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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
67/373

波乱の幕開け

 コローナとグラン、コローナとドルケン、その直線距離を測ればコローナからドルケンの方が近い。

 ただ、ドルケンの主要都市はそのほとんどが山の高い所、或いは山を越えた所にあり、各々の王都への道のりはドルケンの王都、ドランへ向かう方がはるかに険しい。

 コローナ王都からドルケンに向かうには、王都から東に延びる街道で森を抜けエストリアから南下する、所謂アデル達が良くお世話になる東ルートと、少々遠回りになるが、王都から少し南下し、中継・分岐地点から東へ折れる、グランへ行く際に何度か通ったルートを途中からさらに東へ分岐する南東ルートかの2択となる。一行は依頼主であるカイナン商事と馴染みの深い南東ルートを選択した。途中、いくつかの村・町を通ったがそのうちの一つの町にアデルとネージュは覚えがあった。

 ソフィーの引っ越し先である。改めてナミ達から話を聞くと、その町はコローナ国東部の広範囲を治めるエストリア辺境伯の領地でコローナ東部ではエストリアに次いで2番目に大きい都市とのことだ。以前滞在していたエストリアと比べると2回りは小さく感じる都市だが、その都市機能は充実していた。当然、冒険者ギルドや騎手ギルドもあり、他にも魔術師ギルド、魔具ギルドと冒険者と深い関係を持つギルドのほとんどが存在しており、探せばジョルト商会の支店もあるとのことである。

 その町に夕暮れ前に到着すると、そこで一晩明かすことになった。アデルはナミに、知り合いがいるからちょっと挨拶をしてきたいと言うと、少々意外がられたが簡単に認められた。

 早速アデルは初顔合わせとなるアンナを連れてネージュと共にソフィーの元を訪ねる。ところが。

「こんな時間から……あら?あなた達は――」

「むむむ?」

 家の扉をノックすると、中から出てきたのは一人の少女だ。ソフィーではない。しかしアデルとネージュは共になんとなく見覚えのある顔だった。

「え?え?えええ!?」

 向こうも驚いたらしく大声を上げてしまう。それが聞こえたのだろう、奥から「どうしたの?」とソフィーが現れる。

「え?ぇぇぇぇ……」

 アデルが困惑の表情を浮かべると少女がさらに声を上げる。

「うわっ!?なんかすごく嫌そう!?」

 少女の正体は――ヴェルノだ。村の勇者の妹。

「あら?アデル君じゃないの。何か雰囲気変わったような……」

「たまに言われます。と、いうか精霊魔法で髪の色を変えてるのでよく言われます。」

(ナミさんはそんなそぶり見せなかったけどな……)

「そんな精霊魔法、聞いたことないんだけど?」

「そちら(?)の紹介も兼ねてご挨拶にと伺ったのですが……なんでヴェルノがいるんだい?」

 その問いかけにヴェルノの表情が少し曇った。

「ヴェルノとも知り合いなのね?まあ、ブラバドさんやアリオンさんと面識があるなら可能性はなくもなかったか。わかったわ。時間があるなら寄って行って。」

「依頼の途中なので長居は出来ませんが、失礼します。」

 ソフィーがアデル達を中へと促した。

「今度、王都の商会の護衛としてドルケンへ向かうことになりまして。その途中寄る事になったので、知人がいるから挨拶にいってくると。」

「なるほど。確かにそれじゃ時間は取れないわね。」

「護衛が要るような集団には見えないけどね……」

 そこでネージュが突っ込みを入れる。商会と言いつつも前身はそこそこ有名な傭兵団だしな。

「えーと、それじゃあまずそちらのご用件から?」

 ソフィーに居間に通され、席を促される。速攻ソファーにダイブしたネージュの首根っこを掴みあげ膝に乗せ着席するとアデルは切りだす。

「予想外だったので何の土産も用意できなくて申し訳ないのですが……折角寄ったのでご挨拶にと。あとはアンナの紹介と、ちょっと聞きたいことがありまして。といった感じですかね。」

「アンナってのはその子ね?まだ成人前の様にみえるけど?」

「あたらしい妹です。」

「はぁ?」

 アデルの言葉に反応したのは、ソフィーではなくソフィーの脇に控えたヴェルノだ。

「妹ってそう簡単に増えるものだったかしら?」

「まあ、いろいろと。比較的近場のディアスさんにも挨拶させてもらいましたけど……翼人の精霊使いです。」

「「え?」」

 今度はヴェルノだけでなくソフィーの方も驚いた様子だ。アンナの方はアデルが最初から翼人であることを明かしたので逆に信用できる人なんだろうな。という認識を持ったようだ。

「この前色々教わったディアスさんの元パーティ仲間のソフィーさんだ。」

「なるほど。アンナです。宜しくお願いします。」

 アンナがソフィーに挨拶をする。

「えっと……まあ、先にこちらの用件を……いや、ついでだ。ちょっと――」

 そこでアデルがアンナに耳打ちすると、アンナは一つ頷きごにょごにょと詠唱をする。

 すると、ヴェルノの髪が一瞬光ったと思うと、明るめの茶色だった髪がロゼのような金髪に変化する。

「「ほほう。」」

「あらまあ……」

 髪色を変えただけであら不思議。村娘だったヴェルノがたちまちそこそこの家格の貴族令嬢に見える。と、いうか光の波長を変えてしまうので、この魔法を付加すると色だけでなく髪の艶もかなり変わるのも要因だろう。アデルとネージュが感嘆の声を上げ、ソフィーが驚きの表情を見せる。尚、当のヴェルノは何が起きているのか理解できずにきょとんとしている。

「ちゃんとすぐ戻すけどね。せっかくだからそこの鏡を覗いてみて?」

 アデルがそう促すと、ヴェルノは部屋の隅にあった鏡を覗きこみて軽く驚いたのち、改めてじっくりと覗き込む。

「何……これ……」

「光の精霊魔法らしい。すぐ戻るから安心してくれ。」

「……しばらくこれでいい気がするんだけど?」

「それならそれでもいいけど、今度俺達がここに寄る時までそのままになるぞ?髪が伸びても効果が続くと言うから驚きだ。」

「「何それ凄い」」

 ヴェルノとソフィーが声をそろえた。

「……しばらくこのままで……いや、もう少しだけ地味な色の方がいいかな?」

 何かしら思案しつつヴェルノがそう言う。ロゼ同様、何かしろの理由がある様子だ。

「でしたら、銀にしますか?それとも、お兄様の元の様な艶のある黒とか。」

「うーん……こんな感じの明るい茶色がいいかな?」

「これくらいですかね。」

 アンナが接近して再度かけ直すと、光を帯びたキャラメル色の髪になる。

「これで!これでお願いします。」

 お気に召したようだ。それを見たソフィーも

「良い色ね。私も同じくらいでお願いしようかしら。」

 そう言われるとアンナはその通りに従った。

「まあ、マナ消費的に安いらしいけど、戻す場合も近くにいないと発動できない様なので、そこはご了承を。と、まあこんな感じです。

 で、聞きたかったと言うのが、精霊魔法に関してアンナに教えられる人をご存知ないかと思いまして。独学というかなんというか……“回復・大”を使える反面、攻撃系は“熱弾”すら使えない様でして。王都で探してみたけど見つからなくて……一応、図書館で調べて見たのですが……契約というか、守護している精霊が回復や支援の魔法特化の精霊らしくて。」

「なるほどね。私ですら知らない魔法って時点で驚きだけど……精霊魔法か。昔パーティに助っ人で入ってくれた森人エルフが水と風の魔法が得意だったのだけど、連絡が付かなくてね。」

「そういえばディアスさんもそんな事を言っていたような……」

 考えて見れば、ディアスとソフィーは殆ど一緒に活動していた筈だ。その知人もほとんどが共通しているものとみていいのかもしれない。

「精霊語は使えるのかしら?」

「わかります。」

 ソフィーがアンナに問いかけた。

「それなら、実際に精霊がいそうな場所で呼びかけて、答えてくれる精霊に相談する方が良さそうね。術者本人の相性もあるし、既に契約している精霊との相性もあるし。その辺は難しい魔法よね。」

「なるほど。それならドルケンに行けるってのは有り難いことなのかな?」

「そうね。あそこは自然環境に人間の手があまり入ってなくて……精霊は多くいそうね。」

 どうやら、護衛と支店の確認以外にもドルケンでやることが増えたようだ。

「まあ、そんな感じですか……で、どうしてヴェルノが一人でここに?他は?」

「……実は――あれからいろいろありまして……」

 ヴェルノは話しにくそうに切り出した。話をまとめるとこうだ。

 アデル達が王都へ向った以降も、ヴェーラ達は東部エストリア辺境領各地で妖魔やら蛮族退治の依頼を繰り返していた。

 しかしその際、アリオンの“エストリアの暁亭”を通さず、彼らの村の村長が周辺の村から仕事を受け付けて安くヴェーラを派遣するという形になっていたため、勇者と崇められ、『世の為人の為』と無駄に生真面目なヴェーラと、多少は現実的な考えを持つそれ以外とで亀裂が生まれ、深まっていった。

 そこへ、一つの町に大規模な襲撃があり、その防衛で大活躍したヴェーラを取り込もうと画策したその町の長が自分の娘をヴェーラの嫁に宛がおうとしたことが彼らの村に伝わり、それに怒った村長らが、村の勇者と巫女をくっつけようとしたらしい。今度はそれに激怒したエスターがフォーリを連れてどこかへ姿をくらましてしまったという。現在、彼らの村周辺では、エスターはフォーリの誘拐犯とされてしまっているとのことだ。どうしてそうなった。

 その後、ヴェーラは東部辺境の町村から戦闘能力や将来性のある選りすぐりの男女数名を連れて“勇者活動”を続行しているようだが、ヴェルノは討伐の折、魔法の失敗からパーティが崩れかけ、パーティの抗議と共にこれ以上は危険と判断したヴェーラによりパーティを外されてしまったという。その後ヴェルノは家で大人しくしているのも辛くなり、こっそり村を抜け、アリオンを訪ねると、暁亭の冒険者タグを没収された代わりに修行の場としてここを紹介されたとのことである。アリオンも、店を通さず勝手なことを始めた彼らの村に対して相当お怒りらしい。冒険者ギルドに通達を出し、彼らが現れ次第、暁亭のタグは回収するように依頼を出すとの事だ。こちらは店や所属冒険者を守るためにも必要な措置なのだそうだ。ギルドカードまでは没収されなかったが、現在ヴェルノは所属先なしとなっている。

「そう簡単にパーティって外されるものなのか……」

 先日のヒルダの事例を思い出しアデルはそう呟くが、もしアンナが同じような目に遭えばアデルもヴェーラと同じ事を言うかもしれない。とは思った。尤も、アンナには“飛んで逃げる”という最終手段があるだけ、まだその判断ラインは緩い。それを考えると、ヴェルノは確かに危ないと言えば危ないのだろうか。ヴェルノの話を一通り聞き終わってアデルはまずソフィーに質問する。

「アリオンさんにはここを伝えたんですね?」

「当面仕事をする必要はないんだけど、無職と思われても難だしね。今は暁亭所属の1冒険者よ。」

「この町の冒険者の店でなく?」

「この町で下手に昔のカード使って登録したら、指名依頼が殺到してのんびり余暇を過ごすどころじゃなくなってしまうわ。事情を分かってもらえるアリオンさんに時々仕事を回してほしいってお願いしたら……魔法の師匠をさせられることになったわ。」

「あ、その節はお世話になりました。」

「え?急に何?」

 ふと思い出したアデルはソフィーに“火力付与エンチャントウェポン”の魔法のお礼を述べる。場所は明かせないが――と前置きし、ゴーレム戦の話をすると、ソフィーとヴェルノがそれぞれ別の方向で驚いた。

 ヴェルノは単純に、そんな難敵を倒したアデル達に驚き、ソフィーはやはり守護者の残った遺跡と、その素材に関心を持った。素材に関しては、アデルの武具を見せると、さらに深く興味を持ったようだ。

 ソフィーはアデルの鎧の重さを確かめてさらに驚くと、アデルの槍――の伸縮持ち柄部分に興味を示す。構造に関してはアルムスの作だと伝えると、『ああ、そう……』とだけ呟くが、その後何やら魔法を使ってみるとアデルにこう言う。

「色々惜しい事をしたわね。この軽さ、そしてミスリルよりは強くないとはいえ……魔法との相性は抜群みたいよ?」

「え?」

「これを媒体にして“火力付与”を掛ければ、恐らくミスリルソードに同じものを掛けた物よりも強くなりそうよ。流石は古代文明の魔法生物の素材と言ったところかしら……」

「……お兄。鎧を溶かして3人分の武器を作ろう。」

「……お前、結局まだ何一つ魔法使えないよな?」

「最近教えてくれないじゃん……」

 以前は少しずつソフィーに習った魔法をネージュに教えるようにしていたのだが、このところは戦地やらアンナの特訓やらでその時間が取れていなかった。

「そうだったな……ドルケンに付くまではそっち中心にするか。」

「いや、アンナを優先するべき。」

「え?」

 結局はネージュは座学と反復練習が面倒なだけなのだ。魔力のコントロールというのが良くわからないらしい。

「その辺はそちらで話し合ってちょうだい。もしかしたらアデル君は付与系魔法と相性がいいのかもしれないから、時間があれば上位の魔法を教えてあげてもいいけどね。」

 兄妹の言い合いになりそうなところをソフィーが戻す。

「ぜひお願いします。」

 ソフィーの言葉にアデルは正直に頭を下げお願いした。

「で、ヴェルノはしばらくはここで修行か。その後は?」

「……まだわかりません。何となく、兄のパーティには戻りたくないですし、エスターたちもどこにいるのかさっぱりですし……」

「そうか。まあ、焦らずにじっくりと魔法を習っておくと良いんじゃないか?でも変じゃないか?勇者と巫女をくっつけるってフォーリは巫女じゃなかったような?」

「“村的”にはそうですね。ただ周辺の町とかだとフォーリを巫女と見る人が多くなりました。フォーリの補助魔法、他の神官と比べても群を抜いて効果が高いようです。」

「なんか、大人たちにうまく型に嵌められてるだけな気がしてきたんだが……まあ、俺らが言うのも野暮か。結局は本人次第で、本人が勇者として活動してるんならそうなんだろうな。」

「…………」

 ヴェルノは何か言いたそうにしたが言葉を飲み込み、深く息をつくだけだった。

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