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運命に遊ばれる狼

「以上で話は終わりだ。よって、ボスの命令により、お前も組織に戻せと命令が下された。嫌とは言わせないぞ、ウルフ。」


一徹は目の前の忍び装束をまとった男の話を聞き、愕然とした。恐れていたとある計画がいつの日か、実行されようとしている。組織から逃げ出してもう10年以上が経とうとしていた。元の名前に変え普通の生活を送っていたにも関わらず、この有様だ。


「浦元はイビルジョーという男の名前を叫んでいた。どうやら怪物のようらしい。お前は心当たりあるか?」

イビルジョー。トオルが言っていた男のことか。

「イビルジョー…?聞いたことがない。それより、浦元の調子はどうなった?」

月光には嘘をついた。トオルから聞いたと言ってしまったら、無理矢理でも拷問にかけてしまうかもしれない。

浦元の話にすり替え、月光は現在の浦元の様子を語った。


「お前の後輩の浦元だが、今は組織の元で、治療が勧められている。奴の状況は酷いものだ。あの怪物は、俺を殺さなかった。生き恥を晒した。俺は、奴を殺す為に人間を捨てると、復讐心に燃えていた。お前と同じ、クラウンで改造人間にされたようにな。」

「なん…だと…⁉︎」

俺は驚きを隠せなかった。クラウンで改造人間にされたことを思い出し、吐き気を催した。


「月光…‼︎ お前はわかっているのか⁉︎ あのジジイに関わって碌な死に方した奴はいないだろ⁉︎ 夢と希望を与えると言いながら、奴は人間の臓器を売り捌き、完全なる奴隷ロボットとして仕立て上げた男だぞ‼︎ 」


怒りを込めて、俺は月光の襟元を鷲掴みする。奴は至って冷静だった。死んだ魚のような目で、俺の手を振りほどいた。

「そんなもの、始めから承知している。奴は殺害マシーンとして、改造されることを願ったのだ。お前達もそうだったろ?組織の元で、重大な任務をこなす為に改造人間となり、現実お前は「三獣士」のリーダーとして残りの2人を引導した。あの女狐と熊を束ねるのは中々いない。良いチームだと俺は思っていたのだがな。」


フォクシー、ベアードのことか。懐かしいワードが頭の中で思い出された。確かに息は合っていたのかもしれない。

だが、あの事件の直後、俺は組織を抜けた。まるで酒の酔いから覚めたように。


「何度も言ったが、俺はまた組織に入ろうと思わない。俺には守るべき者がいる。今後も、そうしていくつもりだ。」


月光の目は、相変わらず濁りを保ったままだ。フン、と奴は鼻を鳴らした。

「下らない。何が守るべき者だ。お前の口から、聞きたくなかった言葉だ。今更、正義気取りになって、自分の浴びた返り血が乾く訳でもないのにな。見損なったぞ。」


くるりと、月光は後ろを振り返る。奴の表情はわからなかったが、声は軽蔑を込めたものだった。


「1年間待ってやる。そこで、今の自分の未練を感じておくんだな。今度また来る時は、嫌とは言わせないぞ。答えは、イエスか、はいの2つだ。」

「たとえ来たとしても、俺は何度でも言うぞ。組織の元へは戻らない。俺は川原 一徹として、人間として生きるってな。」


熱い想いを奴へとぶつけた。ただし、奴には効果がなかったようだ。

「そうか、それは残念だ。おかげでお前を無理矢理連れ戻す理由が出来てしまった。そうだ、お前の言っていた守るべき者。最近は色々と順風満帆らしいではないか。先日ぐらいか、学校で女に一目惚れし、仲良くなったらしいぞ。兄として、祝いの言葉をかけたらどうだ?」

「お前が気にかけることはない。さっさと、俺達の日常から消えろ。」

「俺は日常の裏に潜む者だ。常に情報は、俺の耳へと届いている。」


それにだ。月光は、首を傾け俺の方を向く。

「この世は腐っているが、本当に興味深い所がある。10年前お前は、小さな子供を庇った女を殺した。それ以来、お前の態度は様変わりしたな。それが今や子供は成長し、お前の弟となり、殺した女がクラウンで改造人間にされて、弟と一緒に過ごしている。これは、まさに運命というのだろうな。」


「……‼︎‼︎ 嘘だッ‼︎ そんなことはあるものか‼︎ そんな運命は嘘っぱちだ‼︎」


「嘘ではない。」

冷たいヒンヤリとした声が俺の心臓を更に冷たくする。部屋の空気も奴に飲まれて、まるで恐怖に支配されるような感じだ。


「守るべき者に対し、殺した者か。元々、あの子供は組織の命令で殺すはずだったのだ。それをお前が、この子供を連れ出し、組織を抜けた。裏切り者のお前を今すぐここで、八つ裂きにしてやりたいが、俺とボスの懐の大きさに感謝するんだな。」

「お前に八つ裂きにされるぐらいなら、俺は自らの死を選ぶ。その前に、お前を殺してからだ。」


熱い視線と冷たい視線がぶつかり合う。しばらく、その状態と長い沈黙が続いた。時計の針がチクタクと音を立てて進む。そして、月光が先に語り出した。


「まぁ、お前が死のうが知ったことではないがな。だが、弟君が哀れだぞ。知らせない方がいいのか?彼も思春期に入り、大人への道を進もうとしている。進路もまだまだ決まってないだろう。だが、お前と違って弟君は、素直な所がある聞き分けの良い少年だ。是非とも、進路先は我が組織に加わって欲しいものだ。お前より良い働きが出来そうだよ。」


怒りが、俺の頭の沸点を超えた。これ以上、罪のない人間を巻き込むのか。

「キィッ…‼︎ 貴様ァッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


拳が奴の顔面に向けて飛ぶ。だが、奴は姿を消し、拳は壁へとめり込んだ。ボロボロになった壁の中から、血塗れになった手の甲が帰ってきた。

痛みなど感じない。何が運命だ。犠牲者など出してたまるか。特に弟は、トオルは、絶対に奴等の元へ放してたまるか。


カチコチと時計の針が進む。刻一刻と、1年間のタイムリミットは動き出していた。

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