……えっと、


「『イクサゴメンダチュウリツホ……ぶっ」


 痛! 一瞬人影がぶれて頭に痛みが! 詠唱がまにあわなっ……って、あー……これは……いや、ここは違うのか。

 ここは俺の家で、俺の部屋で、だから魔法を使って身を守る必要は無い……はず。そんで、今のは……今のは母さんのチョップだ。昔っから居眠りしてる人間を起こすときは我が家ではチョップときまっている。向こうに行ってる時、俺だってそうしてた。ついでにいえば俺に感化されたのか皆もそうしてた。チョップにわか大流行。次点は当然脇腹をキックで一撃だったけど。


「あっちゃん?」

「あ、おはようございます?」

「よろしい。それで?」


 それで、とは? 頭の中に疑問符が浮かぶ。ぼんやりとした視界が徐々にハッキリして、それでも部屋はどうやら電気をつけてなくて暗いままで。要するに母さんの輪郭しか見えてこない……よく俺コレが母さんだってわかったな。声? 輪郭? ……けど、多分声音は普段の様子と全く同じで。なのに激しくプレッシャーを感じる。そもそも俺なんで寝てるんだっけ。


「そ・れ・で?」


 疑問を片付けるより先に言い訳をしなきゃマズい。なんとなくそう思った。思ったけど、何が『それで』なのか全くわからない。『呪文』についてか『おはようございます』についてか、それとも寝てることについてなのか……それなら疑問を片付けないことにはどうしようもないけど……?


「母さんついさっき帰ってきたんだけどね、留守番電話がね、入ってたのよ」

「はあ」

「塾の人から『おたくの息子さんがいらっしゃらないのですが、大丈夫ですか?』ってね」

「……あ」


 そういえば塾があるんだった。思い返せば『彼』にも一度家に帰って着替え得ると告げて別れたはずだ。それが家に帰っておろおろしてるうちに完全に頭からすっぽ抜けて……ついうっかりベッドのフカフカっぷりを堪能してる間にうっかり寝ちゃったってことだろうか? 確かについベッドに向かってダイブした覚えはある。今は仰向けだけど、そんなの寝相で説明がつくし。


「母さん心配したのよ? 家の中の電気はどこも消えてている気配も無いし、声をかけても返事は無いし、玄関の鍵は開きっ放しだし、なのにあっちゃんは塾に行ってないって言うじゃない。もしかして誘拐でもされたんじゃないかと思ったわ。あとお風呂場の蛇口壊れてたし」


 そ、それはそれは心配をおかけしました……大変申し訳ない。


「それで、身体は大丈夫なの?」

「へ?」

「あらなに、ずる休みだったの?」

「え、いや、あの」

「……ちょっと動かないでね」


 ぐっと母さんの影が近づいてくる。ピトリと、額に冷たいものが触れた。なんとなく安心する匂い。

 母さんが額をあわせて、僕の……じゃなかった、俺の体温を測ろうとしてる……んだ。近くになったせいでか、輪郭だけじゃない母さんの顔が、一つずつ全部見える。これが母さんの顔だ。俺の母さんの顔だ。懐かしさと、安心と、一応時間的には25年以上も生きていると言う自負から生まれる気恥ずかしさで頭がわやくちゃになる。

 頭がガンガンする。目が潤む。多分顔が赤くなって、母さんの額にはさぞ高熱を訴えていることだろう。すっと離れた気配に意識が戻ってくると、母さんの影はもう元の位置にあった。というか、一瞬意識を失ってなかったか? 俺。


「ちょっと変だけど……やっぱり体調が悪いみたいね。あっちゃんがずる休みするような子じゃなくて母さん安心したわ。食欲はある?」

「あ、うん」

「じゃあ晩ご飯出来たら呼ぶから、それまでもう少しやすんでなさい。食べたいものは?」

「とくには」

「そう。わかったわ……それと、体調が悪いときは次からはすぐに母さんに連絡しなさいね。迎えに行くから」

「……うん」


 25年、生きたんだけどなぁ。

 親は親ってことなんだろうか? 行ってた間だけ向こうの計算で換算したら37だよ? 母さんの一個上だよ? なんか、それなのに、母さんがいるとすごく弱くなったような気がする。すごく泣きたくなる。向こうにだって頼れると思える人はいたし、甘える相手だっていたのに、なんでこうも……


「あ、そうそうあっちゃん」

「……ん?」


「おかえりなさい」


 息が止まった。

 部屋を出て行こうとする母さんの姿が、廊下の明かりに照らされてはっきりと見える。思い返せば、つくづく向こうではほんとにいろんな人に会ったと思う。女神様もいたし、美しいエルフの女王様にもあったし、ドワーフの肝っ玉母ちゃんにも会った。色々な『母』を見てきた。

 でも俺の母さんはこの人だ。俺に取って誰よりも美人で、頼りがいがあって、安心させてくれて。

 この人が俺の母さんだ。


「ただいま、あとおかえり」

「うん。ただいま」

※主人公は別にマザコンじゃないです。ホームシックをこじらせてるだけなんです。

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