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疾病の魔剣

 病室の窓から、傾いた日の光が差し込んでいる。光はベッドにいる少女に当たった。ひどく赤らんだ顔が浮かび上がった。


 傍らには千羽鶴が吊るされていた。千の影が複雑に伸ばされている。バスケットにはリンゴ、オレンジ、レモン、ブドウ。しかし、一つも手に取られた形跡はなかった。


 部屋は、異様な熱気に包まれていた。暖房が強すぎるわけでもない。熱源は、ベッドの上の少女だった。


 時々、低いうめき声が上がる。空気を震わすのはその音だけだった。熱にうなされ、無意識の中、必死に死に打ち勝とうしているようだった。


 少年は胸をえぐられるような想いで、それを見ていた。少女と同じ程の歳で、着ている学生服は土や泥、引っかかれたり裂かれたりした傷でみすぼらしくなっていた。


 看護師に見つかっていたなら、きっと追い出されただろう。


 少年は食い入るような目で少女を見つめていた。


 その手には、漆黒の刀身を持ったナイフが握られていた。


「ハッハッハ! 虫の息だな、小僧!」


 禍々しい声が唐突に響いた。どれほど度胸のある子供でも為す術なく泣き出してしまいそうなほど恐ろしい声だった。


 病室には少年と少女の二人しかいない。二人共ここまで変わった声色の持ち主というわけではなかった。


 声は、少年が握るナイフから響いていた。


「こいつは確かに、我の力を借りなければ助からんだろうな。小僧、貴様には見えんだろうが、我には見えるぞ。燃え立つような毛皮に覆われた病魔が、この小娘の喉笛に牙を突き立てているのがな……」


 少年は何も答えなかったが、ナイフを握る手に力が込もった。


「イテテ。おい、あまり強く握るなよ! もう三百年も放って置かれたせいで、すっかりガタがきているのだからな……」


 禍々しい声が文句を言い、一段と声色をおぞましくする。


「……それで、もう一度言っておくぞ。後で泣きわめかれても鬱陶しいからな」

 

 ナイフの刀身は、かすかに脈動していた。滑らかなはずの刀身がうごめくさまは、見ているだけで胸が悪くなりそうだった。


「我が宿るこの()()()()()で小娘の胸を突き刺せば、難病だか不治の病だかは知らんが、癒えない病はない。だがその代わり、今度は刺した貴様が、同じ苦しみを味わうことになる。そして死んだら、地獄で我がこき使ってやる。無理な相談だが、もう一度死にたいとのたまう奴も少なくなかったな……」


 せせら笑うナイフが語る一言一言に、少年は聞き入っているようだった。しかし目は少女の顔から一ミリも外さなかった。


「それでも構わぬというのなら、刃を振り下ろすが――」


「いいに決まってんだろ」


 少年は高く刀身を振り上げ、一気に少女の胸へ振り下ろした。その動作には、ほんの少しのためらいもなかった。


 ナイフの切っ先が、少女の胸に深々と突き刺さる。そこから飛び出たのは血ではなく、夕暮れの陽光にも増して赤く、妖しげに輝くオレンジ色の雲。


 雲は瞬く間に爆散し、それからまっすぐに少年の胸へと飛び込んだ。


「そうら、今度は貴様の番だ」

  

 悪魔の言葉を最後まで聞かずして、少年は意識を失った。



□ □ □ □ □ □ □


 海優(かいゆ)と少女の家は、隣同士だった。そういうわけで、二人は幼いときからよく遊んでいた。


 どちらかというと、少女のほうが運動神経がよく、物怖じしない性格で、活発だった。海優は少女に付き合わされるまましばしば危険な場所に赴き、二人いっぺんに叱られることもよくあった。


 それでも退屈な日常をひっくり返し、新しい世界を見せてくれる少女との日々は、それから何年経っても海優にとってかけがえのない思い出だったにちがいない。


 しかしある時を境にして、今までのように、頻繁に少女と遊ぶということはなくなった。少女がよく熱を出すようになったのだった。


 今でも、このことを思い出すと海優の胸は痛む。変えたい過去があるとするならば、彼にとってはまさにこれこそがそれだった。


 小学生最後の年の、ある冬の日。雪が積もっていた。海優は遊びに誘おうと、少女の家に出かけていって、インターホンを鳴らした。たまたま親は出かけていたらしく、少女本人が応答した。


「暇? あっちほうの丘でドラゴンを見たって人がいるらしいよ。一緒に行こうよ」


 しばらくの沈黙の後、ためらいがちな少女の声が返ってきた。


「なんだか熱っぽいいたいだから……遠慮しとく」


「ええー、また熱?」


 ここまで思い出すたび、海優は手近にある刃物を手当り次第つかんで、自分の胸に突き刺してしまいたいという衝動に襲われる。


 道を歩いていたり、電車を待っていたりするとき不意に記憶が蘇ると、車道や線路に身を投げだしてしまわないよう体を押さえつけなければならない。


 そして小声で悪態をつくのだ。


 ああ……クソ。


「つまんないの」


 しばらく、インターホンからは何も聞こえなかった。やがて、残念そうな、つぶやくような声が返ってきた。


「……ゴメンね」


 どうして君が謝る必要なんかあっただろう。海優は、何の気なしにもらした言葉をそれからしばらく経って後、死ぬほど悔いることになった。


 結局、その日彼は一人で出かけていった。噂通りドラゴンはいた。大きかった。


 中学に上がると、少女は学校も休みがちになった。たまに学校へ来ても、午前中で早退することが多かった。体育の授業も、運動会も、校外学習も、修学旅行も休んでいた。


 自然と、海優と少女とが接する機会は減っていき、彼も少女のことを段々と忘れていった。


 だがある日、マーマレードの食べ過ぎで入院した祖父を見舞うため病院に行った時、彼は病棟の廊下で、少女の母親を目撃したのだった。声をかけようとしたが、とっさに角に身を隠した。目が泣き晴れていた。

 

 もう一方の廊下の端から、少女の父親が駆けてきた。とても慌てた様子で、急に呼び出されたようだった。


 悪いとは思いつつ、二人の会話を海優は廊下の角に隠れて聞いてしまった。


「……とうとう……今になって……」


「どうして……こんな……ああ……」


「……もう……戻らない?」


「……あと……一ヶ月で……」


 海優の心に、少女との記憶が鮮やかに蘇った。同時に、言ってしまった言葉も、消せない過ちも、気づけなかった愚かさもまざまざと描き出された。


 こんなにも少女は苦しんでいたというのに、自分は何も知らず、あまつさえ忘れ去ろうとさえしていた。繰り返しくりかえしこの言葉が胸に湧き出て、鉄線のように良心を締め上げた。


 がり、と、唇を噛み切って、海優はその場から駆け出した。このまま今生の別れだなんて、あまりにも……


 彼は八方手を尽くし、消滅しかかっていたあらゆる伝承を探り、噂の枝をたどり、伝説の影を追い、限りなくゼロに近い可能性に迫ろうとした。


 無理だとか、無駄だとかいう諦めは、いつでも心の底でくすぶっていたが、あえてそれには目をつぶった。どちらにせよ、何かしないでは、良心の呵責に自分を滅ぼしてしまいかねないのだった。


 そして――彼は見つけた。


□ □ □ □ □ □ □


「……ん」


 ゆっくりと、少女のまぶたが持ち上がった。外はもう暗くなっていた。体を内側から炙られているように感じたあの熱は、嘘のように消えていた。


 少女は身を起こし、傍らに海優が倒れているのを見た。


「?! えっ……」


 直前まで生死も定かでなかったことも忘れ、大きく身を乗り出して少女は海優を揺さぶった。その体は、服越しにでもわかるほど熱くなっていた。


「た、たいへん!」


 ナースコールを押そうとしたところ、病室の戸が開き、少女の両親が入ってきた。ベッドの上で活発に慌てふためく少女を見て、二人は手に持っているものをすべて落とした。


「ら、来香(らいか)っ! 大丈夫なの?」


 母親と父親は駆け寄ろうとしたが、来香が遮った。


「そんなのどうでもいいから! 早く誰か呼んで!」


 彼女が指差した海優を見て、また二人は仰天した。


「あっ、海優君じゃないか! どうしてここに……うわっ、死にかけている!?」


「先生、先生!!」


 母親が引っ張ってきた医者が、指示を出し、海優は別の病室へと運ばれていった。


 こんな混乱状態だったため、海優がベルトに差し込んでいた黒い刀身のナイフに気がついたのは、来香を除いて一人もいなかった。


□ □ □ □ □ □ □


 病室の窓から、昇ったばかりの日の光が差し込んでいる。光はベッドにいる海優に当たった。ひどく赤らんだ顔が浮かび上がった。


 部屋は、異様な熱気に包まれていた。暖房が強すぎるわけでもない。熱源は、ベッドの上の海優だった。


 時々、低いうめき声が上がる。空気を震わすのはその音だけだった。熱にうなされ、無意識の中、必死に死に打ち勝とうしているようだった。


 来香は胸をえぐられるような想いで、それを見ていた。


 彼女は食い入るような目で海優を見つめていた。


 その手には、漆黒の刀身を持ったナイフが握られていた。


「ハッハッハ! お前もこうだったんだぞ、小娘!」


 禍々しい声が唐突に響いた。どれほど経験を重ねた人間でも腰を抜かしてしまいそうなほど恐ろしげな声だった。


 声は、来香が握るナイフから響いていた。


「さっきも言った通り、この小僧は貴様の代わりに自分の身を差し出したのだ。貴様には見えんだろうが、我には見えるぞ。燃え立つような毛皮に覆われた病魔が、この小僧の喉笛に牙を突き立てているのがな……」


 来香は何も答えなかったが、ナイフを握る手に力が込もった。


「イテテ。おい、あまり強く握るなよ! まったく、最近の小童は悪魔への敬意が足らん……」


 禍々しい声が文句を言い、一段と声色をおぞましくする。


「……それで、もう一度言っておくぞ。後で泣きわめかれても鬱陶しいからな」

 

 ナイフの刀身は、かすかに脈動していた。滑らかなはずの刀身がうごめくさまは、見ているだけで胸が悪くなりそうだった。


「我が宿るこの短刀でこやつの胸を突き刺せば、貴様がそうなったように、病は癒える。だがその代わり、今度は刺した貴様が、また同じ苦しみを味わうことになるぞ。そして死んだら、地獄で我がこき使ってやる。無理な相談だが、もう一度死にたいとのたまう奴も少なくなかったな……」


 せせら笑うナイフが語る一言一言に、来香は聞き入っているようだった。しかし目は海優の顔から一ミリも外さなかった。


「それでも構わぬとい」


「いいに決まってるよ!」


 来香は高く刀身を振り上げ、一気に海優の胸へ振り下ろした。その動作には、ほんの少しのためらいもなかった。


 ナイフの切っ先が、海優の胸に深々と突き刺さる。そこから飛び出たのは血ではなく……


 一気に爆散し、それからまっすぐに来香へと飛び込んだ。


「やれやれ……これでやっと終わりだな」

  

 ナイフの言葉を最後まで聞かずして、来香は意識を失った。


 直後、海優が目を覚ました。周りを見渡し、ひとりごちる。


「地獄って病室にそっくりなんだな」


「地獄じゃないからな」


 聞き覚えのあるその声に、海優はぎょっとして身をすくませた。しかし目に入ったものを見て、さらに仰天した。ナイフを握ったまま、息も絶えだえの来香が倒れていた。


「な、なんで……」


「小娘が我の存在に気づいたのだ。事情を説明してやったら、あっさり身を差し出すことを決心したぞ……って、おい、痛い! 痛いぞ!」


 海優はナイフを取り上げ、憎々しげに握りしめた。


「どうしてただのナイフのふりをしなかったんだ」


「そんなことを頼まれた覚えはないぞ。我としては、ただ魂が手に入れば、貴様ら二人のどちらが死のうが知ったことではないからな。まあ、小娘のほうが、直前まで病に冒されていたぶん、少しはくたばるのが早いかと思ったこともあるが……待て、おい、何をする!」

 

 海優はベッドから飛び降りると、病室の窓を開け、それから来香の胸を突き刺した。そして素早く身を翻すと、手に持ったナイフを、満身の力を込めて外へと放り投げた。


 この病室が位置しているのは、病院の五階だった。


「アアアアアアア!!」


 醜い悲鳴を上げながら、悪魔が宿ったナイフは地上へと落下していった。地面に激突したときの「うっ」という声は、五階にまで届いた。


「ぐっ……」


 それを見届けた直後、また覚えのある熱が海優の体を襲った。どうしようもなくて、床に倒れ込む。それと同時に来香が目を覚まし、苦しむ海優に気づいた。


「もう! せっかく治したのに、なんでまた!」


「そりゃ……こっちの……台詞」


 熱にうなされながらも、海優は久しぶりに来香の声を聞けたのが嬉しく、必死の思いで答えた。


「あのナイフはどこ? どこにやったの? 答えないとやっつけちゃうから!」


「どちらにせよ死にかけだし……死んでも教えるか」

 

 来香は病室を引っかき回したが、窓が開かれているのに気づき、地上を覗き込んだ。駐車場の真ん中で、あのナイフが心なしか身をよじっているのが見えた。


「あったあ!」


 来香は病室を飛び出すと、仰天する海優の両親を尻目に、階段を20段まるごとすっ飛ばしながら一階まで降りていき、自動ドアが開かれるのももどかしく体をねじ込んで外に出ると、ナイフめがけて一直線に走った。


「こ、小娘……! いったい何の用だ?」


 ナイフから聞こえる声には、以前までの威厳や意地悪さが少し失われていた。


「もう一働きしてもらうんだよ!」


「断る」


 そうは言うものの、ナイフの身では抵抗もできず、悪魔はそのまま拉致され、再び五階の病室へと連行されていった。


 ナイフを振り回してパジャマ姿の娘が駆けているのだから、病院の誰も彼も道を開けるしかなく、行きの三分の一の時間で彼女はたどり着いた。この記録は、今後十年間破られることはなかった。


 ナイフを構えて病室に突進するが、先程までいた海優の姿が見当たらなかった。


「どこだよ、早く出てこい!」


 病人に言う台詞ではない。


 しかし、探すまでもなかった。そもそも、昔からこの二人が隠れんぼをした時には、海優が半日かけても来香を見つけられないのに対し、来香はいつでも二十秒以内に海優を見つけてしまうのだった。


 あまりにも勝負にならないので、五歳の時を最後にして、二度と隠れんぼが遊ばれることはなかった。


 来香はベッドの下を覗き込んだ。絶望的な表情の海優がそこにいた。


「あのね――」


 彼が何か言う前に、来香はベッドの下に飛び込み、素早く海優の胸にナイフを突き刺した。


「おい、おい、もういいだろう。もう何もしないでくれよ」


 悪魔の声の懇願も無視して、来香は病魔が襲う前に、海優が目を覚ます前に病室を飛び出した。今度は階上へと向かう。


 屋上への扉には鍵がかかっていたが、抗議する悪魔の声も構わず、ナイフの切っ先で無理やりこじ開け、誰もいない外へと出る。


 端まで瞬くような速さで走っていくと、その勢いのまま、ナイフを地平の彼方へと思いっきり投げ飛ばした。


「あああああ……」


 もはや悲鳴にさえ、まったく力はなかった。


 ナイフは今度は車道に激突し、折り悪く通りかかった2トントラックに轢かれ、軽自動車に弾き飛ばされ、ちょうどゴミ収集をしていた車のローラーまで飛んでいき、他のゴミと一緒にバキバキという音を立てて潰された。


 そのまま焼却場へと運ばれ、たくさんの燃えるゴミと共に、ナイフも超高温の炎で焼かれた。誰かに拾わせようとさんざん悪魔は声を上げたが、気づくものもなかった。


□ □ □ □ □ □ □


 あれから一日経って、海優と来香はまだ入院させられていた。奇跡とでも言うしかないが、確かに病気は完治していると医者は言った。しかし急に容態が変わってはいけないというので、まだ退院は許されない。


 最後に来香が海優を刺したのに、彼女が病に冒されることはなかった。だからといって、海優の病が治っていないわけでもない。


 どういうことだろう、と二人は不思議に思った。あの悪魔が死んでしまったのだろうか。地獄で責めさいなむと脅されたのは確かだが、病を治癒してくれたのも確かだった。


 ずいぶんとひどい仕打ちをしたような気もし(というか、した)、病気は治ったものの、なんとなく気分は晴れなかった。


 まあまあ、これでも食べて元気だそうよ、ということで、来香のために贈られたお見舞いの果物カゴからリンゴを手に取り、果物ナイフで剥こうとした。


「もっと血なまぐさいものを刺してくれないか?」


 ナイフから、あの悪魔の声が聞こえた。


「やっと見つけたぞ……さんざんな仕打ちをしてくれたものだな……」


 どうやらあのナイフが粉々に砕かれたことにより、再び悪魔は自由の身となったようだった。しかし、長年の封印の間に力は失われ、すっかり実体を維持することもできなくなっていた。


 そのため、さんざん迷いながら、再び海優と来香のいた病院へと戻ってきて、この果物ナイフに落ち着いたらしかった。


 銀色だった刀身が、またあのナイフのような毒々しい拍動と黒に一変していた。


「や、やっぱり仕返しする気?」


 来香が恐るおそる尋ねた。しかし、続く言葉は毅然としたものだった。


「いいよ。もともとわたしの病気を治すためにやってくれたことだもんね。久しぶりに元気に動き回れたし、海優とも話せたから、もう悔いはないないよ。地獄でもどこでも行ってあげる」


「何言ってんのさ。もともと封印を破ってこれを持ち出したのはおれだ。だから悪魔よ、仕打ちはどうかこっちにやってくれ。全部おれが引き起こしたことだ……」


「黙れ」


 悪魔が低く唸り、海優の言葉を打ち消した。しかし、それからしばらくして、呆れたような声でこうも言った。


「もう貴様らには付き合いきれん。またあんな目に遭うのはごめんだ。貴様ら二人とも、勝手に何歳までも生きるがいい……ただし!」


 喜びかけた二人を制して、悪魔は続けた。


「小僧、また貴様のような阿呆が我を探しに来るかもしれん。正直考えただけでゾッとする。我はこのまま、このナイフに宿っておくことにする。今度は……丁重に扱えよ」


 最後の方は祈るような声だった。海優と来香はうなずいた。


 翌日、二人は退院した。もうどこにも悪いところはなかった。その後何十年も二人は生きたが、一度も病気にかかることはなかった。


 ただ二人を見かけた人々は、時々、まるで見えない三人目の友人がいるかのように話し合っているのを聞いたとのことだ。

 

<疾病の魔剣>

 かつて、ある愚か者たちが地上の支配を願って召喚した悪魔が宿った剣をこう呼ぶ。悪魔は望みに応えて召喚者の敵を熱病のしもべによって一掃したが、その病は召喚者自身にも及んだ。ある聖者たちが悪魔の封印に成功し、その力を大幅に弱体化させたが、万病の長としてあらゆる病魔を屈服させるその力は健在である。しかし、この悪魔自身も罹患し、治せないという病がただ一つだけ存在していた。だが一説によると、最近それも克服したという。また別の説によると、それの治癒にはある人間が関わっているらしい。

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