第26話 熊より弱い
「お前ら全員まとめて来い」
クレスタが言った。
盗賊たちは一瞬固まる。
そして爆笑した。
「ヒャハハハ!」
「一人で何言ってやがる!」
「やっちまえ!」
「殺すなよ!半殺しだ!」
十人ほどが一斉に飛び出した。
剣。
棍棒。
槍。
好き勝手に振り回しながら迫る。
乗客たちは悲鳴を上げた。
商人は目を覆う。
終わったと思った。
だが。
次の瞬間だった。
ドゴッ!!
先頭の盗賊が宙を舞う。
何が起きたのか分からない。
クレスタの拳が顔面にめり込んでいた。
盗賊は三メートルほど飛び、木に激突する。
そのまま動かなくなった。
「は?」
盗賊たちが固まる。
クレスタは次の男の腕を掴んだ。
振り回す。
ブォン!
人間ハンマーだった。
仲間三人を巻き込みながら吹き飛ぶ。
「ぎゃあああ!」
「うわぁぁ!」
「痛ぇぇ!」
さらに。
突っ込んできた槍を掴む。
引っ張る。
盗賊ごと飛んできた。
そのまま地面へ。
ドゴォ!
「ぐふっ!」
気絶。
一分後。
盗賊二十人が地面に転がっていた。
静かだった。
あまりにも静かだった。
乗客たちは口を開けている。
御者は固まっている。
商人は呟いた。
「人間か?」
クレスタ自身も首を傾げる。
「弱いな」
本気だった。
マチョモ山基準で考えている。
巨大熊。
魔猿。
ケルネイヤ。
キングメタジョーゴ蜘蛛。
あれと比べれば人間など柔らかい。
盗賊たちは震えた。
「化け物だ……」
「熊だ……」
「人間じゃねぇ……」
逃げ出す者まで現れる。
だが。
後方から怒声が飛んだ。
「逃げるなぁ!!」
幹部だった。
大剣を背負った男。
傷だらけの顔。
元B級冒険者。
さらにもう一人。
双剣使い。
こちらも元B級。
そして中央。
ハッスルジェット。
大盗賊団の首領。
A級相当。
巨大な戦斧を担いでいる。
普通なら街を恐怖に陥れる実力者たちだった。
ハッスルジェットが睨む。
「面白ぇ」
初めて笑顔が消えていた。
「全員下がれ」
盗賊たちが後退する。
幹部二人が前へ出る。
「俺たちでやる」
「久々に本気だ」
クレスタは少し安心した。
「おお」
ようやく強そうなのが出てきた。
幹部二人が同時に飛び出す。
速い。
確かに速い。
普通の冒険者なら見えない。
しかし。
クレスタには見えていた。
右。
左。
大剣。
双剣。
全部見える。
「よっと」
ドゴッ!
双剣使いが消えた。
横に吹き飛ぶ。
木を三本折って停止。
泡を吹いている。
「は?」
残った大剣使いが固まる。
クレスタはそのまま拳を振った。
ドゴォ!
大剣ごと吹き飛ぶ。
回転しながら森へ消えた。
数秒後。
ドサッ。
落下音。
静かになった。
幹部全滅。
残るは一人。
ハッスルジェット。
A級。
盗賊王。
本人は汗をかいていた。
初めてだった。
恐怖を感じた。
目の前の男。
強さがおかしい。
だが。
引けない。
首領だからだ。
「うおおおおおお!!」
戦斧を振り上げる。
全力。
渾身。
人生最高の一撃。
クレスタに叩き込む。
クレスタは考える。
(これ当たると痛そうだな)
避ける。
横へ。
そして。
腹に拳を入れた。
ドゴォォォン!!
空気が爆発した。
ハッスルジェットの身体が浮く。
十メートル。
二十メートル。
三十メートル。
飛んだ。
そのまま地面を転がる。
ゴロゴロゴロゴロ。
木にぶつかる。
止まる。
泡を吹いた。
「ぶくぶく……」
気絶。
完全決着だった。
静寂。
風の音だけが聞こえる。
盗賊たちが震えた。
そして。
誰かが叫んだ。
「鬼だぁぁぁぁ!!」
「化け物だぁぁ!!」
「逃げろぉぉぉ!!」
盗賊団は総崩れになった。
武器を捨てる。
仲間を捨てる。
全力で逃げる。
クレスタは頭をかいた。
「なんで鬼なんだ?」
誰も答えなかった。
乗客たちは思っていた。
鬼じゃない。
もっと怖い何かだ。




