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オレゴン基地所属のU-4、イルマリ・ウーシタロ少年を保護したのは出発から日付を越え12月31日1時47分。目標地点到着後捜索開始から実に2時間が経過していた。
テオに周囲を警戒させてわたしはウーシタロ少年の状態をチェックしていく。ついでにテレパスでサマースキルとコーデリア、それから輸送機経由の通信でイサークに報告をした。
『チャーリーは周辺捜索を継続。ブラボーワン、どうだ、何かわかりそうか』
すぐに反応したサマースキルにNoと返す。全員が集中しているのがわかったが、気にしていられるほど神経は繊細じゃない。
「ダメだな、完全にプロテクトモードに移行している。これなら本人から状況をきくより外部接続から強制起動で映像解析した方が早い」
『了解した、ブラボー、要救助者を連れて輸送機に戻れ。アルファと輸送機で合流しろ』
「ブラボーワン、了解」
「ブラボートゥ、了解」
テオに視線をやると、彼はすぐさまこちらに近寄った。
「わたしがU-4を背負う。悪いが手はふさがったものと思ってくれ」
「OK、マップに保護地点のマーカーはつけたよ。共通チャットに載せた。輸送機まで偵察に意識極振りするから、テレパスでの会話も控えていいかな」
「もちろんだ、頼むぞテオ」
「まかせて」
ウーシタロ少年を背負い、ベルトで彼の体を固定する。意識のない人体を背負うと重心がずれやすくなるので十分に留意して、慎重に。まずは一歩、うん、悪くない。
「移動開始」
「移動開始」
輸送機までの道中は夜行性の節足動物門鋏角亜門クモガタ綱にいそうな形態をした大型犬くらいのおおきさをした10足の動物に出くわした以外、特筆することもなく戻ることができた。
生態系が狂っていることはわかっていたが、正直ワシントン基地周辺ではあまりこういったものを見かけなかったので油断していた。“わたし”の常識からいくと規格外の大きさの虫は、アルベリヒの記憶でもお目にかかったことがなかったので、かなり動揺した。言い訳ぐらいさせてくれ、あれは相当キモチワルイ。
テオが先に注意喚起してくれなければ悲鳴をあげていたかもしれない。
ちなみに我々が屠っているモンスターは人の大きさくらいの四足歩行をするカマドウマに似たナニカだ。ものによってはかなりクモに近いのであれもかなり正気度を削ってくる。“わたし”はアレを「楳図か○おの漂流○室に出てくる未来人」と称していた。漫画より現実の方がやはり強烈だし醜悪な見た目とニオイをしているのでアレの討伐任務は精神的にも肉体的にもキツイ。
道中、アレと接触しなくて本当に良かった。さすがにウーシタロ少年を背負ってアレと戦闘は行いたくない。
何度かウーシタロ少年の体がずれたのでその度に背負いなおしたが、テオは文句をいうこともなく待ってくれた。
考えてみれば、彼は我々のイルマリとも仲がいい。重ねているのかもしれない。
実際、テオの顔には心配げな表情が浮かんでいた。こういうところはまだ割り切れないのだろう。青いな、と冷めた気持ちで思った。
輸送機に到着後、ウーシタロ少年のボディをスキャニングした。保護地点でも簡易エイドキットを使用した処置を行ったが、暗視のため見落としていないと言い切れないからだ。それなら輸送機に備え付けてあるスキャン機能を使用したほうが早い。
問題はなさそうなので首の付け根にプラグコードを刺し、直前の記録をサルベージする。暗号データ通信でワシントン基地にも送られる手筈になっていて、解析はそちらで行う。
「イサーク、解析どれくらいかかる?」
テオの問いかけに、機械音でピピッと音が鳴った。自動受信音だ。
「イサーク?」
「どうした」
「返信がない」
輸送機内の仮想スクリーンを立ち上げ、輸送機と我々の通信状況を見る。オールグリーン、問題は無い。
「V-6、K-2、Y-2、E-5、誰でもいい、応答してくれ」
また自動受信音。これはオペレーターが誰も返信しないときに基地デスクがログを保存したという証のために鳴る。
「みんな離席した?」
テオが眉根を寄せる。不安気に眉尻を下げるのを見て、思わず頭を撫でた。さすがに子どもが不安がるのを見て何も思わないでいられるほど冷徹ではない。
「まさか、あの生真面目なイサークだぞ。それにオイゲン女史もいる、あの方は情報の大切さをよくご存じだ」
「でも……ヤン大老もこういうときにふざける人じゃないし」
テオの視線がすこし下がり、うろ、と惑う、やはり不安なのだろう。きっと任務中にオペレーターと連絡が取れなくなったことなんてないはずだ。
すこし茶化すように声色を変え、おどけた仕草で肩をあげて見せた。
「……K-2が任務を放棄すると思うか?」
「それこそナイでしょ、あの人はK-12と違ってめちゃくちゃ怖いよ、ミスター・キングスレイヴってちゃんと呼ばないと怒るし。なんであんなふうになったの」
すぐに否定を返してきたテオの顔はこわばりが少し解けていた。いつもどおりの憎まれ口をたたくイタズラ好きの悪ガキに戻ってくれればいい。
「名前はきちんと呼べとわたしも再三言っているはずだが?ともかく、一分毎に通信を試みよう。なにかトラブルが起きての離席なら代理を立てるはずだ」
表面化で、サマースキルとコーデリアに個人チャットをかけていた。
『ダメだわ、こっちからも自動受信音で返答がくる』
『そもそも出撃中の通信は輸送機経由になってるはずだろ?輸送機からはどうなんだ』
『システムは異常ない。コーディはわたしたちより出撃経験があるだろう、こんなこと一度でもあったか?』
『ないわ、イサークは真面目だもの。デスクから離席するときだって代理を立てるし、彼は携行通信機だって持ち歩いてるのよ』
やはり、基地で何かあったとみるのが妥当か。
『自動受信音が鳴るということは、マザーコンピューターは無事ということだろう。ここは我々だけで任務を遂行しつつ、一定時間毎に基地への通信を試みるのが現状の最善だと具申する。隊長、いかがだろう』
『アルの案を採用しよう。オレとアル、コーディで一分毎に通信を入れる。作戦自体は変更なしだ』
『了解』
『了解』
それから18分後、サマースキルとフロイライン・ヴァルブルガのアルファ隊が輸送機に到着するまで、結局基地からの返答はなかった。




