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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
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波乱が幕開け

 ソフィー達には、帰りに寄れたらまた寄らせてもらうと伝え、髪色はそのままにナミたちの所に戻った。

 その後、さらにいくつかの村を通過したがコローナ領内では何事もなく過ぎ、愈々ドルケンとの国境に到着する。ドルケンに於いては流石のナミ達もグランにおけるフィーメ傭兵団のような実績もなく、国境で審査を受けることとなった。

 審査は主に一行の代表 (つまりはナミ)の人となりやら、入国の目的、積荷のチェック等で1時間ほどかけて行われた。この時にカイナン商事一行以外の審査待ちがいなかったところを見ると、あまりコローナとの人の行き来は多くはないように思う。尤も、このご時世、気軽に国外旅行などする者はほとんどいない、というのもあるが。

 ナミが審査を受けている間に、ヴェンにドルケン内に於ける冒険者の立場を確認してみると、ほとんどコローナと同じ様なものだという。ただ、ドルケンの国柄か、亜人種が多いから差別的な発言や思考はしない方が良いとのことだ。火民ドワーフの冒険者は少ないが、獣人が安息の地を求めてドルケンにやってきて冒険者になるということが多いらしい。と、いってもヴェンも予習した範囲内での答えであり、実際に入ってみないとわからないことも多いとのことである。

 審査は無事に終了した。カイナン商事の者たちは所属をはっきりさせ、アデル達は冒険者カードを見せると簡単な持ち物検査のみで通過が許された。但し、手形はナミだけに渡され、他は常に一緒に行動をするようにとのお達しである。常に一緒にというのも、問題行動さえ起こさなければ町中などで一々提示を求められるものでもないとの事なので、すぐに連絡が取れる範囲なら、個々――なるべく複数人を推奨されたが、に町を散策するくらいは問題ないようだ。


 国境を越えて半日で最初の町に到着した。町はやはり国境の町だけあって城塞都市。領主は伯爵位の貴族だという。町への入場は国境で発行された手形だけですんなりと入ることができた。ナミはアデル達を含む傘下の者の宿を手配すると、早速ヴェンを伴って城へと赴いた。

 当初は城に心ばかりの付け届けをし、担当に挨拶だけをして戻るとのことだったが、取り次がれた伯爵のご意向で明日、直接面会が叶うこととなったらしい。どうやらコローナ北部戦線の話に興味があるとのことで、そこに白羽の矢が突き立てられたのがアデルとなった。

 翌朝、ナミとヴェンとともにアデル達3人が城へと招かれた。当初、アデルとしてはネージュとアンナは置いていきたいと言ったが、北部戦線に参加したパーティを雇っていると言った手前、パーティで来てくれとナミに言われてしまった。事情は分かっているナミならネージュとアンナを連れて行くリスクは分かっているとは思っていたのだが……


「これは……美しいな。」

 謁見の場に到着し、『面を上げよ』の次にブルーノ・ヴィークマン伯爵が呟いた言葉がこれだ。その視線から、その言葉はアンナに向けられたものだとすぐにわかる。ディアスも同じような感じで同じような言葉を漏らしていたが、その時は翼を広げて見せた時だった。しかし今回はそうではない。単純にいつものレザースーツで跪いていた時に向けられた言葉だ。

 ヴィークマン伯爵の年齢は30代後半から40代前半といったところか。15に満たぬ娘を前に漏らす言葉なのだろうか。当のアンナはディアスの時とはまた異なるその視線に、困惑した様子で顔を伏せてしまった。

「申し訳ありません。上の妹は少々人見知りでして……」

 アデルがとりあえずのフォローを入れるが、伯爵は意に介さず、ただアンナを見つめていた。どうやら特定層から猛烈に好まれる顔立ちのようである。

「して、尋ねたいこととは?」

 話が進まずにナミがそう切り出すと、伯爵はようやく次の言葉を発する。

「うむ。コローナとオーレリアとの衝突の事だが……経緯いきさつはどのようなものであったのか。」

 これに答えるのはナミだ。

「経緯については、我々としては、オーレリア白国が突如我が国北部領に攻め込み、主要都市のひとつ、ノールを落としたということ以外聞いておりません。」

「ノール城の事は我らも知っている。そう簡単に落ちるものなのか?」

「私も難攻不落と思っていましたが、不意打ちに対応しきれなかったのか、或いは穴があったのか……ただ事実でございます。」

 ナミとグランの元軍務大臣であるファントーニ侯爵には別の見解があったが、ここで披露する必要はない。

「そうか……して、オーレリア軍はどうであった?」

 伯爵の視線がアデル達の方に向く。現地参加の冒険者として紹介されたのであろうから致し方ない。

「私たちは後方の支援部隊に護衛として参加したのみですので前線の話は詳しくはわかりません。ただ、一度交戦しましたが、あちらの騎馬兵はこちらの前線、後詰部隊の斥候に一切気付かれることなく、後方に夜襲を仕掛けてきましたので……機動力と統率、指揮能力は高いのではと。」

 前線にいなかったと告げるとヴィークマン伯爵は少々興ざめの表情を見せたが、続いたアデルの分析を聞いて再度興味を持つ。

「騎兵隊なら機動力が高いのは当然だろうが、なぜそれで統率と指揮能力の評価が下せるのだ?」

「……現地は視線を遮るものがない広い草原でした。本隊が予定していた会戦場所に向かったその日のうちにそれを迂回して夜半前に気付かれずに、後方の兵站に襲撃をするとなれば、指揮や練度が高かった物と思います。勿論、コローナの斥候の質もあるとは思いますが。もしかしたら、コローナがかなり優勢な状況でしたので主力部隊も行軍時には油断があったのかもしれません。」

 アデルの話を聞いたヴィークマン伯爵はただ、『なるほど。』とだけ言うと、その戦闘に関して尋ねてきた。

「後方部隊の物見が遠目で敵騎兵のかがり火に気付いたおかげで、すぐに長槍部隊が編成され、物資も出来る限り避難させることができたので大きな損害は出ずに撃退できました。翌朝に本隊の一部が状況の確認に来ましたが、問題ないと云う事でその日の昼には本来の戦闘に入り、夕方には勝利を収めました。その後は“依頼”で王都への伝令を仰せつかったので戦場を離れました。」

 気づいた物見というのは、別件に当たっていたネージュで、長槍部隊の早い編成や物資避難にはアデルも大きく関わっていたのだがここで自慢する必要もないので全ての情報を伏せる。

 その後、いくつか質問の受け答えをしたところで、アデルはネージュがいつの間にか胡坐をかいていたことに気付きぎょっとした。

「ちょっ!?」

 跪かせたまま、10分も20分も喋らせる方もどうかと思うが、相手は他国の貴族だ。アデルはとっさにフォローを入れようとすると、ネージュが視線でアンナを示す。すると、アンナは体調がすぐれない様で、青い顔で脂汗まで浮かべていることに気付く。

 ヴィークマン伯爵や、その側近の者たちもアデルの話に気を取られていたのかネージュの不逞に今気づいた様で眉を寄せる。

「申し訳ありません。本来このような場とは無縁でして……つまみ出してもよろしいでしょうか?」

 アデルが困った振りでそう尋ねると、伯爵が『それには及ばぬ』と言うと同時に、側近たちがアデル達に向けて嘲笑を浴びせかけてくる。状況を察したナミがそろそろと暇乞いをすると伯爵が『最後に』とアンナに声を掛ける。

「娘。そなたらはまだ成人しているようには見えぬが、冒険者として活動しているのか?」

 視線から自分に声かかかっているとわかったアンナは『はい。』とだけ答える。

「冒険者を悪く言うつもりはない。そなたのような者まで危険な仕事に身を置かねばならぬほど困っているのか?」

「……私たちは他に身寄りもなく……私はまだ未熟ですが、兄の助けとなれるように頑張るつもりです。離れることは考えておりません。」

 アンナは少し思案した後にそう答えた。今のアンナ達の外見なら十分通じる筈だ。答えを聞いた伯爵は、『そうか。』とだけいうと、その場をお開きとした。

 アデルが一度頭を下げ、ネージュを連れアンナを気遣いつつ場を辞すと、ナミとヴェンが場に見合った振る舞いでその場を離れる。


「……今の冒険者の娘。どう思う?」

 ヴィークマン伯爵は側近にそう声を掛けた。


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