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第47話 作業中は動けない

削り窓の運用は、遅い。


大鉄板の一部だけを出す。

小型の鉄食い虫を一匹だけ寄せる。

端だけを削らせる。

欠片を泥で包む。

検査石で確認する。

返却路で奥へ送る。


一回に一片だけ。


決めた。


決めたのはいい。


問題は、その間、私はそこから動きにくいことだった。


《石核ログ》

作業対象:大鉄板

運用:限定噛削

制限:一回一片

問題:作業中の移動困難


削り窓を開けた状態で離れると、虫が潜る。


潜れば、鉄板の中を広げる。

広がれば、巣になる。

巣になれば、隔離穴より悪い。


だから、削り中は見張らなければならない。


つまり、私は作業中、巡回できない。


また穴である。


作業の穴。


私は削り窓の前に低石を置き、小型虫を一匹だけ通す幅にした。泥の厚みを確認する。露出面は小さい。返却路も整っている。


リッカは線の外。

ガレンは少し離れた場所。

村人はいない。


条件は悪くない。


私は餌鉄を少し動かし、小型虫を呼んだ。


かち。

かち。


一匹来る。


削り窓の端に頭を入れる。鉄板を噛む。


かち。

かち。


鉄粉が泥に混じる。小さな欠片が落ちるまで、もう少し。


その時、水路側の鳴子が鳴った。


かつ。


私は動きを止めた。


最悪のタイミングだった。


虫は削り窓に頭を入れている。

鉄板は露出している。

水路側では異常がある。

リッカは線の外でこちらを見ている。


行けば、削り窓が危ない。

行かなければ、水路が危ない。


《状況解析》

作業中断要求:発生

水路側:鳴子反応

削り窓:開放中

鉄食い虫:接触中

危険:放置不能


放置不能。


どちらも。


かなり困る。


私は虫を鉤棒で押そうとした。


虫が鉄板に食いつく。引くと、露出面が広がる。無理に剥がせば鉄粉が散る。虫が暴れれば、別の場所を噛む。


だめだ。


押すのではなく、閉じる。


私は近くに置いていたクラストバグ殻片を、削り窓の上へ滑らせた。薄い殻片。前に鳴子板に使った残り。鉄板の露出を覆う。


虫の頭と鉄板の間に、殻片を差し込む。


かち。


虫が殻片を噛んだ。


鉄ではない。


反応が鈍る。


その隙に、湿泥を押し込む。露出面を塞ぐ。低石を寄せる。削り窓を閉じる。


虫は鉄板から離れ、餌鉄の方へ向いた。


成功。


ただし、欠片はまだ取れていない。


作業は中断。


《石核ログ》

新規部材:窓栓

素材:クラストバグ殻片

用途:削り窓の緊急閉鎖

効果:虫の鉄板接触を遮断


窓栓。


悪くない。


殻片の使い道がまた増えた。硬い。金属ではない。薄い。滑らせられる。割れやすいが、緊急閉鎖には使える。


私は削り窓の上に三横傷を刻んだ。


封じ。


さらに、斜めではなく短い横線を半分だけ入れた。


途中止め。


そういう意味にしたい。


リッカが遠くから読もうとする。


「閉めたけど、終わってない?」


かなり正確だった。


私は二度、地面を叩く。


こん、こん。


修復ではなく、中断完了として使いたいが、意味が重なりすぎる。


よくない。


合図が増えると混ざる。


だが、今は水路だ。


私は削り窓を確認した。鉄は見えていない。虫は餌鉄へ戻っている。低石もずれていない。


動ける。


ようやく。


水路側へ向かう。


鳴子は倒れていた。


横に鉄はない。油布もない。水路へ落ちたものもない。石座の近くに、小さな投げ石があった。角が鋭く、自然に転がった形ではない。


投げた。


水路の鳴子を鳴らすためだけに。


《地形記録》

水路側:実害なし

鳴子作動原因:投げ石

危険:作業中断誘導


作業中断誘導。


やはり。


削り作業中に鳴子を鳴らし、私を離れさせる。削り窓を開けたままにさせる。虫に鉄板を深く噛ませる。


直接攻撃ではない。


作業手順への攻撃。


かなり嫌な狙いである。


私は投げ石の来た方向を確認した。茂み。枝が折れている。足跡は薄い。追わない。追えば罠に入る。


水路の鳴子を戻し、投げ石をどける。石座の横に、空丸傷を追加する。


鳴っても実害なしの可能性。


いや、複雑すぎる。


消す。


私は追加しかけた傷を削った。


印を増やせばいいものではない。


ここで必要なのは、印ではなく手順だ。


作業中に鳴ったら、すぐ動かない。

まず、作業を止める。

窓を塞ぐ。

虫を離す。

その後、確認する。


中断手順。


《石核ログ》

新規運用:中断手順

一:露出面を塞ぐ

二:虫を餌鉄へ戻す

三:低石を戻す

四:異常確認へ移動


順番ができた。


水路から戻ると、リッカが削り窓の線の外に立っていた。近づいていない。


良い。


彼女は言った。


「水路、罠だった?」


私は一度、地面を叩いた。


こん。


肯定にしたい。


リッカは少し考えた。


「一回は、そう?」


そうするか。


二回は修復完了。

一回は確認。

混ざる。


だが、今は使える。


ガレンが削り窓を見て言った。


「作業を狙われたな」


そうだ。


敵は、こちらの作業時間を見ている。

削り窓を開ける時。

虫が来る時。

私が動けない時。


そこを鳴らす。


強い場所を攻めるのではなく、手順の途中を攻める。


かなり実用的で嫌な相手だ。


ガレンは窓栓を指した。


「それは残せ。蓋を決めてから開けろ。閉じる道具なしに、開けるな」


閉じる道具なしに、開けるな。


これは重要だった。


開けることはできる。

だが、閉じられなければ、開けてはいけない。


削り窓も。

隔離穴も。

返却路も。

骨組みも。


全部同じだった。


《石核ログ》

新規理解:閉じる手段なしに開けない

適用:削り窓/隔離穴/外部設備


私は削り作業を再開しなかった。


今日は中止。


一度狙われたなら、続けるべきではない。敵がまだ見ているかもしれない。虫も一度寄っている。続ければ、二匹目が来る可能性がある。


欲張らない。


一片取れていなくても、閉じて終わる。


リッカが少し驚いたように言った。


「今日は削らないの?」


そう。


私は三横傷をなぞった。


封じ。


さらに、途中止めの半横線を残す。


終わっていないが、閉じる。


作業は成功しなくても、中断が成功なら負けではない。


これは少し大事だった。


《リザルト》


問題:削り作業中の鳴子誘導

敵性行動:水路側への投げ石

新規部材:窓栓

素材:クラストバグ殻片

新規運用:中断手順

新規理解:閉じる手段なしに開けない

判断:削り作業を再開せず中止

未解決:作業時間の露見/窓栓耐久/合図の意味混在


大鉄板は削れなかった。


だが、削り窓は閉じられた。


作業が進まない日もある。


それでも、開けたものを閉じて終わるなら、谷は壊れない。


進化より先に、後始末がある。

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