指揮と潰走
翌日。
アデル達は少し早目に起き出し、朝食を取る。当初は昼過ぎからカイナン商事に向かい、荷物の積み込み作業を行うつもりだったが、ネージュが今のうちに新装備を試したいと言うので、プルルに跨り王都とは少し離れた人気のない場所へと移動した。
ネージュはスネークソードの使い方と、鞭状態にした時の振り方と挙動の確認。レーザージャケットとブレストプレート装備による重さの影響などを飛行状態も含め改めて確認する。
アデルの方も射出機構の挙動確認と再セットの練習などをして昼前に一度ブラーバ亭へと戻った。
昼食をとると、当初の予定通り先に一度カイナン商事へと向かい、荷台を借りて自分たちの荷物を積み込むと同時に、ついでだからと商会の荷物の積み込みも手伝った。
「随分熱心だね。って言うか、何か楽しそうだね?」
様子を確認に来たナミが、自分たち以外の仕事を手伝うアデル達に気づいて声を掛けてくる。
「まあ、これくらいは?あと、お陰様で久しぶりに装備を更新したので旅が楽しみというのもあるかもしれませんね。」
「装備の更新ね……まあ、冒険者の稼ぐ最大の目標であり楽しみというのはわからんでもないけどね。過信してヘマはしないようにしておくれよ?」
「はい。」
「出発は明日の早朝だ。今回はお前たちが一番上になりそうだ。しっかり頼むよ。」
「え?一番上って?」
「護衛の冒険者レベルだよ。23になったんだろ?」
「そう言われてみれば……」
前回の冒険、即ちローザとの遺跡探索では完了証のみで評価票は貰わなかった。そこで、遺跡で何があったかを言える範囲でブラバドに報告し、魔獣とゴーレムの戦闘を考慮してレベルがそれぞれ、《戦士:23》と、《暗殺者:21》に上げられた。ゴーレムに関しては討伐証明となるものが無かったが、魔石を見せると、感嘆の声とともにそれで信じることしてくれた。魔石のサイズ的に価値は相当なもので、身分保証にかなり前進しただろうと言われたが、ローザが真っ二つにしたことを付け加えると眉間にシワを寄せ、原型だったらほぼ一発で魔具ギルドは身分保証してくれたかもしれんな……と呟いた。
出所は知らせない約束だと伝えたら、ブラバドの方も『そんな事情か……』と一応の納得はした様子だ。元々得意先の家の者な上に自店の所属冒険者。一度受け入れてしまった以上はあまり強く否定はできないようだ。
話は戻るが、冒険者レベル23、ランクCとなれば前回のグラン行きの際の護衛隊のリーダーともほぼ遜色ないとは言える。一番最初の護衛依頼、王都の向かうジョルト商会の護衛の時の冒険者も確かレベル24だった筈だ。そう考えると、この1年での冒険者としての成長ぶりが覗える。
「隊の指揮なんてしたことないですよ?大抵自分たちの事で精一杯ですし。」
「いざとなったら私がやる。まあ、とりまとめみたいなものだ。何事も経験だよ。こちらからの指名だしね。」
「……わかりました。」
ナミにそう諭されると頷くしかなかった。
カイナン商事を出てブラーバ亭に戻る。
ブラバドに明日早朝から出ると告げると、例の魔石はどうする?という話になった。持ち歩くなら、ネージュの背負い袋の4分の3以上を占拠する大荷物である。今のところ表にだすつもりはない。と伝えると、部屋の金庫に入れるか?それとも店で預かるか?との申し出に、中途半端に置いておくよりはブラバドに預ける方が安心だと判断して、店の金庫で保管してもらうことになった。
ブラバドなら、アリオンやディアスとの繋がり、ナミへの仕事の打診をしてくれた早さなど、今王都にいる誰よりも信頼できるであろう。
この魔石なら、もし何かあった時はこれを供出して元々その意志があったとすればそれなりの対応になるだろうという。ブラーバ亭に所属している限り、お前らの身は俺が保証人の様なもんだ。と緊急時の応対も約束してくれた。
その夜はしばらくじっくり浸かる事は出来ないであろう風呂を2人でのぼせる寸前まで堪能した。
さらに翌日。愈々出発である。
大まかな流れは前回と同様だった。アデル達は早めに出掛けナミ達と合流し、隊商と共に南の通用門を出る。そこで他の護衛隊と顔合わせとなるのだが、ここで前回と少し違う展開になる。
予定通り、アデルが今回の護衛隊のリーダーと紹介されたからである。
「えー、ご紹介に預かりましたアデルです。レベルは《戦士:23》、隊商護衛の経験はまだ3回目程度で大した指揮は取れないかもしれませんが、有事の際は各隊状況を確認し、基本普段の自分たちの実力を示して下さい。連携が必要な場合はそのように指示するかもしれませんがどうぞ宜しく。
ご承知の方もいるとは思いますが、グランは国境付近も、そして内情、政情も少々不安定な様子です。くれぐれも油断だけはない様にお願いします。
また、直接依頼主に伝えにくいこと等があった場合は取り次ぎますので一度俺に相談して下さい。
それと、こちらは妹のネージュです。クラスは《暗殺者:21》、なんというか、無愛想なヤツですが仕事はきっちりできるんでこちらもどうぞ宜しく。」
アデルの挨拶と、ネージュの紹介に冒険者たちが緊張の表情を見せる。政情の不安は言う必要がなかったか?と思ったが、どうやらそんな細かい事よりも目の前の暗殺者に気を取られている様子だ。
小さい体にしては長めの手足、ほぼ全身を覆う黒いレザージャケットにミスリルのブレストプレート。その上に暗い色の外套、無表情に佇み、腰の左右にはサイズの違う3つの剣をぶら下げている様は正にクラスではなく本物の暗殺者と言った雰囲気だ。
その後、各冒険者パーティの自己紹介に入ると、次点がレベル20になりたての戦士3人に魔術師1のパーティ。その下は前回のアデルやオラン達と同じ様にレベル15付近の4~5人のパーティが2つだ。コストと安定度を考慮するとだいたいこんな感じになるのだろうか?ジョルトの時の護衛の構成もこんな感じだった気がする。まさか3回目で取りまとめ役になるとは思わなかったが。
それぞれの挨拶と自己紹介が終わったところで出発となる。
今回はアデル達が先頭だ。つまりはプルルが先頭になる。隊列を整えて出発すると、ナミがニヤニヤとして近寄ってくる。
「雇い主に伝えにくい事?」
「殿強制からの抗議とかですかね?」
「まだ根に持ってんのかい?」
「いや、俺の方はもう大丈夫なんですけどね。指揮とかわからないので一応リーダーらしく言わせてもらいました。」
「ほう……それじゃあ期待しようじゃないか。」
ナミはそこでもう一度意味深に笑うと自分の馬車へと戻って行った。
旅は前回以上に順調に進んだ。
コローナ国内はともかく、グランに入ってからもだ。
グランに入る所ではやはり持ってきていた食料の一部を兵士に供与し、立ち寄る村々でも同様だ。隊商が立ち寄るたびに、各村の民がほんの少しだが安堵した表情を浮かべる。最初はこの行動を不思議がる冒険者もいたが、結局誰も口に出す事はなかった。
このまま、往路は何事もなく済むかと思ったが、やはりそんなに甘くはなかった。
整備された森林の脇の道を抜ける時、ネージュがそれに気づく。
「左の森、賊が何かいる。弓持ちがちらほら。」
「来たか……」
ネージュの呟きにアデルはそう答えると、大声を張り上げる。
「左の森に何かいるぞ!各隊防衛態勢に!敵に弓持ちがいる。楯を持っている人は近くの馬を守れ!」
アデルの言葉に護衛冒険者、そして今回はカイナン商事の隊商員も素早く反応する。
すぐに武器を取り、楯を構え左側面に防衛態勢を敷く。
「くそっ!先に見つかったか!弓兵撃て!」
森の中から十数本の矢が斉射される。
(賊にしては統率が取れているな……)
当然だが、勝つつもりでいたのだろう。矢はまずは馬ではなく側面を固める護衛隊に向けて射かけられていた。殆どは事前に構えた楯により防がれたが、それでも数名の者が手傷を負わされたようだ。
「全員突撃!武装している奴らから仕留めろ!」
敵のリーダーだろう。の号令と共にまず20人くらいの雑兵が森から飛び出してくる。装備からしてに村人崩れだろう。剣や槍などの武器だけを持ち大声を張り上げなたら突撃をしてくる。
「「「え?」」」
「「「ぎゃああああああああああ」」」
最初のひと当ては一瞬だった。勢いよく飛び出してきた賊がまとめて数名、腹から血を出し悲鳴をあげる。賊と護衛が何事かとそちらに向くと、今度は似た体格の賊3人の首が景気よく血を吹き出しながら宙に舞った。
今回も一番槍(?)はネージュだ。賊と護衛が乱戦状態になる前に、一気に飛び出し蛇腹剣を二振りしたのだ。ひと振り目で賊5名の腹を裂き、返す2振り目で似た背丈の賊の首を跳ね飛ばしたのである。
一瞬の出来事の上、見たことのない武器の攻撃により、何が起きたかを理解できたのは当のネージュとアデルくらいなものだった。ここぞとばかりにアデルは声を張り上げる。
「迎え撃て!所詮は賊だ。冒険者の意地を見せろ!」
アデルの言葉に鼓舞された護衛部隊が一斉に迎撃に入る。こちらはしっかりと武装を整えた冒険者だ。ただ武器を振り回すだけの賊に遅れを取ることなく、敵の先発隊を一掃する。
「よし。森を走れる人は追撃を。相手の弓は統制が取れている。楯を持ってない人は特に注意!魔法は不要だ!」
アデルの指揮と同時にナミが声を上げる。
「深追いは必要ないよ!動けなくなってるやつは殺さずに利き腕を潰せ!」
ナミの声が響いた瞬間だ。森の中から無差別に矢が飛び出してくる。
「!?」
「は、話が違う!助けてくれ!ぎゃあ!?」
背中から浴びせかけられる矢に賊の方が混乱する。森の中に隠れていた残りの賊は彼らを切り捨て逃げる体勢だ。
(また話が違うのか……)
アデルは辟易としながらも追撃に移る。他にも護衛冒険者数名と隊商員の中でも特に腕に覚えのありそうな者たちがアデルの後に続く。
一方ナミやヴェンは制圧された賊の武器を奪い、或いは利き腕に深手を負わせつつも、楯でしっかりと矢から賊の身体を守っていた。
その後アデル達が5分くらい森の賊を追討し、賊数名を始末して元の場所へと引き上げた。特にアデルとネージュは弓兵を一人ずつ倒すことに成功していた。弓兵は同じような簡素とは言え金属製の胴鎧を身に着けていた。それを確認したナミは忌々しそうに呟く。
「こいつらは……グランの国軍だな。死んでるのは仕方ないが、証拠にはなるだろう。こちらの負傷者と、賊の中で重傷者……は見捨てていいか。自力で歩ける奴らの簡単な治療を。」
ナミがそう言うと、最初にネージュに腹を切り裂かれた数名の賊が情けない声を上げる。
「た、助けてくれ……このままじゃ死んじまう……痛ぇ、痛ぇよぉ……」
「馬鹿共が。すぐ楽にしてやるよ。」
「ひぃぃぃ!?まっ――」
ナミがうずくまる賊の頭をブーツで蹴り飛ばす。ゴキッという鈍い音と共に賊の首が通常の可動域を超えて折れ曲がる。うずくまる賊数名に同様に止めを刺すと自力で歩ける賊の拘束を指示した。
仲間に見捨てられた賊はそれ以上の抵抗はすることもなくお縄になったのである。
そして、出発から20日ほど、一行はいよいよグランディアに到着したのであった。




