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第5話

 『彼』の名前は一旦諦めるとして。それより先にちょっと知りたいことがある。

 傍から俺はどう見えてるんだろう? という疑問は無意味だ。多少は相手の年齢などによるところはあるかもしれないけど、基本的には変な人として見られることは間違いないだろう。

 だから知りたいのは何が正解なのかってこと。

 この場合この格好を恥じています、という顔をするのが正解なんだろうか。それとも堂々としていた方が単なる遊びでやってるんです、という雰囲気がでるんだろうか。家に着くまでに誰にも見られないなんてことはさすがに期待する気もない。だから正解を誰か教えてほしい。あ、でも正解を教えてくれる誰かに見られるのも大概不本意だな。

 ……。

 意外と誰もいないものだ。この辺の人通りってこんなもんだったろうか? さっぱりわからない。例えば電信柱の広告とか、誰かの家の表札とか、見てみれば何となく見覚えがあるような気がするけど、デジャブって現象もあるくらいだからあまりあてにならない。見たことが、あってほしい。覚えていたいとも、思うし。やっぱり見れば思い出せるなんてのは、端から端まで希望的すぎる考えだったんだろうか。家に向かう足取りが自然と重くなる。

 もちろん両親の顔は記憶にある、正直に言ってしまえばかすかな記憶だけどこれは間違いなくある。クラスメートとか、塾の知り合いとかとは人生における密度が違うんだ。それに『彼』の態度からして、『浦島太郎』も『醜いアヒルの子』もないだろう。


「……無いはずなんだよなぁ」


 足取りが重くなる理由。無いはずなんだよなぁ。

 単純に考えればっていうか、わかってることだけ並べればと言うか。

 制服を無くしたことを叱られる可能性はあるけど、たかがその程度で親に会いたくないとか悪かったテストをベッドの下に隠す小学生じゃあるまいしって話でっ!?


「えぇ? 息子さんを塾に通わせるんですかぁ?」


 突然聞こえてきた話し声に飛び上がってしまう。自分で思っていた以上におびえていたみたいだ。そのまま民家の塀を飛び越えてしまったが、その向こう側に幸い人の目はなかった。


「そうなのよぉ、良いところが見つかりましてねぇ。やっぱり良い学校行ってほしいじゃないですかぁ」

「お気持ちはわかりますけど、今時お受験は……じゃないですか」

「あらぁ、……佐藤さんは息子さんに……?」

「うちの子は野球が大好きで……から、近所の……でねぇ。時間もなくて……」

「……ホホ……大変……」

「…………ですよぉ……が……で……」


 行ったか……しかしなんだかなぁ。

 ちょっと内容が気になって耳を澄まして聞いてみると、なんともたわいの無い話で、向こうでは想像もしないような話だった。受験に野球か。そもそも学校も塾もなかったしなぁ。気がつけば国と言う国が全部滅ぼされてたし。サッカーだけはむこうでちょっとやったけど、みんなタックルとかしまくってきてほとんどアメフトかラグビーだったし。リフティング100回はさすがに尊敬のまなざしが貰えたけどなー。ボールも小さかったなぁ。なんかおっきな木の実に綿を巻いた後、布で閉じて糊で表面固めたんだっけ。

 ……あー、どうでも良いことばっかり思い出すな。思い出したいの向こうのことじゃなくてこっちのことなんだけど、ぜんぜんピンと来ない。いや、こっちのこと思い出してるから引きずられて向こうのこと思い出してるのか? うーん。とりあえずいつまでもどこぞの庭に不法侵入状態だと不味いし、通りに戻るか。

 頭の上の高さの塀に右手をかけて、一気に飛び越える。向こうでこういうアクションは結構鍛えたからな。空を飛ぶ魔法は当然あったけど、一々唱えるのが面倒な場面もあったし。


「よいしょっ、と」

「え」

「は」


 あ。


「ゆ、ゆうしゃだ!」

「ゆうしゃさまだ! くろい!」

「くろいゆうしゃだ!」


 えあ、ちょ、ちょっとまって小学生諸君、人の話を、


「くろい!」

「くろい! わるものっぽい!」

「めもこわい!」

「にせものだ!」

「ゆうしゃさまのにせものだ!」

「わるもののてしただ!」

「わるものだ! わるものだ!」

「どろぼー! どろぼー! どろぼー!」


 い、いや、ちょっと待ってくれ。とりあえずそんな騒ぎ方されると人が集まって、


「「「どろぼー! どろぼー! どろぼー! どろぼー!」」」


 あばばばば、とにかく人目を避けたいのになんで、とりあえずここは逃げるか、


「どろぼーがにげたー!」

「おいかけろー!」

「しゃしん! しゃしん!」


 いや待って、ケータイ出さないで。写真取らないで! クソ、このカッコだと色々言い訳出来ないぞ、走りながら家に帰れる自信微妙にないのに! とりあえずそこの角を曲がって塀を……いや、外でこんだけ泥棒泥棒叫んでたら家の人が出てきて速攻で見つかるだろ、どこかに隠れるか……全力で走って振り切るか。狼相手だって逃げ切れたし、やってやれないことはないだろ。

 それにしても小学生怖い……

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